GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究

GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究(7/7)

内容

6.高分解能衛星画像を利用した地図作成

6.1 概要
近年、人工衛星に搭載されるセンサーの技術開発が進み、地上分解能1m未満の人工衛星画像も入手可能となっている。高分解能衛星画像は、広範囲な地域を一度に撮影でき、また、地上分解能によっては、地物の判読性も十分にあることから、地図作成の分野においての活用が期待できる。

特に衛星画像の特徴として、広範囲の画像を定期的に入手することが可能なので、常に最新の状況を反映した地図データの修正に有効ではないかと期待される。

本件では、米国IKONOS衛星のオルソ画像(地上分解能1m、製品名:IKONOSオルソエキスパート)を利用した地図作成の可能性について検討した。

6.2 画像基準点の構築と精度検証
人工衛星はいつどこを通過したかという軌道情報やプラットフォームの姿勢情報が明らかであり、情報の精度が十分であれば、一般の航空機で撮影された画像から地上の測地座標を求める際に使われる既知点(地上基準点)が原理上不要である。

しかし、現時点においては、その衛星画像の撮影やデータ処理の諸元が明らかにされていなかったり、また、精度検証の方法が定式化されていないなどの理由により、製品仕様で示されている精度が信頼できるものか定かではない。

このため今回の研究作業において、衛星画像の位置精度検証や幾何補正を行うための画像基準点を岐阜県大垣市内に構築した(図-19、図-20)。

画像基準点は、衛星画像から判読可能でかつ短期間で亡失することがないような地物、例えば、堅牢建物や地面の境界等(学校の校庭の隅等)を利用した。

設置範囲
図-19 画像基準点の設置範囲(大垣市内)

点の記
       図-20 画像基準点の成果(点の記)


本研究において設置した画像基準点は、GPSやトータルステーション等、地上測量により設置したものが9点、1/8,000の空中写真から写真測量により計測したものが45点(うち一部は、地上測量と写真測量の両方で計測した。)である。

平成12年度業務において試験的に設置した画像基準点を実際の高分解能衛星画像(IKONOS画像、地上分解能1m)と対比させ、画像基準点の有効性や課題を検証した。

IKONOSデジタルオルソ画像の精度検証の結果は(表-9)のとおりである。平成13年に撮影された画像の誤差(水平精度)の標準偏差は1.64mと製品仕様の水平精度1.75mの範囲内に収まっているが、平成12年撮影の画像では、2.20mと上回っている。
これは、平成12年はIKONOS衛星が運用開始直後であったことや撮影条件等の問題もあるが、構築した画像基準点が、高さのある建造物の屋根の部分を取ったものが数多くあり、地盤高との差による倒れ込みや建築物の影等の影響が衛星画像上での建物輪郭の判読を困難なものにし、誤差を生み出したものと思われる。

平成13年画像では、これらの点を考慮して、判読が困難な基準点については、検証の対象から外して位置精度を確認した。

いずれにせよ、基本図測量作業規程で示された図上0.7mmの実制限値に照らし合わせると、2万5千分1地形図(17.5m)の修正には十分な精度を有している。
また、2千5百分1地形図の修正にも使用できる可能性がある。



表-9 IKONOSデジタルオルソ画像の精度検証結果
撮影日 基準点数 残差x(m) 残差y(m) 残差z(m)
最大 σ 最大 σ 最大 σ
平成12年3月 43 3.71 1.13 5.49 1.88 5.67 2.20
平成13年3月 38 2.59 1.27 4.10 1.04 4.85 1.64
σ:標準偏差


6.3 地図作成のための判読性の検証
高分解能衛星画像を利用した地形図作成の可能性について調査するため、IKONOS衛星画像による地物の判読性の面から検証を行った。

まず、地物の判読性について、地図の図式(1/2,500国土基本図図式)の項目ごとに、判読ができるかできないかをIKONOS画像上で調査し、その結果を整理した。
この結果、現地調査や資料による情報に頼らざるを得ないものを除き、概ね従来の航空写真に迫る判読性を有していた。一方で、今回使用した衛星画像はオルソ画像のため、崖や擁壁等、判読に立体感を必要とする地物については、ステレオ視ができる空中写真にくらべて情報の抽出力が劣っていた。

次に、IKONOS衛星画像から建物の図化(国土地理院開発のVRC(ラスター型地形図修正システム)による管面図化/オルソ画像)を行い、これを航空写真測量で作成された1/2,500のDMデータと比較した。図-21(左)が、IKONOS画像とDMデータを重ね合わせたもので、同(右)は、実際にIKONOS画像を用いた図化の結果とIKONOS画像を重ね合わせたものである。
この結果を見ると、IKONOS画像では航空写真から図化されたDMデータを比べて、建物の微少な凹凸がよく見えないのが分かる。
このように、1/2,500レベルの大縮尺地図の修正で利用するには地物の詳細な部分についての判読性に難があるものの、地物によっては図化が可能である。
また、1/25,000レベルの中縮尺地図の修正においてはこのように詳細な地物の形状を判別する必要が無く、従来の航空写真に代わって十分に利用可能であるといえる。
 
IKONOS画像(大垣市街)((C)日本スペースイメージング(株))DMデータの重ね合わせ(左) IKONOS画像(大垣市街)((C)日本スペースイメージング(株))IKONOS画像を使った建物輪郭の取得(右)
図-21 IKONOS画像(大垣市街)((C)日本スペースイメージング(株))
     DMデータの重ね合わせ(左)、IKONOS画像を使った建物輪郭の取得(右)


なお、今回得られた衛星画像に関する調査結果をもとに、高分解能衛星画像を利用して地形図を修正するための手引きとして、「高分解能衛星画像を用いた地形図修正のためのガイドライン(案)」を作成した。

7.まとめ

3年間に渡って行われた「GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究」は、その研究内容や成果が多岐に渡り膨大なため、本報告ではその概要を述べた。

本研究で得られた最大の成果は、「建設行政空間データ基盤」の策定とそれを実現するための「建設行政空間データ基盤製品仕様書(案)」である。この成果が実際に適用することができれば、国土交通省や地方公共団体のGISが抱える問題のひとつであるデータの相互利用の可能性が大きく広がることとなる。

しかしながら、「建設行政空間データ基盤」の有効性は示すことはできたが、実際には、様々な課題が残ることも事実である。
技術的な問題もさることながら、異なる機関、部局が協力し、密に連携しなければ、この「建設行政空間データ基盤」の実現は難しいであろう。このため、連携の方策や制度的な仕組みを検討していく必要がある。

また、測量技術の進歩による地図の作成手法の急速な変化は、迅速かつ効率的な基盤地図データの整備・更新に大きな効果を果たすものと期待できるが、精度検証を含めた技術的評価手法の確立が急務である。

参考文献:
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国土地理院(1999a):地理情報標準第1版
国土地理院(2000a):建設省次世代GIS情報基盤の設計に関する調査作業報告書
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国土地理院(2001a):地図データの品質とその評価に関する指針第1版(案)
国土地理院(2001b):GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究報告書
国土地理院(2002a):大縮尺数値地形図に係る仕様書記載事項及び品質(案)
国土地理院(2002b):GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究2)報告書
国土地理院(2003a):地理情報標準第2版
国土地理院(2003b):GIS次世代情報基盤の構築手法及び活用に関する調査研究3)報告書
建設省道路局(1999b):道路基盤データ製品仕様書(素案)
建設省河川局(1998):河川基盤地図データ作成のガイドライン(案)
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(社)日本下水道協会(2001e):下水道台帳管理システム標準仕様(ISO/TC211準拠)
総務省(2001c):共用空間データ基本仕様書
総務省、経済産業省、国土交通省(2001d):平成12年度モデル地区実証実験報告書
総務省、経済産業省、国土交通省(2002c):平成13年度モデル地区実証実験報告書
(財)砂防フロンティア整備推進機構(2002d):土砂災害防止法に使用する数値地図作成ガイドライン(案)暫定