2007年スマトラ島南部沖地震 干渉SAR解析によるベンクル(ブンクル,バンクル)付近 及び パガイ島付近の地殻変動

干渉SAR解析による地殻変動

作成:2007-10-01 更新: 2007-10-08 English version of this page

ベンクル(ブンクル,バンクル)付近

干渉SAR画像 ベンクル(ブンクル,バンクル)付近
 震源から100km以上離れているにもかかわらず,非常に大きな地殻変動が見られます。画像の右下を基準にすると,ベンクルの北西約75kmの変動の目玉では,5周期以上,衛星に近づく向きの変動が見られます。逆断層に伴う震源域に近づく向きの地殻変動によるものです。変動の目玉から,震源域は震源よりもだいぶ北側の領域であることが想像できます。これらの地殻変動データを使って,震源断層の位置,向き,大きさ,すべり量などを推定することができます。

パガイ島(北パガイ島,南パガイ島)付近

2007-06-21 - 2007-09-21 2007-08-06 - 2007-09-21
干渉SAR画像1 干渉SAR画像2
 
2007-06-21 - 2007-08-06(地震前) パガイ島の地形縞
干渉SAR画像3 画像 パガイ島の地形縞
 2007年9月12日の地震(Mw8.4)を起こした震源断層の運動に起因した最大約1.8mの地殻変動が見られます。震源断層に近い南パガイ島(Pulau Pagai Selatan)の南端と,北パガイ島(Pulau Pagai Utara)北端の間には,干渉縞が14本程度見られるので,前者が後者に対して約1.8m人工衛星に近づいたことになります。
 パガイ島(Pulau Pagai)で,位相の不連続が2か所に見つかりました。現地では,断層線が地表に見られるはずです。ただし,地震の原因である「地表地震断層」ではないと見られます。
 2007年9月21日のデータには,画素の位置を見かけ上変化させるような数kmスケールの擾乱が見られ,干渉性(coherence)は若干低めです。

 左下の図は,地震前の干渉図なので,地殻変動や他の要因がなければ,本来,陸部はすべて水色一色になるはずです。この図から,地殻変動の有無や左上と右上の干渉画像に含まれる誤差の確認ができます。
 水色一色になっていない理由のひとつとして,6月21日・8月6日の片方または両方に水蒸気の不均質に起因したマイクロ波伝搬遅延不均質が考えられます。
 SARデータ解析上の問題である,DEM誤差や基線ベクトル推定誤差に起因した地形縞は見られません。
 少なくともこの期間に,前兆すべりなど,地殻変動は観測されていません。

 左上と右上の干渉画像では,若干の違いが見られますが,それをはるかに超える大きさの地殻変動と明瞭な位相の不連続が見られました。

分析に使用した人工衛星 と センサー

日本の地球観測衛星 「だいち」(ALOS)に搭載されたPALSARセンサー

日本の「だいち」は宇宙で唯一のLバンドSARセンサーを搭載した高性能地球観測衛星です
私達は,2004年・2005年のスマトラ沖地震の際にも,人工衛星データを使った地殻変動解析を行いましたが,その当時は,「だいち」(ALOS)衛星はありませんでした。当時のSARデータはすべてCバンドのマイクロ波で取得したものだったため,60ペア以上の干渉解析を試みましたが,1ペアも良好な干渉画像を得ることはできませんでした。Lバンドマイクロ波は,森林の枝葉を透過する性質があるため,スマトラのジャングルでも,干渉画像が得られ,貴重な地殻変動データをもたらしてくれました。
Lバンド合成開口レーダー(SAR)センサーを搭載した地球観測衛星は,日本の「だいち」だけしかなく,その価値は極めて高いと言えます。その上,「だいち」のPALSARは,予想を超えた極めて高い性能を発揮しており,日本の技術力の高さを証明しています。(分析&文責:飛田)

このページの内容・画像を引用・転載される方へ

リンク・引用・転載は自由ですが、出典を明記してください。引用・転載の場合には、事後速やかに、引用先・転載先をお知らせください。
合成開口レーダー(SAR)画像やSAR干渉画像などを引用するときは、その傍に「Analysis by GSI from ALOS raw data (c) METI,JAXA」またはこのようなクレジットを必ず入れてください。なお、英文表記が不適な記事の場合は、画像の傍に「国土地理院提供」、本文に「日本の地球観測衛星「だいち」ののデータを使用して・・・」等の文言を入れてください。