平成20年度に重点的に実施する具体的施策

 第6次基本測量長期計画は、平成16年度から平成25年度までの10年間における国土地理院の事業の目標及び規模を定めたものであり、平成20年度はその5年目を迎える。国土地理院では、高度情報通信ネットワーク社会において、最も基盤的な情報インフラとなる「位置情報」「地理情報」の整備・提供及び活用を進めてきたところである。

 これらの施策は、社会のニーズと合致して、国民の暮らし、安全を着実に支えてきたが、高度情報通信ネットワーク社会の進化は、想定以上の速さで進行しており、より高度な地理空間情報を、利便性の高いインターネット等で迅速に提供する、或いは収集できる環境が求められるようになった。地理空間情報活用推進基本法や改正測量法の目的に沿って、国の機関、地方公共団体、大学・研究機関、民間企業、国民等との密接な連携のもと、様々な地理空間情報の整備・提供、高度な利活用をさらに促進するため、スピード感と確実性を兼ね備えた新たな施策への転換が必要であり、基本測量長期計画の見直しを実施する。

 具体的には、国土地理院が今後、全国を対象とした基盤地図情報の整備・提供を担うことに鑑み、これまでの基本図の体系及びその整備・提供のあり方について見直しを行う。また、活発化する地殻変動に対応し、重点的に測地測量を行う地域等の見直しを行う。
 また、地理空間情報基盤が支える新しい社会を構築するため、第6次基本測量長期計画の見直しとともに、以下の3点を重点的に推進する。

新産業・新サービスの創出/ユニバーサル社会の実現

1.地理空間情報の共用化の積極的な推進

 位置をキーとして流通する情報を整理・統合するためのGISの重要性に鑑み、様々な地理空間情報の重ね合わせ利用を円滑に行うために必要な、位置の基準となる基盤地図情報の整備及び流通を積極的に推進するとともに、国土交通省をはじめ関係機関及び国民が保有する地理空間情報の共用化を推進する。

 国土地理院では、平成19年度から開始した基本測量と公共測量の成果を統合して作成する基盤地図情報の整備を、強力に推進するとともに、整備を完了した地域については、速やかに広く一般に提供を開始する。さらに、基盤地図情報を継続的かつ安定的に整備、更新、共用、流通等を行う仕組みを確立するため、公共測量に係る技術的な支援等を通して国土地理院と地方公共団体等との連携を強化する。
 また、基盤地図情報を含め、地理空間情報の整備、流通、活用を促進するために、ワンストップサービス、インターネット提供など、ネットワーク技術を活用したデータの提供を推進する。

(平成20年度に推進する施策)
1-1 整備、更新と提供の推進
 (1)位置の基準となる基盤地図情報等の整備と提供

  • 基本測量及び公共測量の成果等を統合した基盤地図情報を着実に整備し、整備を完了した地域より順次提供を開始する
  • 地理空間情報を支える位置情報基盤の高精度化を実現するため、その根幹となる国家基準点に、地殻変動に起因する誤差を減少させるセミ・ダイナミック補正を導入し、基本測量での実用化を図る
  • 変化した国土の状況を速やかに基本図データに反映するリアルタイム更新を推進し、数ヶ月以内のインターネット提供を実現するとともに、正射画像及び衛星画像データを活用し、更新の効率化を図る

 (2)基盤地図情報整備における地方公共団体や民間事業者との連携を推進

  • 国及び地方公共団体が行う基盤地図情報の整備及び更新を支援するため、技術的助言や空中写真の提供を行う
  • 基盤地図情報の整備、更新及び活用について、民間事業者との連携を推進する

整備、更新と提供の推進

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1-2 流通と活用の推進
 (1) 政府一体となった地理空間情報の流通と活用を推進

  • 基盤地図情報の普及促進、公共測量作業規程準則の普及啓発、公共測量成果複製・使用承認のワンストップ化により、地理空間情報の流通と活用を推進する
  • 測量成果管理・提供システムの拡充強化を実施し、基盤地図情報や公共測量成果をより簡便・迅速に入手できるワンストップサービスやインターネット提供を開始する
  • 次世代を担う人材への地理教育を積極的に推進するため、児童生徒作品展の開催、電子版ナショナルアトラスの利用等を通して、学校教育との連携を推進する
  • 地理空間情報活用推進基本計画の推進等において中核的な役割を果たし、地理空間情報を高度に活用した社会の実現を図る

 (2) 電子国土の普及を促進

  • 多様な背景地図情報の提供等、地理空間情報を発信、利用できる環境を広く提供する電子国土Webシステムの機能を拡充するとともに、電子国土を活用した地理空間情報プラットフォームを構築する
  • 国及び地方公共団体に対して、その保有する地理空間情報の提供を促し利活用を推進するため、技術的支援、セミナーの開催等の普及啓発を実施する

 (3) 地理情報標準等の広報・普及啓発を推進

  • インターネットでデータを容易に交換・流通するための国内規格としての地理情報標準及びその実用標準である地理情報標準プロファイルにインターネット対応のための規格を策定する
  • 行政機関、民間企業、国民等、GIS実務者が使いやすい地理情報標準プロファイルに関する各分野別マニュアルを作成するとともに、説明会、講演会及びインターネットを利用した広報・普及啓発を実施し、地理空間情報の標準化を推進する

流通と活用の推進

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国民の生命・財産を守り安全・安心を確保

2.国土の常時監視とスピード感・確実性を備えた情報の提供

 国土の状態を常に監視し、地震、火山噴火、水害、土砂災害等の自然災害から、国民の生命・財産を守り、安全、安心を確保することは、災害対策基本法に基づく指定行政機関としての国土地理院の責務である。
 航空機や人工衛星等を使った様々なモニタリング技術を高度に組み合わせて活用し、総合的に地殻変動や地表の変化を監視し、災害の前兆を捉えるとともに、被災状況の把握の迅速化を図り、地殻変動メカニズム解明の高度化等、迅速で効果的な災害対応を支える技術の研究開発を推進する。

 特に、全国整備された電子基準点によるGPS連続観測、運用を開始した陸域観測技術衛星「だいち」による干渉SAR(サー)、航空機による空中写真撮影等を総合的に組み合わせたリアルタイム監視体制の強化を図る。
 また、国土地理院が保有する地図データ及び防災地理情報を、わかりやすく、迅速に提供する。

(平成20年度に推進する施策)
 (1) 国土監視の強化を推進

  • 迅速かつ広域な災害情報の把握のため、被災地域の空中写真撮影等に必要な航空機の更新を行う
  • 東南海・南海地震の地殻変動監視体制を強化するため、電子基準点を増設するとともに、全国の電子基準点を計画的に更新する
  • 干渉SARによる地殻変動や表層地盤変動等の面的な監視を定常的に実施する
  • 官民協定に基づく災害時の緊急観測体制の強化を図るなどして、現地調査を一層迅速に行う
  • 火山噴火予知の高度化を図るため、多様な観測機器及びデータ通信機能を備えた改良型GPS火山変動リモート観測装置(REGMOS)を開発する

 (2) 防災対策に役立つ地理空間情報を提供

  • 地方公共団体単位で整備されている各種ハザードマップと、土地条件図、活断層図等の防災地理情報を統合的に検索・閲覧を可能にするハザードマップポータルサイトの高度化と本格運用を行う
  • 近年多発する自然災害に係る防災・減災対策に有効なデジタル標高地形図等を整備、提供する
  • 防災情報を共有し災害予防などに資するため、国民誰もが利用しやすい災害情報共有システム(DISS)の構築に着手する
  • 大規模災害発生時、被災地の災害用対策図を速やかに(災害発生から1時間以内を目途)関係機関に提供するためのシステムを構築する

 (3) 地殻変動解析技術を高度化して、その用途を拡大

  • 火山地域で他の機関が運用しているGPS連続観測のデータを国土地理院に集約し、GEONET(ジオネット)の全国解析に統合する解析システムを構築することにより、火山活動の監視体制を強化する
  • プレート間の相互作用として発生する海溝型大地震の発生モデルの精緻化及びその活用により、海溝型大地震の地震発生予測の向上を図る
  • より詳細でわかりやすく、定量的な表現の地殻変動情報の提供等を目的として、干渉SAR解析技術のより一層の高度化を図る
  • 斜面災害における早期警戒体制の確立、地域住民の避難誘導等に資するため、干渉SAR解析画像を活用した地すべり等の斜面災害モニタリングの手法について技術開発し、その利活用分野の拡大を図る

国土の常時監視とスピード感・確実性を備えた情報の提供

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地球規模の防災・環境保全/国際標準化

3.測量・地図技術を活用した国際社会への貢献

 総合科学技術会議は、イノベーションに向けた科学技術政策の課題として、環境問題等での国際貢献が重要であることを指摘した。科学技術を外交に生かす「科学技術外交」なる新しい視点に立ち、国際社会に貢献するため、VLBI、GNSS、地球観測衛星等の宇宙技術を駆使した地球規模の防災・環境問題の解決のための監視、解析、情報提供を積極的に推進する。

 国土地理院は、地球規模の基盤的な地理空間情報である「地球地図」の整備を、地球地図国際運営委員会(ISCGM)事務局として、強力なリーダーシップを発揮して推進してきた。平成19年度末には、全球陸域を対象として、地球環境の現状を統一規格で示した「地球地図第1版」の整備が完了することから、森林破壊や砂漠化をはじめとする地球規模での環境問題等の解明に、その成果の活用と普及を図る。

 また、VLBI、GPS、干渉SAR等の宇宙技術を利用して、日本列島とその周辺・太平洋地域を含めた災害対策等に貢献するとともに、世界各国との国際共同観測・解析を推進し、我が国の測地系と地球規模の測地基準との整合性の維持を図る。

(平成20年度に推進する施策)
 (1) 科学技術外交への積極的な貢献

  • 地球地図第1版の活用と普及を図るため、環境問題を主要テーマとする北海道洞爺湖サミットに合わせて地球地図フォーラム2008 を開催し、その有用性を世界に発信する
  • 地球地図国際運営委員会(ISCGM)事務局として、地球地図プロジェクトを一層推進するとともに、政府開発援助(ODA)を活用した地球地図第2版の整備に着手する
  • アジア太平洋GIS基盤常置委員会(PCGIAP)の副会長国及び地域測地作業部会長国として、アジア太平洋地域における地殻変動監視プロジェクトを推進するとともに、災害状況の把握等の防災・減災に向けた取り組みを引き続き推進する
  • 海外の自然災害発生時に、干渉SARを利用した災害状況の面的把握と国際緊急援助等に利用する災害用対策図等の提供を推進する

 (2) 地理空間情報の国際標準化

  • 地理空間情報に係るISOの国際規格策定等への参加を通して、地理情報標準などの国内基準策定に貢献するとともに、平成20年度に日本で開催予定のISO/TC211の総会について、積極的に支援を行う
  • 地球姿勢パラメータの決定、地球基準座標系の維持、GPS衛星の精密軌道決定等に資するため、国際VLBI事業(IVS)、国際地球回転・基準系事業(IERS)及び国際GNSS事業(IGS)へ積極的に参画する

測量・地図技術を活用した国際社会への貢献

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