地理情報の処理技術

コンピューターで扱える数値地理情報のニーズが高まっており、国土地理院はこれに応えて各種の数値地図等の数値地理情報を提供している。一次的なデータ取得において直接数値データを取得する方法もあるが、現時点ではなお既存の地図からディジタルデータを作成することが必要であり、この効率化や成果の点検のための技術開発が行われている。また、出力形態に応じたデータの処理加工も重要である。

(1)空間データ基盤の作成技術に関する開発 平成7~8年度
 阪神淡路大震災を契機としてGISの必要性についての社会的な認識が高まり、平成7年度から国土地理院では「数値地図2500(空間データ基盤)」作成を開始した。これにともない、取得すべきデータ項目やそのデータフォーマット等、事業を実施するために必要な検討が行われた。これらの結果は、学会等での発表や、データの内容等についての解説記事として公表されるとともに、実際のデータ作成事業に反映されている。また、関連して以下の調査研究が行われた。これらもデータ作成事業に活用されている。
 ・GIS基盤情報整備に関する調査
 ・空間データ基盤検査ソフトウェアの開発
 ・空間データ基盤の利用促進に関する研究(利用モデルの事例提案、データ表示システムの開発等)
 平成8年度以降には以下のような研究が行われ、データ項目の見直しや近い将来問題となるデータの更新の検討を行った。
 ・国土空間データ基盤整備の促進に関する調査研究(法的視点からのデータ項目定義の明確化、地図整備状況の実態調査、項目の妥当性調査)
 ・空間データ基盤に関する要素技術の研究(位置精度の検証、効率的な検索、更新情報の提供方法)
 ・空間データ基盤の時系列管理手法に関する研究
 上記のように、空間データ基盤の整備に際しては、国土地理院として蓄積してきたディジタルマッピングの標準や国土基本図データベース整備事業に関する技術がベースになっているが、実際の事業着手はかなり短期間に決定され、これに必要な調査検討が緊急に行われた。このデータは平成9年度始めに刊行が開始され、廉価で入手しやすい基本的地図データとして広く活用されている。

(2)各縮尺の地図作成工程のコンピューター化及び数値地図データ作成技術開発
 既に平成5年度から1:25000地形図の修正編集はラスターデータを用いたディジタル方式に移行した。地方自治体等から道路等の変化情報を収集する基本情報調査の結果も地形図修正に活用されている。この1:25000地形図編集システムの有効性が地形図修正作業において実証されたことから、他の縮尺の地図編集においても、このシステムをベースとして各縮尺の地図図式に対応したラスター地形図編集システムの開発が行われた。1:10000地形図については平成9年度から、1:50000地形図については平成10年度から(それ以前にも取り組まれていたがソフトウェアのバグを改修し10年度から本格的に稼働)それぞれ地図編集実務に用いられている。これ以外の20万分1から300万分1に至るすべての縮尺の一般図については、開発されたソフトウェアを試験的に実作業に用いた検証を現在行っており、近くすべての縮尺についてラスターデータと一部ベクトルデータを使用した編集システムによる方式に移行する予定である。
 一方、GISで利用可能なベクトルデータのニーズが高まっていることから、これを地図作成工程において直接取得するためのシステム開発並びに実際にその成果を利用してデータ作成を行っている。1:25000地形図及び1:10000地形図のベクトルデータの取得並びに1:10000地形図のベクトル編集の試行が行われている。
 これら編集システムの開発に際しては、既存の紙地図と同等以上の品質の地図を効率的に作成できることが求められるため多くの技術開発課題があったが、それらを解決しつつシステムの開発が進められた。その結果以上に述べたように、国土地理院における地図作成工程のコンピューター化は着実に進展しており、これにより、作業の効率化と数値地図データのニーズに応えている。
 なお、平成11年度から25000地図縮尺レベル(1:25000地形図相当のデータ)についてもGIS基盤情報の整備が開始される方向にある。

(3)地図情報の新しい表現手法に関する研究 平成5~8年度
 従来地図は紙の上に表現するという制約から現実の3次元空間を2次元の平面の上に投影して表現せざるを得なかった。しかし、コンピューターの中では3次元情報として扱うことが可能であり、これを任意の視点から鳥瞰図表示することにより、地図に表現された地形や地物を立体的な対象として感覚的に把握することが出来るようになってきている。そこで、1:25000地形図相当の地図情報を対象として、これを立体表現し擬似的にリアルな景観を表示する手法を開発した。
 3次元モデリングソフトを利用して、標高データを用いて立体化した地表面にテクスチャーマッピングを施し、建物については、地形図から建物及び街区の情報を取得してこれに一定の高さを与えモデル化した。この結果得られた立体鳥瞰図は、地形図に盛り込まれた情報のみから作成された擬似的なものであるが、地域の景観の直感的把握に有効であることが確認できた。この研究結果は将来の地形図に表示すべきデータ項目及びデータの持ち方の検討に活用することが可能であると考えられる。

(4)電子アトラスの開発 平成6~8年度
 「日本国勢地図」の内容を電子化し、表示ソフトウェアと合わせてCD-ROM化した。「日本国勢地図」は我が国の自然・社会の多くの主題を取りまとめたナショナルアトラスであり、1冊の本として非常に大部のものである。これをパソコンで利用できるように「日本国勢地図」の14分野235主題のうち14分野96主題について電子化したものである。このとき、データの表現内容により、ラスター画像として電子化するもの、ベクトルデータとして電子化するもの、及び統計データのテキストデータとして電子化するものに分けた。統計データの場合は添付ソフトウェアでその描画表現形式を選択できるようになっている。これにより、国勢地図の膨大な内容がコンパクトなCD-ROMに格納された。利用者自身による表示方式の選択も可能なことから主題情報の解析的利用もできるようになり一種のGIS的な利用も可能となった。
 しかし、書籍の形態に比べると一度に画面に表示できる範囲が限られる点は、コンピューター利用における制約である。また、本CD-ROMはあくまで添付のソフトウェアで動作することが前提となっており、より高度の解析のために他のGISソフトとの間でデータをやりとりするような機能は持っていない。統計データの充実やGISとしての機能の充実が今後の課題である。