最終更新日:2018年5月15日

高密度地形データを用いた斜面崩壊予測のための大縮尺地形分類手法マニュアル

マニュアルについて

 本マニュアルは、平成19~21年度に実施した、特別研究「高密度地形データを用いた斜面崩壊予測のための大縮尺地形分類手法の開発」の成果をベースに、航空レーザ測量による詳細な地形データを用いて斜面崩壊予測を行う手法について整理したものである。本マニュアルは、ハザードマップの作成に携わる作業機関に所属する技術者等の利用を想定して、研究成果の概要の説明を中心に記述されているが、背景となった解析結果等については参考文献に挙げる学術論文等にまとめられている。
 本ページを参考として研究成果・報告書等を公表される場合は、本ページのURLと、下記の「6.参考文献」を適宜引用してください。

1.マニュアル作成の背景

 昨今でも、毎年のように土砂災害は頻発しており、土砂災害対策の必要性は不変であるが、平成18年の研究着手当時の状況は以下のようなものであった。まず、平成13年に土砂災害防止法が施行され、その後平成17年に国土交通省河川局砂防部から市町村向けに「土砂災害ハザードマップ作成のための指針と解説(案)」が発表され、基礎調査は1:2,500レベルの大縮尺で行う事が提案された。しかし、土砂災害ハザードマップの作成には多くの労力と費用がかかり、最も基本的な土砂災害警戒区域さえ、指定されたのは平成18年の段階で全体の3%弱に過ぎなかった。当時、写真測量と対比して比較的安価な航空レーザ測量が急速に進歩・普及し、1:2,500レベルの大縮尺地形図と対比できる数mグリッドの高密度地形データの取得が可能となっており、山地地形調査への利用が期待される状況となってきていた。しかし、航空レーザ測量データの山地地形調査への利用例はまだごく少数であり、地形量の計測手法等、課題があった。

 そこで、山地斜面のハザードマップ作成推進に貢献するため、航空レーザ測量による詳細な標高データ等を用いて、山地斜面の効果的な地形分標類手法を開発することを目的として本研究が行われた。本研究でターゲットとする土砂災害の規模は、発生件数の多さを鑑み、幅数十m程度までの斜面崩壊とし、そのまま斜面崩壊の危険度マップとして用いられる大縮尺地形分類図を、定量的な手法で作成する手法を開発する事を目標とした。

 研究の内容としては、航空レーザ測量技術を導入することによって、斜面崩壊の危険度マップとして用いられる、大縮尺地形分類図の作成手法を開発するというものであり、その過程で崩壊に関連する微地形を地形解析で抽出する手法を開発し、マニュアル化することとしたものである。

2.斜面崩壊を評価するにあたり作成すべきデータ(図等)

 地盤変状には大小のものを含めると山体崩壊や地すべりなどもあるが、本マニュアルで扱うものは、傾斜が主に影響すると考えられ、かつ比較的短時間で発現する要因(集中豪雨や地震)が関わると見られる斜面崩壊に特化することとした。また、航空レーザ測量データなど今回用いたデータからは直接求めていない、降水量・地質・植生などの要因も崩壊には影響していると考えられることから、扱う分類項目はできるだけ単純かつ明快なものを目指した。

 今回扱った斜面崩壊の事例はこちら

 

 研究を実施した結果、以下の3つの類型ごとに後述のデータを作成することが妥当であることが分かった。

また、[1]~[3]とは別の傾向として、道路開通等に伴い生成された人工斜面における斜面崩壊も確認されているため、傾斜分級図から人工的急斜面を把握することも必要であると考える。

 人工急斜面の影響についての解説はこちら

 

[1]豪雨による新規の崩壊(ここ数十年で崩壊していない斜面)

 地形条件のみを用いた機械的な分類による危険度評価が適当である。具体的には、正確な崩壊分布図と、最適ウィンドウサイズを用いた傾斜・凹凸度による崩壊地判別分析あるいはウィンドウサイズを固定した傾斜・凹凸度による危険度分類を行うとよい。地質構造は[2]の場合と違って余り影響していないと見られる。

 新規崩壊地における豪雨による崩壊についての解析事例はこちら

[2]豪雨による旧崩壊地近隣の崩壊(ここ数十年で崩壊した斜面と同じ小流域での崩壊)

 [1]に加えて、地質構造(柾目盤等)が影響していると見られるため、[1]の危険度分類等に加えて地質構造データの作成を行うことが効果的である。

 旧崩壊地近隣における豪雨による崩壊についての解析事例はこちら

[3]地震による崩壊

 [1][2]とは異なり、傾斜でほとんど決まるため傾斜分級図の作成が効果的である。

 地震による崩壊についての解析事例はこちら

 

3.使用するデータの作成手法について

 2.で指摘した各データの作成にあたっては、航空レーザ測量データから、崩壊地ポリゴンを抽出するとともに傾斜量及び凹凸度を求める必要がある。また、地質構造についてもデータを別途入手する必要がある。崩壊地ポリゴンの抽出、傾斜量と凹凸度の作成のアルゴリズムは以下のリンク先のとおりである。

 崩壊地ポリゴンの抽出手法はこちら

 傾斜量作成のアルゴリズムはこちら

 凹凸度作成のアルゴリズムはこちら

 また、本研究により豪雨の場合は崩壊の規模毎に最適なウィンドウサイズがあることが分かっている。解説は以下のリンク先のとおりである。

 ウィンドウサイズの設定についての解説はこちら

 

 一方、地質構造については産業技術総合研究所地質調査総合センターの5万分の1地質図における走向・傾斜データなどから作成が可能である。具体的には、走向・傾斜データ、褶曲軸・断層線のデータ、航空レーザ測量データのDTMから計算した傾斜・斜面方位データを用いて作成する。本研究では地質構造データの検討はリンク先のような形で実施した。

 地質構造データについての検討はこちら

 ただ、地質構造の影響をより受ける旧崩壊地周辺の豪雨による斜面崩壊であっても一義的に影響を受けるのは傾斜量と凹凸度と見られるため、簡便な解析を行う場合には傾斜量と凹凸度があればよいと考える。

 

4.崩壊危険度判別分析の事例

 3.で用意したデータのうち、傾斜量と凹凸度を用いて判別分析を行った。その事例について以下のリンク先に示した。

 崩壊危険度判別分析の事例はこちら

 新潟県出雲崎地区の解析結果からは、一部一致していない箇所はあるものの、概ね傾斜量と凹凸度で崩壊危険箇所は抽出できることが分かる。

 

5.崩壊危険度判別分析の課題

 4.で得られた結果は概ね良好であったが、一部不一致のところがあり、その要因として、降雨分布や地下水の状況などが反映されていないことのほか、植生状態などが考慮されていないことが挙げられる。

 水の状況については航空レーザ測量データからでは情報が得づらいが、高さや粗密といった植生の形状であれば航空レーザ測量データから得られる情報であると考えられ、この点に航空レーザ測量データの活用の余地が残されていると考えられる。

 この課題を解決すべく、国土地理院では特別研究「航空レーザーデータを用いた土地の脆弱性に関する新たな土地被覆分類の研究」を平成23~25年度の予定で実施中である。

 ⇒特別研究「航空レーザーデータを用いた土地の脆弱性に関する新たな土地被覆分類の研究」の概要はこちら(PDF:0.2MB)

 

6.参考文献

 本マニュアルを作成するにあたり、学術論文等として公開した成果のリストを下記にまとめた。本マニュアルを参考として研究成果・報告書等を公表される場合は、下記の文献を適宜引用してください。

 

・岩橋純子・山岸宏光・佐藤浩・神谷泉(2008) 2004年7月新潟豪雨と10月新潟県中越地震による斜面崩壊の判別分析, 日本地すべり学会誌,45 (1), pp.1-12.[ →2004年7月新潟豪雨と10月新潟県中越地震による斜面崩壊の判別分析の全文(PDF:0.9MB) | 2004年7月新潟豪雨と10月新潟県中越地震による斜面崩壊の判別分析の要旨]

 

・山岸宏光・斉藤正弥・岩橋純子(2008) 新潟県出雲崎地域における豪雨による斜面崩壊の特徴―GISによる2004年7月豪雨崩壊と過去の崩壊の比較―,日本地すべり学会誌,45 (1), pp.57-63.[ →新潟県出雲崎地域における豪雨による斜面崩壊の特徴の全文(PDF:0.9MB) | 新潟県出雲崎地域における豪雨による斜面崩壊の特徴の要旨]

 

・岩橋純子・神谷 泉・山岸宏光(2009) :LiDAR DEMを用いた表層崩壊のアセスメントに適する勾配と凹凸度の計算範囲の推定.地形,vol.30,no.1,pp.15-27.[ →LiDAR DEMを用いた表層崩壊のアセスメントに適する勾配と凹凸度の計算範囲の推定の全文(PDF:2.1MB) | LiDAR DEMを用いた表層崩壊のアセスメントに適する勾配と凹凸度の計算範囲の推定の要旨]

 

・岩橋純子・山岸宏光(2010):新潟県出雲崎地域の1961年8月豪雨および2004年7月豪雨による崩壊地の空間分布の再検討-高解像度オルソ画像と2mDEMによるGIS解析-.日本地すべり学会誌,vol.47,no.5,pp.28-36.[ →新潟県出雲崎地域の1961年8月豪雨および2004年7月豪雨による崩壊地の空間分布の再検討の全文(PDF:1.1MB) | 新潟県出雲崎地域の1961年8月豪雨および2004年7月豪雨による崩壊地の空間分布の再検討の要旨]

 

 

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