地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2003年)

干渉SAR世界火山めぐり
小澤 拓 (地殻変動研究室)

干渉SARは、面的に地殻変動を検出でき、高い空間分解能を必要とする火山の地殻変動監視に 期待されている。そこで、火山における干渉SARの適用について総合的に研究するために、日本だけでなく、海外の火山においても干渉SARの適用を試みている。その結果、インドネシアのタンボラ火山においてカルデラ底部が沈降する地殻変動、日本の霧島火山群では硫黄山を中心として沈降する地殻変動、ハワイのキラウエア火山ではダイク貫入に伴う地殻変動が検出された。

房総半島ゆっくり地震及び十勝沖地震の余効変動
小沢 慎三郎 (地殻変動研究室)

房総半島地域で6-7年ほどの間隔でゆっくり地震がおきることが指摘されている。本発表では、2002年の10月に起きた現象を詳細に解析してみた結果を報告する。また2003年十勝沖地震の後にゆっくりとした余効変動が発生しておりその解析結果に関しても報告する予定である。

ALOS画像を用いた道路の半自動抽出の試み
長谷川 裕之 (地理情報解析研究室)

最も基本的な地理情報のひとつである道路データについて、ALOSシミュレーション画像からの半自動抽出手法の開発を試みたのでこの結果について報告する。
来年度に打ち上げが予定されているALOS衛星は複数の光学センサーを搭載し、1/25,000レベルの理情報作成に役立つことが期待されている。しかしこの衛星により得られる画像数は膨大であり、人力による解析には限度がある。そこで様々な画像解析手法を組み合わせた半自動道路抽出を開発しALOS画像への適用を行った。現段階では道路以外の地物の誤抽出も多く、更なる手法の改良が必要である。

日時:  平成15年11月7日(金) 15時15分~17時
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

地下水で動く電子基準点1
宗包 浩志 (宇宙測地研究室)

国土地理院(つくば市北郷)構内の電子基準点は、1年周期でcmオーダーの上限変動をすることが知られている。その変動と、構内の地下水位の変化とが高い相関を持つことが分かった。本発表では相関解析の結果を紹介するとともに、簡単な物理モデルから両者の関係が説明できるか試みる。

地下水で動く電子基準点2
飛田 幹男 (宇宙測地研究室)

国土地理院(つくば市北郷)構内の電子基準点が、1年周期で上下に変動する原因は何だろうか? その動きが、地下水位の変化と密接に関連していることは、宗包の講演で述べられる。国土地理院周辺の地下水位変化をもたらす原因を探るため、つくば市の地下水の利用形態(用途、揚水時期、井戸の深さ)について調査したので、これまでにわかったことについて報告する。これにより、つくば市の特異性やVLBI点への影響についても考察する。

グローバルな土地被覆分類データの作成を目的とした分類項目の検討と分類手法に関する研究
佐藤 浩 (地理情報解析研究室)

これまでの先行研究で多くのグローバルな土地被覆分類項目が提案されてきたが、それらをレビューするとともに、FAO(国際連合食糧農業機関)のLCCS(土地被覆分類システム)を使って新たな分類項目を提案した。また、提案項目に基づき、SPOT / VEGETATIONデータのNDVI(正規化植生指標)の利用に加えて、近赤外バンドと短波長赤外バンドの反射率の違いに注目して、東南アジアの土地被覆を分類した。

日時:  平成15年9月5日(金) 13時15分~15時
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

北海道南西沖地震の余効変動の再検討
西村 卓也(地殻変動研究室)

1994 年10 月から始まった国土地理院のGPS 観測網によると,北海道北部に対する北海道南西部の西向きの変動が観測されている.また,上下変動では内浦湾を中心とする隆起が見られる.一方,小樽から寿都に至る水準路線では,北海道南西沖地震後の5 年間で約3cm の寿都側の隆起が観測されており,GPS の結果と調和的である.これらの地殻変動は,199 3年7月に発生した北海道南西沖地震の余効変動として解釈されており, そのメカニズムとして上部マントルの粘性緩和もしくは余効すべりが提唱されている.(例えば,西村, 2000; 伊藤, 2000; 福田・他, 2001; Ueda et al., 2002).Ueda et al.(20 02)は,余効変動のメカニズムとして地震の応力変化の粘性緩和を仮定し, 深さ40-85km に粘性率4×10^18Pasのマックスウエル粘弾性体を置くことによって, 観測された変動を説明できることを示した.本講演では,従来あまり注目されていなかった余効変動の時間変化と奥尻島内の水準測量の結果に注目して,余効変動のメカニズムの推定を行った結果について報告する.

島はこんなにずれていた
-離島における日本測地系実現の正確さの検証-
飛田 幹男(宇宙測地研究室)

 日本測地系(平成14 年に測量法の改正法が施行される前の日本の測地系)には,内部的に1mを超える座標値の不整合があることは知られていた。日本経緯度原点の座標値に誤差がないと仮定したとき,例えば,北海道で約9m,山陰地方で約5m,九州で約4mの誤差(以降‘ずれ’)がある(Tobita, 1994)。しかし,離島については,個別の把握のみで,その全体像については把握されていなかった。
 本論では,日本測地系(改正前)における日本経緯度原点の座標値は定義量であり,誤差がないものと仮定する。これ以外の場所に設置した国土地理院の基準点の座標値,及び,地図(以下,測量成果)がもつずれについて議論する。測地学的にさらに厳密な議論をする場合のために念のため述べるが,事実上定義量としたのは,日本経緯度原点ではなくその近傍(東南東77m)にある「東京大正一等三角点」の座標値である。
 離島の日本測地系(改正前)における国土地理院の測量成果がどの程度ずれていたかについて,約60の離島地域について計算したので報告する。

御前崎地域水準測量に見られる年周変化の区間別特性について
今給黎 哲郎(地殻変動研究室長)

掛川から御前崎にかけての路線、掛川の水準点140-1 から浜岡の水準点2595 の区間では、1981 年から国土地理院が年4回の水準測量を行っている。また、2595 から御前崎検潮所までの区間についても、81 年からは年2回、98 年からは年4回の観測が実施されている、これらの観測によりかなりの量ののデータが蓄積されている。また、この路線の途中に当たる短い区間では、静岡県が2週間に1度の高頻度で水準測量を繰り返し実施しており、1982年以来こちらも膨大なデータが蓄積されている。このいずれの観測でも、路線の南側(半島の先端側)が定常的に沈降するトレンドに年周的な変動が乗っていることが指摘されている。


日時:  平成15年 5月21日
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

非潮汐性海洋荷重による弾性変形について
宗包 浩志 (宇宙測地研究室)

近年GPSによる座標の決定精度が向上するにつれて、従来は無視されてきた誤差源がクローズアップされてきた。その中の一つに非潮汐性海洋荷重による変形が 挙げられる。Dong et al. (2002)によると、低緯度の島や海岸沿いでは2,3mm程度の鉛直座標の年周変化をつくり出すということであり、無視し得ない大きさとなる。
本発表では、まず非潮汐性海洋荷重による変形を推定する手法について解説する。さらに国土地理院南太平洋GPS観測網における応用例について紹介する。

PALSARデータの解析戦略
飛田 幹男 (宇宙測地研究室)

2004年夏期に打ち上げ予定のALOS衛星には、日本の国土に適合したLバンドSAR(合成開口レーダ)センサーPALSAR”が搭載される。PALSARデータを解析(高次処理)して得られる干渉画像は、JERS-1(1992-1998)のものよりも、数段優れたものとなることが予想される。干渉観測の時間分解能は向上し、地形変位測定精度は2~3mmに達する。しかし、一方、PALSARデータ解析には、高度なソフトウェア開発と解析戦略が必要となった。
本講演において、ALOSプロジェクトの概要、PALSARのJERS-1との相違点(性能、解析手法、成果)、PALSAR解析ソフトウェア、PALSARデータ解析戦略等について、報告する。

日時:平成15年3月7日(金) 15時15分~17時
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

全球情報の多重解像度表現
海津 優 (地理地殻活動研究センター)

全球情報を球関数で扱うと、高次における計算精度上の困難、局所的に高解像度な表現をつなぎこもうとすると、全球に影響が及ぶ等の問題がある。そこで、樋口らに従い球面を三角形要素に分割して取り扱うことを考える。対称性は完全ではないが、正多面体のうちでもっとも分割数の大きい、正20面体から出発して分割を進めることで、それなりに、1次元および平面の場合と類似した多重解像度表現が実現する。基本的枠組みを変えず、他の領域に影響を及ぼさずに解像度を局所的に調整できる記述方式として、興味深い。

糸魚川-静岡構造線断層帯周辺の地殻変動
鷺谷 威 (地殻変動研究室)

糸魚川-静岡構造線断層帯は日本で最も活動度の高い活断層帯の一つと考えられており、歴史時代に大地震が発生した痕跡が殆ど無いことから、近い将来大規模な地震が発生するのではないかと懸念されている。科学技術振興調整費による「陸域震源断層の深部すべり過程のモデル化に関する総合研究」の一環として行われたGPS観測により、長野県大町市付近で西北西-東南東方向の圧縮歪みが幅30km程の狭い地域に集中していること、松本市付近では比較的小さい歪みが比較的広範囲に及んでいることなどが明らかになった。こうした結果に基づいて、糸魚川-静岡構造線断層帯中北部で進行しつつある地殻の変形過程や大地震発生の可能性について考察する。

日時:平成15年2月7日(金) 15時15分~17時
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

水準測量における季節変動に関する考察
今給黎 哲郎 (地殻変動研究室)

掛川の水準点140-1から浜岡の水準点2595の区間では、1981年から国土地理院が年4回の水準測量を行っており、かなり量のデータが蓄積されている。観測データを集計した結果では、半島の先端側が定常的に沈降するトレンドに年周的な変動が乗っていることが確認されている。現在、区間別の測量結果から、年周変動が明瞭な区間と明瞭でない区間があることが確認出来た。標高差、気温等と年周変動成分の関連性の調査結果について報告する。

余効変動から推定した地殻・上部マントルの粘性構造
西村 卓也 (地殻変動研究室)

従来、地殻変動の理論的計算には、地球を半無限弾性体と仮定することが一般的であった。しかし、GPSを始めとする測地技術の高精度化に伴って、下部地殻や上部マントルの粘弾性的性質は無視できない要素となってきている。本研究は、米国Basin&Range北端部で発生した1959年Hebgen Lake地震と1993年北海道南西沖地震の余効変動の解析から地下の粘性構造を推定したものである。その結果、両地域の共通的な特徴として、下部地殻を含めた地殻全体は弾性体であり、その下の上部マントルの粘性率は10^18 Pa・sのオーダーであることが明らかになった。講演では、両地震の解析結果を、他の粘性構造の推定研究のレビューも交えながら紹介する。
日時: 平成15年1月10日(金) 15時15分~17時
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)