最終更新日:2016年11月24日

地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2016年)

1.2011 年東北地方太平洋沖地震の粘性緩和による変動
:水藤 尚(地殻変動研究室)

2011 年東北地方太平洋沖地震の余効変動に関して、地震後5 年間の累積の変動に基づき、粘性緩和による変動の数値計算を行った。
粘性緩和による変動は、地下の粘性構造の不均質に大きく依存することが分かった。
また、余効滑りを含めた余効変動モデルの構築に向けて、余効変動の時間変化についても報告する。

2.MADOCA+RTKLIB を用いた電子基準点キネマティック解析システムの構築
:宗包 浩志(宇宙測地研究室長)

国土地理院では高い精度のGNSS 定常解析解を日々算出して外部提供しているが、その時間分解能については最高でも6 時間(Q3 解)であった。本発表ではその時間分解能の向上を目指し、PPP キネマティック法によるGNSS 解析解推定システムを試作した結果について報告する。現在試験運用中の後処理GNSS 解析解推定システム(30 秒間隔)の概要および熊本地震の地殻変動解析への適用例、また、現在構築中のリアルタイムGNSS 解析解推定システム(1秒間隔)の現状などについて紹介する予定である。

日時:平成28年12月2日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.液状化ハザードマップの現状と課題
:宇根 寛(地理地殻活動研究センター長)

近年さまざまなハザードマップの整備が進み、多くの自治体がハザードアップをインターネットに公開している。このうち、液状化等の地震災害に関するハザードマップについて、危険度の評価方法などに関する類型化を行うとともに、土地条件図などの情報と照合し、地形学的観点からその問題点を検討した結果を報告する。なお、本研究の一部は本年度の職場体験実習生である安藤竜介さん(大阪大)、田中海晴さん(東北大)、米川直志さん(千葉科学大)の成果である。

2.オルソ画像自動作成への挑戦
:大野 裕幸(地理情報解析研究室長)

GPS/IMU の実用化以前にフィルムカメラで撮影された空中写真(いわゆるアナログ空中写真)から自動的にオルソ画像を作成するシステムの開発を行っている。しかし、オーバーラップの少ない空中写真画像と概略の主点位置情報からだけでは精度の良いオルソ画像を効率的に作成することは困難である。そのような中で、アナログ空中写真であるがゆえの問題を乗り越え、オルソ画像「完全(?)」自動作成への道筋が見えてきた現状について報告する。

日時:平成28年10月28日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.SAR データで見る熊本地震の地殻変動と断層運動について
:小林 知勝(地殻変動研究室)

ALOS-2 衛星のSAR データ解析により,熊本地震に伴う地殻変動の全容とその詳細が明らかとなった.特に今回の解析では,標準的なInSAR に加えて,MAI 法やピクセルオフセット法を適用することで,多方向からの変位を抽出することが出来た.このことは,東西・南北・上下の3成分変位の算出を可能としたり,断層運動を推定する上での貴重な拘束条件となった.本発表では,前震及び本震それぞれについて,SAR データ解析により得られた地殻変動とそれを基にして構築した震源断層モデルを紹介し,その地震像について議論する.

2.全国SAR 干渉解析による斜面変動の検出
:山中 雅之(研究管理課)

測地部では,2014 年5 月に打ち上げられた「だいち2号」のデータを用いて,日本全国のSAR 干渉解析を行っている.全国のSAR 干渉画像には,多数の斜面変動を示すと考えられる位相変化が見られる.しかし,干渉SAR の解析結果には,地表面の真の変動以外に様々なノイズが含まれており,斜面変動の抽出を困難にしている.
本発表では,SAR 干渉画像において斜面変動と誤認しやすい位相変化の例を紹介する.また,抽出した斜面変動のうち,干渉SAR の結果と,現地における地上観測の結果や地表変形の痕跡との対比を行った例を報告する.

日時:平成28年9月2日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.干渉SAR で見える小さなものたち
:藤原 智(地理地殻活動総括研究官)

地表面の変動をとらえる干渉SAR の特長のひとつとして、広域の観測が可能であることが挙げられる。ここで注意すべきなのは、広域を観測することは得意であるが、空間波長の大きな変動をとらえるのは不得意であることである。これは、干渉SAR には衛星軌道、電離層、大気圏に起因する長波長の誤差が大きいためで、GEONET の配置間隔を超える波長の現象はGEONET に任せ、空間波長の小さな変動をくまなく見つける、という特質を重視すべきである。本講演では、熊本地震での例も挙げながら、「小さなものたち」探しについて紹介する。

2.3 次元地図の整備について
:田中 宏明(地理情報解析研究室)

平成27 年度から3 カ年計画で実施されている国土交通省の「3次元地理空間情報を活用した安全・安心・快適な社会実現のための技術開発」の総プロでは、昨年、無事、初年度が終了した。我々が実施している屋内3 次元地図の整備についても、省内での連携を進める一方、フロアマップの利用等については、いくつかの課題が挙がってきている。今年度については、その課題の解決を含め、利用者が使いやすい地図の整備について、取り組んでいきたい。

日時:平成28年7月1日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.干渉SAR による面的3 次元変動量の推定
:森下 遊(地殻変動研究室)

干渉SAR によって計測可能な変動量は衛星-地表視線方向の1 次元であり、しばしばその解釈を困難にさせる。
しかし、3 方向以上の観測結果が利用可能な場合、3 次元成分(東西、南北、上下)を推定することが可能となる。
本発表では、干渉SAR による面的な3 次元変動量の推定について、2015 年桜島の事例、達成可能な計測精度、必要性、制約条件、将来の展望などについて報告する。

2.H28 年熊本地震に伴う地表の亀裂分布とその特徴
:中埜 貴元(地理情報解析研究室)

平成28 年(2016 年)熊本地震では,特に4 月16 日1 時25 分のM7.3 の地震に伴って,既知の布田川断層帯および日奈久断層帯に沿って地表地震断層が出現するとともに,南阿蘇村河陽地区周辺ではこれまで認識されていなかった活断層が出現した.そこで,国土地理院が4 月16 日以降に撮影した空中写真を用いてそれらを判読し,マッピングした.本発表では,この亀裂分布について,SAR 干渉画像における位相不連続との関係も踏まえながら,その特徴を報告する.

日時:平成28年6月3日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.平常的地震活動と「予測」の価値-震度DB を用いた「中期予測」から見て-
:今給黎 哲郎(企画部地理空間情報国際標準分析官)

本報告で紹介する「地震予測」手法は、通常の地震活動から当然予想できる地震発生について、一般市民に「相場観」を理解してもらうことを目的としている。そのために、「地震」イベントをカタログから集計するのではなく、より体感に近い「地震動」に対応する気象庁の震度データベースを用いた手法となっている。数ヶ月から1 年程度の、日常生活の時間に対応した期間において、当たり前に起きている地震の頻度に基づき、分かりやすい表現で地震を体感する確率を示すことで、地震に関するハザード情報の意味を理解する上での参考となることを期待している。

2.地上重力データの効率的な整備手法の開発
:宮﨑 隆幸(宇宙測地研究室)

国土地理院では現在新しい重力の基準である日本重力基準網(JGSN)2013 の構築を進めている。
一方、旧来の重力基準であるJGSN75 に基づいて観測された過去の膨大な重力データに関しては地殻変動の影響や、構築時の不確かさによって一般にはJGSN2013 に基づく新しい重力データと整合しない。
本研究では、JGSN75 重力値とJGSN2013 重力値の差の要因を明らかにし、適切な補正処理によって JGSN75 に基づく過去の重力データ資産を活用するための環境を提供することを目指してそのための手法の検討を行った。

日時:平成28年3月4日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.東海地方の非定常変動
:小沢 慎三郎(地殻変動研究室)

東海地方は現在、地震空白域と考えられている。2013 年初頭からのGPS の時系列データを用いて、東海地方のスロースリップの可能性を考察した。その結果、東海地方で浜名湖付近を中心とする滑りが推定された。東海スロースリップは地震空白域の応力状態を東海地震を誘発するような方向に変化させているため、今後の監視が大変重要である。

2.GMTED2010 を用いた世界の地形分類図に向けて-アジア・北米での試行錯誤-
:岩橋 純子(地理情報解析研究室)

東アジア・東南アジア・米国西海岸のGMTED2010(USGS)から再補間した250m メッシュDEM から地形の特徴量を計算し、その画像を用いてオブジェクト領域分割を行い、属性を元にクラスター分類を行って、ポリゴンベースの地形分類図を試作した。
DEM を用いた斜面の地形分類は、従来、ピクセルベースで行われているが、ポリゴンベースでは、ピクセルベースと比べてデータ量が大幅に減るため、使える分類手法の幅が大幅に増える。本発表では、アジア太平洋地域のデータを用いた試行錯誤について紹介する。

日時:平成28年2月5日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1. 九州で発生する複数の長期的スロースリップイベント
:矢来 博司(地殻変動研究室長)

四国西部から九州にかけてのフィリピン海プレートの沈み込み帯では,豊後水道や日向灘で長期的スロースリップイベント(SSE)が繰り返し発生していることが知られている.しかし,それらの間の領域では,これまで長期的SSE の発生は指摘されていなかった.今回,九州における非定常地殻変動を調査し,その間の領域でも長期的SSE が発生していることが分かったので報告する.

2.2004 年紀伊半島南東沖の地震の余効変動
:水藤 尚(地殻変動研究室)

2004 年9 月5 日に発生した紀伊半島南東沖の地震の粘性緩和による変動を数値計算により見積もった。粘性緩和による変動は、震源域に向かう南方向の変動が卓越し、地震後10 年間で最大6.5cm、その後10 年間でも2.6cm 程度の変動が見込まれる。地震後10 年強が経過した現在においても、粘性緩和による変動は、志摩半島から東海地方において年間数mm/yr の速度で継続している。当該地域における地殻変動を解釈する際には無視できない変動であると考えられる。

日時:平成28年1月8日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)