2. 今後の社会における測量の役割

  ~誰でも、いつでも、どこでも、必要な精度で、位置を知り、多様な媒体と必要な精度で空間情報が利用できる社会の実現~

 

 カーナビゲーションの例に見られるように、まず位置を知ることにより、その位置の緯度・経度を鍵として地図から周辺の情報を収集し、次の行動を選択する際の判断にそれらの情報を役立てるという、これまでの地図と違った利用方法が現れている。カーナビゲーションに限らず、何かを行おうとするときに、自分の位置を鍵にして、自分の周囲に何があり、何が起ころうとしているのかを溢れかえる情報の中から引き出すことができれば、より的確な判断ができるようになる。したがって、「位置を知る」ことは、今後、人々の行動様式を大きく変える可能性を持っている。

 

 誰でも、いつでも、どこでも必要な精度で自分の位置を知り、それによって、自分の周囲に何があり、何が起ころうとしているのかを判断するための空間情報を取得できる社会の実現を我々は目指すべきである。建物内や地下街などを含め、国土全体に正確な位置がわかる空間を構築することが、今後の社会における測量の役割のひとつである。

 

 このような社会の実現のためには、位置を表す緯度・経度が、位置の測り方――GPSで測るのか地図から読み取るのか――に関わらず整合した値を持つように、位置の基準に関する体系を確立し、維持していく必要がある。三角点を利用することなく緯度・経度が計測できる衛星測位についても、計測された位置が我が国の位置の基準と将来に渡って――地震やプレート運動で大地が動いたとしても――整合するよう、位置の体系を維持していく必要がある。

 

 一方、地図に代表される測量の成果は、これまで紙を媒体として表現されてきたことから、情報量に限度があり、形態や精度があらかじめ決まっていた。このため、すべての利用者のニーズを満たすことは困難であった。しかしながら、情報通信システムが高度化した今、人々はインターネットに接続したパソコン・情報端末や携帯電話などの現代社会に対応した手法で、紙媒体以外からも多くの情報を取得し利用している。空間情報をだれもがどこにいても多様な媒体と必要な精度で取得でき、自分の身の周りを知ることができるようにすること、それによって安心して充実した生活を送ることのできる社会を実現することへ貢献することも測量の役割である。

 

 そのためには、国土地理院が所有する空間情報のみならず、他の行政機関が所有する空間情報、特に地籍図、海図や都市計画に関する地図など国土やその周辺水域の実態を明らかにする基本的な測量成果をはじめ、民間が所有するさまざまな情報までをも含めて、過去から現在に渡るあらゆる空間情報を、国民が低廉で簡便に共有できる情報システムを構築すべきである。このような総合的なシステムが「電子国土」 の目指すべき姿である。

 

 このようなシステムの実現にあたっては、多様な空間的尺度や時間領域に対応した空間情報の体系化が必要である。これは、伝統的な地図あるいは地理情報の体系の再構築と言える。一方、この体系化については、これを国際的な標準と整合させることが、空間情報の国際的な共有化を進めて、相互理解を深める上でも重要である。

 
 電子国土:
国土に関する情報を電子的に統合し、過去・現在の三次元仮想時空間内のデジタル情報として再現するとともに、その情報をインターネット等を通して自由に利用できる環境。この「電子国土」は、道路・鉄道・水系・行政界等の国土の基幹をなす情報を取り込み共有化が図られ、関係機関による火山等の防災情報、統計情報等の様々な情報が組み合わされることにより、行政による防災対策の支援、民間による経済活動の支援など様々な活用が可能となる。