VLBIの目的

地球の形を測る様々な観測技術

皆さんは地球の形をご存知でしょうか。「丸い」ことはご存知でしょうが、正確には赤道方向に少し膨れた回転楕円体に近い形をしています。しかし、さらに正確には、プレート運動、太陽や月による引力、地球の回転、地球内部での質量の移動などによって、その形は絶えず変化しています。つまり、このように時間的、空間的に動き続ける地球上で、正しい位置を測るためには、継続的な測地観測によって地球の形を測り、地球規模で安定した位置の基準を構築、維持する必要があります。この位置の基準のことを、地球規模の測地基準座標系(GGRF)と呼びます。

GGRFは、様々な測地観測技術を統合することで実現されます。また、地球上で位置を測る際の基盤となり、地球規模の自然災害や環境問題の把握、位置情報やナビゲーションサービスなどの礎となります。

VLBIは、地球の大きさを決める最も重要な技術であり、継続的な観測によりGGRFの構築に貢献しています。

VLBIはすべての位置の基準となります
VLBIは、継続的な活動を通じて、地球上の位置を測り、GGRFの構築・維持に貢献しています。国土地理院はこの国際的な基準に基づく日本の位置をVLBIによって決定し、これに基づいて各地の位置の基準となる電子基準点・三角点を整備しています。これらは、国で統一した位置の基準・共通ルール(国家座標)として、国土の明示・管理・保全及び各種測量に利用されています。

我が国の測量の基準は、平成14年(2002年)に施行された改正測量法によって明治以来の測地基準系(日本測地系)から世界測地系へ変更されました。電子基準点や三角点には世界測地系に基づく新たな経緯度が与えられましたが、その算出には長年の国際VLBI観測から決定されたVLBIアンテナの位置が基準となりました。

また、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震による地殻変動によって東北日本の広範囲に及ぶ基準点が大きく動いてしまいました。国土地理院では、経緯度原点をはじめ電子基準点438点、三角点43,312点の経緯度を改定しましたが、その算出においてもつくばVLBIアンテナが地震後に実施した観測の結果が位置の基準として使われました。



VLBIによって地球の自転の様子が分かります

はるか遠くにある天体を基準として地球の観測を行うVLBIは、地球の自転の様子を客観的に測ることもできます。

地球は1日に1回自転していますが、実は様々な現象によって自転速度(1日の長さ)や自転軸の向き(これらを総称して地球姿勢パラメータ:EOPと呼びます)は常に変化しています。正確な地球の自転の様子は人工衛星、宇宙ロケットの軌道決定に必要不可欠な情報となっています。

特に、地球の自転速度は日々変化し、予測も難しいため、常に監視し続けることが必要です。国土地理院では、スウェーデン、ドイツ及びハワイの観測局と分担して、不規則に変化する自転の速さを日々監視しています。



アンテナの位置を長期間測り続ければ、地球規模で起こる様々な地面の変動も捉えることができます。その代表例がプレート運動です。
地球表面は、プレートと呼ばれる地球の表面を覆う薄い岩盤が十数枚に分かれ互いに動いており、巨大地震や火山噴火の原因となっています。

プレートの動きは最大でも年間数cmという速さですが、長い距離を精密に測ることができるVLBIではその動きを捉えることができます。実際、プレート運動は1985年にVLBIによって初めて実測されました。その後の長年にわたる観測によって、ハワイと日本の距離が一年間に約6cmずつ近づいていることなどが分かっています。

プレート運動の模式図


 VLBIは、国土地理院で行っている測地VLBIだけではなく、天文の分野でも利用されています。
 たとえば、天文VLBIでは、クエーサーやブラックホールなど電波を発する天体の観測を通じて得られる電波強度の詳細な空間分布から、それらの構造を明らかにする研究が行われています。
 また、測地VLBIは天体の位置を基準に正確なアンテナ位置を求めますが、天文VLBIでは逆にアンテナの位置を基準にすることで天体の正確な位置を求めます。
 「位置を決める」という意味では測地VLBIと天文VLBIは表裏一体の関係にあり、それぞれの成果を交換することでお互いの観測精度の向上に努めています。