国土地理院を取り巻く状況

1.人口減少・少子高齢化社会の到来等の社会情勢

 我が国の人口は、少子・高齢化社会の進展に伴い減少局面を迎え、併せて各地で過疎化問題が深刻化している。このような状況下で、これまでの開発・量産を基調とした行政は、時代に適合しなくなってきている。この少子・高齢化社会においては、労働人口が急激に減少していくことが予想され、限られた予算の中で、適切な社会資本等の配置が一層重要となり、さらには各分野において、業務の効率化・省力化が急務となってくる。これらの問題に対処するには、地域を新たな視点、より広域な視点で見直す必要があり、その中で膨大な量の情報を、位置を軸として効率的に管理・活用し、様々な条件を瞬時に比較衡量できる地理情報システム(GIS)※を利用して、新たな視点の行政を進めていく必要がある。

 また、少子・高齢化社会において、懸念される社会の活力の低下や経済のグローバル化、国民の価値観の多様化に対しては、地理空間情報※の活用の推進を通して、国民一人一人が社会に参画する機会の増大や、国民生活の質の向上及び産業の活性化等も同時に図っていく必要がある。

2.測量法の改正

 デジタル技術の発達により、測量分野においても電子機器が広く使用されるようになった。得られる測量成果や測量記録も、品質を低下させることなく複製、加工及び管理が容易にできることから、電子データによる納品、利用が既に一般的となっている。また、利用者からは、近年の爆発的なインターネットの普及により、迅速で利便性の高い電子データによる測量成果等の提供、流通が求められるようになった。

 このような変化する時代のニーズに即し、測量成果の活用を一層促進するため、地図等の基本測量の測量成果をインターネットにより提供する制度の創設、測量成果の複製又は使用に係る規制の緩和、測量成果の利用手続きの利便性を高めるインターネット上でのワンストップサービス※等の措置を講ずる測量法改正が行われ、平成20年の施行が予定されている。

 これらにより、地図等の更新期間の短縮、提供のスピードアップ等が図られ、国民生活の利便性が一層向上するとともに、営利目的でも複製が可能になることから、測量成果を活用した新産業・新サービスの創出が期待される。

3.地理空間情報活用推進基本法の施行

 近年の高度情報通信社会では、インターネット上での地図情報の提供、携帯電話への地図情報の配信等、数値地図の利用サービスは急速に拡大してきており、様々な情報を地図に関連づけて統合する地理情報システム(GIS)は、携帯電話に代表されるような誰でも扱える端末機の発展、GPS※を利用した測位技術等関連分野との連携により、日常生活にも浸透してきている。

 しかし、多くの地理空間情報は、整備主体ごとに作成されているため、互いに重ならないことや、地理空間情報を共有する共通の基盤となる大縮尺の白地図(基盤地図情報※)が整備されていないことなどによって、高度な活用は進んでいない。

 このような状況下にあって、国民生活の利便性の向上、新産業・新サービスの創出、行政の効率化・高度化等を実現するには、地理空間情報を高度に活用することが極めて重要であることから、その推進を目的とする地理空間情報活用推進基本法が本年5月に成立し、8月29日に施行されることとなった。

 この法律により、地理空間情報と衛星測位の活用に関する枠組みが定められ、国及び地方公共団体は、地理空間情報の活用の推進に関する施策を策定し、実施する責務を有することとなった。また、この法律の規定に基づき、基盤地図情報に係る技術上の基準が定められることとなった。

4.イノベーションの推進

 本年6月1日に閣議決定された政府の長期戦略指針「イノベーション25」では、基盤地図情報の整備をはじめとして、地理空間情報プラットフォーム※の構築を行うこととされている。また、5月25日に策定された「国土交通分野イノベーション推進大綱」においても、社会経済の基盤づくりの分野において、様々な主体が多様な応用に使える汎用性の高いイノベーション創出のための共通基盤として、位置に関する情報を含んだ情報の幅広い共有化等を可能にする地理空間情報プラットフォームの構築とそのための地理空間情報基盤の整備が明示された。これらの指針・大綱に沿って、地理空間情報基盤の整備及び普及を図っていくに際しては、関係府省との連携の強化が一層重要となる。

5.社会資本整備重点計画との連携

 平成20年度に策定が予定されている「社会資本整備重点計画」は、成長力の強化と地域の自立・活性化や、老朽化した社会資本ストックの維持管理・更新等の強化を念頭に検討が進められている。次期重点計画において、対応すべき課題となっているものは多岐に渡るが、そのひとつとして、情報通信技術を活かしたイノベーションの推進がある。社会資本整備の分野において、様々な主体が多様な応用に使える汎用性の高い共通基盤を構築することがイノベーションにとって重要である。このため位置に関する情報の幅広い共有化や高度な活用を可能とする、地理空間情報基盤の整備を推進していく必要があるとされている。

6.北海道洞爺湖サミットに向けた地球地図国際運営委員会の活動

 地球全体の基盤的地理空間情報は、経済活動をはじめとする人間の諸活動がグローバル化した状況において、地球規模の環境問題対策、自然災害対策、経済政策、危機管理対応等、様々な施策を立案・実施する上で不可欠となっている。平成4年(1992年)にリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」における、「持続可能な開発に向けた意志決定のための情報収集の強化が必要(アジェンダ21)」との指摘を踏まえ、同年、建設省(現在の国土交通省)は、地球環境の現状と変動の把握のための地球規模の基盤的地理空間情報を、国際的な協力により整備する「地球地図※構想」を提唱した。平成8年(1996年)には、地球地図構想をプロジェクトとして推進する地球地図国際運営委員会(ISCGM)※が設立され、国土地理院はその事務局としてプロジェクトを中核的に推し進めている。

 本年6月に開催されたハイリゲンダムサミットにおいては、気候変動が大きなテーマのひとつとなり、2050年に世界全体のCO2排出量を半減させることを検討するなどの合意が得られた。これを受け、平成20年に開催される北海道洞爺湖サミットにおいては、地球環境問題が大きな議題になると見込まれる。このため、地球地図の整備・活用の立場から、「環境保全」「CO2削減」等をキーワードとした情報発信をすることが重要である。