6. 国土地理院の役割

~データ共有のための標準整備、基礎的データの整備と流通、空間情報活用のための政策誘導~

 

 国土地理院は、すべての測量の基礎となる基本測量を実施する機関として、測量行政の中核的な役割を担っていることから、社会の最も基盤的な情報である、国家基準点や行政界、主要な地形・地物・地名などの空間情報の整備・維持管理は、国家行政の基礎的事業として、引き続き国土地理院の責任において実施する必要がある。

 

 さらに、測量行政の推進においては、近年の測量技術の飛躍的な向上と情報化、グローバル化の進展を踏まえ、それに応える具体的な方針が必要である。

(1)標準整備

 計測された位置を安心して利用できるようにするためには、ミリメートル単位の精密さまでをも保証するための位置の基準の体系化が必要である。また、測位に必要なデータの標準化や品質管理の確保が重要である。地殻変動の大きな我が国において、測量の時期や方法によらず計測した位置座標すべてに整合した値を与えることは、技術的にも制度的にもその実現に困難を伴うことである。これを実現するための位置の基準の体系化をはじめとする標準整備は、国土地理院の重要な役割である。

 

 一方、デジタル化された空間情報の体系を、既存の紙地図の体系から離れて、時間や空間の尺度が拡張された体系として再構築する必要がある。

 

 空間情報は、様々な組織や個人が所有する多様なデータを一元化することにより、その利用価値が一段と高まる。様々な組織や個人が所有するデータが、相互に容易に利用できるよう、空間情報に関する標準の整備を行い、その普及に努めるべきである。

 

 特に、すべての政府機関や自治体の空間情報の自由な使用を可能にする共通の基盤を構築すべきである。また、産学官連携による標準整備に基づき、民間活力による空間情報の取得が盛んになり、共通の基盤の上に載る情報が充実するようにすべきである。標準整備にあたっては、国際的連携を取るとともに、我が国のアイデアを世界へ向けて発信する。

(2)基礎的データの整備

 地球規模での国際的な測地網の整備と、それに基づき国内において高密度に配置した測地網の整備を引き続き進め、それらのデータを継続的に取得すること、また過去から蓄積されたデータも含めて的確に整理すること、それらのデータの価値を高めるための持続的なデータの取得と分析も、国土地理院の重要な役割である。特に、地殻変動の監視と分析は、地震や火山噴火の予知を可能にするための研究としても推進すべきである。また、地球の物理現象の理解に重要となる、重力、地磁気などの地球内部の構造解明に重要なデータについても継続した観測と、その解析が望まれる。

 

 一方、国土地理院が所有する地形図、空中写真、古地図、歴史的資料などの過去から現在までの様々な空間情報の電子化と今後取得する電子化された空間情報の体系的データベース化を行う。さらに、データの迅速かつ頻繁な更新と蓄積も、国土地理院の重要な役割である。加えて、整備したデータの分析を自らが行うことが、データの価値を高めることを強く意識すべきである。例えば、地域の過去から現在までの測量の成果を分析することにより、その地域の本来の風土を明らかにすることができ、分析の成果は、自然環境の保全・復元の計画にも影響力を持つものとなる。

 

 また、住民一人一人が身近な地域について容易に検討ができるよう、5~10mメッシュの詳細な標高はもとより、防災や環境に関するすべての国家インフラ的な空間情報など、対象の多様化への対応も重要である。

 

 さらに、国際的連携による空間情報整備を主導することも国土地理院に期待される重要な役割である。

(3)基礎的データの提供

 地上はもとより建物内や地下なども含めたあらゆる日常の生活空間においてセンチメートル単位でリアルタイムに位置が特定できる測位システムを産官連携により構築し、データを提供すべきである。

 

 この実現には、電子基準点のリアルタイムデータの提供が欠かせないものとなるが、加えて、GPSへの過度な依存に陥らないよう、GPS以外の宇宙測地技術や地上での測量技術など新たな手法の開発や技術の高度化への対応をすべきである。

 

 国土に関する基本的な空間情報は、あらゆる分野で信頼されるよう、国土地理院の責任において、常時更新したものを無料または適切な価格で提供していく必要がある。

 

 情報の更新にあたっては、技術開発や制度整備を行い、また、その提供方法についても工夫し、できる限りリアルタイム化に近づけるよう努めるべきである。

 

 さらに、国内外のデータの相互利用を促進するため、国内外の機関と連携して空間情報のクリアリングハウスの機能を一層充実させることも国土地理院の役割として重要である。また、空間情報のワンストップサービスの実現を図ることも国土地理院には期待される。

(4)政策誘導

 国土地理院では既に電子基準点のリアルタイムデータ提供を実施しているが、さらに、GPS等の測位に関する情報のリアルタイム提供を活用した先進的な技術手法を用いた新たな産業の創出と育成を目指すべきである。特に、最新技術と相まって、マーケッティングや物流、福祉の分野などに関する新たな産業の発展を促すことが期待できる。

 

 入手・加工が容易な基礎的な空間情報を整備することは、民間企業や市民団体、市民の様々な活動を活性化につながる。地図上に、過去の環境や災害の情報を時系列で整理することにより、地域づくりを行う上で重要な方向性を示す情報となる。また、福祉や医療に関する情報と合わせることも考えられる。地図の表現方法や活用方法の多様化に向けて、民間活力の活用とそれによる地域の振興を導き出すような施策を行うべきである。さらに、国土地理院が作成・提供する国家の基盤となる新鮮かつ精密な空間情報の提供により、先進的な技術手法を用いた新たな産業の創出と育成を目指すべきである。

 

 誰にでも役立つ空間情報を普及させていくため、インターネット等を通じてこれらを広く流通することが求められている。このため、空間情報の公開を前提とした、版権、プライバシー、利用範囲などに関するルールづくりが求められる。

 

 また、質の高い空間情報を一人一人が存分に活用できるよう、位置や空間、地域を捉える感覚(地図リテラシー)を養う地図学習の実施が望まれる。国土地理院においては、「地図と測量の科学館」を充実させ、また、インターネット等を活用し、学校や地域の市民団体等を通じて、子どもから大人までどの世代でも地図とふれあうことができるような施策を推進すべきである。