沿岸海域基礎調査報告書(行橋地区)

I.調査の概要

I-1.調査地域

1)調査範囲及び位置

 本調査の範囲は、調査位置図(図-1)に示した範囲で国土地理院発行の1:25,000地形図「苅田」・「神ノ島」・「行橋」・「蓑島」・「椎田」・「豊前本庄」の図葉中に含まれる。

 総面積は428km2であり、海域が204km2、陸域が224km2である。

 行政区としては、福岡県の行橋市・北九州市及び京都(みやこ)郡苅田町・犀川町・勝山町・豊津町・築上郡築城(ついき)町・椎田町・田川郡香春(かわら)町の2市7町にわたる。

 

2)調査地域概要

 本調査区域は、瀬戸内海に面する九州北東岸に位置している。

 区域最北部の北九州市小倉南区は、戦後大型団地の開発をはじめ住宅地としての都市基盤が整備され、近年は新興住宅地として発展している。

 区域北部の苅田町には、重要港湾の苅田港がある。本港は昭和14年に築豊炭の積出港として国の手によって修築に着手し、19年に岸壁及び積出し桟橋の一部が竣工し運用が開始された。第二次大戦後は一時閉鎖状態となっていたが鉄とともに石炭が戦後復興の重点産業とされ、26年には重要港湾、準特定重要港湾に指定され、同年福岡県が港湾管理者となった。昭和30年には九州電力(株)苅田発電所が進出し、セメント関連企業、木材関連企業の進出、操業が相次ぎ、49年には日産自動車(株)九州工場が進出し、この地区の工業の中心となっている。取扱主要貨物は、輸送機械、石炭、セメント等であり、平成13年の年間貨物取扱量は3,053万トンである。現在、苅田港沖には新北九州空港が平成17年開港予定で建設中であり、併せて東九州自動車道苅田ICの整備も進められており、今後九州の新しい玄関口として期待されている。

 調査地域の中心である福岡県行橋市は京都平野の中央に位置し、農業は豊富な水量をもとに稲作を中心とする。また、温暖な気候を生かして各種野菜やいちじく、ぶどう、なし、もも等果物の栽培も盛んに行われている。

  漁業は、浅海に生息する魚介類を対象に小型底引き網、小型定置網、刺網、採貝の4つの漁業種が中心であり、のり養殖やかき養殖も行われている。豊前海の沿岸は発達した干潟と砂泥質の海底を持つ浅海域であるため、魚介類の幼稚魚期の重要な生息場となっている。この特性を活かしクルマエビ等の種苗放流に早くから取り組んでおり、全国に先駆け栽培漁業を実施した発祥の地でもある。

 観光は、筑豊県立自然公園があり、特に平尾台は昭和47年に北九州国定公園に指定され、観光客が四季を通じ訪れている。平尾台は標高400~600m、南北11km、東西2kmにわたる広がりをもつカルスト台地であり、地上には石灰岩が散在し、地下には多くの鍾乳洞があり、中でも千仏鍾乳洞は国指定天然記念物である。

 調査地域全体に、多くの遺跡が認められ、縄文時代、弥生時代、古墳時代と多くの年代にわたっている。区域南部の豊津町には、奈良時代に国府が置かれ、豊前国分寺が建立されており、古代豊前の国の中心であった。

 

I-2.調査方法

 この沿岸海域基礎調査は、図-2に示す作業工程に基づいて、平成14年度に実施したものである。
 

1)資料収集

 本調査において1:25,000沿岸海域地形図、1:25,000沿岸海域土地条件図及び報告書を作成するために必要な資料・文献等を関係機関から収集した。

 

2)沿岸部土地条件調査

 本調査は、沿岸陸域の地形・地質状況及び各種機関・施設等を調査し、1:25,000地形図「神ノ島」・「苅田」・「蓑島」・「行橋」・「椎田」・「豊前本庄」の各図葉を基図にして土地条件図原稿図の陸域の部分を作成する作業である。

 地形分類は、空中写真の地形判読によって作成した予察図をもとに、現地調査を行って確認した。また、収集した資料による各種機関、施設等の位置についても、現地確認もしくは空中写真判読による確認を行った。

 

3)海岸基準点測量及び船位測定

 海域の調査に伴う船位測定に必要な基準点を沿岸に配置するため、海岸基準点測量を実施した。

 新設する海岸基準点は、調査海域の視通が良く、且つ機器の設置に容易な場所を選定した。測量は国家三角点を用い、GPS測量(スタティック法)により実施した。

 船位測定には、DGPSの測位システムを用いた。補正データは、無線電波の到達距離限界のため海岸基準点より携帯電話を使用して転送した。なお、沖合部では携帯電話の受信が不調だったので、海上保安庁灯台部の中波ビーコン補正データを使用した。中波ビーコン補正データ使用にあたり、海岸基準点において観測し精度確認を行った。

 図-3に海岸基準点配置図を、表-1に海岸基準点成果表を示す。

 

4)潮位観測

 潮位観測は、音響測深データの潮位補正を目的に簡易験潮所を設置し、海域調査の全期間について実施した。

 簡易験潮所は、調査地域の中央よりやや南に位置する稲童漁港内の波浪の影響が少ない岸壁に設置した(図-4)。験潮儀はフロート式のフース型自記験潮器を用いた(験潮儀見取図)

 また、本調査は基準面をT.P.(東京湾平均海面)とするため、行橋市大字道場寺字一丁目田原に位置する一等水準点から簡易検潮所まで直接水準測定を行った(図-5.簡易験潮所設置諸元(潮位関係図))

 

5)海底地形調査

 この調査は、沿岸海域地形図のうち海底地形図を作成するためのものである。

 測線計画は、海図や既往調査による水深データを参考に、本調査海域の海底地形を十分に把握できるように立案した。音響測深作業は、この計画測線に基づいて実施した(図-6)

 音響測深は、1素子の音響測深機(PDR120型)を使用し、アナログ記録を取得した。

 測定した水深データの整理・解析は、以下の手順で行った。

  1. 取得した測深記録紙を複写し、複写記録上にて喫水補正、潮位観測に基づく潮位補正を行った。
  2. これをデジタイザで読み取り、バーチェック作業にて取得した音速度補正を加味し水深値とした。
  3. これと船位測定データを使用して平面図上に展開し、水深読取図とした。
  4. 水深読取図に基づいて、空中写真や海図等の資料も参考にして、1m間隔の等深線と補助として0.5mの等深線表現により海底地形図を作成した。
 

6)底質調査

 底質調査にあたっては、調査海域内において約2km2につき1点の割合で採取地点を計画した。採泥にはグラブ採泥器(スミス・マッキンタイヤー型)を用いて、計105地点の底質採取を行った。

 採取した試料は、調査船上にて指触法による色調、土性、臭気、含有物等の観察を行い、底質調査簿に記載するとともに写真撮影を行った。採取した試料はJIS A 1240に基づいて粒度分析を行い、粒径加積曲線から中央粒径値を求め、Wentworth(1922)の粒径区分によって底質区分を行った。混合底質名は、礫・砂・泥の各成分の含有率を三角ダイヤグラム上にプロットして、底質名を決定した。

 

7)海底土地条件調査

 海底土地条件調査は、沿岸海域土地条件図のうち、海底土地条件図を作成するためのものである。

 音波探査は、磁歪振動式地層探査装置(SP-3W型)及び放電式音波探査装置(NE-19C型)を用いて、海底地形調査と同時に行った。海底地形調査結果、底質調査結果、既往ボーリング調査資料、周辺海域及び陸域の地質等を参考に、調査地域における海底下の地質状況及び地質構造の解析を行った。

 

8)使用機器

 本調査で使用した主要機器を表-2に示す。

 
表-2.主要機器一覧
作業工程別 名称 数量 備考
音響測深・音波探査(船位測定) DGPSシステム:MBX-3 2 製造元:CSI社
測位精度:±1.5m
DGPS受信機:MS-750 1 製造元:トリンブル社
測定間隔:1回/0.5秒
DGPS受信機:Z-12 1 製造元:アシュテック社
測定間隔:1回/0.5秒
音響測深 音響測深機・精密音響測深機:PDR-120型 1 製造元:千本電気(株)
周波数:200kHz±5%
指向角:6º(全角)
測深精度:±(0.03+水深×1/1000)m
音波探査 スパーカー:放電式音波探査装置:NE-19C型 製造元:日本電気(株)
測定深度:海底下200m程度
発振方式:水中放電方式
発振エネルギー:100~1000ジュール
音波周波数:100~1000Hz
(卓越周波数230Hz)
分解能:1~2m
ソノプローブ:磁歪振動式地層探査機:SP-IIIW型 1 製造元:(株)カイジョー
発振方式:磁歪振動式
周波数:2~8kHz(卓越3kHz程度)
探査出力:36ジュール
探査能力:海底下50m程度
分解能:0.2~0.5m
底質調査 採泥器:スミス・マッキンタイアー 1 製造元:離合社
 

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