3. 空間情報の利用者・利用場面の予測

 国土の変化を可能な限りリアルタイムで取得するとともに、統合して利用することにより、現実の国土に対応する情報を有効に活用する仮想的な国土をコンピュータ上に構築することができる。このような「電子国土」の実現により、豊かな暮らしの創出、行政と市民と連携した国土管理の促進、最新の情報に基づく適切な防災対策の実現、自然環境の適切な保全・復元、空間情報に関連する新たな情報産業の創出などが期待できる。 このような利用を可能とする空間情報の将来的に考えられる利用者・利用場面を、暮らし、地域・環境、安全、産業活動の視点から予測する。

(1)暮らし

~自立した個人の生き生きとした暮らしの実現~

○生活の質の向上に役立つ空間情報
空間情報が、国民一人一人が余暇の充実などにより、ものの豊かさよりも心の豊かさを実感できる社会の形成のために利用される。
○生活空間の拡大と充実に役立つ空間情報
空間情報が、すべての人々、特に高齢者や障害者にとって、移動がしやすく暮らしやすいバリアフリー社会の形成のために利用される。


 GPSをはじめとする測位システムの整備とインターネットに代表される情報通信ネットワークの整備の進展により、誰もがどこでも自分の位置を知り、周辺の情報をリアルタイムで得て、自由に快適に移動することができるようになる。また、情報を得るばかりでなく、誰もが自分にあった情報を白地図に載せて利用する「マイマップを作ろう」という取り組みが進む。さまざまな人が情報を付加した地図は、学習教材、ハザードマップなどにも利用されるほか、地域の拠点施設や商店情報などの日常の情報源としても使われ、暮らしの充実に役立つ。

 

 また、色の使い分けが鮮明で発地と着地を認識させるような光るような地図、音声認識ができ、必要な情報を大きく打ち出す見やすい地図、多国籍語で表示する地図などが簡単に入手できるようになる。様々な地図は子どもから高齢者、日本語の理解が十分ではない人など、あらゆる人々の生活の質を高める行動を誘発する。また、人々が自分の位置を互いに知らせあうことで新しいコミュニケーションが生まれる。

 

 福祉における非常に高い効果も期待できる。スロープやエレベーターなどの施設が詳細に記載された地図とリアルタイムな位置の計測により、誰でも移動が簡単になる。さらに、医療情報と地図とを組み合わせ、介護タクシーや救急車の配車などに活用することで、必要な医療措置が短時間で安く受けられる。

 

 地図の利用機会の増加に伴い、位置や空間、地域を捉える感覚を養う機運が高まる。それにより、各人の地図リテラシーが向上し、地図に隠された情報の発見などの知的な行為により心の豊かさを得るようになる。

(2)地域・環境

~多様性ある地域の形成~/~美しく良好な環境の保全と創造~

○水と緑豊かで美しい地域の形成に役立つ空間情報
空間情報が、地域の特性にあった美しく良好な環境の形成のために利用される。
○地球環境保全と持続可能な開発に役立つ空間情報
空間情報が、継続的な観測に基づく地球環境問題への正しい理解に立った持続可能な開発を進めるために利用される。


 日本の国内の自然環境や社会環境は画一的ではなく、それぞれの地域ごとに特性(風土)がある。地域におけるよりよい暮らしを検討するにあたっては、その地域の風土を十分に把握し、地域に応じてきめ細かく対応してくことが重要である。地域の歴史的な経緯を踏まえるにあたっては、過去に測量によって得られた様々な成果が――空中写真や古地図などの資料も含めて――重要となる。これらが電子化された社会においては、豊富な空間情報のストックを有効利用し、過去から現在までの空間を簡単に把握できるようになる。行政における各種事業の計画策定のみならず、自然地形や植生などによる都市景観、地域景観と時代文化を合わせて、地域の住民や研究機関において、その地域のあり方を共同で考えることが可能となる。

 

 また、モノの移動状況に関する情報のリアルタイムでの収集・提供により、例えば産業廃棄物の処理の監視、広域的なリサイクルの効率的な運営が可能となり、また、経済予測、土地利用予測、交通需要予測等のシミュレーションに基づく環境負荷の小さな社会の形成も可能になる。

 

 これを地球規模で実施し、世界中で空間情報を共有することにより、地球規模で起こっている環境問題や、自然の制約の中での持続可能な開発のあり方を一人一人が理解することできる。共通理解が進めば、問題点が浮き彫りになり、その問題解決に向けた的確で素早い対応が世界的に行われることを可能にする。

 

 空間情報は、生活空間レベルから地方レベル、全国レベル、地球レベルでの環境の保全・復元を行う関係者間のコミュニケーションと相互理解の促進にも欠くことのできないものである。

(3)安全

~安全の確保~

○地震等による災害への対策に役立つ空間情報
空間情報が、地震や火山噴火、洪水、火災などによる大規模な災害から国民を守るために利用される。
○事故、犯罪への対策に役立つ空間情報

空間情報が、交通事故や犯罪、テロの被害から国民を守るために利用される。

 災害に関する空間情報の、過去からの蓄積と現況把握のリアルタイム化により、災害の事前予測を行い、防災対策、減災対策を取れるようになる。世界に例を見ないような、非常に稠密な配置の電子基準点による我が国の地殻変動観測網の構築とこれまでの測量成果を活用した更なる研究により、M7クラスの地震断層運動を把握し、減災対策を行うことができる。

 

 また、標高や土地条件などの詳細な情報提供により、それぞれの地域や住民に応じたハザードマップを作成し、防災対策を行うことができる。さらに、災害時における、地殻変動や地形の変化の把握、危険地域の予測など、時々刻々変化する状況をリアルタイムで捉えた空間情報は、被災地域や被害者の把握、救助活動、交通の安全確保など緊急対応を迅速に行う重要なツールとなる。

 

 その他、交通事故や犯罪、テロの発生に関する状況情報を迅速に収集、分析、提供することにより、これらの対策に資することができる。地図の情報から危険を読み取れる能力の重要性が認識されて、大学のみならず、行政機関、企業にも地図リテラシーの高い人材が配置されるようになる。また、誰もが地図から危険を察知できるよう、生き物感覚や気配の情報を生かした地図が作られるようになる。

(4)産業活動

~競争力のある経済社会の維持・発展~

○産業の活性化に役立つ空間情報
空間情報の整備・提供が産官連携の基に行われることにより、測量業、情報産業をはじめとする産業が活性化されるとともに、空間情報が、物流や運送あるいは福祉などの産業分野における効率化や新規ビジネスの開拓に利用される。

 商品に位置情報を付加してネットワーク化することで、商品管理、物流管理が飛躍的に向上する。エリアマーケッティング分析、運送における車両運行管理、物流管理など、様々な企業活動を飛躍的に向上させる。さらに、良質な空間情報の活用が進むことにより、モバイル環境を利用した位置情報ビジネスが開拓され、空間情報を取り扱う新たなIT関連産業の発展が期待される。例えば、空間情報と、ICチップなどの最新技術を導入した物流や運送等の分野と連携を図ることにより、産業廃棄物の管理システムや生鮮食品の輸送中の品質管理、トラックの運行管理システムなどを構築することが可能となる。

 

 また、産業の活性化を通して、(1)~(3)に記載した家庭や個人の暮らしの充実、行政における情報提供、国土管理、計画策定の質と効率が向上する。