火山基本図数値データを利用した火山災害シミュレーションモデルの開発

　弊社は、防災分野(土砂災害)の業務の中で、溶岩流や土石流などの数値シミュレーション計算を実施する機会が多い。現状ではこれらの計算結果は、コンピュータ画面上で地形図と二次元的な重ね合わせを行うことにより成果図面を作成している。しかし、近年、結果をより視覚的に理解しやすく表示する要請もあることから、計算結果の立体化など視覚的にも親しみやすい表現図として作成する手法について、また、突発的な噴火災害発生時にも迅速に地形データが入手可能な数値地図データ上に、上述した火山災害の予想範囲を容易に重ね合わせることのできる表現手法について検討を行った。今回、標記の共同研究に参加することにより、上述した目的を有事の際にも迅速に達成でき、かつ、最新の高精細10mメッシュデータを用いた表現手法等の研究を行うことを目的とした。

　10mメッシュデータの整備されている14火山のうち以下の3火山を対象に、溶岩流の数値シミュレーション計算を実施し、メッシュサイズの違いによる計算結果の相違確認や表現方法の検討を行った。
　計算は、弊社が(財)砂防・地すべり技術センターと共同開発した溶岩流計算モデル（「溶岩流の数値シミュレーション(1990)山下ほか,水工学論文集,vol.34,p.391-396」）を使用することとし、10mメッシュデータの読み込みや今回新たに手法を検討する表現方法の出力様式に合わせた改良を行った。
　表現方法の検討に使用したアプリケーションは、Autodesk 3D-Studio VIZ R3とKashmir3D(ver.7.21)を用い、いずれも10mメッシュデータに対応したプラグインを用いてデータを読み込んだ(VIZのプラグインはオリジナル開発版)。
　対象とした３火山は以下のとおりである。

• 鳥海山 溶岩地形が新鮮で、かつ小規模の溶岩流が山頂周辺に多く分布するため、基本的な計算条件の確認に適している。特に、溶岩の温度やハイドロ（流量時系列）の違いによる計算結果の差異の確認等に主眼をおいた。
• 三宅島 2000年6月以降活発に火山活動を続けている。今回の噴火様式は従来とは異なるが、ここでは1983年噴火と同条件の噴火を想定して現況の地形条件での計算を実施した。
• 岩手山 独立峰状の山体は立体視覚的に表現しやすく出力結果の表現に適しているためＣＧ表現の対象として採用した。平成10年以降火山活動が活発であり、有事の対応の可能性があることも考慮して対象とした。

　今回は溶岩流の計算はUNIXベースのEWS上で実施したが、計算結果と地形や衛星画像の重ね合わせ、およびアニメ化は、可能な限り簡便的な手法で（つまり、有事の際に、仮に現場事務所においてもノートパソコン等で迅速に）作成できることを目指してパソコン上で行う手法とした。
　鳥海山の計算では計算モデルに対して溶岩温度とメッシュサイズが結果に大きな影響を与えることを確認した。三宅島の計算では1983年噴火と同規模・同条件の噴火が現況の地形上で生じた場合の想定計算を行い、結果的には1983年噴火と同じような氾濫範囲を確認できたが、細部については1983噴火による地形改変の影響のためか流路が異なる箇所も見られた。岩手山の計算では特にアニメ化の表現対象とした。溶岩流の想定量は焼走り溶岩流と同規模とし、想定火口位置は10ｍメッシュデータの作成範囲の制約等があり、実績よりも標高の高い山頂付近の東側斜面上とした。計算結果は、広範囲の地上画像を容易に入手できるランドサットＴＭ画像をベースに、計算結果の時系列的な変化をアニメ形式で表現し、視点を固定した場合と視点が移動する場合の2種類を作成した。今後は、今回の成果を基礎として、より簡便化の部分を多くすること、表現により工夫をこらすことなどの課題の検討をすすめていく方針である。

10ｍメッシュデータを用いた計算結果(縮小表示）

メッシュサイズを変えた場合の計算結果の相違（鳥海山）

溶岩流計算結果の表現［視点固定］（岩手山）

10ｍメッシュデータを使用

現況地形(2000年噴火前地形)上で1983年溶岩と同条件噴火の試算（三宅島）

10mメッシュデータは2000年噴火前の地形、画像をクリックすると動画GIF形式で見られます。

溶岩流計算結果の表現［視点移動］（岩手山）

10ｍメッシュデータを使用