最終更新日:2022年3月24日

高精度衛星測位の適用範囲拡大のための技術(マルチパスの影響を軽減する手法)の適用指針・検証、及び開発プログラム

1.マルチパス軽減手法の開発と課題

国土地理院は、高精度測位社会の実現を目指し、また測量分野における建設生産システムの向上に関わる課題解決の一つとして、高精度衛星測位の適用範囲を拡大するための技術開発を行っています。

マルチパス軽減手法の適用指針

GPSや準天頂衛星システム「みちびき」等のGNSS を用いて高精度な測位を行う場合、上空を遮る建物や周辺の障害物等により反射・回折した品質の悪い信号(マルチパス)の影響を受け、測位精度が劣化する場合があります。

このため国土地理院では、上空視界が開けておらず高精度衛星測位が困難な地域において、その適用範囲を拡大することを目的に、上空視界情報の利用及び測位信号の品質検定等、ソフトウェア的な対策により、マルチパスの影響を軽減する手法の開発・検証を行ってきました。H27年度から29年度に行われた総合技術開発プロジェクト(以下「3次元総プロ」という。)により、3つのマルチパス軽減手法(3次元建物法、上空写真法、ドップラー検定法)を選定し、アルゴリズムの開発と検証を行い、それぞれの軽減手法適用のための効果的な適用条件とその組み合わせとしての適用指針を提案しました。
図:マルチパス軽減手法の適用指針

マルチパス軽減手法の適用指針


マルチパス軽減手法の課題

3次元総プロにおいては、それぞれのマルチパスの軽減手法を実際の測位の場面で適用する場合、以下のような課題があることも明らかにしました。

3次元建物法
  • 周辺建物の3次元建物情報があることが前提
  • 概算位置の推定に関する計算コスト大のため、スマートフォン等のユーザー端末では利用が困難
  • マスク仰角のずれが15°以内のマスクファイルを効率的に作成する手法が必要
上空写真法
  • 移動体測位には不向き・夜間等利用が困難
  • 測位以外のデータを取得・処理する必要性あり
  • マスク仰角のずれが15°以内のマスクファイルを効率的に作成する手法が必要
ドップラー検定法
  • 2周波が必要なため、ユーザーの測位端末は限られる
  • データの取捨選択の閾値の調整問題

2.電子基準点へのマルチパス軽減手法の適用と検証

3次元総プロにおいては、各手法を実際の測位の場面で適用する際の課題も挙げられており、各手法を測位等に適用しての更なる検証等が必要とされました。

国土地理院では、3次元総プロで開発されたマルチパスの軽減手法を電子基準点等に適用し、信頼性の高い衛星測位サービスを安定的に享受できる環境を維持するための取組を、R2年度の測量の生産性を向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクトにおいて試行的に導入し、検証しました。

電子基準点が設置されている環境は、一般的に周辺に建物等は多くなく上空視界はある程度確保されているものの、周辺樹木等が存在します。それら周辺樹木等の生長等により、年を経るに従い受信環境が変化し、マルチパス等の影響が大きくなる場合があります(樹木の繁茂が座標変化に影響した事例)。

電子基準点の周辺状況の写真から、衛星測位の精度に影響を与えるマルチパス等を発生しうる樹木や構造物等の位置を方位角・仰角で示した仰角マスクファイルを効率的に作成するため、3次元総プロで開発された、3次元建物情報を必要としない仰角マスクを効率的に作成する技術を試行するとともに、上空写真法やドップラー検定法を電子基準点に適用してマルチパス軽減の効果を検証しました。

マルチパス軽減手法の検証結果

図:周辺状況の写真と観測データから効率的に仰角マスクを作成する技術2

周辺状況の写真と観測データから効率的に仰角マスクを作成する技術2



検証の結果、周辺状況の写真等から仰角マスクを作成し、これを用いたマルチパス軽減手法は、電子基準点に対して効果があることが確認されました。

3.高精度測位の適用範囲拡大のための技術開発において開発したプログラム

高精度測位の適用範囲拡大のために開発した、マルチパスの影響を軽減する手法に関連するプログラム群をダウンロードいただけます(順次公開予定)。
  • 上空写真から仰角マスク情報を作成し、観測データを編集するソフト GSILIB(photomask)

4.関連リンク

民間活力を活用した技術開発
測量の生産性を向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト
総合技術開発プロジェクト
屋外3次元空間における高精度衛星測位の適用範囲拡大のための技術開発
マルチGNSS解析ソフトウェア「GSILIB」の公開