国土地理院時報(2007,113集)要旨

小特集:平成19年(2007年)能登半島地震
Response of GSI to the Noto Hanto Earthquake in 2007
 
企画部  山中雅之・原野 崇・丸山一司・高瀬昌宏
 
【要 旨】
 平成19年3月25日に発生した「平成19年(2007年)能登半島地震」により,石川県七尾市,輪島市,穴水町で震度6強の強い揺れを観測するなど北陸地方を中心に強い揺れを記録し,大きな被害があった.
 この地震に対し,国土地理院では「平成19年(2007年)能登半島地震」災害対策本部(本部長:国土地理院長)を設置し,地殻変動の解析,基準点成果の改定,緊急現地調査,空中写真の撮影,地形図等の提供等の取組みを行った.
 
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Detection of Crustal and Ground Deformation Triggered by the Noto Hanto Earthquake in 2007 with InSAR
 
測地部  雨貝知美・和田弘人・藤原みどり・鈴木 啓
地理地殻活動研究センター  飛田幹男・矢来博司
 
 【要 旨】
 国土地理院は,陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載されているLバンド合成開口レーダー(PALSAR)の観測データを用いて,干渉SAR解析を定常的に実施している.この定常解析に加え,災害発生時には,災害状況の把握等を目的として,緊急解析も実施している.
 2007年3月25日に発生した平成19年(2007年)能登半島地震では,北行軌道と南行軌道の異なる軌道からの観測がそれぞれ2回実施され,これらの観測データを用いた緊急解析を行った. これらの解析結果は,地震による広範囲の変動を面的に捉えることに成功した.さらに,いずれも震源断層モデルによるシミュレーション結果とほぼ一致しており,干渉SARによって,地殻変動を正確に捉えたことを示した.また,SAR干渉画像単独では変位の向きを特定することはできないが,2方向以上からのSAR干渉画像を組み合わせることにより,変動を擬似的な上下方向の成分と東西方向の成分とに分離することが可能となる.これによって得られた上下・東西方向の変動量は,能登半島地震のメカニズムから想定される変動量と調和的であった.これらの成果は,基準点の改測などの復旧作業を行う上で重要な情報となる.
 さらに,地震に伴う地殻変動に加えて,地すべりなどの局所的な地表面の変化を捉えることに成功した.この中には,現地調査や空中写真判読では捉えることが難しい微少な地すべりも含まれており,大規模災害に発展する可能性のある地域の把握等,防災面でも有効な情報となることが示された.
 
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Responses of Topographic Department of GSI to the Noto Hanto Earthquake in 2007
 
測図部  日谷仁英・三浦一彦・田崎昭男・中村孝之・浦部ぼくろう
 
【要 旨】
 測図部では,「平成19年(2007年)能登半島地震」に伴う被災状況の把握及び災害復旧に資するため,被災地域の緊急空中写真撮影及び正射写真図を作成した.これらの空中写真及び正射写真図は,石川県,輪島市,志賀町及びその他の関係機関に提供するとともに,ホームページで公開を行ってきた.標記の地震に対する測図部の取り組みについての概要を紹介する.
 
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Responses of Geographic Department of GSI to the Noto Hanto Earthquake in 2007
 
地理調査部  関口辰夫・木佐貫順一・野口高弘・佐藤宗一郎・太田正孝
 
【要 旨】
 地理調査部では,福井地震(昭和23年)から始まり新潟県中越地震(平成16年)に至る大地震において,現地調査等の結果に基づいて災害状況図を作成し,災害状況と地形との関係について考察するとともに災害状況の記録としても残してきた.
 平成19年3月25日に発生した能登半島地震は,震度6強を記録し,家屋,道路などが大きな被害を受けた.特に,震源地に近い輪島市では,地域住民の生活へ多大な影響をもたらした災害となった.
 本報告は,地理調査部の平成19年能登半島地震に関する現地調査と災害状況図作成等の取り組みの概要をとりまとめたものである.
 
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Research on Change Detection of Disaster-Damaged Sites using ALOS(AVNIR-2) Images-Case : The Noto Hanto Earthquake in 2007-
 
地理調査部  塩見和弘・北原敏夫
 
【要 旨】
 平成19年3月25日に発生した「平成19年(2007)能登半島地震」の被害状況について,陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載されているAVNIR-2センサ(高性能可視近赤外放射計2型)の地震発生前と地震発生後の画像を入手し,簡易オルソ補正を実施した.これらの画像を用いて差分抽出による災害状況把握の可能性について調査した.
 
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Responses of Geoinformation Department of GSI to the Noto Hanto Earthquake in 2007
 
地理空間情報部  久松文男・飯田 繁
 
【要 旨】
 地理情報部(現,地理空間情報部)は,平成19年3月25日(日)9時42分に発生した「平成19年(2007年)能登半島地震」の被災地域における復旧・復興活動を支援するため,地震による被害が著しい地域を対象に,各種の地図提供やインターネットによる情報提供を実施した.それらの取り組みについて,概要を報告する.
 
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Crustal Deformation of the Noto Hanto Earthquake in 2007 Observed by GEONET
 
測地観測センター  石本正芳・湯通堂亨
 
【要 旨】
 2007年3月25日9時42分頃に能登半島西岸付近でマグニチュード(M)6.9の地震が発生した(平成19年(2007年)能登半島地震).この地震に伴い,石川県志賀町の「富来(とぎ)」で南西方向に約21cmの変動が観測されるなど,能登半島に設置されている電子基準点において地殻変動が観測された.また,一部の電子基準点のピラーが傾斜したことが確認されたので,地震後に行った現地調査を元に補正を行った.この地震の余震活動は有感地震が数ヶ月後も観測されるなど続いたが,余効変動を示す顕著な地殻変動は観測されなかった.
 
  全文[PDF: 747KB]
 
 
Landform Changes Triggered by the Noto Hanto Earthquake in 2007 Detected from Satellite Synthetic Aperture Radar Images
 
地理地殻活動研究センター  宇根 寛・佐藤 浩・矢来博司
 
【要 旨】
 干渉合成開口レーダー(干渉SAR)は,地表面の変位を面的に把握する技術として,すでに多くの実績がある.「だいち」に搭載されたPALSARは,干渉度が極めて高く,これまでになく高い分解能で変位を捉えることができる.国土地理院は,2007年3月25日の能登半島地震(M6.9)に伴う地殻変動を「だいち」のSAR干渉画像により解析し,精度の高い震源断層モデルの推定を行ったが,SAR干渉画像には,断層運動による広域の弾性変形に加えて,局所的な地表の変位を反映した微小な変動パターンが多数みられた.筆者らは,これらは地震動に伴う数cm~数10cmのわずかな地すべり性の変状を捉えている可能性があると考え,これを実証するため,調査・解析を行った.地すべり地形分布図との重ね合わせや,現地踏査の結果,これらのパターンが地震動で発生した地すべりによる地表の変位を示していることが明らかとなった.「だいち」のSAR干渉画像は,現地調査や空中写真判読では捉えることが難しい微小な地すべり性の変状を網羅的に捕捉していると考えられ,さらなる監視や防災対策立案のための,極めて有効な情報を提供していると考える.
 
  全文[PDF:1,332KB]
 
 
Fault model of the Noto Hanto Earthquake in 2007
 
地理地殻活動研究センター  小沢慎三郎・矢来博司・飛田幹男・宇根 寛・西村卓也
 
【要 旨】
 国土地理院のGPS観測網により,平成19年(2007年)能登半島地震に伴う地殻変動が検出されている.富来観測点で南西に21cmの水平変動,及び7cmの隆起が観測されている.干渉合成開口レーダー(InSAR)の結果は,震源近くで,上昇軌道の衛星(だいち)に地面が約50cm近づく結果が得られている. GPSとInSARに基づいて推定された断層モデルの滑り分布では,震央の北東で2m程の右横ずれ成分を含んだ逆断層滑りが推定されている.震央から南西にかけての日本海側の滑り領域でも2m程の値が推定されている.余震活動は地震断層のアスペリティーとその周辺に分布しており,アスペリティーモデルがこの地震の場合は明瞭に成り立っているように見えない.地質学的時間スケールでの海岸段丘の標高変化は,推定された断層モデルで計算される地殻変動と形状が似ており,この地域で平成19年能登半島地震と同様の地震活動が繰り返されてきた可能性を示唆している.
 
  全文[PDF: 412KB]
 
 
GIS Analysis on Geomorphological Features of Slope Failures Triggered by the Noto Hanto Earthquake in 2007
 
地理地殻活動研究センター  佐藤 浩・宇根 寛・小沢慎三郎
測地観測センター  宮原伐折羅
 
【要 旨】
 平成19年(2007年)能登半島地震の後,国土地理院が作成した災害状況図に示された65ヶ所の斜面崩壊の地形的特徴を把握するために,50mメッシュ数値地形モデル(Digital Elevation Model: DEM)から計算された傾斜,曲率,斜面方位と重ね合わせ,地理情報システム(GIS)を用いて斜面崩壊の単位面積あたりの頻度をそれぞれ調べた.その結果,高頻度なのは30-35°の傾斜帯と2.8-3.0の曲率であり,これらの頻度は,より急斜面または凸斜面で生じた傾向のあることを示唆している.
 崩壊の斜面方位については,猿山岬を境に,北海岸では南向き方位と西向き成分を持つ方位に,西海岸では南~南西~西向き方位に偏っている(斜面崩壊の異方性)ことが判った.2つの電子基準点「輪島」「富来」の地震直後の地表変位の向き(変位速度0.1m/sec以上)を調べたところ,北海岸の「輪島」では北向き,西海岸の「富来」では南東向き,西向き,北向きであった.両者が完全に一致したわけでは無いが,地表変位の向きが斜面崩壊の異方性に寄与していることが示唆された.さらに,65ヶ所の斜面崩壊を,防災科学技術研究所の地すべり地形分布データベースと重ね合わせた。その結果,既往地すべり地においてよりも,その他の山地斜面において生じた斜面崩壊の数のほうが3倍以上多かったことが判った.
 
  全文[PDF:1,366KB]
 
 
 
 
 
Comprehensiue Analysis of Highly Precise Geodetic Network Survey
 
測地部  瀬川秀樹
 
【要 旨】
 精密測地網一次基準点測量の後続作業として,精密測地網高度基準点測量が1994年度から開始され,2003年度までに全国を一周するに至った.得られた三角点の成果は高精度に求められ,測地成果2000の構築にも大きく貢献した.この観測結果を比較することで,日本列島の地殻変動の様相を把握することができる.今回は精密測地網高度基準点測量と精密測地網一次基準点測量2回目の観測結果を比較し総合解析を行い,日本列島全体の歪み図を作成した.
 本稿ではその概要と過去に作成した歪み図との比較について報告する.
 
  全文[PDF: 852KB]
 
 
Provision of Global Map Japan Version 1.1
 
地理調査部  小清水寛・坂部真一・安部雅俊・榧場新一・鵜生川太郎
 
【要 旨】
 地球環境問題の解明,持続可能な開発の実現,大規模自然災害の軽減等に貢献するために整備される全球の基盤的地理情報データセットを地球地図という.地球地図は地球地図国際運営委員会が定めた地球地図仕様に基づいて国際協力のもと統一的に作成される.「地球地図日本第1.1版」(以下,「地球地図日本」という.)は,地球地図プロジェクトに参加する国土地理院が平成17年度に作成した解像度1km(縮尺100万分の1相当)のデータである.
 本年度,我々は,国際的に認知された地理情報標準に由来する形式でのデータ提供を検討し,国土地理院ウェブサイトを通じたデータ提供を実現した.また,地球地図日本のデータの精度を視覚的に確認することや,インターネット環境上での「地球地図日本」データ利活用を促進することを目的として,電子国土形式でのデータ提供を検討し,電子国土WEBシステムを利用したデータ閲覧サイトを構築した.本報告では,これらの過程において,技術的な問題点を抽出し,将来に向けた地理情報提供のあり方に提言を加えた.
 さらに,提供した「地球地図日本」データの利用にあたっては,国土地理院の測量成果(技術資料)としての提供方針と,地球地図国際運営委員会(International Steering Committee for Global Mapping:ISCGM)の定める地球地図の提供方針を調和させる必要があった.そこで,地球地図日本利用承認事務処理要領を策定し,データの利活用の円滑化を図った.
 
  全文[PDF: 852KB]
 
 
Development of Technology for Grasping Wide-Area Thermal Environment by using Earth Observation Satellite Data
 
地理調査部  永山 透・小清水寛・山田美隆・木村佳織
 
【要 旨】
 ヒートアイランド現象の調査研究,対策立案において土地被覆情報や広域熱画像等の都市圏スケールの地理情報は必要不可欠であるが,目的に適った情報はその取得技術も含め確立されていないのが課題である.
 この課題に取り組むため国土地理院は,国土交通省総合技術開発プロジェクト「都市空間の熱環境評価・対策技術の開発」の一環として,地球観測衛星データと既存の地理情報を組み合わせた高度化された土地被覆情報の整備手法,及び衛星熱画像を用いた都市の熱環境マップの作成手法を開発したので報告する
 
  本文[PDF:1,668KB]
 
 
Commitments of GSI to the Exhibition “Trace Headwaters of Tokyo area” in January, 2007
 
地理調査部  永山 透・杉原祐二・門脇利広・坂井尚登
測図部  田中宏明
企画部  瀬崎智之
 
【要 旨】
 東京源流展は,源流から解き明かす東京水圏(東京都市圏の歴史と発展に関わりの深い河川流域(利根川,荒川,多摩川等)全体を指す.)の再生をテーマとして,法政大学エコ地域デザイン研究所が主催となり,産官学民の団体の参加の下,平成19年1月10~14日に科学技術館(東京都千代田区北の丸公園)で催された展示である.国土地理院は,主要な参加機関の一つとして,3D地図,河川流路長の変化,源流域の土地利用変化,カスリン台風の災害現況図などを展示し,見学者に東京水圏の源流や流域の過去及び現状を示すとともに,今後の水辺再生への示唆となる展示を実施した.本稿では国土地理院の東京源流展における取り組みを紹介する.
 
  全文[PDF:1,746KB]
 
 
About Construction of the Hazard Map Portal Site
 
地理調査部  田口益雄・野口高広・高橋広典・北原敏夫
 
【要 旨】
 平成18年6月29日に決定された「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱※1」の中の5つの改善項目のひとつにハザードマップ等の改善が掲げられた.このため,ハザードマップの総合化と全国の各種ハザードマップをインターネット上で一元的に検索・閲覧を可能にするハザードマップポータルサイト(以下,「ポータルサイト」という.)の公開を目的に省内関係部局及び国土地理院地理調査部からなる「ハザードマップ総合化連絡会議※2」を平成19年1月30日に設置した.
 ポータルサイトの公開にあたり,国土地理院が中心となりポータルサイトの構築を行い,基礎情報を得るため,全国の市区町村を対象にハザードマップ実態調査(平成19年2月)を実施した.
 実態調査結果に基づき,平成19年4月27日にポータルサイトを公開した.しかしながら公開漏れ,機能の不具合などがあり,平成19年度以降,ハザードマップの更新・追加,ポータルサイトの機能拡充を行うこととしている.

  全文[PDF:1,063KB]
 
 
Outline of GIS and Ubiquitous Policy and Technology Trend in Korea
 
地理地殻活動研究センター  小荒井 衛
 
【要 旨】
 韓国では日本のGISアクションプログラムとほぼ同様な国家GIS計画を推進しており,u-Koreaと呼ばれるユビキタス施策が日本以上に推進されてきている.韓国国土研究院国土情報研究センターは,韓国の国家GIS計画の立案を支援する政策研究所である.また,韓国情報社会振興院は情報通信部を支援してユビキタス施策の推進を行っており,韓国建設技術研究院では空間情報やユビキタス融合技術の研究開発を行っている.韓国のGIS施策やユビキタス施策について調査するため,これら韓国の国家研究機関や民間会社を訪問し,情報交換・意見交換を行った.その結果,ICタグの利活用については,インテリジェント基準点を中心とした測位や測量への応用研究が日本と韓国で先進的に進められている事,U-City計画など日本以上に総合的なユビキタス施策や環境整備が進められていることが判った.また,韓国では国土計画や地域計画の策定に資するGIS解析技術や政策研究に力を入れており,日本においてその領域の研究の充実が必要である事を感じた.
 
  全文[PDF:1,053KB]
 
 
Geomorological Study of Leyte Landslide
 
地理地殻活動研究センター  小荒井 衛・佐藤 浩・神谷 泉
消防研究センター  新井場公徳
国土技術政策総合研究所  小山内信智・伊藤英之
 
【要 旨】
 平成18年2月17日にフィリピン・レイテ島で発生した大規模地すべり災害に関連して,平成19年1月~2月に,消防庁消防大学校消防研究センター,国土交通省国土技術政策総合研究所,国土地理院の3機関共同で現地調査を行った.国土地理院では,災害後の人工衛星リモートセンシングデータを使って地形計測等を行ったほか,災害前の地形を空中写真や地形図等を活用して把握して,今回の地すべり災害の地形的特徴を把握した.その結果,この土砂災害は地すべりではなく大規模山体崩壊による岩屑なだれと判断された.過去に何回か大規模な山体崩壊を繰り返していた可能性や,断層破砕帯の存在が素因として影響を与えた可能性が指摘できた.また,ALOS PRISMステレオ画像を使って流れ山に着目して地形計測と地形解析を行い,各エリア毎の流れ山地形の大きさや長径卓越方向等に特徴があることが明らかになった.
 
  全文-1[PDF:1,886KB]
  全文-2[PDF:1,045KB]
 
 
Landform Evolution in Tomari-no-tai Area, Shirakami Mountains and Comparison Between Interpreted and Automated Landform Classification Map
 
地理地殻活動研究センター  佐藤 浩・小荒井 衛・岩橋純子
地理調査部  関口辰夫
山形大学  八木浩司
 
【要 旨】
 白神山地は,人為的な影響がほとんど無いブナの原生林が優占している.この原生林の成立の基盤ともなる地形を調べるため,秋田・青森県境,標高1,086mの二ッ森(中新統上部花こう岩類)の北麓,中新統中部の泥岩を基盤とする泊の平地区(3.8km2)を対象に,航空レーザ測量データを取得するとともに,このデータから作成した1m間隔等高線図の読図に空中写真判読を補助的に用いて判読地形分類図を作成した.そして,現地の露頭観察を組み合わせて,対象地区の地形発達モデル([1]二ッ森北面を滑落崖とする大規模な地すべりの発生,[2]赤石川下刻に伴う地すべり移動域の再滑動,[3]二ッ森基部では,地すべり移動域を被覆するマサ土主体の土石流堆積面の形成,[4]土石流堆積面の上流では,これを被覆する現成の扇状地性堆積面の形成)を提案した.
 また,航空レーザ測量データから2mグリッドDEM(Digital Elevation Model)を生成し,傾斜3分類(緩・中庸・急傾斜),テクスチャ2分類(キメの粗さ・細かさ),凹凸2分類を組み合わせた12分類の自動地形分類図を作成するとともに,判読地形分類図と比較した.さらに,冬季-秋季の航空レーザ測量差分データから,平均積雪深は3.5mであることが判った.積雪深データと自動地形分類図の関係を調べたところ,傾斜3分類に関わらず凸型よりも凹型の斜面で積雪深が大きいこと,同じ凹型の斜面でも,傾斜が急の場合は中庸・緩の場合よりも,キメが細かいほうが積雪深は大きいことが判った.
 
  全文-1[PDF:1,385KB]
  全文-2[PDF:2,151KB]
 
 
Possibility of Detection of Preslip for Anticipated Tokai Earthquake by GEONET
 
地理地殻活動研究センター  水藤 尚
 
【要 旨】
 想定東海地震の前兆すべりが発生した際に,その発生を国土地理院が運用するGPS連続観測網(GEONET)で検出可能であるかを調べるために,前兆すべりの大きさと発生する場所,予想される地殻変動についての検討を行った.対象とする東海地域のGEONET観測点は179点とした.前兆すべりの候補点は気象庁が使用している東海地域のプレート境界モデルを使用した. 前兆すべりに伴う地殻変動を検出しやすい前兆すべりの発生場所は,御前崎周辺,御前崎沿岸,駿河湾北部,駿河湾北部の内陸といった,いずれもプレート境界面が浅く内陸もしくは陸に近い場所である. GPSによって検出できる地殻変動の閾値を5mmと考えると,前兆すべりに伴う地殻変動を捉えられる可能性があるのは,前兆すべりの大きさが少なくともMw5.6以上の場合である.逆に前兆すべりの大きさがMw5.5以下であった場合,GEONETで前兆すべりに伴う地殻変動を捉えるのはかなり難しい.GEONETのリアルタイム化が進んでいる中で,前兆すべりの時間発展の検討も行っていくことが今後実行すべき課題である.
 
  全文[PDF: 682KB]