最終更新日:2021年12月6日

地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2021年)

1. 地震時土砂崩れの5次メッシュインベントリの作成について
  岩橋 純子 (地理情報解析研究室)

当研究室で運用中の地震時地盤災害推計システム(SGDAS)の精度検証には、地震時の土砂崩れの位置を記したインベントリのGISデータが必要不可欠である。しかし、災害状況図は、点、ポリゴン、ケバなど様々な地物データとして描画されており、集約する際に工夫が必要である。地域メッシュ(5次メッシュ)単位で集約する基準を考察し取りまとめ、さらに、SGDASの推計結果の検証方法について検討した。

2.物理測地学でみる地球の姿 ~重力場雑感
  黒石 裕樹 (地理地殻活動総括研究官)

地球の物理的、幾何学的な姿について、物理測地学の視点で検討する。まず、物理的な静的形状としてのジオイドの特徴について、陸・海底地形、重力異常場と対比しながら考える。次に、月と太陽の質量による外的擾乱である潮汐力の影響について、物理測地学としてどのように扱われるか、その測地基準系との関わりについて論じる。また、相対論的測地手法の活用の観点から、潮汐力による動的変動の試算結果を紹介する。

日時:令和3年12月17日(金)
開催方法:ウェブ会議形式

1.ストークス・ヘルメルト法に基づく精密ジオイド決定のための地形質量塊の最適な凝縮深度の検討
  松尾 功二 (宇宙測地研究室)

ストークス・ヘルメルト法に基づくジオイド決定では、測地学的境界条件を満たすため、ジオイド外部の地形質量塊はジオイド面上に圧着させるかジオイド面下に移動されなければならない。一般的には、地形質量塊はジオイド面上に圧着されるが、理論的には、ジオイド面下に移動させた方がジオイド決定精度が高いと予想されている。そこで、本研究では、急峻な地形を持つ米国コロラド州を事例に、地形質量塊の最適な凝縮深度について調査・考察を行った。

2. 地殻変動解析ソフトウェアpydeformの開発
   宗包 浩志 (地殻変動研究室)

国土地理院で実施する地殻変動解析の対象は、火山性地殻変動力源の推定、矩形断層推定、断層すべり推定、すべりの時間発展の推定など多岐にわたり、使用するデータもGNSSによる三次元変位やInSARによる衛星視線方向変位、水準測量データなど多様である。これらすべてに適用可能で、かつ一般に入手可能な解析ソフトウェアは限られており、地殻変動解析の経験が浅い職員が業務として地殻変動解析を実施することは困難であった。このような状況を変えるべく、発表者は地殻変動解析ソフトウェアpydeformを開発してきた。本発表ではソフトウェアの概要および解析事例について紹介する。

日時:令和3年11月12日(金)
開催方法:ウェブ会議形式

1.地震時斜面災害への先行降雨の影響
  遠藤 涼 (地理情報解析研究室)

国土地理院では、地震時地盤災害推計システム(SGDAS)を運用し、地震発生時に斜面災害(斜面崩壊、地すべり)と液状化の推計を行っているが、斜面災害の素因の一つと考えられている水分については考慮されていない。本発表では、斜面の水分への影響が大きいと考えられる地震発生前の先行降雨に着目し、過去の研究事例を紹介するとともに、SGDASの斜面災害の推計結果と先行降雨の関係について報告する。

2.測定における「精度」についての考察
  小清水 寛 (地殻変動研究室)


測定の良し悪しは大まかには測定の偏りと精度によって定量的に表現される。例えば測量の世界では、各種の測定についての作業規程が定められ、測定の偏りを可能な限り回避する実践的な作業手順が定められている。他方、測定の精度については、誤解を招きかねない記述や処理が散見される。測定に先立って得られている先験的な精度をあたかも測定値(実現値)の誤差としてとり扱う処理、最小二乗推定の精度に関する指標をただ1回の測定(に伴う残差)から定量的に計算する(ことができるとする)処理などがそれに該当する。これらの事例を数学的見地(測度論的な確率論)から見直し、数学的に正しい表現、処理は何か考察する。

日時:令和3年10月12日(火)
開催方法:ウェブ会議形式

1.科学的・非科学的カラーマップ
  森下 遊 (宇宙測地研究室)

Crameri et al. (2020, Nat. Commun.) は、jetに代表される旧来のカラーマップは視覚的不均等であり、誤解釈につながるおそれがあることを指摘した。近年、視覚的均等なカラーマップが複数開発されているが、広く認知・利用されているとは言い難い状況である。本発表では、科学的カラーマップの普及を目的として、カラーマップの理論的背景や、適切なカラーマップの選択基準、利用可能な科学的カラーマップを紹介する。また、干渉SARで使用する循環型カラーマップについても議論する。

2.液状化の事前防災・被害軽減に向けた液状化ハザードマップの作成手法の検討と手引き策定
  中埜 貴元 (地理情報解析研究室)

国土交通省(都市局,国土地理院,国総研)では、液状化の事前防災を促し、被害を軽減することを目的として、H30~R2年度にかけて総合技術研究開発プロジェクト「リスクコミュニケーションを取るための液状化ハザードマップ作成手法の開発」を実施した。本研究開発では、液状化ハザードマップを事前のリスクコミュニケーションツールとして位置づけ、その作成手法を検討し、地方公共団体向けの手引きとして策定した。本報告では、この手引きの概要とポイントを紹介する。

日時:令和3年7月16日(金)
開催方法:ウェブ会議形式

1.高校地学における国土地理院の教育支援について
  田中 宏明 (地理情報解析研究室)

 国土地理院では新学習指導要領における社会科の地理の必修化等を受け、主に地理における教育支援を実施している。特に自然災害伝承碑の新設やハザードマップのポータル運営等の防災対応についてはより力を入れて業務を行っているところである。これらの内容は社会科の地理だけにとどまらず、共通部分の多い理科の地学においても応用できると考えている。本日は高校の地学を対象にした地理院地図等の認知度向上に向けた活動などを紹介する。

2.DEMを用いた地形の中分類およびその周辺
  岩橋 純子 (地理情報解析研究室)

 数値地形解析は、地形量(傾斜などの物理量)や、それらを組み合わせてゾーニングしたデータを使って、地形と関係がある事が分かっている様々な事柄のモデリングと推計を行うこと、または、それに役立つデータを作る事を目指している。本発表では、後者の事例の1つとして、数値標高モデル(DEM)を用いた地形の中分類を取り上げ、最近公開した30mメッシュの日本全国の地形分類を紹介すると共に、今後の展望を考察する。

3.東北地方太平洋沖地震の余効変動における粘弾性効果の検討
  桑原 將旗 (地殻変動研究室)

 2011年の東北地方太平洋沖地震の発生後、GNSS連続観測による地表変位の時間発展データから、地震直後の余効変動メカニズムにおける、粘弾性緩和の寄与に関する議論がなされてきた。今回は、Barbot and Fialko(2010)を元に実装された、Relaxというプログラムを用いて、生じた余効変動について、様々なレオロジーを仮定して計算を行い、比較検討を行う。

日時:令和3年3月19日(金) 14時00分~16時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.国際測地観測と国連の活動ー全球統合測地観測システム(GGOS)と国連測地準委員会ー
  宮原 伐折羅 (宇宙測地研究室長)

 測地学の目的は、地球の形状、回転、重力場とその時空間変化(GGRF:地球規模の測地基準座標系)を構築し、社会・科学の基盤として提供することである。そのために欠かせない地球規模での測地観測を連携強化する枠組が全球統合測地観測システム(GGOS)である。発表者は、2019年よりGGOS議長を務め、また、測地の連携のために国連が設けた測地準委員会にもメンバーとして参加している。講演では、国土地理院のGGOSと国連における活動を報告する。

2.マルチGNSS-PPPによる電子基準点の迅速な位置座標算出技術の開発
  中川 弘之 (宇宙測地研究室)

 近年の衛星測位の精度・リアルタイム性の向上により、地理空間情報を任意の時期で管理する測地基準座標系への対応が求められている。そこで測地基準座標系の時空間変化を正確に把握するために、本年度より複数の衛星測位システム(マルチGNSS)によるPPPを用いて、迅速に電子基準点の位置を計測するための技術開発を開始した。本講演では、マルチGNSS-PPPのための軌道推定等の現状と、電子基準点のマルチGNSS-PPP試験解析結果について報告する。

★2月13日に発生した福島県沖の地震を受け、2月16日の開催予定より下記の日程に延期いたしました。
日時:令和3年3月10日(水) 14時00分~15時40分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.草津白根山・浅間山の火山性地殻変動モニタリング
  宗包 浩志 (地殻変動研究室長)

 平成28年(2016年)熊本地震発生の後、GNSS観測等により余効変動が観測されている。本発表では、約5年分のだいち2号(ALOS-2)のSARデータを用いた干渉SAR時系列解析により明らかにした、余効変動の面的な広がりおよび時間的な推移の特徴について報告する。また、現在余効変動を説明するモデルの構築に取り組んでおり、その結果についてもあわせて報告する。

2.南海トラフ沿いの長期的SSE
  小沢 慎三郎 (地殻変動研究室)

 水藤2017の成果に基づいて、平成28年(2016年)熊本地震の余効変動を考慮し、西南日本の遷移的地殻変動を解析した。その結果、2018年以降で見ると、2018年6月~2019年秋頃に日向灘北部で、2018年末頃に日向灘南部で、2018年10月~2019年秋頃に豊後水道で、2020年6月頃から日向灘南部で長期的SSEが発生していた。また規模は小さいものの、2020年半ば頃から日向灘北部で長期的SSEが発生していた可能性がある。加えて、2019年1月の種子島近海の地震後に種子島の沖合で地震後の余効すべりが推定された。

3.矩形行列の行列式と一般逆行列
  小清水 寛 (地殻変動研究室)

 現在、国土地理院ホームページから公開されている「地殻変動補正パラメータ」は、電子基準点の日々の座標値(F5解)を元に、年周・半年周・トレンド等を踏まえて推定され、その更新頻度は3ヶ月毎となっている。本発表では、その時間精度の向上を目指し実施した、F5解の非線形フィッティングについて、各電子基準点のPPP解を活用することでF5解の見かけ上の変動(例:樹木によるF5解の外れ値)の影響を軽減できること等について報告する。

日時:令和4年1月21日(金)
開催方法: ウェブ会議形式