世界測地系移行に関する質問集(Q&A)

1.世界測地系

(問1-1)世界測地系とは何か。

(答)  世界測地系とは、世界で共通に利用できる位置の基準をいいます。
 測量の分野では、地球上での位置を経度・緯度で表わすための基準となる座標系及び地球の形状を表わす楕円体を総称して測地基準系といいます。つまり、世界測地系は、世界共通となる測地基準系のことをいいます。
 測量法では、世界測地系を次のように定義しています。
 世界測地系とは、地球を次に掲げる要件を満たす扁平な回転楕円体であると想定して行う地理学的経緯度の測定に関する測量の基準をいう。
一 その長半径及び扁平率が地理学的経緯度の測定に関する国際的な決定に基づき政令で定める値であること。
二 その中心が、地球の重心と一致するものであること。
三 その短軸が、地球の自転軸と一致するものであること。
 これまで、各国の測地基準系が測量技術の制約等から歴史的に主に自国のみを対象として構築されたものであるのに対し、世界測地系は世界各国で共通に利用できることを目的に構築されたものです。世界測地系では、地球を良く近似している楕円体(準拠楕円体)で地球上の位置(経度・緯度及び平均海面からの高さ)を表します。また、これに代えて地球重心を原点とする3次元直交座標系を用いて表わすこともできます。世界測地系は、VLBIGPS等の高精度な宇宙測地技術により構築維持されています。

(問1-2)日本測地系とは何か。

(答)  日本測地系は、明治時代に全国の正確な1/50,000地形図を作成するために整備され、改正測量法の施行日まで使用されていた日本の測地基準系を指す固有名詞です。日本測地系は、ベッセル楕円体を採用し、天文観測によって決定された経緯度原点の値と原方位角を基準として構築されました。

(問1-3)測地成果2000とは何か。

(答)  測地成果2000は、世界測地系に基づく我が国の測地基準点(電子基準点・三角点等)成果で、従来の日本測地系に基づく測地基準点成果と区別するための呼称です。測地成果2000での経度・緯度は、世界測地系であるITRF94座標系(International Terrestrial Reference Frame:国際地球基準座標系)とGRS80(Geodetic Reference System 1980:測地基準系1980)の楕円体を使用して表します。標高については、現在と同様に東京湾平均海面を基準に表します。
 測地成果2000の水平位置の算出は、宇宙測地技術を駆使したVLBIやGPSを利用した電子基準点の観測値に基づいて、全国の三角点について新たに計算を行って求めました。
 なお、三角点の標高については、測地成果2000の構築にあたって全国一斉に更新を行うことはせず、現在と同じく大きな変動が判明した地域について逐次更新を行います。

(問1-4)日本測地系2000という言葉は何を意味するものか。

(答)  世界測地系は、概念としてはただ一つのものですが、国ごとに採用する時期や構築に当たっての詳細な手法及び実現精度が異なります。従って、将来、全ての国が世界測地系を採用したとしても、より精度の高い測地基準系を構築する必要が生じた場合や、地殻変動が無視できないほど蓄積した場合は、各国の測地基準系を比較したり、ある国の測地基準系だけが再構築されたりします。このため、測地基準系には、構築された地域ごとに個別の名称が付けられています。
 日本測地系2000とは、世界測地系のうち我が国が構築した部分の名称をいいます。命名に当たっては、我が国の測地基準系であること、二千年紀の初頭に構築されたことを意識しています。

(問1-5)地球重心系とは何か。

(答)  地球重心系は世界測地系と同義です。世界測地系という言葉が「世界共通であること」に重点をおいた表記であるのに対し、地球重心系という言葉は「座標系の原点を地球重心にもつこと」に重点をおいた表現となっています。地球重心系は、人工衛星の軌道計算のように、地球の重心のまわりを運動する物体を扱う場合によく使われるようです。

(問1-6)世界測地系は単一のものではないのか。

(答)  世界測地系は、概念としてはただ一つのものですが、国ごとに採用する時期や構築に当たっての詳細な手法及び実現精度が異なります。構築にあたって詳細な手法のうち代表的なものに、ITRF系、WGS系、PZ系の3種類あります。
 ITRF系は、我が国をはじめ多くの国家が陸域で採用しています。WGS系は、主に船舶が採用しています。PZ系は、ロシアが採用しています。

(問1-7)ITRF系とは何か。

(答)  ITRF系(International Terrestrial Reference Frame:国際地球基準座標系)とは、IERS(国際地球回転観測事業)という国際的な学術機関が構築している3次元直交座標系です。この座標系では、地球の重心に原点を置き、X軸を本初子午線と赤道との交点の方向に、Y軸を東経90度の方向に、Z軸を北極(地軸の北端)の方向にとって、空間上の位置をX、Y、Zの数字の組で表現します。
※国際地球基準座標系(ITRF)では、IERS基準子午線を本初子午線としています。IERS基準子午線は、グリニッジ子午線(英国のグリニッジ天文台のエアリー子午環を通る子午線)の102mほど東を通過します。

(問1-8)世界測地系としてITRF系を選んだ理由は何か。

(答)  以下の理由によります。
(1) 日本を含む国際協力で構築されている。我が国は、VLBI、GPS等の国際共同観測を通して、ITRF系の構築に貢献しています。
(2) 高精度である。大量の宇宙測地観測結果から計算されるため高精度なものとなっています。
(3) 公開性が高い。一国により、又は軍事目的に構築されたものではないので、オープンなものとなっています。

(問1-9)ITRF系は、今後変わらないのか。

(答)  ITRF系は、常に最新の宇宙測地データを使って更新されていきますので今後も精度を上げるような変更がなされます。しかし、その変化量は非常に小さく、また、既に測量には十分な精度が得られているので実用上は我が国の測地基準系を変更する必要はありません。

(問1-10)世界測地系としてWGS84というのもあると聞くが、WGS84とは何か。

(答)  WGS84は、米国が構築・維持している世界測地系です。GPSは、もともと軍事用で開発されたため、WGS系で運用されています。
 WGS84は、高精度・継続性よりむしろリアルタイム性が重要視される軍事、航法、海図、ナビゲーションの分野に適した世界測地系です。
 また、WGS84は、これまでに数回の改定を行っていますが、その都度ITRF系に接近し、現在ほとんど同一のものといえます。

(問1-11)GRS80楕円体とは何か。

(答)  GRS80(Geodetic Reference System 1980:測地基準系1980)は、IAG(International Association of Geodesy:国際測地学協会)及びIUGG(International Union of Geodesy and Geophysics:国際測地学及び地球物理学連合)が1979年に採択したもので、地球の形状、重力定数、角速度等地球の物理学的な定数及び計算式からなります。GRS80では、楕円体の形状や軸の方向及び地球重心を楕円体の原点とすることも定められています。この楕円体をGRS80楕円体といい、現在、地球を最もよく近似している楕円体として広く用いられています。

(問1-12)理科年表に「地球の大きさに関する最新の値」が掲載されている。これは、世界測地系が採用しているGRS80楕円体のことと思われるが、値が少し違うがどうしてか。

(答)  世界測地系が採用しているGRS80楕円体の定数は、1979年のIAG(国際測地学協会)及びIUGG(国際測地学及び地球物理学連合)総会において採択されたものです。
 一方、理科年表の数値は、その後のより精度の高い値として1983年のIAG総会において発表された値が記載されているものです。しかし、IAGでは、この値は測地基準系に用いることを目的として発表したものではないため、測地基準系には1979年にIAG及びIUGGの両者で採択された値を用いるべきであるとしています。
 このため理科年表の値と世界測地系が採用している値とは、異なる値となっています。
 ただし、理科年表の注記に「基準値として地球の赤道半径、扁平率を用いる場合は・・」として、測地基準系1980の数値が記載されています。その数値は、測量法施行令に規定されたものと同じです。理科年表の値と世界測地系が採用している値とは、異なる値となっています。

(問1-13)GRS80楕円体とITRF系との関係は。

(答)  GRS80楕円体は、地球を近似する回転楕円体であり、その形状や大きさ及びその位置や向きが決められていますが、座標系については明確に決められていません。
 ITRF系は、GRS80楕円体と整合するように定義された3次元直交座標系をいい、地球の重心に原点を置き、X軸を本初子午線と赤道との交点の方向に、Y軸を東経90度の方向に、Z軸を北極(地軸の北端)の方向にとって空間上の位置をX、Y、Zの数字の組で表現します。
 改正された測量法では、位置の表示に地心直交座標を用いることができることが新たに規定されましたが、この地心直交座標系として、具体的には1994年における地球の状態に基づいて規定されたITRF系の座標系であるITRF94座標系を使用して位置を表示することとしています。

(問1-14)ジオイド高とは何か。

(答)  ジオイド高とは、地球の形を最も良く近似している楕円体(準拠楕円体)からジオイドまでの高さを言います。
 ジオイドとは、地球を水で覆ったと仮定した時の地球の形を表している測地学・地球物理学の用語です。地球を構成している岩石の密度が一様でないため、ジオイドは楕円体から見ると多少でこぼこしています。また、ジオイドは、地球上にできる幾つかの水準面のうち、高さ0mを通る水準面でもあります。我が国では東京湾の平均海水面を0mとし、標高を求めています。つまり、ジオイドからの高さが標高になるわけです。

(問1-15)世界中で経度・緯度の基準(測地系)はいくつあるのか。

(答)  分かっているだけでも陸域・海域合わせて100以上の基準があります。これは、問1-4で示したように、国ごとに経緯度の基準を決定する時期や構築に当たっての詳細な手法及び実現精度が異なるため、ほぼ国家の数に相当する数の測地基準系が存在するのです。

(問1-16)世界測地系は、世界の何カ国で採用されているのか。

(答)  近年、各国で地図の測地基準系を世界測地系へ移行する動きがあり、陸の地図ではイギリス、韓国、オーストラリア等約50ヶ国以上が移行しました。とりわけここ数年間に各国で移行の動きが顕著になっています。

(問1-17)世界測地系の導入の際には、他の国でも経度・緯度の表示は変更したのか。

(答)  他の国においても経度・緯度の表示が変更がされました。

(問1-18)世界測地系を導入した理由は何か。

(答)  以下の理由によります。
(1) 1996年、米国はGPSの民生利用を想定した継続的なサービスの提供を表明しました。この表明以降、我が国でもGPSの本格的な普及が始まりました。
(2) 国際水路機関が水路測量の基準については世界測地系に基づくべきことを定め、さらには2000年に文部省(現文部科学省)測地学審議会が海図及び地図の測地系を世界測地系へ早期に移行すべきことなどの提言をおこないました。
(3) このような流れを受けて、我が国においても、世界測地系への移行を行いました。

(問1-19)世界測地系が導入され、何が変わるのか。

(答)  世界測地系が導入され、国内の全ての場所において、座標値(経度・緯度等)が変更になりました。したがって、測量関係はもちろん、その他の分野でもこれまでの方式の変更或いは既存の資料の訂正を必要とする場合が生じます。

(問1-20)測地成果2000とGPSで採用している座標系の名称は異なるが、今後ともGPSでの測位結果を変換することになるのか。

(答)  GPSで採用しているWGS84系は過去2回の大きな改訂を経て測地成果2000の算出基準となっているITRF系に接近し、現在両者の変換パラメ-タは1cm以下と言われています。このため、両者は実用上同一と見なして差し支えないため、変換の必要はありません。

(問1-21)日本測地系の経度・緯度は間違っていたのか。

(答)  日本測地系と世界測地系の間の経度・緯度のずれは、経度・緯度を決めるための基準が昔と今とで異なるために生じたものです。このずれは、日本測地系を構築した当時の明治時代の測量の出来が悪かったために生じた訳ではありません。
 当時の技術では、地球全体を統一的に測量することは技術的に不可能だったため、天文観測を基に国ごとに原点の経度・緯度を定め、それを基準として国ごとに測量を行いました。人工衛星などを用いて地球全体を統一的に測量することができるようになった現代では、世界的に統一した基準、すなわち、世界測地系に基づいて経度・緯度を決めることができるようになりました。

(問1-22)経度・緯度の基準が国ごとに異なる場合は世界地図はどうやって作るのか。

(答)  国ごとの測地基準系の違いによる経度・緯度のずれは、国によって大小の差はあるものの大きくても距離に換算すると500m程度です。世界地図に用いられる地図の縮尺は、一般に1/1,000万あるいはそれよりも小さいので、地図上では経度・緯度のずれは0.1mm以下となりますから、地図上にずれが表れることはありません。