国土地理院時報(2008,115集)要旨

Responses of Geodetic Department of GSI to the Noto Hanto Earthquake in 2007
 
測地部  後藤 清・田上節雄・徳留 護・和田弘人・雨貝知美・岡村盛司
 
【要 旨】
  2007年3月25日9時42分頃,石川県能登半島沖(輪島市の南西約30Km)の深さ11kmを震源とするM6.9の「平成19年(2007年)能登半島地震」が発生し,最大震度6強を観測した.これを受け国土地理院では,同日中に災害対策本部(本部長:国土地理院長)を設置した.
  測地部では,まず地震による地殻変動の様相を明らかにするために,宇宙測地課において能登半島地震の震源周辺地域を対象に干渉SAR解析を行った.また,災害復旧事業に位置の基準を与えるため,測地基準課及び北陸地方測量部において緊急測量調査(三角点・水準点・電子基準点調査)及び三角点改測を直営で,高精度三次元測量,高度地域基準点測量及び基準点改測作業を外注で実施した.
  本稿では,これらの実施内容と結果について概要を報告する.
 
  本文[PDF:1,736KB]
 
PARNASSUS, an Aid Application for Software Correlation on K5/VSSP
 
測地部 町田守人
独立行政法人情報通信研究機構 近藤哲朗・小山泰弘
 
【要 旨】
  観測局から送られてくる膨大なVLBI観測データを効率的に処理することが,相関局の主要な役割である.この遂行のためには,高速のCPUを備えたコンピュータの整備や並列分散処理の実行が基本条件となる.これに加えて,相関処理システムの安定した維持運営には,システムを構成するハードウェア上の仕様・能力だけでなく,システムの操作性,保守性,拡張性などの運用環境,ユーザビリティについての検討も欠かせない.つくばVLBI相関局では,相関処理系の基幹プログラムとしてK5/VSSPを導入した.これを効率的に運用するために,相関処理支援アプリケーション“PARNASSUS”(パルナッソス)を開発した.本稿では,超長基線測量における相関処理の役割の紹介を交えながら,相関処理支援アプリケーション開発に関して,概要,導入経緯,運用状況,今後の機能拡張計画を報告する.
 
  本文[PDF:601KB]
 
Report on the 9th United Nations Conference on Standardization of Geographical Names
 
測図部  南 秀和・稲葉和雄
 
【要 旨】
  2007年8月,アメリカ・ニューヨークにおいて第9回国連地名標準化会議が開催された.会議には,世界各国から主に地名を取り扱う機関の代表者らが一同に会し,様々な分野での最新の取り組みの報告をもとに議論が行われ,前回会議から5年間の世界各国における地名標準化活動の総括が行われるとともに,今後5年間の活動の方向性を確認する決議が全会一致で採択された.
  国土地理院は,日本政府代表の一員として同会議に参加したので,その概要を報告する.
 
  本文[PDF:865KB]
 
Operation to Make Orthophoto Images and Elevation Data
 
測図部 田崎昭男・田村栄一・笹嶋英季・桶屋敏行
 
【要 旨】
  測図部では,「地理空間情報活用推進基本法」(以下,「基本法」という.)第2条第3項に規定されている基盤地図情報の1項目である標高データの整備に加え,基盤地図情報整備や情報補完に利活用できるオルソ画像の整備が認められ,基盤地図情報として5箇年で51,000km2(線引き都市計画区域)を整備することとしている.
  本稿では,平成19年度より開始した基盤地図情報(標高・オルソ)整備のため,カラー空中写真撮影(GPS/IMU装置付のフィルム航空カメラ又はデジタル航空カメラ),数値写真から標高データ及びオルソ画像の整備について概要を紹介する.
 
  本文[PDF:810KB]
 
Development of the Image-Database
 
測図部  藤井 稔
 
【要 旨】
  国土地理院では,平成19年度より5箇年計画で基盤地図情報の一部としての標高データ及びオルソ画像を整備し,全国をシームレスでカバーする画像データベース(以下,「画像DB」という.)の構築を行っている.
  画像DBでは,大量の画像データ等を管理しなければならない.このため平成18年度から,画像DBの管理及び国土地理院内部における業務利用のためのシステム開発を行っている.
  本稿では,画像DBの構築手法について概要を報告する.
 
  本文[PDF:1,563KB]
 
Aerial Photogrammetry with Digital Aerial Cameras
 
測図部  吉高神 充・田村竜哉
 
【要 旨】
  国土地理院では,平成19年度から航空測量用デジタル航空カメラ等による空中写真撮影を実施している.航空測量用デジタル航空カメラ等の導入により,従来の航空測量用フィルムカメラと比較して撮影計画から最終成果(オルソ画像作成)までの一連作業を効率化できることが期待されている.
  本稿では,国土地理院が導入した航空測量用デジタル航空カメラ等の機器を紹介し,航空測量用デジタル航空カメラ等による作業工程及び,従来から使用している航空測量用フィルムカメラとの特徴を比較し,今後の方向性についてまとめる.
 
  本文[PDF:1,234KB]
 
The Reform of New Topographic Map Information System (NTIS)
 
測図部 齋藤秀勝・宮地邦英・橘 悠希子・中島最郎・田中宏明・浦部ぼくろう・大野裕幸
 
【要 旨】
  平成14年度より運用を行っているNTISについて,
1)接合作業を作業機関間で相互に複数回行うことを可能にし,直営での接合作業を不要にする.
2)外注等のDBサーバにアクセスできない環境での刊行図作成を可能にする.
3)CD等のメディアの送付なしに成果品を提出できるようにし,外注先から迅速に成果を入手することを可能にする.
等の改良を行い,編集作業及び刊行作業の効率化を図ると共に,災害時等に迅速に地図情報を提供することを可能にした.
 
  本文[PDF:1,500KB]
 
Paleogeography of Hokuriku District since Jomon Period, Holocene
 
地理調査部 高木美穂・内川講二・小西博美
 
【要 旨】
  国土地理院では,古地理に関する調査を平成10年度より東北・近畿・中国・四国・九州地方を各地方整備局と連携し実施してきた.平成14年度からは3ヵ年をかけて北陸地方整備局管内を整備した.
  本報告は,北陸地方における国土の整備・管理に必要な基礎資料とするため,一級河川とその流域を対象として,過去から現在までの6時期を選定し,河川の成り立ちや自然環境の変遷,川と人の暮らしとの関わり,流域の風土・歴史等について,3ヵ年にわたり調査した結果をまとめたものである.
 
  本文[PDF:1,076KB]
 
Data Development in the Survey on Trends of Land Use for Housing
 
地理調査部 沼田佳典・内川講二・長谷川望・渡邊哲也
 
【要 旨】
  地理調査部では,土地関連施策への総合的展開に必要な基礎資料の整備に資することを目的として,昭和56年より宅地利用動向調査(以下,本調査という)を開始した.約5年周期で三大都市圏(首都圏,近畿圏,中部圏)の整備を実施し,これまでに6時期分の土地利用データを作成している.土地利用データの整備手法も,平成12年度に10mメッシュデータからベクタデータへと変更され,平成18年度には三大都市圏のベクタデータ形式での整備が終了し,更新作業が開始されている.
  本稿では,本調査における土地利用データのベクタデータによる整備手法及び更新手法を報告するものである.
 
  本文[PDF:1,662KB]
 
Development of Tactile Map Producing System
 
地理空間情報部 三橋一文
 
【要 旨】
  触地図とは,視覚障害者の中でも特に全盲かそれに近い人のための地図で,「触知地図」や「触覚地図」とも呼ばれ,立体的な記号や点字を使用し視覚の代わりに触覚により理解できるように作成されている.触覚において視覚の視野に当たるのは,指先の広さでしかない.そのため,一般の地図と触地図には表示できる地図情報量に大きな違いがある.
  また,形状の異なった記号を触読(識別)する能力も限定されるため,使用する記号はできる限り単純な形状にするとともに十分な空間の中に配置する必要があるなど様々な制約がある.触地図の作成は,盲学校や一部の自治体・福祉団体・ボランティアによるハンドメイドであり製作部数も限られていた.そのため,僅かに販売されているものを除けば,視覚障害者個々が自分の行動したい地域の地理情報を得るための触地図を入手することは困難な状況にあった.
  そこで国土地理院では,視覚障害者の方も健常者(晴眼者)と同じように身の回りの地理を知ることができる触地図の作成を支援するための「触地図原稿作成システム」を開発した.
  本報告では,触地図原稿作成システムの機能概要について報告する.
 
  本文[PDF:888KB]
 
Denshi Kokudo Web System API Reference (Ver1.0)
 
地理空間情報部 志田忠広・西城祐輝・村岡清隆・安藤暁史・伊藤裕之
 
【要 旨】
  近年,インターネットを通じて,様々な情報をやり取りすることが可能な時代である.地図情報についても例外ではなく,インターネットを利用できる環境さえあれば,日本全国どの地域の地図情報でも,利用することができる.
  このような状況の下,国土地理院では,いつでも,誰でも,どこでも,国土に関する様々な情報を統合し,国土の管理や災害対策,行政・福祉,観光など幅広い分野で活用できるよう,電子国土Webシステムを開発・公開してきた.電子国土Webシステムは,国土地理院から提供している1/25,000地形図等をWeb上で閲覧するだけのシステムではなく,地図上にさまざまな情報を重ね合わせることができ,それらは,インターネットを通じて発信することができるシステムとなっている.
  国土地理院では,平成15年7月からプラグインのインストールを必要とする電子国土Webシステム(プラグイン版)の提供を開始し,その後も機能追加などのシステム改良を行ってきた.平成16年6月にバージョン0.8.1,平成19年1月には, Internet Explorerのみの対応であるがバージョン1.0.0を公開した.その一方で,プラグインを必要としない電子国土Webシステム(非プラグイン版)の開発も行っており,平成17年7月にβ1版を,平成19年9月に機能追加したβ2版を公開した.電子国土Webシステム(非プラグイン版)は,プラグインを必要としないため,サイトにアクセスさえすれば,すぐに地図を閲覧することができ,また,様々なブラウザ上でも動作させることが可能である.
  電子国土Webシステムでは,容易に電子国土Webシステムを利用したWebサイト(電子国土サイト)を構築し,情報を発信できるよう,様々なAPI(Application Program Interface)及びツールなどを用意している.
  本稿では,これらの電子国土APIの機能や使い方などについて解説する.なお,現在公開中の電子国土Webシステム(非プラグイン版)β2版では,本稿で紹介する電子国土APIの一部を利用することができない.
 
  本文[PDF:485KB]
 
 
Development of a Satellite Positioning System Simulator
 
地理地殻活動研究センター 宗包浩志・黒石裕樹・畑中雄樹・矢来博司
 
【要 旨】
  国土地理院では,準天頂衛星等の次世代衛星測位システムについて,それらを測量に利用する場合の測位精度を予測するために,「衛星測位システムシミュレータ」(Satellite Positioning System Simulator;以下,「SPSS」という.)を開発した.SPSSは,衛星の軌道位置情報を生成する軌道生成モジュール,観測点での測位データを生成する観測量生成モジュール,また測位状況の把握を支援する情報を描画する描画モジュールから構成されている.SPSSの出力は,GPSの汎用フォーマットで記述された軌道位置情報ならびに測位データであり,ユーザーはそれらを汎用の測位解析ソフトウェアを用いて解析し,測位精度のシミュレーションを行うことができる.衛星軌道生成,観測量生成に関しては,現実の測量誤差をできるだけ再現するよう,さまざまな誤差を考慮できるように設計されている.
  SPSSの使い方の例として,気象擾乱下において,GPSのみで測位した場合,GPSと準天頂衛星を組み合わせて測位した場合のそれぞれについて測位精度の比較を試みた.その結果,気象擾乱下においては10km程度の短基線においても5cmにも達する測位誤差が生じうること,また遮蔽が大きい観測点においては準天頂衛星の観測を組み入れることで,測位精度の改善が期待できることが分かった.
 
  本文[PDF:2,475KB]
 
Preliminary Evaluation of Classification Accuracy on GlobCover Data Using Ground Truth Extracted Form the Existing Land Cover Data
 
地理地殻活動研究センター  佐藤 浩
 
【要 旨】
  中国で整備されている既存の土地被覆データを使って抽出されたグランドトゥルースデータを使い,欧州宇宙機関(European Space Agency)が2008年3月現在公開しているGlobCover画像データ「アジア」の分類精度を予備的に評価した.その結果,分類精度が80%を超えるのは,市街地,裸地,氷雪,常緑広葉樹,落葉広葉樹であり,これらの分類がよく判別されていることが示唆された.しかし,天水農地(分類精度42%以上)はグランドトゥルースデータの水田と,灌漑農地(分類精度4%以上)は畑とそれぞれ紛れやすく,疎らな被覆の植生(分類精度2%以上)は荒砂漠・砂漠や中~密の被覆の草地と,中~密の被覆の草地(分類精度11%以上)は疎らな被覆の草地や露岩地と紛れやすく,あまり良く判別されていないことが判った.ただし,今回利用したGlobCover画像データは,解像度と画質を本来より低下させて公開されていることから,今後,その第二版が公開されてから,改めて分類精度を評価する必要がある.
 
  本文[PDF:481KB]