9 世界測地系がもたらす効果

 このように、実際に世界測地系に移行するためにいろいろな手当が必要となる場合もありますが、世界測地系に移行し、世界測地系が普及することにより、様々な効果が期待できます。次に、主なものを挙げてみましょう。

(1)科学的合理性の向上

 地図作成の基準面は、できるだけ地表面に沿った面でなくてはなりません。しかし、日本測地系では、楕円体面が、東京から離れるに従って徐々に高くなり、北海道では平均海面から約50mも高くなってしまいます。日本測地系の楕円体は、地図作成の基準面としての本来の性格から大きく逸脱した状態になっていたのです。

 一方、世界測地系の楕円体は、現在の測地学や地球物理学の知識に基づき科学的合理性のある基準として、全世界において最も地表面に沿うような面として決定されています。

(2)測量のコスト縮減と高精度化

 世界測地系に移行すると、国家基準点の位置精度及び信頼性が向上するため、国の機関や地方自治体等が行う測量において、国家基準点がより多く利用されるようになり、類似の測量等が削減できるため、全体として測量にかかるコストを縮減する効果が期待できます。

 また、これまで都市基準点網との間で生じていたギャップも解消されることになり、地方自治体が設置した基準点の活用も一層促進されることでしょう。

 電子基準点を測量の既知点として利用すると、従来必要であった既知点における観測を省略できます。これによっても、測量作業の効率化が図られ、測量コストの縮減が期待されます。

(3)GIS利用のための基盤形成

 GPSの信号を受信するだけの単独測位方式は、数mの誤差にまで精度が向上してきました。さらに、電子基準点を利用するRTK-GPS測量(電子基準点で受信したGPS信号を無線通信等で測量現場に送り、位置の補正計算に利用することでリアルタイムで高精度の位置決定を行う測量方式)が本格的に導入されれば、容易に数cmの精度で位置を求めることができるようになります。したがって、将来性が期待されているGISの構築に、GPSが盛んに利用されることは確実です。ところでGPSの利用あたっては世界測地系に基づく値を使用することが最も便利です。逆に座標値をわざわざ日本測地系へ変換することは大変わずらわしく、経済的にも大変不利であると言えます。

 世界測地系への移行が進めば、このような問題が解消され、GISの普及振興に大いに貢献することが期待されます。
図:GISの将来

(4)GPS関連産業の振興

 世界測地系に基づいた地図が普及すれば、GPSの利用がより便利になり、GISを筆頭として社会の様々な分野でGPS測位のいっそうの普及が見込まれます。国際協力、国際ビジネスの観点でもより有利な環境が生まれると予想されます。このように世界測地系への移行により、一種の規制緩和による新産業創出効果が期待できます。

(5)国際標準化への貢献

 これまで、世界各国とも、それぞれ独自の測地基準系を用いてきました。しかし、近年、世界測地系の利点が認識され、国連アジア太平洋地域地図会議・国際水路機関・国際民間航空機構等が、世界測地系に移行することを各国に推奨するようになりました。このため、アジア太平洋地域でも、既にインドネシア、オーストラリア、ニュージーランド等が世界測地系に移行したのをはじめ、世界各国が次々と世界測地系への移行を進めています。隣の韓国でも移行の準備が進んでいます。

 むしろ、現在の日本の国際的地位を考えれば、安全の観点からも、また、経済の効率の観点からも優れている世界測地系へ移行することが、日本の国際的責務であると思われます。

 我が国が世界測地系を採用し、普及を促進させることにより、世界各国の世界測地系への移行の動きを刺激し、世界的な安全性の向上に貢献できるものと期待されます。