津波遡上域分布図の作成原理・手順・凡例

人工衛星レーダー画像を利用して、津波遡上域分布図を作成する方法について、解説します。

1.基本原理

原理1).レーダー画像では、陸は白く、水面は黒く表現されます。

合成開口レーダー(SAR)では、人工衛星から真下の観測は行わず、衛星進行方向右斜め下方向にマイクロ波(電波の一種)を送信し、地表の散乱波を受信します。水面では鏡のように全反射してしまい、散乱波はほとんど帰ってきませんが、陸上には凸凹があるので散乱波が受信されます。レーダー画像では、散乱波の強さ(散乱強度)が強い場所を白く、弱い場所を黒く表現します。家屋等の人工構造物や起伏のある地面は、白や灰色に写ります。

原理2).光の3原色の加色混合の原理。
画像 光の3原色の加色混合の原理 赤い光(R)と緑の光(G)と青い光(B)を混ぜ合わせると白くなります。
散乱強度が強いところは、この白を使っています。今回は、白の変わりに赤(地震前の画像)、及び、水色(地震後の画像)を割り当てました。
緑(G)と青(B)を混ぜると、水色(G+B)になります。赤(R)と水色(G+B)を混ぜ合わせて、白(R+G+B)を作ります。

作成手順

(1)2つの強度画像A,Bの位置を精密に合わせる。
(2)画像Aを白~黒の濃淡から、赤~黒の濃淡画像に変換する。
(3)画像Bを白~黒の濃淡から、水色~黒の濃淡画像に変換する。
(4)2つの画像を重ね合わせ、色の混合を行う。

散乱強度が強い場所について、色の混合を式で表現すると、次のようになります。

地震前 赤色 : (R,G,B)=(100%,0%,0%)
地震後 水色 : (R,G,B)=(0%,100%,100%)
両者を混ぜ合わせると、
比較 白色 : (R,G,B)=(100%,100%,100%)

比較画像上では、

  • 2つの画像上で、散乱強度の強い陸の場合には、赤と水色が混ざり白くなります。
  • 一方、陸が水没した場合には、赤のままになります。
  • また、隆起などで新たに陸地ができ上がった場合には、水色として表現されます。
  • 津波により家屋や植生が破壊され、地面が滑らかになった場合には、散乱強度が少し減少するので、薄い赤として表現されます。

3.凡例 - 図の見方

散乱強度の変化 海岸部の例
地震前 地震後
変化なし
変化なし
強度が減少
水色 強度が増加

4.Q&A

Q1.内陸部にも、赤、青の部分が見られますが、これらは、「陸⇔海」の変化を示していますか?

A1. いいえ。図はあくまで散乱強度の変化を色で表したものなので、なんらかの理由で散乱強度が増加・減少した場合には、水色・赤色に表現されてしまいます。例えば、作物が茂った田畑の散乱強度は作物のない時期には減少すると考えられます。また、例えば、雨期に水面だった場所の散乱強度は乾期には増加すると考えられます。

Q2.海上で海が赤くなっているところがありますが、これはどうしてですか?

A2. 地震前の画像取得時には、赤い部分において、波が高かったようです。波があると水面の一部分が衛星方向を向きますから、散乱強度が強くなります。地震後の画像取得時には、比較的、波が少なかったため、散乱強度が減少し、赤く表現されます。