国土地理院時報(2008,114集)要旨

Approach of GSI for Achievement of Geospatial Information Society
 
総務部・企画部・測図部・地理空間情報部
 
【はじめに】
  我が国の測量や地図作成は,伊能忠敬の大日本沿海輿地全図に始まり,戦前の陸地測量部及び戦後の国土地理院による全国規模の基準点や基本図の整備を通して,近代国家としての基礎を確立するとともに,欧米先進国に並ぶまでの経済発展を支えてきた.また,測量及び地図作成の手法に関しても,デジタル技術や宇宙技術の利用による技術革新が1980年代以降特にめざましく,その高精度化・効率化に大きく貢献している.
  このような経済的発展や技術的変革により生み出された高精度のデジタル地理空間情報は,1990年代以降のインターネットや携帯電話に象徴されるITの普及拡大により,近年急速にその活用の範囲や分野が広がってきており,我が国の将来を担う基幹的な情報となっていくことが期待されている.
  このような中で,デジタルの地理空間情報の一層の活用を促進するための法制度の整備が,平成19年度に大きく進展した.特に,地図等をはじめとした測量成果のデジタル情報としての活用を促進するための測量法の改正と,地理情報システムと衛星測位という二つの基盤技術により今後の地理空間情報の活用を一層促進するための地理空間情報活用推進基本法の成立はその中心であり,将来の地理空間情報社会の実現に大きく貢献するものである.
  国土地理院は,我が国の唯一の測量・地図行政機関として,これら二つの法制度整備においても,関連した省令等の整備を行うなど重要な施策の実施に取り組んできているが,今後も高度な地理空間情報社会の実現に向けて中核的な役割を担うことが期待されている.
  本小特集は,以下の各報告の要旨に示すように,測量法の改正及び地理空間情報活用推進基本法の成立を踏まえ,国土地理院がこれまで取り組んできた施策を集約したものである.

1.測量法の一部を改正する法律の概要
  測量法は,主に,1)基本測量の測量成果のインターネットによる提供,2)測量成果の複製承認に係る規制の合理化,3)測量成果の利用に係るワンストップ・サービスの三つの点について改正され,デジタルの測量成果の活用が促進されることとなる.

2.地理空間情報の活用推進に関する基本法等の制定
  地理空間情報活用推進基本法の内容とともに,地理空間情報活用推進基本法に規定され,国土地理院が取りまとめた基盤地図情報に関する国土交通省令及び技術上の基準の内容を概説する.

3.基盤地図情報整備事業
  基盤地図情報の整備について,国土地理院が取り組む事業を概説し,基盤地図情報の内容とともに,今後の整備の進み方を明らかにする.

4.基盤地図情報のための画像情報の整備
  国土地理院が行うデジタルオルソ画像や標高データの整備事業について,その内容と今後の計画を概説する.

5.公共測量の作業規程の準則の改正
  測量法改正や地理空間情報活用推進基本法の成立を踏まえ,デジタル時代に対応したものとなるように改正した公共測量の作業規程の準則の内容を概説する.

6.国土交通地理空間情報プラットフォームの構築
  国土交通省をはじめとした関係機関や国民が持つ地理空間情報を相互に利用しあえる仕組みである「地理空間情報プラットフォーム」について,その内容や構築の進め方について概説する.
 
  本文[PDF:2,003KB]
 

小特集 II :平成19年(2007年)新潟県中越沖地震

Response of GSI to the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007
 
企画部 高瀬昌宏・原野 崇・丸山一司・山中雅之
 
【要 旨】
  平成19年7月16日に発生した「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震」により,新潟県長岡市,柏崎市,刈羽村,長野県飯綱町で震度6強の強い揺れを観測するなど北陸地方を中心に強い揺れを記録し,大きな被害があった.
  この地震に対し,国土地理院では直ちに「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震」災害対策本部(本部長:国土地理院長)を設置し,地殻変動の解析,基準点成果の改定,緊急現地調査,空中写真の撮影,地形図等地理情報の提供等の取組みを行った.
 
  本文[PDF:21KB]
 
Emergency Field Survey with the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007
 
測地部 池田尚應・横川正憲・田上節雄・佐々木利行・塩谷俊治・大森秀一・根本盛行
 
【要 旨】
  平成19年7月16日10時13分頃,新潟県柏崎市沖を震源とするM6.8,最大震度6強の「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震」(以下,「中越沖地震」という.)が発生した.この地震の被災地には柏崎験潮場を含む一等水準路線が設置されていることから,地殻変動に関する学術的資料を収集すること,基本水準点測量成果を更新することを目的に,国土地理院災害対策要領に基づき現地緊急測量調査班を編制し,安全管理員の任命を受け,発災の2日後から緊急水準測量を実施した.
  緊急水準測量は,被災地を中心に44.8kmの水準路線について行い,日々の測量結果は帰宿後に整理し,速やかに電子メールで国土地理院災害対策本部(以下,「災害対策本部」という.)に送信した.測量結果は水準路線の上下変動を精密に捉え,断層モデルの推定に寄与した.
  今回の直営による緊急水準測量は,平成13年1月に国土地理院が国の防災機関に指定されて以来,初めての作業である.
 
  本文[PDF:1,329KB]
 
Crustal Deformation Associated with the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007 Detected by PALSAR/InSAR
 
測地部  鈴木 啓・雨貝知美・藤原みどり・和田弘人
地理地殻活動研究センター 飛田幹男・矢来博司
 
【要 旨】
  国土地理院は,陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載されているLバンド合成開口レーダー(PALSAR)の観測データを用いて,SAR干渉解析を定常的に実施するとともに,地震等の災害発生時には,緊急解析も実施している.
  2007年7月16日に発生した平成19年(2007年)新潟県中越沖地震では,北行軌道と南行軌道の異なる軌道での観測がそれぞれ(北行軌道:7月30日,南行軌道:7月19日)実施され,これらの観測データを用いた緊急解析を行った.
  南行軌道の解析結果は,地震による広範囲の変動を面的に捉えることに成功した.しかし,北行軌道の解析結果では,観測データに電離層の擾乱と思われるノイズが含まれていたため,地震による変動を明確に捉えることができなかった.そこで,北行軌道については,再度観測が実施された9月14日のデータを利用し再解析を行った.その結果,明瞭な変動が捉えられ,本震の震央から約15km離れた西山丘陵の西側斜面に帯状の隆起帯(最大約15cm)を発見した.そこで,この隆起帯が地震に伴った変動なのか,もしくはSAR干渉解析による誤差かどうかの検討を行った.その結果,誤差による変動でないことが確認され,さらに,地震前後に実施された西山丘陵を横切る水準測量結果とも調和的であった.
  この西山丘陵西側斜面の隆起帯は,活褶曲である小木ノ城背斜の位置と一致しており,地震に伴い褶曲構造が成長したと推定された.地震に伴う地殻変動において,このような活褶曲の成長が空間的な広がりとともに観測されたことは,極めて珍しい事例であり,干渉SARの面的な情報が非常に有効であることが示された.
 
  本文[PDF:1,263KB]
 
Responses of Topographic Department of GSI to the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007
 
測図部 林 孝・三浦一彦・田中幸生・中村孝之・小井土今朝己
 
【要 旨】
  平成19年7月16日,新潟県中越沖を震源とするマグニチュード6.8,最大震度6強の地震が発生した.
  測図部では,この地震における被害状況の把握や復旧・復興活動を支援するため,被災地域の緊急空中写真撮影及び正射写真図を作成し,政府現地対策本部,北陸地方整備局,新潟県,柏崎市及びその他の関係機関に提供するとともに,ホームページで公開を行ってきた.標記の地震に対する取り組みについての概要を紹介する.
 
  本文[PDF:1,541KB]
 
Responses of Geographic Department of GSI to the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007
 
地理調査部 北原敏夫・丹羽俊二・関口辰夫・木佐貫順一・坂井尚登・野口高弘・佐藤宗一郎
 
【要 旨】
  平成19(2007)年7月16日10時13分頃,新潟県中越沖でM6.8の地震が発生した.新潟県柏崎市などで震度6強を観測し,家屋の倒壊,地盤の液状化,斜面崩壊などの被害が多数発生した.
  地理調査部では,地震直後の11時15分に災害対策班を設置し,被害情報の収集を開始した.同日16時には柏崎市を中心とする地域に現地緊急調査班を派遣し,GPS機能付き携帯電話で現地の写真を,電子国土Webシステムを利用した情報集約マップに送信した.
  また,国土地理院が緊急撮影した空中写真により被害状況の判読を行い,地形との相関関係を解析した.
  本報告は,地理調査部による平成19年(2007年)新潟県中越沖地震(以下,「中越沖地震」という.)に関する現地調査と災害状況図作成等の取り組みの概要をとりまとめたものである.
 
  本文-1[PDF:1,846KB] 本文-2[PDF:1,988KB]
 
Responses of Geospatial Information Department of GSI to the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007
 
地理空間情報部 久松文男・飯田 繁
 
【要 旨】
  地理空間情報部は,平成19年7月16日(月)10時13分に発生した「平成19年(2007年)新潟中越沖地震」の被災地域における復旧・復興活動を支援するため,地震による被害が著しい地域を対象に,各種の地図提供やインターネットによる情報提供を実施した.それらの取り組みについて,概要を報告する.
 
  本文[PDF:242KB]
 
Crustal Deformation of the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007 Observed by GEONET
 
測地観測センター 石本正芳・湯通堂亨
 
【要 旨】
  2007年7月16日10時13分頃に新潟県上中越沖でマグニチュード(M)6.8の地震が発生した(平成19年(2007年)新潟県中越沖地震).この地震に伴い,新潟県柏崎市の「柏崎1」で北西方向に約17cmの変動が観測されるなど,新潟県柏崎市の沿岸部に設置されている電子基準点において地殻変動が観測された.一部の電子基準点のピラーが傾斜したことが確認されたので,地震後に行った現地調査を元に補正を行った.この地震の余震活動は低調であったが,余効変動が柏崎市の沿岸部で観測されている.
 
  本文[PDF:452KB]
 
Ground Deformation Due to the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007
 
地理地殻活動研究センター 小荒井 衛・佐藤 浩・長谷川裕之・宇根 寛
 
【要 旨】
  平成19年(2007年)新潟県中越沖地震による被害について,災害直後に撮影された空中写真の判読により,地震後の地形変化と被害の分布特性を把握した.その結果,建物の全壊被害は,軟弱な沖積層に砂丘が乗るような特定の地形条件の箇所に密集して発生している事が判った.このような軟弱な沖積層に乗る砂丘の末端部が,地震動により流動化し大規模に側方流動したことが確認されている.SAR干渉画像は,そのような地域の抽出に活用できる可能性が判った.また,航空レーザの高さデータと反射強度データを活用することにより,高さ30cm程度の亀裂や噴砂などを検出することが可能であることもわかった.大規模造成宅地では,盛土の部分で地盤変状が顕著に出ていることも明らかになった.
 
  本文-1[PDF:1,822KB] 本文-2[PDF:1,365KB]
 
GIS Analysis on Geomorphological Features of Slope Failures Triggered by the Niigataken Chuetsu-oki Earthquake in 2007
 
地理地殻活動研究センター 佐藤 浩・小荒井 衛・宇根 寛・岩橋純子
測地観測センター 宮原伐折羅
新潟大学 山岸宏光
 
【要 旨】
  国土地理院は,平成19年(2007年)新潟県中越沖地震を受けて災害状況図を作成した.地形的特徴を把握するために,その図に示された166ヶ所に加え,現地踏査で確認した6ヶ所,合計172ヶ所の斜面崩壊分布を,50mメッシュ数値地形モデル(Digital Elevation Model: DEM)から計算された傾斜角データと重ね合わせた.50m-DEMの1メッシュ単位面積当たりの斜面崩壊頻度を求めたところ,高頻度だったのは小崩壊,大崩壊の順に,傾斜帯35-40°と30-35°であった.これらは,先行研究が示すように,斜面崩壊がこのような急斜面で生じたことを示唆している.また,地質図と斜面崩壊分布を重ね合わせて崩壊密度と崩壊面積比を解析したところ,ともに丘陵部を広く覆う泥岩や砂岩の分布域よりも,砂丘堆積物のほうが斜面崩壊に対する脆弱性が高かったことを示した.また,泥岩より砂岩の分布域で2倍以上,崩壊が生じやすかったことが判った.さらに,172ヶ所の斜面崩壊から傾斜角5°以上の山地斜面に分布する153ヶ所(うち,小崩壊135ヶ所,大崩壊18ヶ所)を選び,50m-DEMから求めた斜面方位データと重ね合わせた.その結果,小崩壊・大崩壊ともに北西向きに偏っている(斜面崩壊の異方性)ことが判った.震源に近く,傾きや回転の影響といった地表変状の影響を受けていないと判断された電子基準点「柏崎1」の地震直後の最大地表変位(変位速度0.55m/sec)の向きを調べたところ,北西向きであった.最大地表変位の向きが斜面崩壊の異方性に寄与していることが示唆された.
 
  本文[PDF:743KB]