干渉SARの基本

SAR(合成開口レーダー / Synthetic Aperture Radar)とは

レーダーは、アンテナから電波を発射し、観測する対象物に当たって反射された電波を観測します。反射された電波の強さから、対象物の大きさや表面の性質がわかります。 また、反射された電波が戻ってくるまでの時間を測定することで、対象物までのおおまかな距離も測定できます。

レーダーの分解能(どの程度まで細かい対象物を判別できるか)は、アンテナを大きくすればするほどよくなります。しかし、人工衛星などに搭載できるアンテナの大きさには限りがあります。そこで、飛翔体(人工衛星や飛行機など)が移動しながら電波を繰り返し送受信して、大きな開口を持ったアンテナと等価な画像が得られるように、人工的に「開口」を「合成」するのが「合成開口レーダー」と呼ばれる技術です。図のように、実開口長が小さなアンテナでも、飛翔しながら電波の送受信を行い、仮想的に大きなアンテナを構成する合成開口技術により、進行方向の分解能を高めています。
しかし、合成開口技術だけでは、進行方向と直交する方向の分解能は向上しません。
直交方向の分解能は、アンテナと目標の間の距離分解能に依存します。この距離分解能を向上させるには、送信波のパルス幅をできるだけ狭くする必要があります。ところが、パルス幅を狭くすると、送信波の平均電力が少なくなるために、受信波のノイズ割合が大きくなってしまいます。そこで、パルス圧縮技術を用いて、送信電力を大きくしたまま見かけ上の送信パルス幅を小さくします。

合成開口技術とパルス圧縮技術の2つの処理によって地表に格子状のメッシュ(ピクセル、場合によるが通常は数メートル四方程度の大きさ)が構成され、比較的小さなアンテナでも平面的に高い空間分解能を実現できるようになります。国土地理院が解析に利用するデータを取得する衛星の一つ、だいち2号(ALOS-2)のアンテナは、幅3 m、長さ10 mの大きさです。

SAR強度画像とは

レーダーが利用する電波、すなわち電磁波は、“波”の一種です。波とは振動が次々に伝わっていく現象のことです。波には「山」と「谷」があり、山→谷→山→谷→…のように同じサイクルを繰り返しています。このときの振動の幅を振幅と呼び、物体に当たってアンテナへ戻っていく反射波の振幅のことを、反射の「強度」と呼びます。また、波のサイクル中のどの位置にあるか(山か谷か、その間か)を示す値を「位相」と呼びます。たとえば、山と山は同位相です。レーダーでは主にこの「強度」と「位相」を利用したデータを得ます。

SARでは、地表からの反射波の強弱、つまり反射波の「強度」を黒~白で表示し画像化します。強度の小さい場所ほど黒く、大きな場所ほど白くなります。例えば、コンクリートの大きな建物は電波をよく衛星に向かって反射するので白っぽく写り、海はほとんど衛星に向けては電波を反射しないので黒っぽく写ります。このように反射波の強度は地形や地表面の状態で変化するため、この黒~白の濃淡で、地形や地物を判別することができます。そして、この、反射強度を白黒で表した画像を「強度画像」と呼びます。

干渉SAR・SAR干渉画像とは

干渉SARは、電波の「位相」を利用して画像を得る技術です。位相にはアンテナから地表までの距離の情報が含まれています。アンテナと地表の間の距離(実際には往復するので2倍)を電波の波長で割ったときの端数が位相です。つまり位相は、その前にある波のサイクルがいくつあったかは分からず、最後の1サイクルの中のどの位置かということしか分からないのです。

例えば、目盛りに数字が書いていない長いものさしを想像してみましょう。数字がないので全体が何メートルなのかは分かりません。このように、「位相」の画像は1枚だけだと情報の利用が非常に困難です。しかし、同じ場所の画像が2枚あれば効果を発揮します。先ほどのものさしを2本、並べて測ってみましょう。2本のものさしを並べて測った場合、ほんの少しだけ生じた長さの違いは、目盛りの差(2目盛り分)として読み取ることができます。
このように、地表の同一の場所に対して2回のSAR観測を実施して2枚の「位相画像」を用意し、それらを干渉させて差をとること(干渉解析)でわずかな距離差の情報を利用することが可能になり、地面の変動を捉えられるようになります。

これが干渉SAR技術で、このとき得られる干渉させた画像を「干渉画像」と呼びます。通常のレーダー技術のみで距離を測定する場合は精度が数m程度なのに対し、干渉SARではcmレベルでの測定が可能です。

観測できる変動の方向

SARは斜め下に向けて電波の送受信を行っており、SARアンテナ真下の画像は得られないことに注意が必要です。 SAR電波を真下に送ると、真下を対称として右から反射される電波と左から反射される電波が等距離になってしまい、対象物までの距離の違いで対象を見分けているSARにとって、右と左の区別ができなくなってしまうからです。

観測のパターンは衛星が対象を西側から観測する北行軌道・右向き観測、南行軌道・左向き観測、対象を東側から観測する南行軌道・右向き観測、北行軌道・左向き観測があります。

地表の変動は3次元(東西、南北、上下)ですが、干渉SARが観測しているのは衛星-地表視線方向の1次元にすぎません。そのため地表がどちらに動いたかを単純に判別することはできません。

「衛星に近付く変動が見られます。」といった場合は衛星と地表の距離が縮まったことを示し、地表が隆起、あるいは、北行軌道・右向き観測もしくは南行軌道・左向き観測の場合は西向きに、南行軌道・右向き観測もしくは北行軌道・左向き観測の場合は東向きに動いたことを意味します。このとき、南北方向に動いたかどうかはわかりません。また、動いた方向が上向きなのか西向き(南行軌道・右向き観測もしくは北行軌道・左向き観測の場合は東向き)なのか、もしくは両方なのか、といった区別はできません。

干渉SARの長所、GNSSとの比較

  • 広範囲を面的に観測
  SARは数十km~数百kmの範囲を観測し、広範囲にわたる地表のわずかな動きを一度に捉えることができます。
  • 地上に観測機器が不要
​  災害や険しい地形などにより、人が立ち入ることができない場所でも観測することができます。
  • 夜間・雨天でも観測が可能
  SARは、衛星から電波を送信し地表面からの反射波を受信するため、太陽の反射光を必要としません。
  このため、昼夜関係なく観測できます。
  また、SARが用いている電波は雲を透過する性質があるので、天候に左右されることもありません。
干渉SAR GNSS
被観測地の設備 不要 要(電子基準点など)
観測範囲 一度に広範囲の観測が可能 観測施設のある場所のみ
観測時期

衛星の周回周期に依存

(だいち2号なら14日)

リアルタイム観測が可能
得られる変位の方向 一次元(衛星視線方向) 三次元(東西、南北、上下)