地理・地図の普及に関する懇談会 10の提言

1. 地理・地図の学習機会の充実

(要旨)
 地理・地図の普及のためには、地図に関心を持ってもらうこと、地図に親しんでもらうこと、地図を好きになってもらうことがその第一歩となる。
 日本人は、社会人を含めて全体としては地理や地図に関して想像以上に関心があると思われ、こうした関心を顕在化させていくためにも、楽しみながら地理や地図を学習できる機会の充実を図って行くことが必要である。
 また、こうした学習への支援を行うためのボランティア組織の体制整備など支援体制の整備を図っていく必要がある。

(具体的な内容)
(1) 楽しみながら、地理や地図を学習できる素材を提供し、併せて地図の読図能力等を確認してもらうための試験(地図検定試験(仮称))を実施する。
(2) 公民館の「趣味講座」への支援、地図を使ったフィールド学習への支援など出前講座制度を充実させる。
(3) 学習機会の支援のためボランティア組織の体制整備を図る。
(4) 地図に関する疑問等に関しては何でも応えるというスタンスで、子供であっても気軽に質問できる体制を作る。
(5) 読んで面白い地理・地図の大人向け、子供向けの入門書を出す。
(6) 創意工夫をこらした特色のある手作りの地図を表彰・公開する制度を設け、多くの人が応募できるようPRの工夫をする。
(7) テレビの「趣味講座」に取り上げてもらうよう工夫する。
(8) 学区の地図を身近で購入できるよう体制や、総合学習にも利用できる5000分の1 以上の大縮尺の地図の整備について検討する。

2. 地理教育者との連携の強化

(要旨)
 地理・地図の普及の拠点は、学校である。
 地図学習が指導要領の中に取り入れられているのは、小学校3年、4年、中1,高1で全児童生徒数の3分の1に当たるが、これ以外にも例えば小1・2の「生活科」で空間認識という形で地図をまとめる活動が入っている。
 その一方で、地図を教える立場の方が必ずしも地理・地図の専門家とは限らないのが現状であり、また、地理・地図の学習時間が短縮化されてきているといった問題もある。
 こうしたことから、研修機会の確保を図るなど地理教育者との連携を図っていくことが必要である。

(具体的な内容)
(1) 地図指導にあたる教員を対象とした研修会等への支援を行う。
(2) 総合学習における地形図利用のため教員との連携等を図る。
(3) 学校教育の場で「手作り地図」に力を入れられるように連携を図る。
(4) 「読み書きそろばん」に加えて、空間情報操作である「地図」も必要という位置づけになるよう努める。
(5) 長期的な観点から、学校教育における地理の時間を増やすよう働きかけていく。

3. 観光業等ビジネスとの連携

(要旨)
 市場原理では消費財市場と生産財市場とがあり、戦略的な市場は生産財市場の方で、圧倒的な量が動く。したがって、地理情報を素材の一部として提供していくことで、活動するビジネスとの協調を図っていくことが必要である。
 また、今後の社会において「地理的思考習慣」を身につけることが一層大切になると見込まれることから、併せて社会教育との連携を図っていく必要がある。

(具体的な内容)
(1) 生産財市場に戦略的な位置があるということを参考に、地理情報を素材の一部として活動するビジネス(例えば観光情報を提供するナビゲータビジネス)との協調を図る。
なお、消費財市場向けの地図はすぐ手軽に使えることが重要である。
(2) 多くの人に「地理的思考習慣」を身につけてもらうため「学習ビジネス」との協働を図る。

4. 地理・地図の展示施設等の充実

(要旨)
 地図はいわば社会貢献をしているととらえることができるので、会社で言うメセナを積極的に展開していく必要がある。具体的には、全国の子供から大人までが地図に親しんでもらえるよう、古地図から最先端の地図等を展示した施設等を充実していく必要がある。

(具体的な内容)
(1) 交通至便な所への展示施設の設置・民間展示施設への支援等、サテライト施設の設置を進める。
(2) 図書館に対する広報を重点的に行い、公共図書館をサテライトとして活用するなど連携を図る。特に、寄託図書館(無償で基本図の提供・更新を行い図書館に専用のコーナーを設けてもらう。)の活用を図る。
(3) 科学館に「子供の地図作品」を常時展示する。また、ホームページにも掲載する。
(4) 科学館に「地図作り体験コーナー」を設けるなど工夫する。

5. 地図の作成方法等の改善

(要旨)
 「マイマップ」など地図に対するニーズは様々であるので、いろいろなニーズに対応できるような地図の作成方法を採り入れる必要がある。
 また、地図の作成に当たっては、できるだけ最新の情報を取り込むことができるようモニタリング制度を活用するなど多くの人が参画するシステムを作っていく必要がある。

(具体的な内容)
(1) 国土地理院は国家に必須のベーシックなものと民間が採算面から作らないオーダーメイドの地図を作成する。
(2) 高齢化社会に配慮し文字を大きくする等時代のニーズを反映させる。
(3) 基本図であっても、都市部と山岳部では求められる情報が異なるから、それぞれ性格付けをしたものとして作成する。
例えば、山名・沢名・峠名をできる限り多くいれる、何等三角点かを表記する磁針方位を記載する、GPS対応型とする。
(4) 改訂版には改訂内容がわかるような工夫をする
(5) 地形図に緯線・経線を印刷する。
(6) インデックスの図名にはふりがなをつける。
(7) 改訂にはモニタリング制度を活用する。

6. 地図の提供方法の改善

(要旨)
 地理情報は、解読可能な形、つまり目で見て分かればよいのであって、紙にこだわる必要はなく、また、地図情報が紙地図以外の方法で利用されているという全体的な流れは止められない。
 このようなことから、紙にこだわらず、情報媒体をもう少し幅広く検討し、それぞれの技術、目的などに対応した媒体を用いて提供していく必要がある。
 その際、国土地理院としては、木を見るのではなく森をみることのできる地図を提供するとともに、また、民間の地図を含めて正確な地図が提供されるようにする必要がある。

(具体的な内容)
(1) 紙地図の普及に重点を置くのか、ディジタルに向かうのか方針を定めて対応する。
(2) 紙以外にも、便利な媒体が数多くでてきているので、情報媒体をもう少し幅広く検討する。
(3) 仮に地形図の販売自体が減少しても間接的な利用が増えれば良いのであって、様々な情報媒体を活用して、利用できる成果があることを知り、知って後に簡単に手に入れることのできるような仕組みを作る。
(4) 地図の必要性を理解してもらうため、繁華街など街角における案内地図を十分に配置する。
(5) 市販されている地図のデータベース作成、レファレンスサービス等を進める。
(6) 正確な地図を普及させることが何よりも重要であり、正確な地図の使用が一般化するよう努める。

7. 地形図の販売方法の改善

(要旨)
 地形図は、まさに消費財市場の商品であり、気軽に買えて、持って歩けるような販売体制を整備する必要があるが、その一方、地図販売店にとっては、地形図の販売を商売として成り立たせるにはいよいよ大変な状況になってきている。
 今後とも、利用者が確実に、しかも容易に地形図を入手できるよう地図販売店の確保を図っていく必要があるが、そのためには、旧態依然とした販売方法から脱却し、地形図の利用形態の変化等に対応できるよう、例えばオンデマンド方式を取り入れるなどの新たな販売体制を確立していく必要がある。

(具体的な内容)
(1) 地形図は地図の基本であることから、身近に手に入るようにする。
(2) 地形図を容易かつ確実に入手できるようにするには地図販売店は絶対に必要であり、機能する地図販売店を確保する方策が重要である。
(3) 対面販売の良さを生かしつつ、昔ながらの売り方を改善し、売れるような仕組みを作る工夫が必要である。
例えば、「データ出力による地形図刊行システム」、「オンデマンド」等、新方式による地理情報配布システムを検討する。

8. 地形図以外の地理情報の提供の積極化

(要旨)
 国土地理院は地形図以外にも重要で興味を惹く成果物を数多くもっているが、意外に知られていない。このため、地形図以外の地理情報についても、知って貰うと同時に、知った後に簡単に手に入れることができるようにする必要がある。

(具体的な内容)
(1) 地形図以外は一般に知られていないので、空中写真など国土地理院のもっている他の成果物についてもPRを行う。
(2) 民間の地図も国土地理院の地図がベースになっていることをもっと周知する。
(3) 専門的なものもアマチュアにPRする。
(4) 特に大学生を対象に国土地理院の仕事について広報する。

9. 地図需要の動向把握の適正化

(要旨)
 民間であればマーケットのニーズに合った良い品物を安くタイムリーに出していくことが基本であるが、地形図の販売等国土地理院の提供する地理情報については必ずしも十分に需要動向が把握されていない。このため、民間の場合と同様に関係団体と協力してマーケット調査を実施する必要がある。

(具体的な内容)
紙地図に対する需要がどの程度なのかを全国ベースで把握する。

10. 需要層に応じた広報活動の展開

(要旨)
 地理情報については、消費財市場と生産財市場、山岳部の地図と都市部の地図などといったようにその需要層はさまざまであり、それぞれの需要層のニーズに応じた地理情報の提供を行うとともに、それぞれの需要層に応じた、対象を明確にした広報活動を展開していく必要がある。

(具体的な内容)
(1) 生産財市場と消費財市場を分けて広報を行う。
(2) 社会人の地理・地図への関心も高いのでそうした層もターゲットにする。
(3) 国土地理院は目的地に行く地図ではなく地理・地形の分かる地図のPRに努める。
(4) 児童生徒の地図作品展は普及啓発、教育面で有効であるので大いに活用する。