ステップ3:斜面変状の移動方向及びその量を推定する

手法

1.はじめに

 プロセス1では、斜面変状の候補を抽出しました。
 このステップでは、SAR干渉画像における干渉縞を解釈することにより、斜面変状の移動方向とその量を推定します。
 
 

2.干渉縞の読み方

 以前のステップでも登場した秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像(図1)などから、干渉縞の読み方をフォローしましょう。
秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像の図
図1 秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像

 ステップ1では、着色が地形等に無関係にあることに注目しましたが、ここでは、色のパターンから斜面変状の移動方向やその量を読み取ります。
 やり方は以下のとおりです。

 1)まず、周りにある水色の範囲を無変動領域と考えます。
 2)次に、斜面の向き等から地すべりブロックが動く方向を推定します。図1の場合は、北北西~北西方向に下がっていますので、この方向に動くことが予想されます。
 3)次に、衛星画像の諸元を用意します。諸元とは日付や観測方向、軌道間距離といったSAR干渉画像の取得環境などにかかわる情報のことです。
 この画像の場合は、地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/) の表示される画面の左上にある情報のところをクリックして、表示される情報リストの中から基準点・測地観測の欄をクリックしていただき、そこの中から干渉SARをクリックし、そこにあるだいち(ALOS)をクリックすると災害ごとの分類が表示され、そこから火山をクリックし、少し下にある栗駒山を選択し、表示される期間の中から 2008年7月16日~2019年7月19日を選ぶと画像が現れます(https://maps.gsi.go.jp/#8/38.661922/141.295166/&base=std&ls=std%7Calos_volcano_kurikoma_20080716-20090719&blend=0&disp=11&lcd=alos_volcano_kurikoma_20080716-20090719&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f2&d=vl)。それを拡大すると図2-1のようになります。

図2-1 地理院地図での表示のさせかた

上記のSAR干渉画像の諸元は期間を選択する際に右側にある解説とういう文字をクリックするとこの画像を取得した諸元等が現れる

図2-2 図の2-1の諸元等の表示のさせ方
 
※この図から表示される東成瀬周辺(火山 栗駒山)のSAR干渉画像は図1ほど鮮明ではありませんが、岩手宮城内陸地震の広域的な影響の除去等ノイズ削減の処理を、東成瀬地区周辺において鮮明な画像を得るために特化した形で行うと図1のような図が得られます。ただ、図2から図1を得る処理の実行に当たっては相当の専門的知識と経験が必要となるため、詳細はここでは割愛します。

 諸元の中で注目すべき事項は幾つかありますので順を追って説明します(以下はいずれもALOS/PALSARの場合の解説です)。

 A:衛星の飛行方向
 諸元の中でまず注目するのは、衛星の飛行方向です。SAR干渉画像における干渉縞は、衛星と地表の位置関係の変化に応じて一定のパターンがあるのですが、飛行方向によってその解釈は全く変わってしまいます。
  (干渉縞と観測方向の関係の詳細については本ステップ末尾のコラムをご覧ください。)
  
衛星進行方向と電波照射方向の関係(左:北行、右:南行観測)の図
図3 衛星進行方向と電波照射方向の関係(左:北行、右:南行観測)

 地すべりのように鉛直下方への斜面変状は水平方向の動きを考えなければ衛星から遠ざかります。衛星進行方向と電波(マイクロ波)の照射方向は図3のようになりますので、図3左のように北行観測であれば、電波(マイクロ波)は西側上空から来るため、東向き斜面で予想されるように地表が東側に動けば衛星から更に遠ざかります。干渉SARの処理で得られる情報は衛星と地表の間の距離に関連するものですので、下方向と東方向のダブルで遠ざかれば地表の動きがより際立つことになり、斜面変状を見つけやすくなります。一方、地表の動きが西方向だと衛星に近づく動きになりますので、下方向の遠ざかる動きと相殺されてしまい、地表の動きは分かりづらくなってしまいます。また、南北方向の動きは電波照射方向にほぼ直行してしまいますので、衛星からの距離変化ということではほとんど捉えられません。ちなみに、図3右のように南行観測であれば東西が逆転します。
 言い換えれば、斜面が東向きなら北行観測、西向きなら南行観測のSAR干渉画像を選ぶべきということになります。沈降はどちらの方向の観測でも遠ざかる動きで認識できます。一方、南北方向の動きはほとんど分かりません。具体的な解説は本ステップの末尾で行いますが、覚えておきましょう。
 ところで、ALOS/PALSARの観測で最も利用されているオフナディア角34.3度の場合、地表への入射角は約39度となりますので、地表面の傾斜が50度を超えるような急傾斜地や崖の場合は衛星からの電波が地表に届かない可能性があります。その他にも傾斜が急になるほどレイオーバー(※)などの現象により、反射波が地表のどこから返ってきたかについて正しく処理できない可能性が高まります。このため、急傾斜地や崖については何らかの異変が確認されても、単一のSAR干渉画像だけでは確度はあまり高くないといえます。他の部分で述べている、複数のSAR干渉画像の利用や、地形情報との対比等の信憑性を高める工夫が必要です。

 ※レイオーバー:SARによる観測ではアンテナと地物との間の距離に応じた情報を取得するため、例えば図4のように急斜面を伴った山がある場合は、山の頂上Bは上空から見た場所(B’)ではなく、アンテナに近いB’(山のふもとと同じ高さの場所に直すとDに相当)であると認識されます。一方、山のふもとにある点AはA’であると認識されますので、上空から見るとアンテナに近いはずのAよりもBが手前側に来ます。このように、急峻な地形では本来アンテナ側から離れた場所に表現されるべき地物がアンテナ側に倒れこむという逆転現象が発生し、DからAとAからBのデータが重複することになります。このような倒れこみ現象を「レイオーバー」といいます。この場合、仮にAB間で地すべりが起きてもDA間の反射波と重複してしまうため正しく斜面変状を復元することが出来ません。また、BC間は電波が当たらないため(このような現象を「シャドウ」といいます)地表面に係る情報を得ることが出来ません。SARデータ上はAとBの位置関係が逆転していますので、SARデータ上の欠損部はAC間(図のA’C’間)となります。地すべりのような現象では衛星から見て水平方向に遠ざかるほうが、下向きの遠ざかる方向への移動と相乗効果を持つためSAR干渉画像を用いた抽出には有利になるのですが、「シャドウ」などが発生する可能性があるため必ずしも良好な結果が得られない場合がある点に注意が必要です。
レイオーバーが発生する地形の例を示した図
図4 レイオーバーが発生する地形の例

 B:観測日
 例えば地すべりのように移動が大きい時期(融雪期等)が分かっているものは、それを挟んだ時期のデータのSAR干渉画像を利用することが重要です。また、積雪地域については冬から春にかけてのデータを使用すると、衛星と地表との位置関係が一定ではないのでノイズが大きくなり干渉縞が確認できない可能性が高くなります。さらに、年数が経つと季節がほぼ同じでも地表状態が変わってしまう可能性が高まります。従って、仮にある冬の間の変動量を見たいと思った場合は、ほぼ1年の間隔を持ち積雪期や融雪期を避けたデータを選択することが理想です。
 ちなみに、注目したい時期がある場合は、その時期を挟むSAR干渉画像を使う必要があるのはもちろんですが、組合せが複数あることが望ましく、さらに可能なら時期の前後のデータによる解析で、注目したい時期の前や後はどうなっているのか追跡するということも考慮に加えておくことも重要です。

 C:基線長
  国土地理院の干渉SARホームページにある画像は干渉縞の再現にある程度成功したものだけを集めていますのでアーカイブを用いることに特に問題はありませんが、一般にはこれが長くなるとノイズが大きくなって干渉縞が確認できない可能性が高くなりますので、利用したい画像にノイズが多いようであればこの数値を確認することを薦めます。

D:運用モード
 運用モードにはFBSとFBDの2つがあり、FBSは分解能約10m、FBDは分解能約20mとなります。従って、FBDのほうが若干ぼやけた画像になりますので、可能であればFBS同士の組合せを選択した方がより鮮明な干渉縞を得ることが出来ます。

E:その他
 SAR干渉画像として再生した際のノイズの多寡等はA~Dのほか、オフナディア角など他の要素にも左右されますが、概ねA~Dの要素(特にAとB)を押さえておけばよいと考えます。


4)  1)から3)の情報を元に干渉縞を解読する
今回は図5の山形県月山地区の七五三掛地すべりと図7の秋田県東成瀬地区の狼沢地すべりの事例で干渉縞を解読してみます。

山形県月山地区における七五三掛地すべりに対応したSAR干渉画像の図
図5 山形県月山地区における七五三掛地すべりに対応したSAR干渉画像

 図5は七五三掛地すべりのSAR干渉画像の例です。2009年は大規模な地すべりを発生した年ですが、図は5~8月の地すべりが落ち着いてきた時期のものを示しています。
この場合の観測は南行観測により実施されましたので、干渉縞の色変化は図6のようになります。
南行観測の場合の干渉縞の色変化を示した図
図6 南行観測の場合の干渉縞の色変化

 図5でも示されている通り、赤丸の周囲は主に水色で囲まれており、赤丸の中心部は紫色に近い色をしています。回りの部分が地すべりで動いていないと仮定すると図5の赤矢印のように赤丸の周囲から赤丸の中心部に向けて水色→青→紫の色変化が読み取れます。この色変化をそのまま図6に当てはめると、赤矢印のように3cm程度遠ざかっていることに相当します。
七五三掛付近は南南西から南西方向に斜面が向いていますので西方向の移動が発生することが推定され、図5左下の電波照射方向の矢印から水平方向でも上下方向と同じように遠ざかる方向への移動があったと予想されますから、「遠ざかった」という結果は整合的です。

 このように、斜面変状が数cm程度と小さくかつ移動体の中心に向けて緩やかに変位量が増加するような場合は解釈も比較的単純です。ただ、干渉縞で確認される変位量が10cm程度以上となってくると、一筋縄ではいかないケースも出てきます。図7はそのようなケースです。
秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像の図(図1の再掲)
図7 秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像(図1の再掲)

本干渉画像は南行観測によるものですので、干渉縞の色変化は七五三掛と同様に図8のようになります。
南行観測の場合の干渉縞の色変化を示した図(図6の再掲)
図8 南行観測の場合の干渉縞の色変化(図6の再掲)

 先ほどと違うのは、この画像だけからではAからBに青実線の矢印のように解釈し9cm遠ざかる変動が起こった(図8の青実線矢印)ともいえますし、BからAに青破線の矢印のように解釈し9cm近づく変動が起こった(図8の青破線矢印)ともいえることです。図8にそれぞれの色変化(青実線矢印・青破線矢印)を重ねた感じではどちらも違和感はありません。この場合には、先に確認した観測情報が役立ちます。1)から3)で確認した内容は以下のようなものでした。

 まず、1)のとおり、変動していないと見られる場所を設定します。図3の場合は赤丸以外の場所はどこをとっても水色の領域ですので、例えば図のAやBの場所を無変動域とします。
 次に、2)のとおり、斜面の向きを確認します。この場合は北西~北北西向きに下っています。
 最後に、3)のとおり、観測の諸元を整理します。この場合は以下の通りでした。
  「2008年7月16日~2009年7月19日の2時期間の画像で南行軌道、基線長はー317mで運用モードはともにFBS」

 無変動域を設定して色変化を追いかけることや、観測方向(南行観測、南行軌道)の情報利用は既に実施しましたので、それらで使わなかった斜面の向きの情報に注目します。斜面は東向きではなく西向きですので、図8を見ると「遠ざかる」に当てはまります。地すべりは下方に移動しますので、これも「遠ざかる」の向きです。従って、青破線の解釈は誤りで、青実線の解釈、つまり「AからBに向けて変動量が増加し、Bの付近で最大9cm程度衛星から遠ざかる動きがあった」という解釈が正しいと考えられます。この移動量は、実際の移動量に直すと十数cmになるのですが、干渉縞の解読だけでは衛星方向に沿った量しか分かりません。この意味では判明する移動量は定性的ですが、例えば2時期以上のデータがあれば移動量の増減といったものの比較が出来ますので、この段階の解析でも意味はあるものと考えます。
 例えば、山形県月山地区の七五三掛地すべりの2009年3月20日~5月5日と5月5日~8月5日のSAR干渉画像を図9に示します。
七五三掛地すべりのSAR干渉画像の2図(左:2009年3月20日~5月5日、右:5月5日~8月5日)
図9 七五三掛地すべりのSAR干渉画像(左:2009320日~5月5日、右:5月5日~8月5日)

 左側の画像のほうが色の変化が激しく、右の画像の特に「七五三掛」の東側の部分は色変化が水色~紫と小さくなっていることが分かります。このように、複数時期の画像を並べることによって、斜面変状の時系列的傾向を量的に見ることが出来ます。
  • 注意しなければならないこと
 図7の場合は南行観測という事例だったのですが、仮に同じ画像が北行観測から得られた(図10)としたらどうでしょうか。
秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像の図(図1、図7の再掲)
図10 秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像(図1、図7の再掲)

 こんどは色変化パターンは図11のようになります。
北行観測の場合の干渉縞の色変化を示した図
図11 北行観測の場合の干渉縞の色変化

 先ほどと同様に斜面の向きの情報に注目します。斜面は東向きではなく西向きですので、図11を見ると今度は「近づく」に当てはまります。地すべりは下方に移動しますので、これは「遠ざかる」の向きです。つまり、西向きに移動する「衛星に近づく動き」と下向きに移動する「衛星から遠ざかる動き」のバランスでトータルとしては「近づく」「遠ざかる」両方が有り得るという結果になります。変色域は北西に近い斜面方向を持っており、AB間で水平距離に比べ高低差が小さく、地すべりも斜面に沿って発生すると考えると、衛星からの視線方向の向きを考慮しても西向き成分の方が下向き成分よりもかなり大きくなりますので、「衛星に近づく動き」がバランスとして勝ることとなり、図10の場合は「BからAに向けて変動量が増加し、Aの付近で最大9cm程度衛星に近づく動きがあった」という青破線の解釈が正しそうだということになります。 ただ、この図11についての説明は、あくまでも干渉縞と地形傾斜から推定される地形変化に基づくものであり、 厳密に地すべり地形における地形変化を前提とした説明ではありませんので、沈降と水平方向の移動が打ち消しあった場合の解釈例として、参考にしてもらえればと思います。

  また、地すべり等の斜面変状の盛衰が見られる例として図9を挙げましたが、単にSAR干渉画像を並べるだけではミスリードを起こす例を図12に示します。図12は七五三掛の例ですが、左は南行観測、右は北行観測になります。
七五三掛地すべりのSAR干渉画像の2図(左:5月5日~8月5日、右:6月14日~7月30日)
図12 七五三掛地すべりのSAR干渉画像(左:5月5日~8月5日、右:6月14日~7月30日)

 単純に考えると、図9のように右のほうが移動が収まっているように見えますが、それほど単純ではありません。北行観測の場合は七五三掛地すべりのように西向き成分をもって移動する場合は水平成分は衛星に近づきますので、斜面に沿った沈降方向の動きで得られる衛星から遠ざかる成分とは打ち消し合ってしまいます。つまり、西向き斜面の地すべりを北行観測で見ると近づく効果と遠ざかる効果が打ち消し合って干渉縞が不明瞭になってしまう(図13)のです。よって、変位量の相対的比較では衛星の移動方向は揃える必要がありますし、斜面変状の監視・抽出という意味では効果が打ち消しあわないもの(この場合は、南行観測を採用すること)が有効ということがわかります。もちろん東向き斜面の場合は逆になりますので、南行観測だと不利になります。

図13 西向き斜面の斜面変状は北行観測では捉えづらいことを示した模式図
図13 西向き斜面の斜面変状は北行観測では捉えづらい

ここまでのところで、用意したSAR干渉画像から、斜面変状の移動方向やその大小を推定する手法についてフォローしました。
プロセス1では、収集した画像から色の変化があるところを確認する程度でしたが、画像の集め方や取捨選択、そして画像内の干渉縞を読むことで移動の向きや大小まで推察できるようになりました。

ちなみに、SAR干渉画像を元にした干渉縞の判読事例として「SAR干渉画像判読カード」を作成しておりますので、干渉縞の色の読み方等について経験を積まれたい方はこちらもご覧ください。

「SAR干渉画像判読カードのページ」

次は、抽出した斜面変状候補の信憑性をより高めるべく分析を行います。

 それでは次のステップに進みましょう。

ステップ4:「候補の信憑性を高める作業を行う」

  *1 表示されているSAR干渉画像は全て次によるものです:Analysis by GSI from ALOS raw data of JAXA, METI


***コラム「干渉縞と観測方向の関係」***

本文中でも書きましたとおり、諸元の中でまず注目するのは、衛星の飛行方向です。SAR干渉画像における干渉縞は、衛星と地表の位置関係の変化に応じて一定のパターンがあるのですが、飛行方向によってその解釈は全く変わってしまいます。

1)干渉縞のパターン
SAR干渉画像において、衛星と地表の位置関係の変化は図C1のような配色で示されています。
SAR干渉画像で見られる干渉縞の色変化を示した図
図C1 SAR干渉画像で見られる干渉縞の色変化

例えば地盤沈下により地表が下がって、衛星との距離が遠ざかった場合はその量に応じて青→赤→黄→青→…と干渉縞が形成されます。
具体例として図C2の能登半島地震をあげます。
平成19年能登半島地震の前後のデータ解析により作成されたSAR干渉画像の図
図C2 平成19年能登半島地震の前後のデータ解析により作成されたSAR干渉画像

 図の左中央にある星印が震源であり、ここに近いほど地盤は西に移動しています。画像の左上や右下などの震源から遠いところを「無変動」とすると、震源に向かって、青→黄→赤→青→…と縞が形成されていることが分かります。これは図C1で言えば0cmから-11.8cmと示された近づく方向に色が変化していることに対応します。

2)衛星の進行方向と衛星と地表の距離変化との対応
図C2を見ていただくと左上に矢印がありますが、上に向かう矢印には「衛星進行方向」、それと直行して右に向かう矢印には「視線方向」とあります。この場合は、上が北ですので衛星進行方向は「北行」となります。だいちに搭載されたPALSARによる観測は図のように衛星の進行方向に向かって右側に行われますので、地表が西(図の左側)に向かって動くと衛星に近づくことになります。このため、震源に近ければ近いほど西向きの移動が大きいことが図からは読み取れるわけです。一方、PALSARによる観測はこれとは逆の「南行」の移動の際も行われており、この場合は衛星に近づく方向は東向きになります。よって、水平方向の移動に伴って見られる干渉縞の色変化パターンは全く逆になります。衛星の進行方向の違いによる衛星と地表の関係は、図C3をご覧ください。
図C3 衛星の進行方向の違いによる衛星と地表の関係を表した模式図(東や北の向きに注意)
図C3 衛星の進行方向の違いによる衛星と地表の関係(東や北の向きに注意)

 衛星は上空約700kmの高さにありますので、沈降の動きは常に衛星から遠ざかる動き、隆起の動きは常に衛星に近づく動きになります。上下方向の移動は衛星の移動方向が干渉縞の色変化パターンを左右することはありませんので注意が必要です。色変化に地表の移動方向を加えると図C4のようになります。
図C4 北行観測の場合の干渉縞の色変化(左)と南行観測の場合の干渉縞の色変化(右)を示した図
図C4 北行観測の場合の干渉縞の色変化(左)と南行観測の場合の干渉縞の色変化(右)

 ちなみに、図C3にも示されているように南北方向は視線方向とほぼ直交しますので、地表が南北方向に動いても衛星と地表の距離にはほとんど影響がありません(ただし、上下方向に比べて南北方向が10倍以上大きい場合など、南北方向の移動が相対的に極端に大きい場合はその影響は無視できなくなります)。よって、SAR干渉画像から単純に判断できる地表の動きは、東西方向や上下方向についてどの方向にどの程度動いたかという点に限定されます。南北方向の動きはほとんど反映されません。

*1 表示されているSAR干渉画像は全て次によるものです:Analysis by GSI from ALOS raw data of JAXA, METI