4. 空間情報が今後備えるべき要件

 ~さらなる精密さ、新鮮さ、多次元化への対応~

 測量は、今後も国土管理や国民生活の質を高めるための諸活動に基礎を提供するという役割を引き続き担う一方で、次世代にふさわしい新しい空間情報として、今後の社会経済の変化を踏まえて、さらなる精密さ、新鮮さ、多次元化の要求に対応していく必要がある。

(1)精密さが重要

 GPSとGISの普及により、例えば、カーナビゲーションに代表されるような新たな産業分野が発展してきたところである。例えば、商品管理や自動車の安全運行には10cm単位の精度が必要と考えられるが、さらに今後の新たな産業市場における位置精度の要求の高まりに対応するため、将来に向けてミリメートル単位の位置精度を目指す。

 

 このためには、位置の体系、すなわち緯度・経度で位置を測るあらゆる方法――宇宙測地技術による精密測地から地図上での位置座標の測定まで――に整合した値を与える体系を確立し、真に精密な位置を提供する環境を整備することが必要である。具体的には、GPSに代表される衛星測位技術を利用した電子基準点網をベースとして、全ての位置が電子基準点を介して国内で矛盾なく繋がる体系が必要となる。

 

 このような体系に基づいて空間情報を整備することで、異なる整備主体による空間情報が位置的に互いにずれることなく重ねられるようになる。

 

 言うまでもなく、空間情報の整備・提供にあたっては、一律に精密さを追求するのではなく、国防など国が使うデータ、学術的に使うデータ、一般産業界が使うデータ、一個人ベースで使うデータなどそれぞれの目的、効果、コストに応じた分類が必要である。

(2)新鮮さが重要

 空間情報を地図として紙の上に印刷すると、その瞬間に情報は古くなっていくことになる。空間情報をデジタルの情報としてCD-ROMなどの媒体に固定しても状況は同じである。一方、インターネットなどの情報通信技術や画像処理技術の革命的な進歩により、様々な空間情報はリアルタイムで提供されることになると予想できる。

 

 一方、現実の国土の変化に迅速、的確に対応するためには、空間情報は限りなくリアルタイムに近い新鮮さで収集され、蓄積されることが重要となる。また、新鮮さに加えて、目的に応じて高い時間分解能、すなわち情報収集の時間間隔を細かくすることも重要である。

 

 情報の収集・提供については、現在進行中の地方分権の流れやインターネットの特性を生かして、国、地方自治体や企業のそれぞれによる自律分散型の活動を基本とすることが、情報の新鮮さの確保にとっても重要である。

 

 その一方、空間情報の利用者の利便性を考慮し、骨格的な情報については変化情報の提供窓口の一本化を図って進めるべきである。この活動が、現実の国土の変化をリアルタイムで取り込むことで現実の国土とともに変化する、仮想的な国土として構築される「電子国土」を実現することになる。

(3)国土の情報の多次元的な記録が重要

 国土地理院の基本測量として、全国を繰り返し撮影している空中写真、一定の基準で整備されてきた地図などは、国土の過去の姿を現し、変遷を理解する上で貴重な情報である。これらの空間情報を誰でも容易に利用できるよう、既に存在する膨大な空間情報を、将来的な需要にあわせて、電子化していくことが重要である。この際、古地図や国土に関する歴史的資料も含めて、特に、時間の情報も併せ持つ空間情報として整備していくことが重要である。

 

 また、過去の空間情報にも正確な位置の座標を付けることが、現在の情報と合わせて利用するために重要である。過去に作成された地図や撮影された空中写真には緯度・経度で表される位置の情報を持たないものも多数存在するが、長い歴史にわたってその位置を変えない自然物あるいは人工の構造物を探し出し、その位置の座標を測ることは可能である。電子化されていれば、これら座標の図られた地点を目印にして、地図や空中写真全体の位置座標を推定することが可能となる。

 

 さらに、空間情報の表現についても多次元化を進めるべきである。動きのある映像などを含めて、実世界でどのようなことが起こっているかをわかりやすく表現することにより、ダイナミックに変化する様々な事象を的確に捉え、様々な事柄における未来選択を容易にすることが可能になる。

 

 このような時間情報の追加、歴史的資料への位置座標の付与、映像情報の付加などは技術的にはすでに可能となってきている。これらを含めて、国土の情報の多次元的な記録の方法を標準化することが、過去から現在までを知り、未来を予測するために必要である。そのためには、既存の空間情報の体系を再構築する必要がある。