最終更新日:2005年2月28日

2004年12月 スマトラ島沖地震・インド洋津波 GPSによる高速地殻変動検出

GPSによる高速地殻変動検出と津波予測

国土地理院は、津波地震に対応する早期津波予測の高精度化にむけて、高サンプリングGPS観測網が有効であると考えています。次の報文は、2005年1月に神戸市で催された国連防災世界会議の特別セッションにおける技術提案として配布した資料[PDF: 399Kb] を再掲したものです。

断層運動と津波地震

津波の原因となるのは、地震による断層運動によっておこる海底での地殻変動です。海底での地殻変動は、通常地震波などの解析結果から推定することができますが。断層のすべりが比較的ゆっくりとしていると、地震波はそれほど励起せずとも海底に地殻変動をもたらすため、正確に推定することが難しくなります。このようなゆっくりとした断層すべりの地震は,地震動に比べて津波が大きく、「津波地震」と呼ばれています。日本では、1896年に三陸海岸で約2.2万人の死者を出した地震が津波地震の典型例として知られています。
2004年12月、インド洋沿岸に大きな津波を引き起こしたスマトラ沖地震においても、断層の北側ではゆっくりとしたすべりが発生し、大きな津波の原因となったと考えられています。(例えばYagi、 2004,http://iisee.kenken.go.jp/staff/yagi/eq/Sumatra2004/Sumatra2004.html)
「津波地震」による津波は、地震動が小さく住民の備えが不十分になるため、大きな被害をもたらす可能性があります。そのため、地震の断層運動を正確に把握検知し、「津波地震」の発生を検知することは、防災上特に重要であると考えられます。

リアルタイム高速地殻変動監視と津波予測への貢献

 一般に地震計は速度や加速度を計測し、短周期の地震動は大変よく捉えられますが、長周期の地震動になるほど感度が低下します。一方、GPSは、変位を直接計測し、長周期成分や直流成分まで捉えることができます。また、地震計のように振り切れてしまうことがなく、広帯域で高ダイナミックレンジに地面の動きを捉えることができます。地震が巨大になればなるほど、震幅が大きく長周期の地震動や地殻変動が励起されるため、GPSによる高速地殻変動監視の優位性が大きくなると考えられます。
1HzサンプリングのGPSによって得られた十勝沖地震(2003年9月26日、M8.0)の変位記録
図1 1HzサンプリングのGPSによって得られた十勝沖地震(2003年9月26日、M8.0)の変位記録。
長周期の地震動とともに地殻変動(19:50と19:52以降の間のオフセット)が捉られている。


 日本国内では、国土地理院が全国1200点のGPS観測網(GEONET)を展開しており、ほとんどの点で1秒サンプリングのデータをリアルタイムに転送しています。また、転送されたデータを瞬時に解析し、リアルタイムで地殻変動を監視するシステムを構築しています。図1は、2003年9月26日に十勝沖で発生したマグニチュード8.0の海溝型地震(2003年十勝沖地震)による地面の変位を、GPSで捉えたものです。地震波動とともに直流成分(オフセット)が観測されており、強震計(K-net)記録を積分したもの(図2)に比べて特に長周期成分が正確に捉えられていることがわかります。また、国土地理院では、観測された地殻変動から地震の断層運動を推定し、一般に公開しています。
強震計(K-net)記録を積分することによって得られた十勝沖地震の変位記録
図2 強震計(K-net)記録を積分することによって得られた十勝沖地震の変位記録。
地震計では長周期成分の感度が小さくなるため,見かけ上のドリフトとなってあらわれており,
直流成分である地殻変動を捉えることは難しい。

 高サンプリングのGPS連続観測網を構築することによって、地殻変動をリアルタイムに監視し、通常の地震から津波地震、ゆっくり地震までに対応した地震の断層運動を推定することができますので、高サンプリングのGPS連続観測網は、津波地震に対応した津波予測の高精度化に貢献すると考えられます。
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