阪神・淡路大震災に伴う国土地理院の取り組み

阪神・淡路大震災に伴う国土地理院の取り組み
The Response of the Geographical Survey Institute to the Great Hanshin-Awaji Earthquake Disaster.

企画部  大瀧  茂
Planning Department  Shigeru OTAKI


本文[PDF:474KB]

要旨

平成7年1月17日5時46分頃,兵庫県南部にマグニチュード7.2,最大震度7を記録する大地震が発生した。                                                      
死者は5,000人を超す未曾有の大被害をもたらした。
国土地理院では,発生直後の,地殻変動,地形変動,被害等の状況を把握するため,緊急に全国GPS連続観測データの解析,GPS測量,水準測量,GPS機動連続観測,被災地の航空写真の撮影,地震調査用基図・災害状況図の作成,地理調査等を行った。さらに,震災復興のための復旧測量として,精密測地網二次基準点測量及び水準測量を実施した。また,災害復興のため地形図修正を実施した。これらの成果は,地震予知連絡会や関係機関等に送付するとともに一般にも公表するなど阪神・淡路大震災に対応してきている。以下,平成7年3月末までの国土地理院の対応についてその概要を報告する。

    目  次

主な図 図-1 臨時電子基準点の配点位置及びサービスエリア (169k)


1.災害対策本部設置
2.全国GPS連続観測データの解析による地殻変動の把握
3.地球観測衛星を利用した地殻変動観測
4.緊急GPS測量の実施
5.緊急水準測量の実施
6.震災復興のための三角点及び水準点新成果の公表
7.GPS機動連続観測
8.震災復興のための基準点復旧測量の実施
9.緊急撮影
10.平成7年兵庫県南部地震調査用基図の作成
11.数値地図50mメッシュ(標高)の刊行
12.平成7年兵庫県南部地震災害現況図の作成
13.被災状況を撮影したカラー空中写真の公開等
14.阪神地区の地形図修正
15.電子基準点(GPS)データのパソコン通信サービスの開始
16.緊急地理調査
17.被災地現地調査
18.兵庫県南部地震に伴う公共測量の指導助言等
19.地震予知連絡会
20.記者発表
21.海外への情報提供
22.諸会議等への対応
おわりに



1.災害対策本部設置
 1月17日早朝,近畿地方測量部から企画調整課長へ兵庫県に大地震発生の緊急連絡があった。企画調整課長からは伝達ルートにより,関係者に直ちにこの災害情報が伝達された。本院に参集した事務局員は,地震予知連絡会関係者からの災害情報,TV等の報道関係からの災害情報を収集し,緊急国土地理院対策本部準備会議で報告された。
 国土地理院では,地震の規模,被害の大きさ等から国土地理院災害対策本部設置運営要領第3条に基づき,平成7年1月17日付けで,災害対策本部(本部長:国土地理院長)を設置した。
同日には,災害対策本部員,事務局員を招集し,地震発生後の対応方針を決定した。また,これらと併行して,職員及びその家族の安全確認等を行った。

2.全国GPS連続観測データの解析による地殻変動の把握
 2月7日から2月14日まで,地球資源衛星「ふよう1号」の合成開口レーダを用いた観測により,神戸市付近及び淡路島北部の地殻変動に伴う地表面変位を定量的に捉えることができた。

3.地球観測衛星を利用した地殻変動観測
 2月7日から2月14日まで,地球資源衛星「ふよう1号」の合成開口レーダを用いた観測により,神戸市付近及び淡路島北部の地殻変動に伴う地表面変位を定量的に捉えることができた。

4.緊急GPS測量の実施
 平成7年1月27日から2月8日まで測地部,地殻調査部,近畿地方測量部,中国地方測量部,九州地方測量部合同による総勢19名の緊急観測班(班長は吉村観測課長)は,全国GPS連続観測データの解析による地殻変動結果に基づき,緊急的に近畿地方兵庫県南部を中心とする地域の20点の三角点において,GPS測量を実施し,1984年から1985にかけて実施した精密一次基準点測量結果と比較し,詳細な地殻変動を算出した。

5.緊急水準測量の実施
 平成7年1月27日から2月15日まで,測地部,北陸地方測量部合同による総勢6名の緊急観測班(班長は斉田測地第三課長)は,9kmの水準測量を行った。 また,約75kmについては外注により実施した。 これらの水準測量結果から,詳細な上下変動を捉えるこができた。

6.震災復興のための三角点及び水準点新成果の公表
 2月20日,兵庫県南部地震に伴って変動した水準点62点について,緊急水準測量結果から新たに成果を算出して公表した。 3月1日,兵庫県南部地震に伴って変動した三角点10点について,緊急GPS測量結果から新たに成果を算出し公表した。

7.GPS機動連続観測
 平成7年1月23日から2月1日まで,地殻調査部の3名の緊急調査班(観測課阿部連続監視係長他2名)は,余震活動を監視するため,阪神地区GPS機動連続観測点の調査,設置等を行い,1月31日からGPS機動連続観測を開始した。 3月6日から,監視を強化するため,GPS機動連続観測点2点を増やした。

8.震災復興のための基準点復旧測量の実施
 (1)精密測地網二次基準点測量の実施 平成7年3月1日から3月27日まで,阪神・淡路地区において, 三角点120点について外注により,精密測地網二次基準点測量を実施した。これにより,復旧した三角点の成果が正確にもとまり,区画整理事業等の復興測量に使用できることになった。
 (2)水準測量の実施 2月6日から2月13日まで,測地部,北陸地方測量部合同による現地調査班(班長は佐々木測地第三課長補佐)は,兵庫県南部地方の水準路線の現地調査を実施した。 平成7年3月1日から,3月27日まで,阪神・淡路周辺地区において,370km(渡海水準測量1カ所を含む)の水準測量を外注により実施した。 これにより,復旧した水準点の標高が正確にもとまり,復興測量に使用できることになった。

9.緊急撮影
 国土地理院では,被災地の被害状況を詳細に把握するための基礎資料となる航空写真について,地震発生の当日より海上自衛隊の全面的な運行支援を受け,測量用航空機「くにかぜ2)」を使用して緊急撮影した。
 第一次撮影においては,防衛庁が緊急撮影を了解してから約4時間半後には撮影を開始しているという素早い対応であった。また,撮影した航空フイルムの空輸,写真処理を行い,翌日には,被災地災害対策本部等関係機関への発送等迅速な対応であった。

 第一次撮影
 撮影期間  1月17日~1月21日
 撮影地域  明石~神戸~大阪,淡路
 撮影面積  700km2  
撮影枚数  34コース  1,100枚  

第二次撮影 
撮影期間  2月11日
 撮影地域  神戸,淡路,大阪
 撮影面積  650km2
 撮影枚数  31コース  1,505枚

 第三次撮影
 撮影期間  3月2日
 撮影地域  神戸,淡路
 撮影面積  300km2
 撮影枚数  12コース  466枚

 第四次撮影
 撮影期間  3月26日
 撮影地域  神戸,淡路
 撮影面積  300km2
 撮影枚数  12コース  500枚

10.平成7年兵庫県南部地震調査用基図の作成
 1月17日,地震災害を受けた地域の地形図を編集した地震調査用基図(1/50,000)を作成し,18日には関係機関に配布した。

11.数値地図50mメッシュ(標高)の刊行
 1月19日,未刊行であった淡路島全体の数値地図50mメッシュ(標高)を作成し刊行した。

12.平成7年兵庫県南部地震災害現況図の作成
 1月21日から1月25日まで,被災地の家屋倒壊,道路破損等の被災状況を明らかにするため,1月20日撮影の航空写真判読による災害現況図(縮尺:1/10,000を17面,1/25,000を3面)作成を行った。  1月26日には,災害現況図を関係機関に配布した。 また,災害現況図については数値地図10,000に入力した。

13.被災状況を撮影したカラー空中写真の公開等
 1月20日から,今回撮影したカラー空中写真について,一般の方が利用できるように本院,関東地方測量部,近畿地方測量部及び四国地方測量部(23日から)において,公開した。  1月23日から,JACIC NETで,3月31日から,ニフテイサーブ(本省広報室)で今回撮影したカラー空中写真について,その情報を提供した。

14.阪神地区の地形図修正
 2月13日,測図部に地形図緊急修正作業実施本部(本部長:測図部長)を,同日近畿地方測量部には地形図緊急修正現地作業本部(本部長:近畿地方測量部長)をそれぞれ設置して2月16日から3月5日まで地形図修正作業を実施した。
 2月20日から2月22日まで,測図部による予備調査班(班長は熊木国土基本図課長他5名)は,予備調査を行った。
 2月27日から3月5日まで,測図部,地理調査部,地図管理部,北海道,東北,関東,北陸,中部の各地方測量部合同による総勢27名の神戸東部班(班長は熊木国土基本図課長)は,1/10,000,1/25,000地形図の修正を行った。また,測図部,近畿,中国,四国,九州の各地方測量部合同による総勢18名の神戸西部班(班長は今里地形課長)は,1/10,000,1/25,000地形図の修正を行った。

15.電子基準点(GPS)データのパソコン通信サービスの開始
 国土地理院は,阪神・淡路大震災に伴う災害からの復興に当たり,国及び各地方自治体等による区画整理事業や高速道路の修復等の復興事業のための公共測量が本格化することに対応するため,2月24日から3月3日まで,現地調査班(班長は測地第二課坂本調査係長)は,選点調査を行い,阪神・淡路地域に電子基準点8点(GPS連続観測局)を設置した(図-1:169k)。この電子基準点のデータをパソコン通信(ニフテイーサーブ)を利用して3月8日より一般公開サービスを開始した。このサービスを利用すれば,公共測量を行う場合,国土地理院が設置した電子基準点を既知点として利用できるため,新点(未知点)の上でGPS測量を行うだけで済み,従来,既知点と新点の両方で測量していたことと比較した場合,測量の大幅な効率化と省力化を図ることができる画期的なもである。
 電子基準点のデータは,ニフテイー・サーブへの転送,利用技術の指導普及は,震災復興測量協議会(事務局は(社)日本測量協会)が行い,さらに震災復興測量協議会は,被災地においてGPS測量を行う測量業者への支援策として,GPS受信機の無料貸出も行っている。

16.緊急地理調査
 地震発生直後,この都市直下型地震の原因と考えられる活断層等地形状況把握のため,第1次調査として,1月17日から1月22日まで,国土地理院(地理調査部,四国地方測量部)と専修大学太田陽子教授からなる8名の現地調査班(班長は堀野地理第一課長)は,淡路島周辺の調査を行った。また,1月26日から1月29日まで,国土地理院(地理調査部,近畿地方測量部)と京都大学岡田篤正教授とからなる6名の現地調査班(瀬倉地理第二課長補佐)は,神戸市周辺の活断層調査を行い,三村地理調査部長も同行した。
 第2次調査として,1月26日から29日まで,国土地理院(熊木国土基本図課長他1名)と土木研究所(脇坂安彦主任研究員他2名)からなる現地調査班は,西宮市周辺の活断層を調査した。  また,1月27日から1月30日まで,国土地理院(宇根情報システム課長他1名),土木研究所(佐々木靖人研究員)及び専修大学(太田陽子教授)が,神戸市周辺の活断層調査を行った。
 第3次の現地調査として,2月13日から2月17日まで,地理調査部と近畿地方測量部合同による4名の現地調査班(班長は津沢地理第二課長)は,神戸東部を,福島地理第二課専門職他2名の現地調査班は,神戸西部を,根本地理第一課長補佐他2名は,淡路島をそれぞれ調査した。

17.被災地現地調査
 1月20日,茂木清夫地震予知連絡会会長が,ヘリコプターにより上空から被災地を調査した。なお,島崎邦彦同委員,塚原地殻調査部長,三村地理調査部長及び地理第一課諏訪部主任が同行し被害状況をビデオにより収録した。

18.兵庫県南部地震に伴う公共測量の指導助言等
 1月30日,復興計画及び公共測量発注状況の調査を行い,兵庫県南部地震に伴う測量成果の閲覧,謄本交付に関する当面の対応について,関係地方測量部等への指示を行った。  2月2日,復旧測量で更新する測量成果の取扱い,国土地理院の緊急震災復旧測量等について,関係地方公共団体へ通知及び情報提供を行った。 2月23日,パソコン通信サービスによる「電子基準点データを利用するGPS測量の概要」の説明資料を作成し,関係機関に配布した。

19.地震予知連絡会  
1月17日,地震予知連絡会事務局は,16時から地震予知連絡会会長,同副会長と緊急打ち合わせを行った。 1月18日,15時から臨時の地震予知連絡会を開催し,地震のメカニズム,前震・余震活動,地殻変動等に関する報告があり,検討が行われた。18時から記者発表を行った。 1月27日,13時から地震予知連絡会を開催し,関係各機関から余震活動の状況,過去の内陸地震の最大余震事例,地震断層や被害状況などに関する報告があり,これらの情報に基づいて余震に関するコメントがまとめられた。18時から記者発表を行った。 2月20日,13時から地震予知連絡会を開催し,余震活動の現状と今後の対応についてコメントが発表された。

20.記者発表
 記者発表は,緊急測量,調査,撮影等を実施し,その結果についてその都度発表した。筑波記者クラブではレクチャー,建設記者会では資料配布で行った。 近畿地建記者クラブでの記者発表については,現地状況を配慮し,近畿地方測量部と連絡を取りながら行った。
 記者発表は,緊急測量,調査,撮影等を実施し,その結果についてその都度発表した。筑波記者クラブではレクチャー,建設記者会では資料配布で行った。 近畿地建記者クラブでの記者発表については,現地状況を配慮し,近畿地方測量部と連絡を取りながら行った。
 1月17日の発生当日14時から,兵庫県南部地震に対する緊急対応について記者発表を行った。
 1月18日の9時に,兵庫県南部地震災害状況の航空写真緊急撮影について,
 1月19日には,淡路北部西岸の地震断層の分布調査(20日には,四国地方測量部において発表)及び数値地図50mメッシュ(標高)の刊行について,
  1月21日には,地震4日目の被害状況くっきりについて5日連続の記者発表であった。
 1月23日から,兵庫県南部地震に対する国土地理院の緊急地理調査等について,
 2月10日13時から,兵庫県南部地震に伴う震災復旧水準測量について  2月13日13時から,震災復興に役立てる大縮尺航空写真の撮影について,  2月15日14時から,地球観測衛星を利用した兵庫県南部地震による地殻変動観測について

 2月22日14時から,電子基準点(GPS)データのパソコン通信サービス開始について,それぞれ記者発表を行った。この間,緊急測量,調査,撮影等の解析,報告書作成等とその記者発表のための資料作りが,早朝から,深夜まで行われた。記者発表した殆どのものについて,TV放映や3大新聞等で大きく取り上げられ,一般市民からの問い合わせも殺到した。

21.海外への情報提供
 1月17日から,長期専門家,長期在外研究員への情報提供を開始した。
 1月18日から,インターネットにより兵庫県南部地震に関する情報(GPS観測による地殻変動図)の提供を開始した。 1月20日,UJNR担当機関へ地震予知連絡会資料(英文)を送付した。
 1月25日から,インターネットへの情報に,兵庫県南部地震の概要,航空写真,活断層調査図等を追加し,日本語版と英語版の両方での情報提供を開始した。
 2月3日,国土地理院が関係した国際会議参加者(カナダ,英国,フランス,オーストラリア,米国,中国)へ,地震に関する資料,参事官レター等を送付した。

22.諸会議等への対応
 建設省非常災害対策本部会議を初め,阪神・淡路大震災関連の会議等に出席し,情報提供,情報収集等を行った。

 1月17日,地震予知推進本部幹事会打ち合わせ会議(企画部長対応)
1月18日,地震予知推進本部幹事会(企画部長,調査課長対応)
  1月18日,衆議院災害対策特別委員会理事懇談会(調査課長対応)
  1月18日,参議院災害対策特別委員会理事懇談会(調査課長対応)
  1月20日,建設省災害対策連絡調整会議(研究企画官対応)
  1月20日,建設大臣に対する災害調査の概略報告会(院長対応/参事官,企画部長)
  1月21日,地球環境観測委員会(環境地理情報企画官対応/測図部写測量技術開発室長,神谷地理調査部地理第一課技術専門員)  
1月23日,第3回建設省非常災害対策本部会議(院長対応/企画部長,地殻調査部長)
  1月27日,第4回建設省非常災害対策本部会議(院長対応/研究企画官)
 2月10日,地震予知推進本部会議(院長対応/企画部長,地殻調査部長)
 2月10日,建設省兵庫県南部地震復興対策本部会議(院長対応/総務部長,企画部長)
 2月21日~2月26日,米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)調査団の一員として企画部情報システム課長が参加した。
 2月21日,測地学審議会地震火山部会地震予知特別委員会(地殻調査部長対応)
 2月22日,地震予知推進本部幹事会打ち合わせ会議(企画部長,地殻調査部長対応)
 2月24日,地震予知推進本部幹事会(地殻調査部長,研究企画官対応)
 2月27日,第2回建設省兵庫県南部地震復興対策本部会議(院長対応/総務部長,企画部長)
 2月28日,測地学審議会地震予知推進方策検討小委員会(地殻調査部長対応)

おわりに

昨年10月の北海道東方沖地震,12月の三陸はるか沖地震に続き3ケ月の間に大地震が3度も発生した。

特に,兵庫県南部地震は,都市直下型の地震ということで,多くの犠牲者が出た。国土地理院では,この非常事態に対してできることは,職員が一丸となり,創意工夫し迅速に対応してきた。 国土地理院が収集したデータは,ユーザーが使いやすく,利用しやすいものに速やかに加工して提供した。

また,記者発表等の広報活動を通してデータの所在等について,一般に知らせてきた。 さらに,インターネットによる画像情報提供,パソコン通信による電子基準点のデジタルデータ提供サービス等今回初めて試みたものもあった。

今後国土地理院は,これらの災害事例を今後に生かす策を講じる必要がある。また,引続き余震活動の監視を行うとともに,地殻変動が明らかになった地域の内,平成6年度に引続き重要地域において,三角点や水準点の復旧を行い,その成果を復旧工事,公共測量等の関係者に迅速に提供する必要がある。

最後に阪神・淡路地域の皆様には心からお見舞い申しあげますとともに,元の生活に一刻も早く戻れますよう心からお祈り申し上げます。

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