1.北海道東部におけるプレート間すべりと固着の推定
西村 卓也(地殻変動研究室)
1973年根室半島沖地震(M7.4)の前後に行なわれた三角・三辺測量データの網平均を行い水準測量や光波測距データとともに解析して、1973年の根室半島沖地震時および余効すべり分布の推定を行なった。地震時すべりは震源の位置付近で最大となり、余効すべりは地震時すべりの周辺部で大きいことがわかった。さらに、GPSによる2003年十勝沖地震以前のデータからプレート間カップリング分布を推定し、根室半島沖地震のすべり域に対応して固着が強い領域があることを確かめた。また、バックスリップモデルにおけるプレート一様すべりの影響は、プレート境界が曲がっている場合には無視できないことを示す。
2.2007年房総半島沖スロースリップ
小沢 慎三郎(地殻変動研究室)
房総半島沖では、数日にわたってプレート境界上で進行するスロースリップ現象がGPS観測網によって発見されている。この現象に伴い、スロースリップの端付近のプレート境界上で地震活動が発生する。このため、過去の地震活動を調べてみると、5-7年くらいの間隔で同様な地震活動が発生してきた事がわかり、このことから房総沖では、フィリピン海プレートと陸側プレートの間で、スロースリップが5-7年間隔で発生してきたのではないかと推測されている。GPS観測網で検出された過去のスロースリップは、1996年、2002年、2007年の三回あり、すべて小規模な群発地震活動を伴っている。2007年の房総半島スロースリップでは、M2-4程度の地震が先行したのちM5を超す地震が発生しており、地震予知のための重要な研究対象となっている。本研究では、2007年のスロースリップ現象の時空間変化を推定し、地震及び過去の活動との比較を報告する予定である。
3.測地学的手法による過去の噴火未遂事件の発掘
- 古い浅部貫入ダイクが今でも見える -
村上 亮(地理地殻活動研究センター長)
火山噴火予知の目標は、開始の予測、火山活動の推移の予測、終息の予測をそれぞれ的確に行うことである。確率の高い活動推移の候補をいくつか想定し、事前に予想シナリオを作成しておくことが有効と考えられる。シナリオ作成には、対象火山の詳細な噴火履歴が最も重要な基礎資料となる。噴出物の精査による従来の地質的な調査に加え、噴火未遂事件の履歴もシナリオ作成に必要である。地表には達しなかったものの、極浅部まで達した過去のダイク貫入事件の痕跡について,測地学的な観測で発掘できる可能性が見えてきた。本講演では,測地学的手法の火山学への新しい応用の可能性について紹介する。
日時: 平成19年12月14日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センターセミナー室(本館6階)
1.SAR干渉画像による能登半島地震及び中越沖地震に伴う地形変化の抽出
宇根 寛(地理地殻活動総括研究官)
「だいち」に搭載されたPALSARは、干渉性が極めて高く、これまでになく高い分解能で地表の変位を捉えることができるため、地震時の広域的な地殻変動のみならず、局所的な地すべりや地盤の変形の情報を抽出することが可能となった。これにより、能登半島地震では、地表踏査や空中写真判読では認識することのできないすべり量数cm~数10cm程度の初生的地すべりを多数把握することができた。また、新潟県中越沖地震では、地震に伴う地盤の変形を把握することができ、これらと被害の関係を明らかにすることができた。
2.2003年9月26日十勝沖地震の余効変動シミュレーション
水藤 尚(地殻変動研究室)
2003年9月26日十勝沖地震発生以後明瞭な余効変動が観測されている。地震発生直後のデータを用いた解析では、この余効変動はプレート境界面上のすべり(余効すべり)によって説明がされている。余効変動の原因には、余効すべりと粘性緩和という大きく2つの考え方がある。両者の大きな違いはその時定数である。余効すべりの時定数が数年であるのに対して、粘性緩和は数十年と言われている。地震直後は、余効すべりが支配的であるが、時間が経過するとともに余効すべりは小さくなり、徐々に粘性緩和の影響が支配的になってくると考えられている。本研究では、粘性緩和の影響を数値シミュレーションにより推定し、観測データから粘性緩和の影響を除去し、余効すべりを推定しなおした。地震後1年間は、観測量に対して粘性緩和の変動量は、数%であるが、徐々にその寄与は大きくなり、地震後3年以降では、定量的にはその割合は50%を超える。続いて粘性緩和の影響を除去し、余効すべりを推定しなおした結果、余効すべりは、粘性緩和を考慮しない場合に比べて地震時の震源域周辺で発生していることがより明瞭となった。
日時: 平成19年10月5日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センターセミナー室(本館6階)
1.1945年三河地震(M=6.8)に伴う地殻変動と震源断層モデル
高野 和友(研究管理課 高等科研修_課題研究)
1945年1月13日に愛知県東部を震源域とする内陸直下型大地震(三河地震,M=6.8)が発生した。地震発生後に震災復旧測量が実施され、その報告を元に地殻変動データを用いた震源断層モデルが推定されている。一方で近年地震波の解析による震源断層モデルが提唱されたが、この二つのモデルは有意に異なる。本研究では震災復旧測量により得られた測地測量データを再整理して地震時の地殻変動を求め、新たな震源断層モデルを作成した。推定された断層面は地震による被害が大きかった地域の地下に位置しており、地下で発生した断層すべりにより、家屋の倒壊等被害が発生したものと考えることができる。
2.統合質量分布に基づく地球回転モデル
眞崎 良光(宇宙測地研究室)
研究課題「精密地球計測による地球ダイナミクス」では、観測される地球回転変動のうち、地球表層流体(大気・海洋・陸水)の寄与を求めるため、これらの流体を統合した質量分布に基づく地球回転モデルの構築を行なっている。陸水による地球回転変動の励起量を求めるとき、重力観測衛星GRACEの観測データに基づいて推定した励起量は、全球陸水データを用いて推定した励起量に比べ、地球回転季節変動の観測結果をより良く説明できることが分かった。今回は、この話題を中心に報告する予定である。
3.ALOS PRISM画像の画質向上とステレオマッチング
神谷 泉(地理情報解析研究室)
2006年1月、地図作成を主目的の一つとしたPRISMを搭載したALOSが打ち上げられた。前回の談話会では、PRISM画像の幾何補正と幾何学的な性質について発表した。今回は、PRISM画像の画質の向上と、ステレオマッチングの結果について報告する。PRISMの画質については、奇偶ピクセル間の感度差、CCD間の感度差を補正しても、JPEG圧縮に伴うノイズがあり、問題となっていた。今回は、PRISM特有のJPEG圧縮の工程を考慮したノイズ低減処理を行い、対処が困難だと考えられていたJPEG圧縮に伴うノイズの低減に成功したことを報告する。
日時: 平成19年9月7日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センターセミナー室(本館6階)
1.白神山地・泊の平地区におけるリモートセンシングデータを使った地生態学図の作成
佐藤 浩(地理情報解析研究室)
ほとんど人為的な影響を受けていないブナ林が優占する世界自然遺産地域の白神山地・泊の平地区において、航空レーザ測量データと航空ハイパースペクトル測量データを組み合わせた地生態学図を作成したので、その結果を報告する。
2.2004年7月新潟豪雨と10月新潟県中越地震による斜面崩壊の判別分析
岩橋 純子(地理情報解析研究室)
2004年(平成16年)7月の新潟豪雨および10月の新潟県中越地震によって、傾斜5度以上の丘陵地・山地に相当する中新世~更新世堆積岩類の斜面で起きた崩壊について、25mグリッドのレベルで、傾斜、雨量、最大加速度、地質、曲率、地質構造、斜面方位のGISデータを用いて判別分析を行った。判別分析によって、各パラメータの崩壊に対する寄与を評価した。
日時: 平成19年7月6日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センターセミナー室(本館6階)
1.A data reduction-method for gravity field modelling
(重力場モデリングのためのデータ縮約法について)
Isabelle Panet(宇宙測地研究室)
重力場を宇宙から観測する衛星重力ミッションに伴い、今後高精度かつ高空間分解能の全球重力データが入手できるようになることが期待されている。例えば現在計画中のGOCEミッションでは、その空間分解能は110kmに達する。それら重力データを地表の重力データと結合するやり方のひとつとして、それぞれのデータを適切な関数表現(全球データ:球関数展開、ローカルデータ:ウェーブレット展開)で展開する手法が考えられる。ウェーブレット展開では、不均質な分布のデータや、異なった誤差特性をもつデータを扱うことができるため、ローカルな重力データを取り扱う際に有望な手段であると期待されている。関数展開にあたっては、データセットから最小自乗法により展開係数を推定する必要がある。しかし、大きなデータセットを扱う場合には、この計算にとても時間がかかることが問題となっている。本研究では、メモリーを節約しつつ高速に係数推定を行う手法を開発したのでその結果を報告する。また実際の応用例についてもいくつか紹介する。
2.米軍写真の高精度な標定手順と地形データ作成精度の評価
長谷川 裕之(地理情報解析研究室)
米軍写真を高精度に標定するための手法およびこの手法を用いて作成された地形モデルの精度について研究を行った。初めに、米軍写真の内部標定に必要な画郭位置・座標の決定手法について検討し、その決定精度について考察した。次に、米軍写真の高精度な外部標定に必要な基準についても検討を行い、複数コース同時標定を行った場合の標定精度、タイポイント、パスポイントの違いによる標定精度の違いなどについて評価し、その基準を明らかにした。最後に、米軍写真から作成した地形データとオルソ画像の精度評価を行った。この結果、いくつかの検証地点において標定精度から想定された値を大きく越える誤差が見られた。また、グリッドサイズによる地形改変データの表現の違いについても評価を行った結果、地形改変の適切な表現には5mグリッドが適当であることがわかった。
日時: 平成19年6月8日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センターセミナー室(本館6階)
【第1部】
これからの衛星測位。GPS近代化、グロナス、ガリレオ、そして準天頂衛星
土屋 淳 (元東京大学教授 日本測量協会顧問)
【第2部】
1.フィリピン・レイテ島における大規模山体崩壊の地形的特徴
-内閣府災害対策総合推進調整費による調査の報告-
小荒井 衛 (地理情報解析研究室長)
平成18年2月17日に発生したフィリピン国南レイテ州サンフェルナルド市における大規模地すべり災害に関連して、平成19年1月29日~2月3日、消防研究センター、国土技術政策総合研究所、国土地理院の3機関共同で現地調査を行った。また、Quick Birdパンシャープン単画像、ALOS PRISMステレオ画像を使って、今回の災害の地形的な特徴の把握を行った。 衛星画像の判読からは堆積域における流山地形の存在が確認できる。流山の断面では元の火山体構造が観察でき、ジグソーパズル構造が認められることから、大規模山体崩壊に伴う岩屑なだれ堆積物と判断される。今回の現地調査では道路交差点・橋梁等のGCP測量を行ったので、今後ALOS画像からオルソやDEMを作成し、流山地形を定量的に計測する予定である。
【第2部】
2.ハザードマップのための地形地理学的視点
熊木 洋太 (地理地殻活動研究センター長)
地形は、[1]地表面をすき間なく覆うとともに、そのすべてをほぼ等質に調査できる、[2]地形変化現象の初期条件を与える、また地盤条件を反映している、といった点で、自然災害ポテンシャルのマッピングに有効な情報を与える。このようにハザードマップという観点から地形を見る場合、物理(シャイデッガー「理論地形学」など)や歴史(貝塚爽平「発達史地形学」など)の視点に加え、現実の地形の位置・分布・配列といった空間構造に着目したgeographic geomorphology(Russell)または「地形地理学」(式 正英)の視点が欠かせない。このことを、地震、水害、土砂災害に関する講演者の業務経験に基づいて論じる。
日時: 平成19年3月2日(金) 13時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地図と測量の科学館オリエンテーションルーム
1.重力衛星GRACEデータからの地域的重力場決定の試み-その2
黒石 裕樹(宇宙測地研究室長)
最新の日本の重力ジオイド・モデルJGEOID2004に含まれる長波長誤差を低減し、日本の重力ジオイド・モデルの絶対精度を改良するため、重力衛星GRACEのデータから日本周辺の地域的長波長重力場を高精度決定する研究を行っている。本稿では、GRACEデータからの全球重力場の復元について、非保存力による擾乱を補正するための衛星搭載加速度計の補正手法、大気や海洋質量の短期的移動に対するエイリアシング補正モデルの効果や復元次数の設定などについて議論する。
2.重力衛星GRACEの活用法
宗包 浩志(宇宙測地研究室)
本発表では、重力衛星GRACEによる観測から推定される地球表層流体分布情報の活用法について報告する。まず、GPSデータから荷重変形法により地球重心運動を推定する際に、球面調和係数2次以上の荷重変形について、GRACEによる地球表層流体分布を用いて補正した結果、従来よりも正確な地球重心運動を推定することが可能となった事例を報告する。次に、衛星海面高度計と潮位計との比較を行う際、荷重変形による潮位計位置の変動について、GRACEによる地球表層流体分布を用いて補正した結果、両者の一致度が向上した事例を報告する。
日時: 平成19年2月2日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センターセミナー室(本館6階)
1.合成開口レーダーによる地殻変動観測
飛田 幹男(地殻変動研究室長)
干渉SAR技術を地殻変動観測に適用する際、コヒーレンス(干渉性)は重要な要素である。干渉画像のコヒーレンスが高いほど変位計測の精度が高く、コヒーレンスがない場所からは変位情報が得られないからである。干渉SARのコヒーレンスの高さを左右する要因として、後方散乱波のS/N比、位相傾斜、干渉画像ペアの時間間隔、misregistration等解析方法関連が考えられるが、今回は、主に最初の2つについて考える。その中で,地殻変動検出に関する干渉条件の考察から判明したALOS PALSARの優位性を紹介する。
2.ALOS PRISMの初期データの幾何学的性質
神谷 泉(地理情報解析研究室)
2006年1月、地図作成を主目的の一つとしたPRISMを搭載したALOSが打ち上げられた。これまで、PRISMの標定プログラムを作成し、航空機データに適用してきたが、今回、校正検証期間中のPRISMデータに適用した。提供されたパラメータのみを使用した場合、約700mの検証点残差があった。センサの取り付け角に誤差があると仮定し、117点の基準点を用いて調整したところ、基準点残差は2.9mとなった。この調整結果には、焦点面上でのCCDの配置位置の誤差が残っていた。この方法で調整するためには、シーンの東西に基準点が必要であり、安全のため、4点以上の基準点を取得する必要がある。
3.レーザ計測データによる土砂災害道路抽出の試み
長谷川 裕之(地理情報解析研究室)
レーザ計測により得られた高さデータ・反射強度データを利用して、地震による土砂災害を受けた道路の抽出を行った。被害道路の抽出は以下の手法で行った。はじめに、被害を受けなかった道路ピクセルにおける反射強度・傾斜および道路ピクセル間の高さ・反射強度の差分を求めた。そして、得られた統計量と地形図から取得した道路ポリゴンを用いて、連続した道路候補ピクセルを抽出した。この場合、道路ポリゴンのうち道路候補ピクセルとして抽出されなかった部分が被災した可能性のある道路となる。この手法では、道路が大規模に崩落した箇所や土砂崩れで覆われた箇所は大部分が抽出できた。しかし薄く土砂で覆われた箇所などは抽出できなかった。
日時: 平成19年1月12日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センターセミナー室(本館6階)