今後の活動展開の検討ワーキンググループ報告書

1.はじめに

 「地震予知連絡会 今後の活動展開の検討ワーキンググループ」(以下「本ワーキンググループ」という。)は、平成19年5月14日開催の第173回地震予知連絡会において、地震予知連絡会の今後の活動展開に関する検討を行うことを目的に設置が決定された。

 この決定の背景には、平成15年7月の科学技術・学術審議会建議「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の推進について」(以下、「現行の建議」という)において「平成17 年度以降に、地震危険度が相対的に高いとされた地域において、推進本部が重点的調査観測等の対象地域を選定することが想定されるので、それを踏まえて、地震予知連絡会が指定したこれまでの特定観測地域等の在り方を抜本的に見直す必要がある。」とされた後、平成17年8月30日に地震調査研究推進本部によって「今後の重点的調査観測について」が策定されたこと等がある。

 このため、本ワーキンググループにおいては、現行の建議、「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の実施状況のレビューについて」(平成19年1月、科学技術・学術審議会測地学分科会)及び「地震及び火山噴火予知研究計画に関する外部評価」(平成19年6月、地震及び火山噴火予知計画に関する外部評価委員会)などを踏まえて、地震予知連絡会の運営の在り方、特定観測地域・観測強化地域の在り方等について検討することとした(別紙1)。

2.ワーキンググループ委員

 島崎邦彦主査(東京大学地震研究所教授)ほか8名で構成する(別紙2)。

3.検討経緯

 第1回ワーキンググループ会議は平成19年8月3日に開催された。特定観測地域・観測強化地域の在り方について検討するにあたり、地震予知連絡会に関連する周辺の動き、地域指定に関する地震予知連絡会内での検討経緯、地震予知連絡会の特定観測地域と観測強化地域(以下「指定地域」という。)で発生した地震に対する地震予知連絡会の対応について、事務局資料をもとに議論を行った。
 第1回ワーキンググループ後、本ワーキンググループ専用のメーリングリストを開設し、地震予知連絡会の地域指定、本会議・トピックス部会の運営方法等について議論を行った。なお、その中で地震予知連絡会の名称等についても話題となった。

 第2回ワーキンググループ会議は平成19年10月15日に開催された。地震予知連絡会設立の経緯と目的、地震予知連絡会が果たしてきた役割、地震予知連絡会で議論するテーマの候補(案)について、事務局資料と平田委員による科学技術・学術審議会測地学分科会における次期建議の検討状況についての説明をもとに、地域指定に代わる議題・テーマや、地震予知連絡会の運営方法について議論した。この結果、固定した地域にとらわれることなく、新たにテーマを選定する必要があるとの方向性が確認された。
 平成19年11月19日開催の第175回地震予知連絡会にて、それまでのワーキンググループにおける検討結果をまとめた中間報告が提出され、了承された。

 第3回ワーキンググループ会議は平成20年2月6日に開催された。本ワーキンググループの最終報告について議論し、確定後、平成20年2月18日開催予定の第176回地震予知連絡会で報告することが確認された。

4.検討結果

4.1 地震予知連絡会の地域指定について
 地震予知連絡会の指定地域は、限られた観測・研究資源の中で、各種の観測研究を集中的に行うことにより、地震予知の実用化を推進するために、昭和45年に指定された(昭和53年に一部変更)ものである(別紙3)。この地域指定がなされたことによって、指定地域における多種多様な観測データが蓄積されていき、地震予知研究の効率化が図られ、地震予知研究の発展に大きく貢献してきた。よって、地域指定はその役割を十分発揮してきたといえる。なお、指定後に発生した大地震の多くが指定地域やその周辺で起こったことから、その指定が適切であったことが伺える(別紙4)。
 しかし、地震予知連絡会が地域指定を行って30年以上経過し、地震予知連絡会を取り巻く環境も大きく変わってきた。「地震に関する基盤的調査観測計画」(平成9年8月29日、地震調査研究推進本部)により全国的な基盤的調査観測網が整備され、指定地域で当初想定されていたレベルの集中的な観測体制が全国的に網羅されている状況となった。さらに、「今後の重点的調査観測について」(平成17年8月30日、地震調査研究推進本部)において、「全国を概観した地震動予測地図」で相対的に強い揺れに見舞われる可能性が高いと判断された地域の特定の地震を対象とした重点的調査観測対象の候補が選定された。
 また、地震予知研究において、従来は、地震の前兆現象の観測に基づき地震の発生を予測することに主眼が置かれていたが、最近では、地震に至る地殻活動の過程全体を理解しその最終段階である地震発生を予測することが、地震予知の実現につながるという考えが主流となってきた。
 これらのことから、地震予知連絡会では、固定した地域にとらわれず、全国を対象とした検討をすべきである。したがって、従来の地域指定を解消する必要がある。
 なお、地震予知連絡会の指定地域は、本来の意味に加えて、地震防災対策の観点から補助事業の対象条件や地域防災計画などにおいても幅広く引用されてきた。しかしながら、現状においては、大規模地震対策特別措置法などの法律整備により、法に基づく地震防災対策の地域指定がなされていることに加え、地震調査研究推進本部地震調査委員会により「全国を概観した地震動予測地図」が作成されたことから、地域ごとの地震危険度が比較可能になった。よって、地震防災対策の観点からの地域の特定には、地震予知連絡会の指定地域にかえてこれらを用いることが適切である。

4.2 今後の地震予知連絡会の活動のあり方について
 これまで地震予知連絡会では、関係機関から提出される全国の定常的な地殻活動モニタリング結果を精査し、情報の交換等を行ってきた。この役割は非常に重要であることから、今後もより一層充実させていく必要がある。これに加え、地震予知研究の推進のためには、充実した観測体制をふまえて、地震予知研究に飛躍的な発展をもたらす可能性がある現象や問題、あるいはその解決が波及的な効果をもたらすボトルネックとなる問題等について、集中した検討を行うことが必要である。そういった意味で、ある地域に特定するだけではなく、ある現象や問題(以下「テーマ」という。)を選定し議論を行う必要がある。テーマの候補としては、プレート境界すべりのモニタリング、低周波微動・地震やスロースリップの効果的モニタリング、地震先行現象のモニタリング、観測値のゆらぎと異常の検知、西南日本の内陸域や推本長期評価による発生確率の高い地域におけるデータの集中的検討、及び、地震活動や地殻変動を用いたモニタリングの高度化等が挙げられる(別紙5)が、次期建議を受けて今後、テーマを詳細に検討していく必要がある。

5.今後の課題

 現行の建議は平成20年度までの計画であり、平成21年度からは次期の建議の下での活動が始まる。次期の建議に基づく地震予知連絡会の活動についてさらに具体的に議論し、できるだけ早い時期に新しい活動体制へと移行する必要がある。また、これを受けて地震予知連絡会運営要綱を改訂する必要がある。
 そのための課題は以下のとおりである。

5.1 テーマの選定方法及びトピックスとの関係について
 4.2.で述べたとおり、固定した地域にとらわれることなく、あるテーマに注目した議論を行う必要がある。地震予知連絡会では、これまでも、トピックスとして、その時々で重要な課題を取り上げ、議論を行ってきている。今後、地震予知連絡会としてテーマを選定していく際には、トピックスとの関係について整理する必要がある。

5.2 テーマについての議論のフィードバックについて
テーマについての議論をモニタリング手法の高度化等にフィードバックさせることについて検討する必要がある。

5.3 地震予知連絡会の運営方法のあり方について
 地震予知連絡会では、必要に応じて、あるイベントに絞った臨時の地震予知連絡会や地域部会を開催し、掘り下げた議論を行ってきた。しかし、通常の地震予知連絡会では、すべての重要な話題について時間の制約上必ずしも十分な議論がなされているとはいえない。有効に議論を進めていくためには、資料の作成方法や説明方法を工夫して、資料説明時間の削減を図り、議論の時間を十分にとることが考えられるが、そのための運営方法を検討していく必要がある。その中で、従来の地域指定に基づいて行ってきた議論や検討のフォーカスの仕方を、選定したテーマについて有効に議論できるものにかえていく必要もある。さらに、これに伴い、従来の部会(東日本部会、中日本部会、西日本部会、トピックス部会)のあり方についても検討する必要がある。

5.4 成果の社会への還元のあり方について
 成果の還元の観点では、地震予知連絡会会報を年2回発行すると共にホームページにおいて公開しており、地震の研究者から貴重なデータとして高い評価を得ている。一方、地震予知連絡会で議論されてきた内容については、会議を公開しているものの外部への報告は必ずしも十分ではない部分がある。今後は、議論した内容についても積極的な社会への還元方法について検討していく必要がある。また、地震予知連絡会での活動を広く国民に理解してもらうには、地方開催も一つのアイデアとして検討する必要がある。