測量に関するミニ知識

第16回 地図、空中写真等の個人情報の取り扱いと二次利用 その1

はじめに

 国や地方公共団体は、それぞれの行政目的に応じて様々な地理空間情報を整備・保有しています。その中には、行政の他部局や社会一般にとって有用な情報が多く含まれています。現状では、個人情報該当性に係る判断が難しいといった理由から、これに過度に反応し、その提供を躊躇するケースが少なくありません。そのため、本来利用できる地理空間情報が流通されず、測量の重複など非効率な結果を招くことになっています。
 そこで今回は、国、地方公共団体が保有する地理空間情報のうち代表的な測量成果等(地図や空中写真等)について、個人情報の取り扱いの考え方等を紹介します。
 この考え方については、個人情報保護に関する基本法制(図1)に基づく法令等の規定に従い、主なものを整理したものです。
図1 個人情報保護に関する法体系イメージ
図1 個人情報保護に関する法体系イメージ(消費者庁Webサイト「個人情報の保護」より)

1.個人情報ってなに?

 一般に、誰の情報なのか、誰が見ても分かる情報と思いがちですが、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律及び独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(以下、「行政保護法」という。)で規定する個人情報の定義では、生存する個人の氏名、生年月日その他の記述等の単独の情報から特定の個人を識別できるものとされ、他の情報と照合することで識別できる情報も含まれます。
 一方、地方公共団体で制定される個人情報保護条例(以下、「保護条例」という。)においては、その定義に『生存する』という条件がないものもあります。この場合、死者の個人情報も保護対象となりますので、その取扱いに注意が必要となります。

2.プライバシーと何が違うの?

 個人情報は法令に明確に定義されていますが、一般論として、プライバシーは、法令等で明確に定義づけられているものではなく、その保護の対象となる範囲について幅があり、個人情報保護の範囲とは完全に重なりません(図2)。そのため、法令等に基づき公表され、かつ、公開されていることが社会通念上妥当な情報の中にもプライバシー侵害の可能性はあると考えられます。
図2 個人情報とプライバシーの関係図
図2 個人情報とプライバシーの関係
 では、測量において、プライバシー保護の考え方はどうでしょうか。
 測量法は、測量の正確さを確保し、測量の重複を排除するためのものです。特に公共性の高い測量は、本来、公知であるべき事実を正確に取得するためのものであり、プライバシーに関わる情報収集を目的としていません。万一、測量成果等にプライバシーに係る情報が含まれていた場合、当該情報の利用目的に応じた公共性や社会ニーズとプライバシー侵害の可能性を比較考量(図3)の上、適正に取扱うことが重要となります。
図3 公共性ニーズと侵害の可能性の比較考量イメージ
図3 比較考量イメージ

3.なぜ、取扱いに注意しないといけないの?

 一般に、個人情報が利用目的以外で利用・提供された場合、個人が特定され、悪用されたりしないよう、個人の権利利益を保護するため、その取り扱いに注意が必要です。
 行政機関・団体が保有する地図や空中写真等の地理空間情報は、その提供・流通の促進により、幅広い分野において大きな便益をもたらす貴重な資産です。一方、個人情報に過度に反応し、行政機関・団体において提供を躊躇するケースが少なくありません。このため、地理空間情報が適切にかつ安心して利用できるよう、提供に当たっては、個人の権利利益の保護に十分留意する必要があります。

4.利用目的以外の利用・提供は絶対にダメなの?

 個人情報に該当すると判断された測量成果等は、個人情報保護の観点から、原則として本来の利用目的を遵守した取り扱いが必要となります。しかし、国民負担の軽減、行政効率の増大、本人や公共の利益につながる場合には一定の例外が認められています。
 利用目的以外の利用・提供に関する例外規定は、保護条例と行政保護法とでは同一の内容ではありません。したがって、地方公共団体においては、個々の保護条例による例外規定に基づいた判断が必要です。
■保護条例による例外規定の代表的なもの
保護条例による例外規定の代表的なもの
■行政保護法による例外規定
行政保護法による例外規定

5.利用や提供の可否の判断は、どうするの?

 測量成果等の利用・提供の可否を判断する際、「単独で個人情報となるものが含まれているか」、「他の情報との照合により特定の個人を識別可能か」、「他の法令による定めがあるか」、「例外規定に該当するか」が判断の基準となります。提供において、適用する法律あるいは条例の規定に基づいた判断基準フロー(図4、図5)は次のとおりです。
 なお、大地震をはじめとする大規模な自然災害、原子力発電所等の事故、戦争・テロ等、有事の際の個人情報の利用・提供については、利用目的以外の利用・提供制限の例外事項である「人の生命、身体又は財産の保護のため、緊急の必要があるとき」、「本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき」に該当すると考えられます。
ただし、このような有事の際においては、実際には判断基準フローによる判断を行う時間もなく、人の生命、身体又は財産の保護を第一に判断し、個人情報を利用・提供することが妥当です。
図4 保護条例に基づく測量成果等の提供可否の判断基準フロー
図4 保護条例に基づく提供可否の判断基準フロー
図5 行政保護法に基づく測量成果等の提供可否の判断基準フロー
図5 行政保護法に基づく提供可否の判断基準フロー

6.主な測量成果等で個人情報に該当するものはあるの?

■都市計画基本図
 一般に、測量法第34 条で定める作業規程の準則に規定する「公共測量標準図式」(以下、「標準図式」という。)に準拠し、作成される都市計画基本図(図6)には、個人情報に該当する情報は含まれません。ただし、取得する事項を拡張している場合には、その事項が個人情報に該当する否かを精査する必要があります。
図6 公共測量標準図式に準拠し、作成される都市計画基本図の例
図6 都市計画基本図の例
■森林計画図
 森林計画図自体には、個人情報に該当する情報は含まれません。ただし、森林計画図に明示されている林班番号や小班番号と森林簿を照合することにより、森林の所有者が判明することから、林班番号及び小班番号は個人情報に該当する可能性があります。この場合、利用の制限の設定などの措置を検討・判断する必要があります。

■地番現況図
 地番現況図は、不動産登記法第119 条第1 項の規定の基づく登記事項証明書(図7)、住民基本台帳法第11 条及び12 条に基づく住民基本台帳、住民票の写し等と照合することにより、土地の所有者等の特定の個人を識別できる場合があります。そのため、個人情報に該当する可能性があります。
 行政機関等以外の者への提供のうち、特に専ら統計の作成又は学術研究の目的以外で利用される場合には、例外規定の該当性について判断が必要となります。
図7 登記事項証明書の見本
図7 登記事項証明書(見本)
■公共下水道事業平面図
 一般的に、公共下水道事業平面図には、特定の個人を識別できる情報が含まれていないので、その利用・提供に際しては特段の制約はありません。しかし、建築物に個人名が記載されているケース(図8)が稀にあります。その場合は、特定の個人が識別されないよう、秘匿等を行った上で提供することが必要です。
図8 公共下水道事業平面図において地図に個人名が記載されている例
図8 「公共下水道事業平面図」において地図に個人名が記載されている例
■空中写真
 空中写真撮影の技術水準では、地上画素寸法5cm程度の撮影がデジタル航空カメラを用いることにより可能となり、人影程度のものが識別(写真1)できるようになりましたが、人の顔の識別や自動車のナンバー(写真2)の判読は依然困難です。また、撮影時に記録される情報にも個人の特定につながる情報を記録していないため、この技術水準で撮影される空中写真は個人情報には該当しません。ただし、上空から撮影される空中写真の特性上、塀で囲まれ公道から見えない場所などの情報が含まれることから、撮影対象・撮影縮尺に応じて、プライバシー等への一定の配慮が必要になる場合もあります。
写真1 人物の写り方(地上画素寸法5cm)
写真1 人物の写り方
(地上画素寸法5cm)
写真2 ハッチバック車両のナンバープレートの写り方(地上画素寸法5cm)
写真2 ハッチバック車両のナンバープレートの写り方
(地上画素寸法5cm)
■点の記
 点の記には、測量の作業者の氏名のほか、土地の立ち入りが必要となるために、所有者の住所・氏名、設置位置を示す詳細図には建築物に個人名の情報が記載されている場合(図9)があり、これらは特定の個人を識別できる個人情報に該当します。ただし、点の記の作成時には、土地の所有者等から承諾を得て、その際に、点の記が閲覧によって公開されること等について、本人に確認を行う、または承諾書等に公開することを明記するなど、個人情報を含む情報の公開のための手続きを行っています。この手続きを行った場合、提供制限の例外規定が適用され、個人情報を含む情報を提供することが可能となります。
図9 個人情報を含む「点の記」の例
図9 個人を識別できる情報を含む「点の記」の例

7.個人情報の取り扱いに関するガイドラインを公開しています!


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  次回は、「地図、空中写真の二次利用」についてご紹介します。