最終更新日:2023年10月27日

精密単独測位(PPP-AR)を用いたGNSS 定常解析システムの開発

Development of a GNSS Routine Analysis System using Precise Point Positioning (PPP-AR)

著者

地理地殻活動研究センター  中川弘之・宮原伐折羅・宗包浩志

要旨及び本文

 国土地理院が現在運用しているGEONET 定常解析の結果は,我が国の地殻変動の基礎的な情報として防災関係の各種会議に活用されているが,迅速性や時間分解能の面で不十分な場合がある.そこで,整数不確定性を推定する精密単独測位法(PPP-AR 法)を用いて現在の解析より迅速に,1 秒間隔で電子基準点の24 時間の座標時系列を算出する手法を開発し,それを実装したプロトタイプシステムを構築した.本システムでは,データ取得後およそ2 時間半で電子基準点全点の座標時系列を得られた.
 システムで得られた座標時系列の安定性を評価するため,外的要因による観測データの品質劣化が明確な点を除いた全電子基準点について,1 年の試験期間の時系列解の水平成分で日々の標準偏差を求めたところ,平均値は約1cm となった.この精度は国土地理院が現在運用するRTK 法による電子基準点リアルタイム解析システム(REGARD)よりも高く,GEONET 定常解析で最も迅速なQ3 解における座標のばらつきの代表的な値にほぼ等しいことから、従来よりもばらつきの少ない座標値をより迅速に算出できることが示された.また,標準偏差には季節変化があり,夏期に大きく冬期に小さくなることを示した.
 次に,地殻変動監視への有効性の評価として,平成28 年(2016 年)熊本地震に伴う地殻変動の検出を試みた.地殻変動の水平成分は,本震(M7.3)では,概ね10cm よりも大きな地殻変動の水平成分は従来の解析と整合的であり,10cm より小さな地殻変動では,従来のRTK 法(REGARD)よりもGEONET定常解析と高い整合性を示した.また,本震の2 日前に発生した最初の前震(M6.5)とその2 時間半後に発生した同等規模の前震(M6.4)では,GEONET定常解析では時間分解能が足りずに分離できなかった地殻変動が,本システムでは分離できることが示された.さらに,この二つの地震を含む4 時間程度の期間内では,本システムがREGARD よりも安定した座標時系列を算出することが示された.

  本文 [PDF:1,797KB]

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、以下のページからダウンロードしてください。