SBI(Split-bandwidth Interferometry)による変位計測
作成:2021年6月25日 English page SBI(Split-bandwidth Interferometry)は、2時期に観測された2枚のSAR画像に対して、周波数帯域分割処理を行った干渉処理のことで、観測間に発生した変位を計測できる技術です。干渉SARの応用技術として地殻変動の観測等に有効です。ここでは、その技術的背景について説明します。
SARの信号(画像)は、ある周波数(ALOS-2(だいち2号)の場合は電波照射方向に1250MHz付近)を中心にしてある程度の幅の周波数帯域を持っています。通常、全周波数帯域を利用した画像を用いて干渉処理等を実施しますが、帯域を意図的に分割して、それぞれ画像化したものを用いることも可能です。その応用の1つがSBIです。下図はSBIの概念図です。まず、周波数帯域を分割する信号処理を施し、低周波側(fL)と高周波側(fH)の2枚のSAR画像を作成します。2時期のデータから、低周波側と高周波側それぞれ2枚ずつのSAR画像が作成でき、それぞれに対して通常の干渉SARと同様の処理を施します。すると、低周波側と高周波側の異なる中心周波数を持つ2枚のSAR干渉画像(ΔφH、ΔφL)ができあがります。SBIでは、こうして分割して得られた干渉画像の中心周波数の違いを利用して新たなSAR干渉画像を得ます。一般に、位置のずれに伴う位相の変化量は周波数に比例(波長に反比例)するという特性があります。ここで、分割して得られたSAR干渉画像の位相の差(ΔφH-ΔφL)をとると、実効的な周波数を小さく(実効的な波長を長く)することができ、非常に長い波長の電波で処理したことに相当するSAR干渉画像を得ることができます。 SARの信号(画像)は、電波照射方向(レンジ)及び衛星進行方向(アジマス)にそれぞれの周波数帯域を持っており、上記の周波数分割を利用した干渉処理により、前者は通常の干渉SARと同じ衛星-地表視線方向の変位を、後者は衛星進行方向の変位を計測できます。なお、衛星進行方向に適用した場合、帯域分割して得られた画像はそれぞれ前方視、後方視に相当し、これを利用した干渉処理はしばしばMAI法と呼ばれます。 帯域分割により、計測精度は通常の干渉SARよりは劣りますが、通常の干渉SARでは非干渉になってしまう変位勾配が大きな領域でも干渉性が得られやすく、数mに及ぶ変位も検出可能となります。このことは、内陸地震等に伴う大規模な地殻変動の計測に有効となります。原理上は、帯域分割をすればどのSARデータにも適用可能ですが、十分な計測精度を得るには帯域分割後の中心周波数の差が大きい必要があります*。ALOS-2に代表される近年の衛星SARデータは以前に比べて幅広い帯域を持つようになったため、帯域分割後の中心周波数の差を大きくすることが可能になり、SBIの精度が向上して良好な結果が得られる機会が増えてきました。 【長所】 大規模(メートル規模)変位の計測が可能(通常の干渉SARでは変位勾配が大きいと計測困難) 【短所】 干渉SARよりも計測精度が低い(~数10cm程度) * 周波数の差が大きくなるほど実効波長が短くなりますが、1波長に対応する変位量は一般的に数m以上となり、実際の変位計測には大きな影響を及ぼしません。 参考文献
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