1947年カスリーン台風災害と治水地形

(3)洪水氾濫と治水地形分類図の活用

浸水はどの地形に広がったか?

 近年、平成30年西日本豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨など私たちの生活に甚大な被害をもたらした洪水氾濫が発生しています。特に一級河川沿いには、多くの人々が住んでいるため、支流を含めた河川の氾濫への対応は喫緊の課題となっています。
 国土地理院では、平成30年西日本豪雨以降の災害対応において、「浸水推定図(旧称「浸水推定段彩図」)」を作成して公開していますが、浸水推定図のデータとこれまで整備してきた治水地形分類図のデータを重ね合わせて解析することによって、地形との関係が見えてきました。
 図6は令和元年東日本台風で氾濫した荒川水系(越辺川・都幾川)の浸水域(浸水推定図のデータ。以下同じ)と治水地形分類図、図7は令和2年7月豪雨で氾濫した最上川の浸水域と治水地形分類図をそれぞれ重ねて表示した図ですが、色の濃淡でその浸水深を表現する浸水推定図の浸水状況と地形との関係を具体的に知ることができます。それは、ほとんどの浸水域は橙色の段丘面や紫色の崖(段丘崖)の縁で止まっており、黄色の自然堤防に一部浸水域は重なるものの、色が薄いため浸水深は浅いことが想像でき、そして浸水域の大部分は薄よもぎ色の氾濫平野と重なっています。

図6令和元年東日本台風で氾濫した荒川水系、図7令和2年7月豪雨で氾濫した最上川の浸水域

 表2は、令和元年から2年にかけて大規模水害が発生した7河川の浸水域の中にどのような地形が存在しているかを割合で示したものですが、浸水域全体に含まれる低地の地形(扇状地、自然堤防、氾濫平野、旧河道、後背湿地など)の割合は平均して97%であり、このことから河川が氾濫すると低地の地形に広がることが明瞭に分かります。また、低地の地形の中でもどの地形に浸水域が広がっているか、を確認した結果、氾濫平野が一番多いことが分かりました。一方、球磨川の数字が他の河川と比較して低いのは、球磨川の氾濫では場所によって15m以上の浸水に見舞われ、比較的氾濫の影響を受けにくいとされる段丘面にも浸水したことによるものです。
 治水地形分類図における氾濫平野は、「河川の堆積作用によって形成された起伏の小さい低平地」を取得しています。『河川の堆積作用』=『河川の氾濫』であり、今後も堤防決壊・越流による洪水氾濫の他、内水氾濫にも十分注意が必要です。

表2令和元年~2年に発生した大規模水害における地形の特徴

浸水被害の軽減のために治水地形分類図の活用を

 近年、気候変動による豪雨の頻発化・激甚化が一層進み、これを見据えた「事前防災対策」が叫ばれています。堤防やダムの建設などによるハード面での治水対策を進めるとともに、自分の住んでいる場所が、「どのような土地(地盤)なのか」「どのような自然条件を持っているのか」「どのような災害が起こる可能性があるのか」「どうすれば被害を最小限にすることができるのか」といった防災に対する意識を平時から持っておく必要があります。それらを知ることのできる治水地形分類図は重要な基礎情報といえます。今後も浸水被害の軽減のために、治水地形分類図を活用していただければ幸いです。

「1947年カスリーン台風災害と治水地形」の作成に使用した参考資料

  建設省関東地方建設局(1987):利根川百年史.
  地理調査所(1947):昭和二十二年九月洪水,利根川及荒川の洪水調査報告.
  関東地方整備局:カスリーン台風
  関東地方整備局利根川上流河川事務所:カスリーン台風による洪水氾濫実績図(昭和22年9月)
  内閣府(2012):災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1947 カスリーン台風.(内閣府防災情報のページ)

1947年カスリーン台風災害に関連する国土地理院ウェブサイト

  地理教育の道具箱 (イラストで学ぶ災害と地形の事例
  自然災害伝承碑
    ●参考:カスリーン台風災害に関連する伝承碑は下の市町村で地理院地図上に表示されます
         (令和3年9月現在):岩手県一関市、栃木県足利市、群馬県前橋市、桐生市、埼玉県加須市、幸手市