地理情報 − 時間スキーマ(要約)

ISO/CD 19108.2 (1999年11月24日)


序文

 この国際規格のこのパートは、実世界から抽象化された地理情報の時間特性を記述するために必要となる、標準的な概念を定義する。地理情報の時間特性は、時間域の値をもつ、地物属性、地物演算、地物関係およびメタデータ要素を含む。
 コンピュータと地理情報システムの広範な利用によって、多様な分野で地理空間データの解析が増加してきた。地理情報は三次元空間に限られることはない。多くの地理情報システムは時間的な性質をもつデータを必要としている。時間特性に関する標準化された概念スキーマは、シミュレーションや予測モデリングのような応用システムに使われることによって、地理情報の利用可能性を増加させる。
 基本的な物理的現実として、時間はすべての科学的および技術的分野に関わる。この国際標準のこのパートで記述される概念の多くは、地理情報以外の分野にも適用できる。ISO/TC211は時間の記述をおこなうために独立の標準を開発することは意図していないが、専門委員会は地理データセットおよび複数の地物の時間特性の記述法を標準化することが必要であると信じている。地理情報システム、ソフトウェアの開発者、および地理情報の利用者は、一貫した理解を得るための、時間データ構造を提供するために、このスキーマを使うことになろう。
 歴史的には、地物の時間特性は地物の主題属性として扱われてきた。例えば、地物" 建物"は"建築日付"を属性としてもつことができる。しかしながら、時間の間数として地物の振る舞いを記述したいという関心が高まってきている。これは、時間を、空間と独立なものとして取り扱っても、多少の対応は可能である。例えば移動するオブジェクトの経路は" 経路点 "と呼ばれる地物の集合で表現できる。時間に関連する振る舞いは、もし時間次元が、地物を時空間オブジェクト(spatiotemporal object)として表現できるように、空間次元と結合すれば、より簡単に表現することが可能になる。例えば、移動するオブジェクトの経路は、座標x, yおよびtによって記述される曲線として表現できるであろう。この国際規格原案は地物属性としての時間の利用法を標準化するために用意された。これは空間と時間の座標の組あわせによって地物の幾何属性を記述するものではないが、将来はそれができるように、その基礎の確立を念頭において書かれている。
 

適用範囲

 この国際標準原案は地理情報の時間特性を記述する概念を定義する。これは時間情報の交換のための既存の情報技術標準に準拠する。これは地理空間的な状況の取り扱いに対して、論理的に首尾一貫した取り組みの方法(approach)を確立する。これは時間に関する地物属性、地物演算、および地物関係を定義するための基礎、および地理情報の関するメタデータに、時間的な局面の情報を提供する。
 

適合性の要件

 このパートは、試験項目の性格に応じて、下に示す五つの適合性の節を定義する。
・データ交換のための応用スキーマ
・演算付きのデータのための応用スキーマ
・地物カタログ
・メタデータの仕様
・データセットのためのメタデータ
 

用語と定義(抜粋)

イベント(event)
瞬間的に起きる行為
状態(state)
期間中は変化しないという条件を満たす状況
時間地物属性(temporal feature attribute)
時間域の値をもつ地物属性
瞬間(instant)
時間中の位置を表現する点
期間(period)
二つの異なる時間位置を境界にもつ時間の範囲を表現する、一次元幾何プリミティブ
地物遷移(feature succession)
一つ以上の地物インスタンスが別の一つ以上のインスタンスに交代することによる、時間的な変化の順列
地物分離(feature division)
 直前に存在した地物インスタンスが、同じ型をとる二つ以上の地物に分離すること
地物融合(feature fusion)
直線に存在した二つ以上の、同じ型をもつインスタンスが同じ型をもつ一つのインスタンスに組み込まれること
地物置換(feature substitution)
地物インスタンスが同じまたは異なる型をもつ地物インスタンスへの、一対一の交代
時間参照系(temporal reference system)
時間を計量する参照系
暦(calendar)
 離散的な時間参照系で、一日をその精度とする時間位置を定義するための根拠を与える。
グレゴリオ暦(Gregorian calendar)
ユリウス暦の誤差を修正するために、1582年に最初に導入された、汎用的な暦
順序時間参照系(ordinal temporal reference system)
時間の方向に順序付けられた順序年代の階層からなる、時間参照系
時間座標系(temporal coordinate system)
単一の標準的間隔によって定義された間隔目盛を基礎とする時間参照系

地理情報の時間的様相を示す概念スキーマ

1 時間幾何属性

 時間は任意の空間次元と類似した一つの次元である。空間のように、時間は幾何属性を持つことができる。時間の点は時間参照系に関係して識別できる位置を占め、距離が計測できる。しかしながら、空間とは異なり、時間は単一の次元をもち、時間参照系は多くの応用システムで使われる、空間位置を記述するために使われる線型の参照系と類似している。時間は絶対的な方向性をもち、運動は常に前向きにしか起きないが、時間は二つの方向で測ることができる。
 時間は二種類の目盛で測られる。順序目盛は時間に関する相対的な位置のみによる情報を提供するが、間隔目盛は計測期間の長さを求めるための基礎を提供する。
 時間の幾何および位相オブジェクトは地物とデータセットの時間特性を示す値として使用されなければいけない。
 

2 時間参照系

時間参照系パッケージは時間参照系の3つの共通型を含む。それらは、暦(より高精度を求める場合は時計と共に用いられる)、時間参照系、および順序時間参照系からなる。 
 暦と時計は両方とも間隔目盛の基礎となる。暦は離散的な時間参照系であり、1日を単位とする精度で時間位置を与える基礎を提供する。時計は、指定された日の中の時間位置を完全に記述するためには、暦と共に用いられなければならない。
 暦日と時刻に換算した時間位置を規定すると、時点同士の距離の計算や時間演算の関数表現が複雑になる。時間座標系はこの種の応用システムを利用可能にするために使われることがある。時間座標系は単一の時間間隔によって定義される連続な間隔目盛りの基礎とならなければいけない。
 多くの地理情報の応用システム − 例えば地質学および考古学 − において、時間的に相対的な位置は、その継続時間より正確に知られている。事象の時間順序は詳細に調べられているが、その間の、時間的間隔の大きさは正確に求めることができないことがある。順序時間参照系はこのような場合に適している。
 

3 時間地物関係

 時間地物関係は時間が支配的な性質であるときの関係である。この国際規格原案は二つの時間地物関係を規定する。それは時間地物関係と、遷移である。
 単純な時間地物関係は純粋に時間的な関係である。関係は二つ以上の地物間の相対的な時間位置を識別し、それ以上ではない。一般的に、この型の関係は地物インスタンス間に存在するが、個別の地物型のためにあると断言することはできない。
 地物遷移は地物の集合が別の集合に置換されることである。地物遷移には空間および時間の両方の局面があり、地物が、異なる時間に個別の順序で、同じ空間的な位置を占める関係である。
 
 

附属書A 応用スキーマ中の時間の仕様

ここでは時間スキーマのための抽象試験スイートが示されている。
 

附属書B 暦の記述

 ここでは暦の定義が詳細に述べられ、ユリウス暦、元号を含む現在の日本の暦などが実例として示されている。
 

附属書C 応用スキーマにおける時間の使用

 ここでは応用スキーマを作成する方法が、実例付きで示されている。
 
 

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