基本的地理情報の一次データ取得

 地図あるいは数値地図データは、変化する地表の状況に対応して更新される必要がある。このため、変化箇所の抽出を含むデータ取得技術の効率化は大きな課題である。これに関わる研究開発としては、写真測量の効率化・高精度化、衛星画像データの利用、SAR(合成開口レーダー)データの利用、航空機搭載レーザースキャナーの利用がある。

(1)GPS空中三角測量の実用化に関する研究 ~平成9年度
 従来の写真測量では、シャッターが切られた瞬間のカメラ(航空機)の位置と傾きは、直接的には観測できず、写真測量の原理に基づく空中三角測量の結果として得られる量であった。このためには、写真上に明瞭に写っている対象物の地上の位置を測量する標定点測量作業(対空標識設置あるいは刺針作業)を作業地区内に一定の数実施する必要があった。GPSで移動体の位置が精密に計測できるようになって、航空機にGPS受信機を搭載し、カメラと連動させて撮影時の位置を計測することが可能になった。これにより、必要な標定精度を維持しつつ標定点の数を大幅に削減することが可能である。このGPS空中三角測量を我が国で実施する場合の作業マニュアルを作成するために、外国での研究成果を参照しつつ自ら作成したソフトウェアを用いて精度検証実験を行ってきた。この結果、GPSを使用した空中三角測量では地上基準点数が大幅に削減できることが実証され、その手順を定めた簡単な運用ガイドライン案を作成した。
 さらに高精度化・省力化するために最新のソフトウェアを導入し、実用化に向けてその精度検証を進めている。

(2)航空機SARデータの精密処理手法に関する研究 平成10年度~
 国土地理院では、航空機搭載合成開口レーダー(Xバンド、H/H偏波)を導入し、夜間や雲・噴煙下でも計測が可能であり、高分解能・高い機動性という、航空機搭載SARの特徴を活かした情報収集について調査研究を行っている。平成10年度に初めての観測を行い再生画像と干渉法によるDEM(ディジタル標高モデル)を作成した。これまでに、地上解像度1.5mの高分解能SAR画像を利用するための基本的な情報として、植生・建物・道路等の項目別の判読事例集を作成した。また、干渉法により作成されたDEMの精度評価を、空中写真のステレオマッチングにより作成されたDEMとの比較により行った。この結果偏差が概ね7~8 m程度であることが分かった。これは1:50000地形図に表現されている高さの精度と同程度と評価される。
 引き続き、SAR観測飛行を実施し、観測方向やオフナディア角等の観測条件の違いや、地表面の条件がレーダー画像にどう影響するかの検討を行う。これとともに、観測時の動揺補正処理技術、幾何補正処理技術、及び干渉処理技術の改良、画像及びDEMの精度評価、並びに実用化に向けた検討を行っていく計画である。

(3)衛星画像を用いた地形図修正に関する研究 平成10年度
 地上分解能が10 m以下の高解像度人工衛星画像が入手可能になってきている(SPOT、IRS、Radarsat、ADEOS/AVNIR、IKONOS等)。これらのデータを1:25000等の地形図の修正あるいは作成に活用することを目標に実験的検討を行ってきている。SPOT、IRS、ADEOSによる判読可能性の検討結果では、地形図の部分修正対象となる道路の多くが判読可能であり、特に郊外ほど適用可能性が高いこと、広範囲の画像が得られるため図化作業の効率がよいこと、別途得られる資料と衛星画像を併用するのが効果的であること、などが分かった。
 2002年打ち上げのALOS/PRISMデータの利用に向けた検討を引き続き行っている。また、今年9月に打ち上げられた約1mの分解能を有するIKONOSについて、公募型共同研究の枠組みの中で、画像の判読・描画可能性の検討、位置精度の検証、画像品質の検証等を開始している。

(4)航空機搭載レーザースキャナーによる情報取得に関する研究 平成7年度~
 航空機搭載レーザースキャナーシステムでは、建物形状等を含む地表の3次元形状を表す高密度の反射点の位置データが得られる。従来の写真測量とは全く異なる原理による立体計測システムであり、データ取得及び処理の迅速性、高さ方向の精度が高いことが特徴である。測量調査計測に関わる様々な分野への応用が期待されており、国土地理院においても、測地分野でのジオイドモデルの検証等への利用、地形測量への利用のためのマニュアル作成の検討、都市の3次元モデル構築の研究等を行っている。
 都市3次元モデル作成については、建物の屋根形状をモデル化し、これをレーザースキャナーデータから決定して3次元データを作成する方法や、レーザースキャナーデータの領域分割法による建物界線の抽出と前記の方法を組み合わせ、より詳細な3次元モデルを作成する方法などを開発した。また、変化した建物(新築、滅失、増改築等)の抽出について、レーザースキャナーデータの新旧2時期の比較は有望な情報収集手段であることが示された。これをさらに自動化することについても研究している。