治水地形分類図の内容

治水地形分類図の内容

治水地形分類図で表現している地形分類

 地形分類とは、調査対象となる地域の地形及び表層の地質に着目して、それらの形成時期(いつできたか)、形成営力(どのような作用でできたか)、 形態(どんな形をしているか)、構成物質(どんな物質で作られているか)という4つの条件(「地形要素」といいます)に基づいて分類することです。 日本の地形は、そのスケールや形成営力を考慮すると、一般に「山地(火山を含む)」、「丘陵」、「段丘(台地)」、「低地」の4種の地形要素に大別することができます。
 治水地形分類図では、これらのうち、特に治水対策に関わりの深い河川や海の作用によって形成された「低地」を主対象として扱い、洪水を受けやすい地形要素について 地形分類の取得基準及び取得方法を詳細に定義した上で、人間の手が加わっていない自然地形の分類を行っています。 また、人工改変地形として盛土地・埋立地、干拓地、切土地を分類・取得しています。

治水地形分類図の内容

 治水地形分類図で表現されている地形分類等の記号、地形の特徴・取得基準、防災上の留意点は以下の表のとおりです。(河川管理施設等を含んだPDF版はこちら(PDF版)
名 称 記 号 地形の特徴・取得基準 防災上の留意点
山地の地形
山地

山地記号
「山地」は起伏が大きく、周囲の低平な土地と明確な山麓によって分けられる土地のことをいい、治水地形分類図では、火山地や丘陵地を含めています。 洪水や氾濫水の影響を受けることは少ないですが、地震時や豪雨時などに土砂災害が発生することがあります。
台地・段丘の地形
段丘面

段丘面記号
低地よりも階段状に高くなった比較的平坦な地形を台地・段丘といいます。治水地形分類図では、形成年代の違いや比高の違いで細分せずに、低地からの比高が1m以上の比較的平坦な面を「段丘面」としています。 低地からの比高が数m以上の段丘面は、洪水に対しては比較的安全といえますが、大規模な洪水時には浸水することがあります。ただし、低地よりも高いため、浸水しても深さや湛水時間は小さいといえます。
崖(段丘崖)

崖(段丘崖)記号
「段丘面」の縁辺にある低地と段丘面、あるいは低い段丘面と高い段丘面の境目の比高差5m以上の急な斜面を「崖(段丘面)」として取得しています。 大雨や地震により、崖崩れなどの土砂災害が発生することがあります。
浅い谷

浅い谷記号
台地上で細水流などの働きによってできた浅い浸食谷や流路跡で、平坦面より0.5~数m程度低く河道断面がすり鉢状になっているものを「浅い谷」として取得しています。 台地・段丘上の浅い谷は、集中豪雨の時などに一時的に洪水流の流路となったり、下流側に盛土などがあると遮られて湛水したりすることがあるので、注意が必要です。
低地の地形
山麓堆積地形

山麓堆積地形記号
「山麓堆積地形」とは、斜面の下方や谷の出口に堆積した岩屑または風化した土等が堆積した地形を総称したものです。地形の種類としては、「麓屑面(ろくせつめん)、崖錐(がいすい)、土石流堆(どせきりゅうたい)、沖積錐(ちゅうせきすい)」などがあります。 豪雨などをきっかけに背後の斜面から土砂が崩落・流出しやすいので注意が必要です。粒径の不揃いな土砂や岩石が不安定な状態で堆積しているので、地震時に崩落したりする危険性があります。
扇状地

扇状地記号
「扇状地」は河川が山間の狭い谷から広い低平地に出る場所に、運搬してきた土砂や砂礫が洪水とともに氾濫・堆積し、谷の出口を頂点として平地に向かって扇状に広がった比較的緩やかな地形をいいます。 大雨の時などには土石流などの土砂災害が発生することがあります。また、扇端部では、地下水位が浅いことが多いため、強い地震動による液状化の被害に気をつける必要があります。
氾濫平野

氾濫平野記号
河川の堆積作用によって形成された起伏の小さい低平地を「氾濫平野」として取得しています。治水地形分類図では、谷底平野や海岸平野、三角州も「氾濫平野」として分類しています。 堤防決壊・越流による洪水氾濫の他、内水氾濫も起きやすく、標高の低いところでは高潮に対しても危険度が高いといえます。また、軟弱な地盤の地域では地下水の汲上げによる地盤沈下や、地震動による液状化被害が発生することがあります。
後背湿地

後背湿地記号
氾濫平野の中でも周囲よりも低い土地で、自然堤防の後ろ側や旧河道等の周辺に分布する低湿地を「後背湿地」として取得しています。 わずかな降雨でも浸水しやすく、浸水深・浸水時間がともに大きくなります。また、地下水位も地表近くにあって極めて軟弱な地盤であることから、地震の際の揺れに特に注意が必要です。
微高地(自然堤防)

微高地(自然堤防)記号
自然堤防は、洪水が運んだ大量の土砂が河岸に堆積してできた周囲より少しだけ高い丘のような地形です。治水地形分類図の「微高地(自然堤防)」は自然堤防のほか、扇状地上の規模の大きな砂礫州や古い天井川沿いの微高地も含んでいます。 洪水に対しては比較的安全ですが、大規模な洪水が起こると冠水被害を受ける可能性があります。また、洪水時に河川が運搬した砂礫が堆積した地形なので、地下水位の浅い縁辺部では強い地震動による液状化の発生に注意が必要です。
旧河道(明瞭)

旧河道(明瞭)記号
旧河道は昔に川が流れていた跡の地形です。空中写真などから、比高が判別でき、かつ河道状の形態が見られるものを「旧河道(明瞭)」で取得しています。 明瞭な旧河道の部分は、周囲の氾濫平野より1~2m程度低いため、現在も地表水が集まりやすく、またわずかな降雨でも浸水しやすいため、浸水深・浸水時間とも大きくなります。また、軟弱地盤のため、地震動による液状化などの被害に注意が必要です。
旧河道(不明瞭)

旧河道(不明瞭)記号
空中写真などから比高は判別できないものの、色調や土地利用の違いで河道状の形態を確認できるものを「旧河道(不明瞭)」で取得しています。
落堀(おっぽり)

落堀(おっぽり)記号
「落堀」は洪水による破堤や越流した氾濫流の流水で洗掘されてできた池状の凹地です。埋め戻しなどの改変で現在では表面上わからなくなっているものも含めて、過去の空中写真などから認められるものを取得しています。 落堀は過去の洪水が残した爪痕であり、落堀が形成されたような場所は水防上の弱点だった箇所が多いことから、再度の破堤に対して十分な注意が必要です。また、落堀を埋めて造成したような場所は軟弱地盤による不等沈下や液状化への注意が必要です。
砂州・砂丘

砂州・砂丘記号
砂丘は風によって運ばれた砂が堆積して比高2~3m程度以上の丘になった地形をいい、砂州や砂堆は波浪や沿岸流によって運ばれた砂によって形成された地形をいいます。これらをまとめて「砂州・砂丘」で取得しています。 砂丘では、洪水による浸水のおそれは非常に低く、砂州では洪水の安全度は自然堤防の場合と同じと考えられます。ただし、砂州・砂丘の縁辺部や砂丘間の凹地、砂州の地下水位の浅い所では、強い地震動による液状化の被害に注意が必要です。
人工改変地形
干拓地

干拓地記号
「干拓地」は、海や湖沼、干潟などの水面を堤防などで仕切り、内側の水を抜いてできた陸地をいいます。旧版地形図及び空中写真から判読できるもの、もしくは史料によって干拓されたことが確認できる地域を取得しています。 内水氾濫が発生しやすく、洪水時の浸水深・浸水時間ともに大きくなります。特に高潮や津波に対しては十分な警戒が必要です。また、もともと水中であった場所で土の締め固めが進んでないことから、地震動のよる揺れも大きくなりやすく被害が生じやすくなります。
盛土地・埋立地

盛土地・埋土地記号
水部に土砂を投入して陸化したり、谷のような凹地を周辺の地盤相当まで埋め立てて造成した埋立地や、周囲の地表面より高く盛土した盛土地をまとめて「盛土地・埋立地」としています。盛土地については沿岸部では水面との比高が3m以上、内陸部では一般面との比高が約2m以上のものを表示しています。 盛土地は一般的には冠水しにくいですが、高さが十分でない場合には浸水・冠水するおそれはあります。また、降雨により盛土法面が崩壊する可能性があります。地震時には、土地の液状化や流動化が発生し、埋設物の抜け上がりや不等沈下による被害が起きやすいです。
切土地

切土地記号
「切土地」は山地や台地縁などの斜面を主として切取りにより造成した土地をいいます。道路・鉄道などの開削部や採石場なども含みます。 洪水によって浸水する可能性は低いですが、斜面安定処理が適切でないと、豪雨や地震動によって法面崩壊等の災害が発生する可能性があります。
連続盛土

連続盛土記号
「連続盛土」は国土交通大臣管理区間(国の直轄管理区間)以外の堤防や、道路・鉄道用地などで比高が概ね3m以上の連続する盛土部をいいます。 道路や鉄道の連続する盛土は、洪水時には氾濫流に対して堤防と同等の効果をもたらします。また、立地条件により地震時には盛土法面に地すべりやクラックが発生する可能性があります。
その他
天井川の区間

天井川の区間記号
洪水を防ぐために河川の両側につくられた堤防によって固定された流路に土砂が堆積し、河床が周囲の土地よりも高くなってしまった河川を天井川といいます。「天井川の区間」は現在も天井川となっている河川区間を取得しています。 天井川は、居住地や耕作地よりも高いところに河床があるため、ひとたび破堤・氾濫が起これば、氾濫流が周囲に短時間・急速度で拡がるため注意が必要です。
現河道・水面

現河道・水面記号
現河道は河川内の常時水流がある部分で、水面は河川、湖沼、海及び貯水池などの水表面を指します。「現河道・水面」は、治水地形分類図の基図として使用した2万5千分1地形図及び電子地形図25000に描かれた水部を取得しています。
旧水部 旧版地形図及び古い写真等の資料で水部と確認されたもののうち、現在干拓地、盛土地・埋立地に改変されている自然地形を「旧水部」として取得しています。なお、旧水部の上には人工改変地形の記号を表示していますので、治水地形分類図上には現れていません。 過去に海や湖沼、池だったところが盛土や埋土により人工改変されて陸地になっているところなので、地震動による液状化被害が発生することがあります。

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、以下のページからダウンロードしてください。