小特集:電子基準点1,200点の全国整備について

Special Issue
Establishment of the nationwide observation system of 1,200 GPS-based control stations

測地観測センター
Geodetic Observation Center

要旨

 電子基準点は,地上に固定された設備によりGPS衛星からの電波を連続的に観測する施設である。全国各地の電子基準点と,各電子基準点の観測データからその位置を算出する解析計算装置(国土地理院本院に設置)とからなるGPS連続観測システムの全体を,今日われわれはGEONET(GPS Earth Observation Network System)と呼んでいる。このシステムにより,時々刻々と進むわが国の地殻変動を全国ほぼ一様に監視することができるようになった。

 電子基準点の本格的な整備は,平成5年度に始まった。その後,阪神・淡路大震災を契機に設置された国の地震調査研究推進本部は,平成9年に策定した「地震に関する基盤的調査観測計画」において,全国にGPS連続観測施設を設置することを計画している。電子基準点の設置はこの計画への対応でもあった。

 電子基準点の整備開始以来,日本列島の地殻変動の時空間分布が従来に比べきわめて迅速かつ詳細に把握されるようになった。定常的な地殻変動や,地震,火山噴火等に関連する地殻変動について多くの発見がもたらされている。プレート間ゆっくりすべりの検出,新潟-神戸歪み集中帯の発見などは,地震,テクトニクス研究者に大きなインパクトを与えた。地震・火山活動現象の理解や予測に電子基準点で観測された地殻変動データの存在が不可欠なものになるなど,防災分野への貢献も大きい。電子基準点の観測データから大気中の水蒸気の状態を解明するGPS気象学という分野も生まれた。また,世界測地系に基づく測地基準点成果の体系(測地成果2000)の構築にも大きく役立った。

 このようなことから,平成15年には,「世界に先駆けたGPS連続稠密観測網の整備とそれによるわが国の測地科学の推進」が評価され,国土地理院GEONETグループが日本測地学会坪井賞(団体賞)を受賞した。GPS連測観測データが国土地理院内部だけではなく,インターネット等を通して外部研究者に広く公開され,多くの研究者が重要な測地科学成果を挙げていること,その結果従来必ずしも測地学のコミュニティにいたとはいえない地震学,テクトニクス,気象学などの研究者を測地学に引き付け,我が国の地球科学界における測地学の地位を高めたこと,世界の測地学界における日本の存在感を高めたことなどが特に評価されたものである。

 また,電子基準点はGPSを用いた測量の基準としても利用されている。特に,平成14年にリアルタイムデータ(1秒毎の受信データ)を民間に開放してからは,配信を受けた位置情報サービス事業者によって末端ユーザーの位置に合わせた補正データがリアルタイムで伝送されるサービスが行われており,既知点(電子基準点)の近傍でなくても,ユーザーは1台のRTK-GPS測量装置を携行すれば,いつでもどこでも即座にセンチメートル精度の測量ができるようになっている。この技術は狭い意味の測量を効率化させるだけでなく,多様な分野で,単独測位では不可能であった高度な位置情報利用を促進させることが期待されている。この意味で,電子基準点は高度情報通信ネットワーク社会のインフラストラクチャーになりつつある。

 このようなことから,GEONETは優秀情報処理システムとして平成15年の情報化月間推進会議議長表彰も受けている。

 現在,電子基準点の数は1,200点に達している。一つの国をほぼ均等にカバーするGPS連続観測網としては,おそらく世界で最も高密度のものだろう。電子基準点の設備や解析計算手法はこれまでも改良を積み重ねてきたが,このほど大幅に機能を向上させた新GEONETの運用が始まったところでもある。

 本稿では,これを機会に,電子基準点1,200点の整備の状況と,それが果たしてきた役割について報告する。

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