5. 空間情報が活用される社会をつくるための役割分担

 ~国、自治体、大学、企業、民間団体による空間情報の整備・提供と一層の利活用の推進~

 

 高度情報化社会において、測量成果等の空間情報は、行政の施策検討の基礎データとして利用されるばかりではなく、市民活動、企業活動、研究や教育においても広く利用される情報インフラとしてより重要な役割を担っている。したがって、今後の測量行政では、その成果である空間情報の利活用を一層重視すべきである。

 

 いま、空間情報を活用する社会づくりを検討するにあたって、(1)空間情報の整備と提供、(2)空間情報の利用環境の整備、(3)空間情報の多様な利用、(4)空間情報の整備・提供・利用に関する先導的研究と教育 に分類し、それぞれにおける国、自治体、大学、企業、民間団体の役割分担を考える。

(1)空間情報の整備と提供

 国土の基本的な空間情報は、国民の生命と財産の安全を確保するにあたって、必要不可欠な情報インフラである。さらに、広く一般に利用されるべきものであることから、この基本的部分は国が整備し、インターネット等を通して、無償もしくは適切な価格で提供すべきである。その際、空間情報は単なるデータの羅列になることなく、そのデータを活用するエンドユーザーのことを考慮したものとしなければならない。

 

 基本的な空間情報よりもさらに詳細な情報は、国・自治体がそれぞれ事業の必要に応じて整備するとともに、これらを他者も利用できるように公開するのが原則である。例えば、地方自治行政に必要な空間情報は、各自治体が整備したものを無償もしくは適切な価格で提供すべきである。

 

 企業は、国・自治体の空間情報を活用しつつ、国・自治体の事業では整備されない情報を提供する。産業界では、国・自治体の整備による良質で基盤となる空間情報が公開されることにより、その活用が進む。これらを活用しつつ、空間情報の付加価値をさらに高める情報を、自由で公正な競争の下で整備し、企業や個人それぞれの利用者のニーズを具体化することが産業の発展につながる。

 

 また、民間団体や個人は、国・自治体あるいは企業の提供する空間情報を活用しつつ、自ら収集した多様な情報を社会的な共有を目的に発信する。

 

 今後、国・自治体の空間情報の提供にあたっては、国・自治体から直接国民へ提供する形態よりも、これらの情報を企業や民間団体を介して付加価値を付けて国民へ提供する形態が主流になることが世の中の流れであり、これに対応すべきである。

 

 国・自治体が情報整備を外部に発注して行うにあたっては、測量の発注で従来行われてきた請負型の入札契約だけでなく、提案型の入札契約など、多様な入札契約方式の採用を検討すべきである。

(2)空間情報の利用環境の整備

 国、自治体、大学、企業、民間団体は、それぞれが空間情報を享受する利用者の立場でもある。国は、これらの利用者、さらには個人も含めた全ての利用者が電子化された空間情報を、インターネット等を通して共有できる環境を整備する役割を担う。電子国土の実現とは、単に空間情報を整備・提供することではなく、このような情報共有の環境を整備することである。利用者の観点からは、空間情報の所在が容易に分かり、空間情報が容易に入手できる環境の整備が喫緊の課題である。このようなものとして、空間情報のクリアリングハウス、あるいはさらに進めて、空間情報のワンストップサービスが考えられる。

 

 また、空間情報の利用をさらに活性化するために、国民の安全・安心の確保に貢献する空間情報の利用を産官連携で推進することや、利用に際してプライバシーや知的財産の保護を図ることは国の重要な役割である。

 

 空間情報を活用するアプリケーションである地理情報システムは十分使い勝手の良いものとはなっていないことから、その開発は、企業が独自性と競争性を発揮しながら、大学や国と連携を取って推進する。

(3)空間情報の多様な利用

 国・地方自治体は、様々な行政施策を立案、計画、実施するにあたって、空間情報を活用して国土や国民生活の状況を地理的に正しく理解することによって、施策の効果を一層上げる必要がある。

 

 企業や民間団体あるいは各個人には、空間情報を有効に活かすための多様なアイデアの提案やこれを用いた実際の活動を行うことが期待される。地図やGISは、ある地域における多様かつ膨大な空間情報を誰にでもわかりやすく視覚的に整理できることから、共通の理解を得るための最適なツールである。このツールを有効に活かすための多様なアイデアの提案やこのツールを用いた実際の活動を行うことが、利用者の立場である企業やNPOあるいは各個人に期待される。またこれらの提案や活動に関する情報が発信されることで、国や地方公共団体の関係機関を含む1億2千万人のアイデアで作った地図が世の中に流通することが期待される。

 

 地図やGISは、空間情報を誰にでもわかりやすく視覚的に整理できるツールであるが、このツールを十分に使いこなし、空間情報の多様な利用を可能とするには、地図を読み取り空間を把握する能力、すなわち地図リテラシーの高い人材が必要である。国や大学には、地図リテラシーの向上のための学習機会を提供する役割が期待される。

(4)空間情報の整備・提供・利用に関する先導的研究

 空間情報に関する科学がまだ発展途上であり、アプリケーションもまだ不十分であることから、この分野における研究開発は今後とも重要であり、大学が企業や国と連携をとって推進する必要がある。

 

 空間情報は本質的にグローバルな性格を持つこと、国際社会における我が国の占める地位を踏まえ、空間情報整備の国際的な展開は国と大学との連携により先導すべきである。例えば、地球地図を国際的な知的基盤として、各国の研究機関による地球環境研究を進めることは、国と大学の重要な役割である。