国土地理院時報(2008,117集)要旨

特集:平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震
Response of GSI to the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
企画部 塩谷俊治・原野 崇・沼川邦男・高瀬昌宏
 
【要 旨】
 平成20年6月14日に発生した「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」により,宮城県栗原市,岩手県奥州市において震度6強の強い揺れを観測するなど,東北地方を中心に広範囲にわたり強い揺れを記録し,栗駒山周辺において,大規模地すべりやがけ崩れ,河道閉塞の大きな被害が発生した.
 国土地理院では,この地震の発生後直ちに「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」災害対策本部(本部長:国土地理院長)を設置し,各種の対応を行った.
 
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Responses of Regional Office of GSI to the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008 - Distribution of Geographic Information at the Initial Stage -
 
東北地方測量部 直井貴之・菅原友恵・本嶋裕介
 
【要 旨】
 東北地方測量部では,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震の発生直後に,防災関係機関が初動対応に必要な地理情報の作成と提供を行った.また,被災後4日目からは,地震後の空中写真から作成した簡易オルソ画像の迅速な編集・提供を今回初めて実施した.これらの取り組みについて紹介する.
 
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The Revision of Geodetic Coordinates of Control Points Associated with the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
測地部 成田次範・米溪武次・越智久巳一・高橋信雄・岩田昭雄・石川典彦・芝 公成・岩田和美・針間栄一郎・檜山洋平・齋藤郁雄・大中泰彦・高橋伸也・森下 遊・高畑嘉之
東北地方測量部 佐藤輝美・志賀保信・小林勝博・東海林靖
 
【要 旨】
 平成20年6月14日8時43分頃,岩手県内陸部を震源とするマグニチュード7.2,最大震度6強の「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」(以下,「岩手・宮城内陸地震」という.)が発生した.
 測地部では,地震活動で大きな地殻変動が認められた地域において,基準点測量成果の公表停止措置を実施した.
 復旧・復興事業に必要な測量へ正確な基準を与えるために,停止地域内の基準点測量成果改定に向けて,緊急測量調査(三角点の現況調査)を実施した.調査結果を踏まえ,三角点の復旧測量作業を実施中である.
 本稿では,「岩手・宮城内陸地震」に伴う基準点測量成果改定に向けた取り組みについて,その概要を報告する.
 
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Detection of Crustal and Ground Deformation Triggered by the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008 with InSAR
 
測地部 雨貝知美・鈴木 啓・和田弘人・藤原みどり
地理地殻活動研究センター 飛田幹男・矢来博司
 
【要 旨】
 国土地理院は,陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載されているLバンド合成開口レーダー(PALSAR)の観測データを用いて,SAR干渉解析を定常的に実施している.この定常解析に加え,災害発生時には,災害状況の把握等を目的として,緊急解析も実施している.
 2008年6月14日に発生した平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震では,北行軌道と南行軌道の異なる軌道からの観測がそれぞれ実施され,これらの観測データを用いた緊急解析を行った.
 これらの解析結果は,地震による広範囲の変動を面的に捉え,岩手・宮城内陸地震における地殻変動の特徴を明らかにした.また,震源断層モデルの推定や基準点の改測などの復旧作業を行う上で,重要な情報として活用された.
 
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Mobile Observation with the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
測地部 木暮弘幸・菅原 準・横川正憲・住谷勝樹・平岡喜文・瀬川秀樹・根本盛行
 
【要 旨】
 平成20年6月14日8時43分頃,岩手県内陸部を震源とするM7.2,最大震度6強の平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(以下,「岩手・宮城内陸地震」という.)が発生した.この地震の地殻変動に関する学術的資料を収集するため,震央に近い1級水準路線(東北地方整備局設置),3級水準路線(一関市設置)及び一等水準路線(5442~5460)で緊急測量として,機動観測高精度三次元測量(水準測量)及びGPSによる間接水準測量を実施した.また,電源及び通信が遮断した電子基準点「栗駒2」を復旧させるため,GPS火山変動リモート観測装置(REGMOS)を用いてデータの取得を行った.
 6月16日,測地部災害対策班会議(以下,「班会議」という.)で「災害時における緊急測量作業実施に関する協定書(以下,「協定書」という.)」に基づく緊急測量を決定した.決定を受け,水準路線の緊急路線調査を6月16日から実施した.緊急路線調査は,国土地理院災害対策要領に基づき現地緊急測量調査班を編成し,水準点の現況確認,危険箇所の確認及び水準路線に近い電子基準点の調査を実施した.また,測量の実施方法等の検討も行った.緊急路線調査の結果,水準点が良好であり直接水準測量により地殻変動の検出が可能である路線は,協定書に基づく機動観測高精度三次元測量を実施することとし,通行止め区間等協定書に基づき実施できない路線については,機動観測課でGPSによる間接水準等を実施することとした.
 協定書に基づく機動観測高精度三次元測量は,6月24日に随意契約を行い,6月26日から観測を開始し7月8日に観測を終了している.また,GPSによる間接水準測量等は,6月24日に観測を開始し6月26日に観測を終了している.
 機動観測高精度三次元測量及びGPSによる間接水準測量の測量結果は日々報告され,水準路線の上下変動を精密に捉え,断層モデルの推定等に寄与した.
 協定書に基づく作業は,平成20年4月1日に国土地理院と(社)全国測量設計業協会連合会(以下,「全測連」という.)で協定書の締結後,初めて実施した作業である.
 電子基準点「栗駒2」の復旧は,電子基準点の電源及び通信の復旧に時間を要することが予想されたため,7月2日にGPS火山変動リモート観測装置(REGMOS)によるデータ取得システムへ切り替える作業を実施した.8月31日現在,電力の発電・通信は,正常に行われており,データは機動観測課が日々回収し測地観測センターに転送を行っている.
 
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Responses of Topographic Department of GSI to the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake Disaster in 2008
 
測図部 林 孝・中澤 尚・平塚喜久男・石関隆幸・高橋 祥
 
【要 旨】
 測図部では,「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」の被災地域の状況把握及び災害復旧に資するため,被災地域の空中写真の緊急撮影及びオルソ画像・正射写真図の作成等を実施した.これらの資料は,岩手県,宮城県,一関市,栗原市及びその他の関係機関に提供するとともに,ホームページ上で公開した.本稿ではこれらの測図部の取り組み概要を紹介する.
 
  本文[PDF:966KB]
 
 
Photogrammetric Analysis of Landslides Caused by the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
測図部 大野裕幸・石井 宏・中島最郎・高橋 祥・渡部金一郎
 
【要 旨】
 国土地理院は,平成20年6月14日午前8時43分ごろに発生した「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」への対応の一環として,測量用飛行機「くにかぜ2)」による被災地の空中写真の緊急撮影を6月15日から18日にかけて実施した.これらの写真から,規模が極めて大きな地すべりや斜面崩壊が集中して発生した地区の存在が確認され,この地震による被害は,土砂災害が中心であることが分かった.
 ここ数年に発生した地震への対応として緊急撮影された空中写真から作成した正射写真(以下,「オルソ画像」という.)は,建物倒壊などの被害箇所を正確に捉えるため,位置精度を重視した地上解像度20cmクラスの詳細なものであった.一方,今回の地震では個々の被害箇所の大きさが建物倒壊被害の場合と比較して数十から百倍程度の規模であり,位置精度よりも地図と重ね合わせることができるというオルソ画像の特性を活かした判読を迅速に実施することが重要と判断し,迅速性を優先した簡易なオルソ画像を作成して土砂災害の発生状況について判読を実施することとした.
 ここでは,この地震によって荒砥沢ダム貯水池内で発生した大規模地すべりと,5名の死亡が確認された駒の湯温泉に被害を与えた土石流の原因となった東栗駒山斜面の土砂崩落及び宮城県側で発生した多数の斜面崩壊について,簡易オルソ画像及び図化機を用いた実体視により判読した結果を報告する.
 
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Responses of Geographic Department of GSI to the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
地理調査部 木佐貫順一・関口辰夫・坂井尚登・野口高弘・田崎昭男
 
【要 旨】
 平成20(2008)年6月14日午前8時43分頃,岩手県内陸部を震源とする地震(M7.2,深さ約8km)が発生し,宮城県栗原市,岩手県奥州市において震度6強を記録し,地すべり,斜面崩壊,河道閉塞などの被害が多数発生した.
 地理調査部では,地震直後に地理調査部災害対策実施要領に基づき災害対策班を設置し,被害情報の収集を開始した.その結果を災害概況図としてとりまとめを行った.また,6月16日には栗原市を中心とする地域に緊急現地調査班を派遣し,GPS機能付き携帯電話で現地の写真を,電子国土Webシステムを利用した情報集約マップに送信した.さらに,測図部等が緊急撮影した空中写真により被害状況の判読を行い,地形との相関関係を解析した.
 本報告は,地理調査部の平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(以下,「岩手・宮城内陸地震」という)に関する現地調査と「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震災害状況図」(以下,「災害状況図」という)作成等の取り組みの概要をまとめたものである.
 
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Responses of Geospatial Information Department of GSI to the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
地理空間情報部
 
【要 旨】
 地理空間情報部は,平成20年6月14日(土)8時43分頃に発生した「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」の被災地域における応急・救援活動,復旧・復興活動を支援するため,地震による被害が著しい地域を対象に,災害対策用図をはじめとした各種の地図を提供するとともに電子国土Webシステムを活用した「災害情報集約マップ」等インターネットによる情報提供を実施した.さらに,災害対策本部の初動対応の迅速化のため,災害対策用図を現地対策本部等へ電子データで提供した(1時間マップ).本稿では,これらの取り組みについて,概要を報告する.
 
  本文[PDF:1,615KB]
 
 
Emergency Survey and Restoration of Environment and Instrument at GPS-based Control Stations for the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
測地観測センター 豊福隆史・野口優子・古屋智秋・渡邉和夫・河和 宏・木村有希子
東北地方測量部 小林勝博・東海林靖・阿部 聡
 
【要 旨】
 平成20年(2008年)6月14日(土)午前8時43分(JST)頃に発生した岩手・宮城内陸地震では宮城県栗原市や岩手県奥州市で道路ががけ崩れなどで寸断されるなど大きな被害が発生した.また,電子基準点でも数十~百数十kmの範囲で地殻変動が捉えられ,図-1に示す21点で測量成果の公表を停止した.
 この地震に伴い緊急に実施した,[1]通信,電力が途絶した電子基準点「栗駒2(020913)」のデータ回収,[2]成果停止地域でのVRS観測,[3]地震後データ品質が低下した電子基準点「水沢1(940029)」の原因推定作業と復旧作業,[4]東北地方測量部が実施した傾斜測定結果と傾斜計データの比較による傾斜計データの信頼性の評価,についてそれぞれ報告する.
 
  本文[PDF:883KB]
 
 
Crustal Deformation Associated with the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008 Detected by GEONET
 
測地観測センター 宮原伐折羅・野神 憩・梅沢 武・岩下知真子・川元智司・飯村友三郎
 
【要 旨】
 2008年6月14日8時43分頃に岩手県内陸南部でマグニチュード(M)7.2の地震が発生した(平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震).この地震に伴い,宮城県栗原市の電子基準点「栗駒2」で約2.1mの隆起,南東方向に約1.5mの変動が観測されるなど,岩手県・宮城県を中心とした地域で記録的な地殻変動が観測された.一部の電子基準点では地震に伴うピラーの傾斜が確認されたため,現地での調査に基づいて地殻変動に傾斜量の補正を行った.
 
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Crustal Deformation and Seismic Fault Model of the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
地理地殻活動研究センター 小沢慎三郎・今給黎哲郎・飛田幹男・矢来博司・西村卓也・水藤 尚
 
【要 旨】
 GEONETで観測された「平成20 年(2008 年)岩手・宮城内陸地震」による地殻変動から速報的な地震断層モデルを作成した.推定された断層は,電子基準点「栗駒2」における非常に大きな変動を説明する西傾斜の逆断層で,地震の規模を示すモーメントマグニチュード(Mw)は6.9となった.
 
  本文[PDF:858KB]
 
 
Landslides in the Westward Area of the Kurikoma Dam at the Iwate-Miyagi Nairiku Earthquake in 2008
 
地理地殻活動研究センター 岩橋純子
 
【要 旨】
 宮城県北部に位置する栗駒ダム西方,行者滝付近までの4km2の範囲について,航空機デジタルカメラ(DMC)のオルソフォト画像を用いて,岩手・宮城内陸地震による斜面崩壊の分布を調べ,地震前に航空レーザ測量で取得されていた詳細なDEMと比較し,現地観察と併せて,斜面崩壊の特徴を調べた.さらに,斜面型や崩壊サイズ,傾斜について,同様に詳細なDEM・崩壊地ポリゴンデータを保有する2004年新潟豪雨の被災地(出雲崎地域)と比較しながら統計解析を行った.その結果,次の事が明らかになった.岩盤崩壊であるか表層崩壊であるかには,岩相(溶結凝灰岩か否か)が強く影響している.崩壊跡地や地すべり地形に隣接,あるいは同じ場所で,大規模な崩壊が発生している事例がある.出雲崎地域の例と比較して,明らかに,尾根型斜面での崩壊が多く,また,急斜面で起きた崩壊や,大規模な崩壊が多い.
 
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