8 世界測地系へ移行することによる影響
日本測地系から世界測地系への移行は、国や地方自治体が行う測量だけではなく、その他の民間で行う測量、いろいろなところで作られる地図にも影響します。また、法令や告示の中には経度・緯度で区域を表示しているものがありますので、世界測地系に基づいて作られた地図が普及することにより、このような文書にも影響が及ぶことになります。このように、世界測地系に移行するためには、測量関係はもちろん、その他の分野でもこれまでの方式を変更したり、既存の資料を訂正したりする必要があります。以下に、主なものを挙げてみましょう。
地方自治体等が設置した基準点の位置座標
国や地方自治体等が新規に測量を行う場合は、世界測地系に基づいて行うことになりますが、自治体等はこれまで公共測量により国土地理院が設置する基準点とは別に、独自の基準点を設置していますので、既存の基準点については位置座標を世界測地系に基づくように座標変換する必要があります。ただし、この変換は、既存の基準点成果すべてについて行う必要があるわけではなく、新規測量の計画や今後の利用計画に合わせて順次行うことが可能です。
地図
紙媒体の地図の多くは、経度・緯度で表示されています。新規に地図を作成する際には、世界測地系に基づく経度・緯度を表記することになります。また、既存の地図を引き続き使用する場合は、経度・緯度の数値表記が変更になります。
もし、経線・緯線を端数のつかない切れのよい数値の経度・緯度で表示したければ、線の位置を変更する必要があります。
ただし、地図上では地図投影の際に発生する誤差を超えるような大きな変化は生じませんので、変換だけのために地図の内容まで変える必要はありません。
GIS用地図データベース
GISの地図データベース
GISなどに用いられる地図データベース等のデジタル媒体に収録された地図は、基準点の位置と同様に座標で管理されていますので、世界測地系に基づく経度・緯度の表示になります。新規に作るデータ等との関係で既存のデータベースを変換する場合はすべて座標数値が変わることになります。
面積値
土地の面積の表示については、地表で測ったそのままの大きさで表わす場合もありますが、不動産登記などでよく用いられている方法は、楕円体に投影された面積値を用いるものです。後者のような表示方法を用いている場合は、楕円体が変更になると面積値も変化します。しかし、変化の程度は台帳等に現在記載されている面積値が含む測量等の誤差として法令で許容されている値の範囲よりはるかに小さいものなので、一般的には既存の面積値を書き換える必要はありません。
法令等の地域・地点の位置の表示
各種の法令や告示などで、経度・緯度で区域や地点を表示しているものが多数あります。これらについては、日本測地系に基づく値が表示されていたと考えられますので、世界測地系に基づく値での表示としてふさわしくない場合は、法令等の表記を変更する必要があります。
その他
全国各地には、経度・緯度の表示のあるモニュメントや、特色ある経度・緯度にちなんで特定の場所に設置された施設などがあります。これらについては、モニュメント等の目的にもよりますが、表示の変更や移設が適当な場合もあると考えられます。
以上のように、日本測地系から世界測地系へ移行するためには、日本測地系に基づく経度・緯度から世界測地系に基づく経度・緯度への変換を行う必要があります。ただし、これらの変換は、一時的なものであり一度変換すれば以後必要ありません。
なお、GIS関連の地図データベースの整備が今後社会の各分野で急速に進展すると予想されていますので、世界測地系に基づく測地基準点成果への移行の時期が遅くなればなるほど、変換対象データが増えて負担が増すことになります。