測地測量が捉えた兵庫県南部地震に伴う地殻変動

測地測量が捉えた兵庫県南部地震に伴う地殻変動
Crustal Movements from the 1995 Hyogoken-Nanbu Earthquake Revealed by Geodetic Measurements

測地部   石原正男・阿部義昭・辻 宏道・畑中雄樹・斎田 諒
Geodetic Department Masao ISHIHARA,Yoshiaki ABE, Hiromichi TSUJI,Yuki HATANAKA,Ryou SAIDA
地殻調査部   吉村愛一郎・鷺谷 威
Crustal Dynamics Department Aiichiro YOSHIMURA,Takeshi SAGIYA


本文[PDF:1,027KB]

要旨

 1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震(M7.2)に伴う地殻変動を,GPS連続観測,三角点におけるGPS 測量,水準測量などの測地学的手法を駆使して求めた。本稿はこれらの結果の速報である。

目  次

主な図、写真

1.はじめに
2.全国GPS連続観測が捉えた広域地殻変動
  2.1 近畿地方のコサイスミックな地殻変動
  2.2 キネマティック法による解析結果
3.GPS機動連続観測が捉えた余効変動
4.高度基準点測量が捉えた被災地近傍の水平変動
5.水準測量が捉えた被災地近傍の上下変動
6.おわりに謝辞参考文献
 

1.はじめに

 1995年1月17日の兵庫県南部地震は5,000人を超える犠牲者を出し,更に日本の経済,社会活動における大動脈を寸断した未曾有の不幸な災害であった。われわれは,この不幸を心より悼む。この間の国土地理院の測地学的手法による地殻変動の観測,解析結果について十分に考察し,至らなかった点については十分反省し,今後より緻密な業務,研究を推し進めていくことが,ささやかであるが犠牲者に対するせめてもの供養と考える。
 測地学的手法による地殻変動の観測は全国にわたる広域を網羅したものである。地殻変動の観測には,広域的な変動を捉えるのに適している測地測量による方法と,局所的な変動を捉えるのに適している傾斜計,伸縮計,歪み計などによる方法がある。後者は連続的なデータが取得でき感度も高いのに対し,測地測量による方法は網羅的ではあるが観測が不連続で,地殻変動を捉える感度もやや劣るものとされる。したがって,両者を相補的に解釈することによって地震(あるいは火山)現象の全体像に迫ることができる。近年, GPS技術などのめざましい発展により,測地測量の側から両者の間のギャップが埋められつつあるが,様々なデータを総合的に判断することの重要性はいささかも変わることはない。
  兵庫県南部地震においては,残念ながら,震源地のごく近傍には観測点が存在しなかったこともあり,明瞭な形での前兆的な地殻変動は捉えることができなかった。しかし,GPS連続観測が捉えた地震前後の地殻変動,高度基準点測量および水準測量が捉えたコサイスミックな地殻変動は今回の地震発生のメカニズムの解明に貴重な知見をもたらした。すなわち,これらの測地測量により,今回の地震は既に存在していた活断層が右横ずれに運動したことが明らかとなり,これまでの測地測量から既に明らかになっていたこの地域の東西圧縮力と調和的であることが眼に見える形で表現されたのである。
  本稿は震災前後の限られた期間に実施された測地測量による地殻変動の観測結果について述べるもので,速報的性格を持つ。今後予定されている,より広範囲でより密度の高い測量から,更に新しい知見が得られる可能性もあり,それらについては稿を改めて述べることにしたい

2.全国GPS連続観測が捉えた広域地殻変動

 国土地理院では,日本列島で進みつつある地殻変動を三次元で監視する新しい測地網として,1993年度からGPS連続観測システムの整備を開始した。先行した南関東・東海地域のGPS連続観測網(岩田,1994)に加えて,1994年度には南関東・東海地域以外の全国を100点の観測点でカバーする全国GPS連続観測システム(飯村ほか,1995)が新設され,日本列島は総数210におよぶGPS連続観測局で覆われるようになった。全国 GPS連続観測システムでは,ほぼ120kmおきにGPSアンテナが高さ5mのステンレス製ピラーの上に設置され,ピラーの内部には受信機(Topcon社のGP-R1DY。Ashtech社のZ-12と同等品。)やモデム,バッテリーなどが収納されている。30秒間隔でサンプリングされた1日24時間分の観測データは,ISDNのデジタル回線などを通して国土地理院へ毎日転送される。
 全国GPS連続観測システムは1994年10月1日から正式に運用を開始したが,奇しくも10月4日には北海道東方沖地震(M8.1),同年12月28日には三陸はるか沖地震(M7.5),そして1995年1月17日には本稿の主題である兵庫県南部地震(M7.2)が発生し,稼働後わずか4ヶ月でマグニチュード7を超える三つの大地震の洗礼を受けることになった。GPS連続観測から得られたコサイスミックな地殻変動は,いずれも地震後数日で地震予知連絡会や一般に公表され,GPS連続観測の即応性を明らかにしている。


 2.1 近畿地方のコサイスミックな地殻変動
  兵庫県南部地震に伴う地殻の広域変動を調べるため,近畿地方周辺の18のGPS観測局で得られた1994年10月1日から1995年2月7日までの4ヶ月分のデータを処理して,観測局の測地座標の時系列を得た。解析ソフトウェアにはマサチューセッツ工科大学およびスクリプス海洋研究所で開発されたGAMIT(Gps software at MIT)のリリース9.21を用い,30秒間隔で取得した24時間分のデータをスタティック法で解析して,GPS観測局の測地座標を1日毎に求めた。衛星軌道情報には,国際GPS地球力学事業(IGS)が作成した精密暦を使用した。地球回転パラメータは,国際地球回転事業(IERS)のBulletin B(速報値)を用いている。対流圏遅 延量は,各局において3時間ごとに傾きを変える折れ線モデルで推定した。測地座標の精度は,水平成分で5~10mm,上下成分で10~20mmに達している。
 図-1(30k)は,震源に近い三つの観測局における4ヶ月間の時系列である。震源から約150km離れた鳥取県東伯町を固定した場合の,各観測局の座標変化を示した。1月17日の本震に伴って水平成分にステップ状の明瞭な変動が見られる。これらの時系列からコサイスミックな変動量を推定するため,地震前後で座標変化率(速度)は変わらなかったと仮定して,地震前後のステップ量を最小二乗法で推定した。
  表-1(106k)にこうして求めた各観測局の水平変動量を示す。上下成分については誤差が大きいため,ここでは取り上げない。図-2(10k)表-1(106k)をグラフにしたものである。兵庫県御津町が東に約3cm,大阪府箕面市が西へ約4cm,奈良県吉野町が西北西に約2cm移動していることがわかる。また,変動量は小さいが,京都府宮津市と和歌山県海南市の間が南北に延びている傾向も見られる。これらの変動は東西圧縮型の横ずれ断層モデルで説明ができる。震源メカニズムや余震分布,地表断層などのデータと合わせ,今回の地震を総合的に捉えるために重要な資料である。
 GPS連続観測には,即応性と高時間分解能という点で,従来の測量方法にないメリットがある。今回,解析結果が出たのは地震発生の翌日である。従来の測量では,地震が発生してから観測計画を立て,測量作業のため現地に赴き,解析結果が出るまで何週間もかかった。また,地震による変動量を計算するためには,何年も前の測量成果と比較せざるを得ず,計算された変動量が純粋に地震によるものを表しているとは限らなかった。全国GPS連続観測システムは,単に解析結果を出すまでの時間を早めたというだけではなく,地震による変動の様子を今までにない高い時間分解能で測定することを可能にしたのである。

 2.2 キネマティック法による解析結果
  兵庫県南部地震における全国GPS連続観測データを,キネマティック手法により解析した。解析に用いた観測局は,御津(震央距離約50km)および吉野(同約80km)である。なお,震央から約50kmにある箕面市の観測局は,故障のため解析には使用できなかった。衛星軌道情報はIGSのグローバルデータから国土地理院が計算したGSI精密暦を用い,解析ソフトはBernese ver. 3.4を使用した。
  図-3(10k)は,吉野に対する御津の相対的な変動を,1月17日午前3時から6時(JST)まで30秒毎の時系列でみたものである。地震時のステップ的な変動(05:47:20 JST)が東西成分に明瞭に捉えられており,約5~6cmの相対変位量はスタティック法による値とほぼ一致している。解の短期的なばらつきは水平成分で1~2cm,上下成分で4~5cm程度である。上下成分に長周期的なうねりが見られるが,これは大気遅延による誤差のためと思われる。地震時に変動量の大きい東西成分にはこのような変動は見られない。
  もう少し長い期間を見るために,24時間のデータを10分毎のデータウインドウで解析した(図-4)(91k)。振幅数cmのうねりの様な動きが見られるが,このパターンは毎日繰り返されることが確認されており,実際の地殻変動ではなく,衛星配置の変化やマルチパスノイズによる影響を表していると思われる。さらに精度を上げるためには,ノイズの性質を見極めた上での技術的な検討が必要であろう。
  これらの図を見る限り,地震直前の前兆的な地殻変動と判断できる動きは見られない。地震時の変位量がスタティック法による値とほぼ一致することからも,直前に前兆的な地殻変動があったとしても,検出限界以下であるといえる。しかし,今回の地震の場合,最も震央に近い観測局でも50kmほど離れており,局地的な前兆変動まで否定するものではない。

3.GPS機動連続観測が捉えた余効変動

 兵庫県南部地震の発生後,本震で倒壊した家屋等が余震の揺れで二次災害を引き起こすことが懸念された。過去の内陸地震の経験から,最大規模の余震は本震後1ヶ月程度のうちに発生する可能性が高いとされている。国土地理院では,この最大余震に備えるために地殻活動の監視を行うことを計画し,地震後約10日経過した1月28日から,本震破壊域の東端付近に位置する兵庫県西宮市および芦屋市に3ヶ所のGPS連続観測点を設置して地殻変動の監視を開始した。兵庫県南部地震は,GPSが本格的に実用化されてから初めて発生した大規模な内陸地震であり,大地震の余効変動に伴う地殻変動を観測する可能性も考えられた。
  観測点の設置にあたっては,本震の神戸側における主破壊領域と考えられた六甲・甲陽断層をはさむ形で,また既に臨時観測を開始していた大学のGPSグループの観測点配置を考慮して選点を行い,図-5(60k)および表 -2(49k)に示す3点を選点した。観測点はいずれも屋上点であり,南関東・東海地域のGPS連続観測網の屋上点で使用されているものと同じ屋上架台が用いられている。GPS受信機及びアンテナはTrimble社の4000SSEである。
 観測は生瀬小学校(NMZ),六甲芦屋ユースホステル(ROK)の2点では1月28日から,甲武中学校(KOB)では1月30日から開始され,毎日30秒間隔で,24時間の観測を行った。観測データは,NTTの臨時回線を通じて,一日一回つくばに転送され,Trimble社の解析ソフトウェアWAVEにより放送暦を用いて処理される。処理結果は地震予知連絡会に報告されたほか,速報として関係各機関へ送付された。また,インターネット上でもRINEXフォーマットに変換した観測データを研究用に公開し,大学等における便宜を図った。
  観測開始以降3月13日までの基線処理結果を図-6(84k)に示す。観測局KOBに関連した2基線は観測開始直後に7~8mmの伸びを示している。観測開始直後には,24時間の観測となっていないセッションがあるのではっきりしたことは言えないが,真の変動であった可能性もあり,大学による近隣の観測局との間で計算を行って検証する必要がある。また,2月から3月にかけて,KOB-ROKはやや縮みの傾向を示す。月間2mm程度の小さなものであるが,データの再現性から見て信頼できるのではないかと考えられる。一方, ROK-NMZに関しては,観測開始以来約5mmの伸びが観測された。図-7(57k)は同じ観測データをベルン大学およびUNAVCOで開発されたBernese/BPEソフトウェアで処理した結果である。軌道情報にはIGS精密暦を用いた。データのばらつきも改善されて基線長変化がより明確に得られており,観測開始以来,基線長が指数関数的な変化をしているようにも見受けられる。ROK観測局が本震断層面の直上付近にあるため,断層のどちら側かで解釈が異なるが,断層面上で余効的なすべりが生じたとする解釈も可能である。
  幸いなことに,現在までに発生した最大の余震はM4.9であり,本震(M7.2)に比べて小さいと言える。
  しかしながら,このことはM6程度の大規模な余震が将来起こりうる可能性も示唆しており,十分警戒していかねばならない。今回のGPS機動連続観測では余震の前兆と考えられる変動をいまだ検知していないが,今後も注意深く監視を継続する必要がある。一方,GPS観測により本震の余効変動と思われるものが観測された。大学のGPS観測網や他の観測データと照らし合わせて検討を深めることにより新たな知見を得ることもできよう。今回のGPS観測は観測開始が地震発生から10日程度になってしまい,初動の遅れは否めない。今後は, 「機動観測」の名前に相応しくなるよう,万全の備えをしておくことが必要である。

4.高度基準点測量が捉えた被災地近傍の水平変動

 兵庫県南部地震に伴う地殻変動を調査し,地震断層の様相を明らかにするため,1995年1月27日~2月8日まで,兵庫県南部とその周辺地域の一・二等三角点および水準点において,GPSを用いた高度基準点測量を緊急に実施した。一・二等三角点には,明治以来100年以上にわたる全国の膨大な観測データが蓄積されている。三角測量に代わって昭和49年からは,光波測距儀を用いる精密測地測量が実施され,全国の繰り返し測量の2回目がまもなく終了する予定である。近畿地方における第2回目の観測は,昭和59年~60年に実施された。こうした過去のデータと今回地震後に観測したGPSデータを比較することにより,地震に伴う地殻変動が明らかになる。さらに,これらの地殻変動の結果や地震活動等から今回地震を引き起こしたと考えられる断層の様相が明らかになる。これらの結果は,今後の直下型内陸地震の予知研究に役立つものと考えられる。
 本格的な測量に先立って,1月27日~31日の間に,基準点の調査・選点および道路状況の調査を本院職員の先発隊8名が実施した。観測計画は調査の結果を踏まえ,下記に示す考え方に基づき決定した。

1)地殻変動の検出のため,淡路島および神戸付近に存在する六甲断層系を挟んだ観測点および地震の影響が小さいと考えられる観測点を選ぶ。
2)ジオイド高の推定のため,GPS/水準または直接水準測量を実施する。 
3)震災のため道路,建物等が崩壊し,道路の通行止めが多く,観測点への自動車での移動が困難であることを考慮する。

  以上の条件と緊急測量であることから,作業量は一等三角点6点,二等三角点14点の合計20点,GPS/水準および一等水準点5点とした。図-8(133k)は観測網図である。
  GPS観測および水準測量作業は,2月1日~7日までの間,本院および地方測量部の職員19名により実施した。GPS観測は,2月2日~3日および5日~6日に2セッションに分けて行った。観測のセッションは,図 -8(133k)の南側の観測点と北側の観測点に分けた。観測時間はそれぞれ12時間,データ取得間隔は30秒である。 GPS受信機は,A-S(Anti Spoofing)対応のトリンブル4000SSE(二周波型)を用いた。また,三脚で観測できない点は,GPSタワーを使用した。基線解析ソフトはGAMIT,暦はGSI精密暦を用いた。
  兵庫県南部地震の余震域は,北東-南西方向に長さ約50kmの線上に分布している。地震のメカニズムは,北東-南西走向の鉛直な断層面で,右横ずれ断層である。また,淡路島の北西岸では1m程度の地表の右横ずれ変位が観察されていることから,今回の地震は,この地域の活断層の活動によるものと考えられる。
  近畿地方中部から淡路島に至る地域は,活断層の密集地域(図-9)(135k)であり,今回のGPS観測はこれらを取り囲むように観測した。図-9(135k)は,今回観測した1995年2月(GPS)と1984~1985年(一次網2回目)を比較した水平変動である。淡路島北部で発見された野島断層付近の三角点は,約1m南西方向へ変動し,地震による断層の右横ずれ運動を表している。神戸側は,六甲山系の三角点が北東方向へおよそ20~30cm,神戸の沿岸の三角点が約10cmほど西方向へ移動しており,六甲断層系を境にして右横ずれの変動を示唆している。今回のGPS観測による地殻変動結果から,淡路島の野島断層と神戸側の六甲断層系の地震断層が動いたことが明らかになった。

5.水準測量が捉えた被災地近傍の上下変動

 神戸側の地震断層の位置を特定するため,1月29日から30日まで,神戸市垂水区から同市長田区にかけて緊急に約9kmの水準測量を行った。水準路線は国道2号線沿いにあり,地震断層と思われる活断層線を横切る地域(水準点No. 445から水準点No. 449)を選んで測量を行った。当然であるが,水準測量もコサイスミックな地殻変動を正確に捉え,地表に現れない地震断層の位置を決めるための有効な手段であることが確認された。
 さらに上述の9kmの水準路線を含んで,西側は兵庫県加古川市から,東側は大阪西部の淀川沿いにある交点を経由して北上し,吹田市の交点までに至る水準測量を同時期の1月27日から3月15日の間に実施した。同測量は,コサイスミックな地殻変動の検出と震災復旧工事に正しい標高を提供することを目的としたものである。上記の水準路線は,姫路市の交点から国道2号線に沿って設置され,神戸市で高速道路の高架部分が倒壊した国道43号線に入り大阪市の西部から吹田市に至っている(図-10)(163k)。水準測量の結果から求められた地殻の隆起・沈降(図-11)(121k)は,今回の地震活動によって生じた地殻変動の様相を以下の様に生々しく捉えている。

 1)水準点変動図の変動量は,被災地から西に離れた高砂市の一等水準点No. 428を仮不動点として,1 990年に行われた水準測量結           果と比較して計算した。

 2)図-11(121k)の水準点変動図から,明石市から垂水区の塩谷町にかけて地殻が隆起し,隆起量は水準点No.445 で約19cmに達していることが分かる。須磨の浦海岸の西端でストンと地殻が約28cm沈下している。隆起から沈降に変わった水準点No. 446からNo. 447にかけて,鉄道のレールが海側(南)に凸になるような変形をしている箇所(写真-1)(60k)があり,広い範囲でアスファルト舗装がコンクリートの電信柱や植木の根元で一様に海側に流されているのが見られる。これは,大きな力が陸側から海に向かって瞬間的に加わったことを示唆している。

 3)水準測量で検出された沈下地域は数kmで,長田区と兵庫区の境で隆起に転じて,上記程振幅は大きくないが隆起が東灘区から芦屋市にか  けて沈降する山と谷のパターンが見られる。

 4)双方とも東下がり西上がりの様相を呈しており,淡路島の野島断層の東上がり西下がりの動きとは逆の動きをしている。神戸側では,野島断層とは連続しない複数の断層運動があったことを示唆している。

 5)中央区にある水準点No. 452は,神戸市役所の庁舎と道路を挟んだ南側の小公園に埋設されている点である。埋設箇所の地盤には異常は認められないが,水準点No. 452の北側(市役所庁舎側)30m位のところに東西に約40cmの段差を持つ亀裂が生じている(写真-2)(69k)。外見から判断する限り,水準点並びに水準点を埋設している地盤は正常である。

  地表に現れない地震断層の位置は,余震活動の震源分布から推定することができるが,水準測量も正確な地震断層の位置を決めるのに極めて有効な手段であることがわかった。

6.おわりに

 ここ一,二年の間に大地震が相次いだ。観測された地殻変動は,北海道南西沖地震(1993年7月,M7.8 )が水平変動で最大約2m,上下変動で約80cm,北海道東方沖地震(1994年10月,M8.1)が水平変動で最大約 40cm,上下変動で約20cm,三陸はるか沖地震(1994年12月,M7.5)が水平変動で最大約10cmであった。兵庫県南部地震(1995年1月,M7.2)での地殻変動は現在までの三角点での測量から明らかになった動きが最大で1m,水準点での動きが約30cmである。ここで北海道南西沖地震の震源は奥尻島の直近,兵庫県南部地震は内陸直下であり,北海道東方沖地震と三陸はるか沖地震の震源は陸地から100km以上も離れている。当然のことながら,震源が近い地震では陸地に大きな地殻変動の爪痕を残している。北海道東方沖の水平変動の異常な大きさは地震のマグニチュードの大きさをそのまま反映している。
  このような変動は一昔前までは地震後数ヶ月の測量を経てようやく分かるものであった。現在では,GPS連続観測が導入されたおかげで概略の変動量はほとんど即日に分かるようになった。もちろん,本稿で述べた測量はGPS連続観測のみではないが,これに触発されて他の測量体制も昔とは比べものにならないほど速く組織されるようになったことは否めない。このことは単に地殻変動研究上の意味あいばかりではなく,震災の復興事業に必要な基準点の復旧を速やかなものとした点においても大きな意味を持つ。本稿執筆中の今も精力的に復旧測量が進められている。この測量結果が社会のいろいろな場面で有効利用されることを望んで止まない。

謝辞

 全国GPS連続観測局・機動連続観測点の設置および地震後の緊急測量にあたって協力を頂いた関係各機関に感謝します。緊急高度基準点測量・水準測量には次の国土地理院職員が参加しました。吉村愛一郎,佐々木正博,平井英明,真野広邦,芝公成,宮崎孝人,木村隆美,岩田昭雄,湊敏弘,根本悟,越智久巴一,木村勲,村上克明,藤田耕作,斉藤郁雄,徳留護,平岡喜文,野神憩,山口智也,斎田諒,神子島卓次,高野良仁,菊池新市,川本利一,針間栄一郎の各氏。また,全国GPS連続観測システムの日々の運用は測地部の飯村友三郎,小林勝博,森下一の各氏が担当しました。

参 考 文 献

飯村友三郎,小林勝博,森下一(1995):全国GPS連続観測システムの運用,国土地理院時報,No.82,1-5.
岩田悦郎(1995):GPS連続観測網による南関東・東海地域の地殻変動監視,国土地理院時報,No.81,51-60.

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