GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究
GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究(6/7)
内容
5.1 概要
GISの基盤となる地図データの整備に有効な要素技術のひとつに、近年、航空機搭載型のレーザスキャナを利用した測量が注目を浴びている。
航空レーザ測量による詳細な3次元地形情報の取得は、GIS基盤データの整備・更新に大いに役立つという観点から、成果の精度検証や建設行政で利用するための具体的な方法について、実例を挙げながら実証実験を通して示した。
5.2 キャリブレーションサイトの構築
航空レーザ測量による成果を利用するにあたっては、得られた成果の精度や品質を明らかにすることが必要不可欠である。しかし現在のところ、様々な試みはなされてはいるが、明確な手法が確立されているわけではない。
しかし、一般の計測機器と同じように、あらかじめ計測された誤差データを使ったキャリブレーションを行うことにより系統的な誤差を消去し、より高品質の計測データを得ることは可能である。
このため、航空レーザ測量用機器の誤差の消去に必要なデータを取得するためのキャリブレーションサイトを茨城県つくば市にある国土交通省国土技術政策総合研究所及び独立行政法人土木研究所(以下「国総研」という。)構内と財団法人シップアンドオーシャン財団(以下「SOF」という。)構内に構築した(図-11)。
図-11 キャリブレーションサイト
キャリブレーションサイトの構築にあたっては、「輪郭決定法」及び「等高線決定法」の二つの方法によるキャリブレーションデータが得られることを考慮した。「輪郭決定法」とは、大型建築物の輪郭(四隅の座標)座標とレーザ計測で得られた座標の差から誤差を求める方法である。
この方法はヘリコプターなど比較的低速で飛行高度が低い場合には有効であるが、飛行高度が高く高速で移動する飛行機の場合、得られる計測点密度がまばらになり、建物の輪郭をヒットする確率が低くなるため、計測データとの誤差が大きくなり、キャリブレーションサイトとしては不適切となる。
このため、フラットで大きな斜面を計測して得られた等高線から補正データを得る「等高線決定法」のサイトも併せて構築した(図-12)。
「輪郭決定法」用として、国総研構内の屋根が平坦な建物を、「等高線決定法」としてSOF構内の切妻屋根の建物を選定し、それぞれの建物を構成する頂点の3次元座標を計測し、合計10点を基準点として構築した。また、国総研内のテニスコート及び構内の直線道路に、合計15点の補助基準点を構築した。
図-12 キャリブレーションサイトに利用する
建物の形状(左「輪郭決定法」、右「等高線決定法」)
5.3 ガイドラインの作成
航空機搭載型レーザスキャナのプラットフォーム(飛行機やヘリコプター)の位置や姿勢に対する補正はGPSやIMU等の誤差に起因するのでここでは取り扱わない。
今回構築したキャリブレーションサイトは、機器の微妙な傾き、すなわち機器が持っている3軸(κ、φ、ω)の系統的な誤差を消去するためのものである。
写真測量の標定要素の3軸の方向を示すのと同じように、機首が上下に振れる揺れ(ピッチング)の傾きをφ、機首が左右に振れる揺れ(ヘディングまたはヨーイング)の傾きをκ、機体が左右に揺れる(ローリング)方向の傾きをωとし、その誤差を補正することとした。
そのほかに、飛行方向と垂直に交わる方向、すなわちスキャン方向に発生する横縮尺の誤差bxの補正も行うこととした(図-13)。
なお、キャリブレーションサイトの利用手順や方法を示した「キャリブレーションサイト利用のためのガイドライン」を作成した。
図-13 レーザスキャナのキャリブレーションの各要素
5.4 3次元データの作成と精度検証
平成13年11月、岐阜県大垣市の市街地を対象に航空レーザ測量による計測と精度検証を行った。計測方向は南北方向、計測範囲は大垣城跡周辺、約1.5km2の範囲(図-14)である。
計測した結果は、事前につくばのキャリブレーションサイトを計測して得られたパラメータを用いて補正を行った。
図-14 航空レーザ測量計測範囲(大垣市街)
精度検証の方法について、水平位置は、航空写真測量で得られたデジタルマッピングデータ(DMデータ)の建物データの外形と今回計測したレーザ測量データから算出された家屋の外形とを比較した。
高さ方向については、大垣市下水道台帳に記載されている直接水準測量による標高と今回計測したレーザ測量データから得られた標高を比較した(図-15、表-7、表8)。
この結果、水平位置精度については、DMデータとほぼ同じ家屋形状を得られたが、レーザデータの間隔が平均で50cmだったこともあり、微細な形状の再現はできていなかった。
また、レーザ測量のDMデータに対するずれが常に東側方向であった。これは航空機に搭載したGPS/IMUの位置精度による誤差が現れたものではないかと推測される。
また、高さ方向の精度については、概ね20cm前後の誤差であり、製品仕様の誤差とほぼ同レベルの誤差であったが、キャリブレーションを行ったにも関わらず、誤差が小さくならなかったのは、これもGPS/IMUの誤差に起因するものと思われる。
図-15 DMデータとレーザ測量の比較(大垣市街)
5.5 3次元モデルの作成
今回計測した航空機搭載型レーザスキャナの標高データ(3次元データ)を表示したのが図-16である。これらの成果とDMデータを組み合わせて、大垣市街の3次元空間モデルを作成した(図-17)。
このように、航空レーザ測量は、標高データの迅速な作成と3次元空間モデルの効率的な構築に非常に有効な技術であるといえる。
図-16 航空レーザ測量結果の表示(大垣市街)
図-17 3次元モデルの生成(大垣市街)
5.6 河川氾濫シミュレーション
大垣市は岐阜県西部に位置し、揖斐川が市の東側を流れ、市内には多くの中小河川・水路が張り巡らされた海抜3~4mの低地となっており、たびたびの水害に悩まされてきている。
従って、水害に対する対策が行政の大きな役割のひとつとなっている。このため、実際の行政への適用を想定し、航空レーザ測量で得られたデータの利用例を示すということで、航空レーザ測量による3次元データの成果から、市街地における洪水状況を視覚化するシミュレーションを行った(図-18)。
洪水の水位を任意に設定することで、氾濫域や氾濫状況を推測することができ、水防計画や災害時の避難勧告等、防災関連の行政に役立つと言える。
また、任意の視点からの鳥瞰により、より現実的なイメージで洪水の状況を捉えることができるので、より綿密な防災計画や災害対応の立案等、防災行政の高度化に寄与するものと期待できる。
図-18 河川氾濫シミュレーション(大垣市街)
GISの基盤となる地図データの整備に有効な要素技術のひとつに、近年、航空機搭載型のレーザスキャナを利用した測量が注目を浴びている。
航空レーザ測量による詳細な3次元地形情報の取得は、GIS基盤データの整備・更新に大いに役立つという観点から、成果の精度検証や建設行政で利用するための具体的な方法について、実例を挙げながら実証実験を通して示した。
5.2 キャリブレーションサイトの構築
航空レーザ測量による成果を利用するにあたっては、得られた成果の精度や品質を明らかにすることが必要不可欠である。しかし現在のところ、様々な試みはなされてはいるが、明確な手法が確立されているわけではない。
しかし、一般の計測機器と同じように、あらかじめ計測された誤差データを使ったキャリブレーションを行うことにより系統的な誤差を消去し、より高品質の計測データを得ることは可能である。
このため、航空レーザ測量用機器の誤差の消去に必要なデータを取得するためのキャリブレーションサイトを茨城県つくば市にある国土交通省国土技術政策総合研究所及び独立行政法人土木研究所(以下「国総研」という。)構内と財団法人シップアンドオーシャン財団(以下「SOF」という。)構内に構築した(図-11)。
図-11 キャリブレーションサイト
キャリブレーションサイトの構築にあたっては、「輪郭決定法」及び「等高線決定法」の二つの方法によるキャリブレーションデータが得られることを考慮した。「輪郭決定法」とは、大型建築物の輪郭(四隅の座標)座標とレーザ計測で得られた座標の差から誤差を求める方法である。
この方法はヘリコプターなど比較的低速で飛行高度が低い場合には有効であるが、飛行高度が高く高速で移動する飛行機の場合、得られる計測点密度がまばらになり、建物の輪郭をヒットする確率が低くなるため、計測データとの誤差が大きくなり、キャリブレーションサイトとしては不適切となる。
このため、フラットで大きな斜面を計測して得られた等高線から補正データを得る「等高線決定法」のサイトも併せて構築した(図-12)。
「輪郭決定法」用として、国総研構内の屋根が平坦な建物を、「等高線決定法」としてSOF構内の切妻屋根の建物を選定し、それぞれの建物を構成する頂点の3次元座標を計測し、合計10点を基準点として構築した。また、国総研内のテニスコート及び構内の直線道路に、合計15点の補助基準点を構築した。
図-12 キャリブレーションサイトに利用する
建物の形状(左「輪郭決定法」、右「等高線決定法」)
5.3 ガイドラインの作成
航空機搭載型レーザスキャナのプラットフォーム(飛行機やヘリコプター)の位置や姿勢に対する補正はGPSやIMU等の誤差に起因するのでここでは取り扱わない。
今回構築したキャリブレーションサイトは、機器の微妙な傾き、すなわち機器が持っている3軸(κ、φ、ω)の系統的な誤差を消去するためのものである。
写真測量の標定要素の3軸の方向を示すのと同じように、機首が上下に振れる揺れ(ピッチング)の傾きをφ、機首が左右に振れる揺れ(ヘディングまたはヨーイング)の傾きをκ、機体が左右に揺れる(ローリング)方向の傾きをωとし、その誤差を補正することとした。
そのほかに、飛行方向と垂直に交わる方向、すなわちスキャン方向に発生する横縮尺の誤差bxの補正も行うこととした(図-13)。
なお、キャリブレーションサイトの利用手順や方法を示した「キャリブレーションサイト利用のためのガイドライン」を作成した。
図-13 レーザスキャナのキャリブレーションの各要素
5.4 3次元データの作成と精度検証
平成13年11月、岐阜県大垣市の市街地を対象に航空レーザ測量による計測と精度検証を行った。計測方向は南北方向、計測範囲は大垣城跡周辺、約1.5km2の範囲(図-14)である。
計測した結果は、事前につくばのキャリブレーションサイトを計測して得られたパラメータを用いて補正を行った。
図-14 航空レーザ測量計測範囲(大垣市街)
精度検証の方法について、水平位置は、航空写真測量で得られたデジタルマッピングデータ(DMデータ)の建物データの外形と今回計測したレーザ測量データから算出された家屋の外形とを比較した。
高さ方向については、大垣市下水道台帳に記載されている直接水準測量による標高と今回計測したレーザ測量データから得られた標高を比較した(図-15、表-7、表8)。
この結果、水平位置精度については、DMデータとほぼ同じ家屋形状を得られたが、レーザデータの間隔が平均で50cmだったこともあり、微細な形状の再現はできていなかった。
また、レーザ測量のDMデータに対するずれが常に東側方向であった。これは航空機に搭載したGPS/IMUの位置精度による誤差が現れたものではないかと推測される。
また、高さ方向の精度については、概ね20cm前後の誤差であり、製品仕様の誤差とほぼ同レベルの誤差であったが、キャリブレーションを行ったにも関わらず、誤差が小さくならなかったのは、これもGPS/IMUの誤差に起因するものと思われる。
図-15 DMデータとレーザ測量の比較(大垣市街)
No.5 | No.6 | No.7 | ||||
X(m) | Y(m) | X(m) | Y(m) | X(m) | Y(m) | |
DM | -49933.50 | -70910.28 | -49929.68 | -71145.68 | -49751.88 | -71178.22 |
レーザ | -49933.05 | -70909.76 | -49929.45 | -71145.07 | -49751.43 | -71177.71 |
較差 | 0.45 | 0.52 | 0.23 | 0.61 | 0.45 | 0.51 |
大きさ | 0.69 | 0.65 | 0.68 |
No.1 | No.2 | No.3 | No.4 | No.5 | |
データ数(点) | 25 | 29 | 29 | 32 | 29 |
最大値(m) | 6.31 | 6.23 | 5.86 | 5.85 | 5.82 |
最小値(m) | 6.08 | 6.09 | 5.66 | 5.61 | 5.60 |
平均(m) | 6.18 | 6.16 | 5.77 | 5.72 | 5.69 |
水準・標高(m) | 6.019 | 5.720 | 5.394 | 5.523 | 5.530 |
較差(m) | 0.16 | 0.44 | 0.37 | 0.20 | 0.16 |
5.5 3次元モデルの作成
今回計測した航空機搭載型レーザスキャナの標高データ(3次元データ)を表示したのが図-16である。これらの成果とDMデータを組み合わせて、大垣市街の3次元空間モデルを作成した(図-17)。
このように、航空レーザ測量は、標高データの迅速な作成と3次元空間モデルの効率的な構築に非常に有効な技術であるといえる。
図-16 航空レーザ測量結果の表示(大垣市街)
図-17 3次元モデルの生成(大垣市街)
5.6 河川氾濫シミュレーション
大垣市は岐阜県西部に位置し、揖斐川が市の東側を流れ、市内には多くの中小河川・水路が張り巡らされた海抜3~4mの低地となっており、たびたびの水害に悩まされてきている。
従って、水害に対する対策が行政の大きな役割のひとつとなっている。このため、実際の行政への適用を想定し、航空レーザ測量で得られたデータの利用例を示すということで、航空レーザ測量による3次元データの成果から、市街地における洪水状況を視覚化するシミュレーションを行った(図-18)。
洪水の水位を任意に設定することで、氾濫域や氾濫状況を推測することができ、水防計画や災害時の避難勧告等、防災関連の行政に役立つと言える。
また、任意の視点からの鳥瞰により、より現実的なイメージで洪水の状況を捉えることができるので、より綿密な防災計画や災害対応の立案等、防災行政の高度化に寄与するものと期待できる。
図-18 河川氾濫シミュレーション(大垣市街)