Q4. SAR干渉画像に含まれる誤差についての質問

Q4-1.SAR干渉画像で見られる誤差にはどのようなものがありますか?

人工衛星によるSAR観測は、電離層や大気中の水蒸気の擾乱、地形変化(DEM:標高数値モデル)などの影響を受けます。 これらの影響がSAR干渉画像に誤差として現れます。 解析では、気象モデルを用いて大気遅延誤差を推定し影響を軽減していますが、完全に除去できないのでSAR干渉画像に地表の変動とは関係ない誤差として現れることがあります。
詳しくは、干渉SARの誤差と補正をご覧ください。

Q4-2.大気中の水蒸気による誤差はどのように見えますか?

大気中に含まれる水蒸気による誤差には、鉛直方向の水蒸気分布の違いによるものと、水平方向の水蒸気分布の違いによるものがあり、現れ方が異なります。
鉛直方向の水蒸気分布の違いによる誤差は、山や谷など標高差がある場所で現れやすく、地形に相関した色の変化として現れます。この誤差は、数値気象モデル等を適用することによりある程度軽減できますが、局所的に残る場合があります。
水平方向の水蒸気分布の違いによる誤差は、地形に相関せず、しばしば雨雲の分布に相関した色の変化として現れます。この誤差は、局所的な気象現象によってランダムに現れるため完全に除去することは困難です。大気の状態が不安定な時期、特に夏場では、水蒸気の影響で10 cmを超える変化が見られることがあります。なお、この誤差による変化は、空間スケールが大きいものほど大きくなる傾向があります。よって、数十kmの範囲のなかで最大10 cmを越える変化が見られることはあり得ますが、数kmの範囲では10 cmの変化が出ることは通常ありません。
水蒸気による鉛直方向の分布による誤差の説明画像
鉛直方向の水蒸気分布の違いによる誤差の例
水蒸気による水平方向の誤差の分布の説明画像
水平方向の水蒸気分布の違いによる誤差の例

Q4-3.だいち2号観測時の気象情報を確認し、水蒸気による誤差を推測することはできますか?

だいち2号は、午前0時頃と正午頃に日本上空を観測します。地理院地図では、SAR解析画像の諸元情報の観測日に日本気象協会ホームページへリンクを貼っています。 諸元情報はそれぞれのSAR干渉画像のレイヤの右側の【 i (解説や凡例を表示します)】ボタンから見ることができます(図参照)。
観測時間帯の気象状況を確認することによって観測地域における影響の大きさをある程度推測することができます。降雨量の多い日や高温多湿の夏季に観測したデータを用いたSAR干渉画像には水蒸気による影響が大きく、誤差が画像に現れやすいです。
SAR干渉画像詳細情報の説明画像


SAR解干渉画像の諸元情報


Q4-4.水蒸気による誤差と地表の変動は、どのように見分けるのですか?

水蒸気による誤差は概ねランダムに発生するので発生場所が一定ではありませんが、地表で変動する場所が移動することはありません。 よって、複数のSAR干渉画像を比べて、常に同じ場所で色が変化する方向が同じであれば、地表の変動である可能性が高いと言えます(Q3-7. 参照)。 水蒸気による誤差と地表の変動を見分けるためには、多数のSAR干渉画像を比較することをお勧めします。 また、地形図や空中写真と重ね合わせて、変動する方向と地形の関係をチェックすることで地表の変動と誤差を見分けることもできます。

Q4-5.植生とその変化は、SAR干渉画像に影響を与えますか?

波長が短いCバンドやXバンドで森林地帯を観測すると、電波は樹木の枝葉で反射してしまい地面まで到達しません。 樹木は風で揺れたり、生長することから、植生がある部分では、2回の観測の間に変化が生じて、干渉しなくなります。 これに対し、だいち2号に用いられている波長が長いLバンドは、植生を透過できることから森林地帯でも干渉します。 しかし、植生が大きく変化した場所や植生の境界では、色の変化として現れることがあります。 色が変化した範囲や境界に一定の規則性が認められそうな場合、地形図の植生記号や植生図等を参照してみてください。

Q4-6.「地形変化(DEM)による影響」とはどういう意味ですか?

「地形変化による影響」とは、掘削等により地形が変わることで生じる誤差を指します。

SAR干渉解析では、地形に沿って生じる縞(地形縞)を、地形の情報(DEM(新規ウィンドウ表示):数値標高モデル、Q4-8.参照)を使って補正をしています。このとき補正計算に用いるDEMとSAR観測時の地形が違えば、誤差が生じます。

「地形変化による影響」は基線長の垂直成分(垂直基線長:Q1-15. 参照)に比例して大きくなる性質があります。 だいち2号の場合、「地形変化による影響」が顕著に現れるのは、高低差で概ね数十m(40~50 m) 以上の地形の乖離が生じている場所かつ、垂直基線長が数百m以上の場合です。
DEMによる影響の説明画像
地形変化による影響(例 愛知県額田郡幸田町)
DEMによる影響の説明画像のインフォメーション
上のSAR干渉画像の解析情報
図は、DEM作成後の掘削工事によってSAR観測時の地形がDEMと異なるために生じた位相変化です。垂直基線長が+351 mと大きく、「地形変化による影響」による見かけの変化と判断されます。

Q4-7.「地形変化による影響」と、地表の変動はどのように見分けるのですか?

「地形変化による影響」で生じる色の変化は、次の特徴があります。
  • 地形の高さの変化、垂直基線長の絶対値に比例して、色の変化は大きくなる。
  • 垂直基線長の符号(+/-)によって、色の変化の向きは逆転する。
  • 水蒸気による誤差と異なり、同じ場所に現れる。
DEMによる影響と垂直基線長(長さ)の関係の説明画像
垂直基線長の絶対値と色の変化(例 新潟県糸魚川市)
DEMによる影響と垂直基線長(正負)の関係の説明画像
垂直基線長の正負と色の変化(例 新潟県糸魚川市)

よって、以下の点について調査することによって、「地形変化による影響」と地表の変動を見分けることができます。
  • (1)複数のSAR干渉画像を比較し、見かけの色の変化(大きさと方向)と垂直基線長(大きさ・符号)が整合しているか確認する。
  • (2)SAR干渉画像で見られる色の変化(方向)と自然現象で考えられる変動方向が整合しているか確認する。
  • (3)標準地図、空中写真など他の地理空間情報から、実際の地形とDEMが乖離しているかどうか確認する(Q4-6. 参照)。

Q4-8.「地形変化による影響」の誤差を小さくするためどうすればよいのですか?

「地形変化による影響」の誤差を小さくするためには、
  • (1)垂直基線長の短いデータの組み合わせで解析する
  • (2)実際の地形に合ったDEMを使う
という方法があります。解析では特に「(2)実際の地形に合ったDEMを使う」ことが重要です。

本来の干渉SARによる干渉縞は、2回のSAR観測時の間の地表の変動を示しており、変動量に対する感度は非常に敏感です。一方、地形変化による影響(地形縞と呼ばれる干渉縞)は、DEM作成時とSAR観測時の間の地形の差に起因しており、地形変化に対する位相差の感度は鈍感です。原理的に地形縞の計算には、平均海面からの数値標高モデル(DEM)ではなく楕円体からの楕円体高モデル(DEHM:Digital Ellipsoidal Height Model)を用いるべきですが、両者の差であるジオイド高の影響は一般的に大きくないため、DEHMの代わりにDEMを用いることもあります。 こうした厳密でない高さを用いた影響は、垂直基線長が大きい場合には無視できくなるので、注意が必要です。 DEMはしばしばDEHMを含む広義で用いられています。国土地理院の定常解析では一部の地域を除き、DEHMを使用しています。

Q4-9.現在進行中の盛土や谷の埋設などの変化の場所は捉えられるのですか?

2回の観測の間に盛土や埋設が行われれば地表面の状態が大きく変わるため、そのような場所は「非干渉域」となり、土地の変化を色の変化として捉えることは難しいです(Q3-9. 参照)。しかし、地表面の状態に変化がなければ、捉えることは可能です。