地理情報 − 空間スキーマ(要約)

ISO/CD 19107(1999年11月15日)


序文

 この国際規格原案は地物の空間特性の記述と操作のための概念スキーマを提供する。地物は実世界の現象の抽象概念である。これは地球上の地点と関連付けられる地理的な存在である。ベクター・データは、地物の空間的な特性を表現するオブジェクトを構成すために使われる幾何および、位相プリミティブからなる(これらのプリミティブは組み合わさってもしくは個別に使われる)。
 モデルの中では、空間的な特性は、幾何オブジェクト(GM_Object)や位相オブジェクト(TP_Object)によって与えられる値をもつ、一つ以上の空間属性によって記述される。幾何属性は、地物の空間特性のための、次元、位置、サイズ、形および向きを含む、座標や数学的な関数による計量的記述を意味する。オブジェクトの幾何属性を記述するために使われる数学的関数は、空間上の位置を定義するために使われる座標参照系の型に依存している。情報が一つの測地参照系または座標系から別のものに変換されると、地理情報の中で幾何属性だけは、それに応じて変化する、という特徴をもつ。
 位相属性は、幾何的な形状が、仮に空間が弾性的かつ連続的に変形されても不変性を保つ性質を扱う。例えば、地理的なデータが一つの座標系から別の座標系に変換された場合がこれに当たる。地理情報の文脈の中では、位相属性はn次元グラフの連結性を記述するために使われ、グラフの連続的な変化のもとでも不変となる性質を記述する。計算位相幾何学は、基礎をなす幾何的性質から導き出すことができる幾何プリミティブの連結性に関する情報を提供する。
 空間演算子は空間オブジェクトの使用、問い合わせ、生成、変更、または削除をおこなうための関数および手続きである。この国際規格原案はそれらの定義と実装のための規格を作成するために、これらの演算子の分類法を定義する。
 空間的な特性を記述するために規格化された一連の概念スキーマは、複数の応用システムの間で地理情報を共有化する能力を向上させるであろう。これらの概念スキーマは地理情報システムおよびソフトウェア開発者、地理情報の利用者にとって、一貫した理解を可能とする空間データ構造を提供するために使われるであろう。
 

適用範囲

 この国際規格原案では、地物の空間特性を記述するために複数の概念スキーマと、これらのスキーマと両立する空間演算子を規定する。この規格は、3次元までのベクター型の幾何属性と位相属性を扱う。この規格は、3軸までの座標空間の中に埋め込まれる3次元までの空間(幾何および位相)オブジェクトがもつ地理情報の入手、問い合わせ、管理および処理のための、規格化された空間演算子を定義する。
 

適合性の要件

 この規格では、地物の空間特性を記述するための概念スキーマを表現するために、統一モデリング言語(UML)を使っている。ここでは、地物の空間特性を記述するための空間オブジェクトを規定する応用スキーマの中でインスタンス化されるUML型を定義する。この規格の中で定義される概念スキーマは直接的に実装されることは期待されていない。むしろ、応用スキーマやプロファイルの設計者は応用システムで仕様が定義されるクラスのスーパータイプとして、ここで定義されるUML型を使うことになる。この概念スキーマによって記述されている能力を完全に使う応用システムはほとんど無いであろう。
 幾何または位相オブジェクトをインスタンス化する応用スキーマのために、適合性の節がある。それらは三つの基準で分類されている。最初の二つの基準は、与えられた適合性クラスに適合する応用スキーマによって実装されなければならない、空間スキーマの中で定義されている型を決定するためにある。三つ目の基準は、実装されなければならないこれらの型の要素を決定する。
 この国際規格原案に適合するためには、実装システムは、適合性クラスの規定を示す附属書Aの中にある抽象試験スイート(ATS)の要求を満足しなければならない。
 

用語と定義(抜粋)

空間オブジェクト(spatial object)
幾何属性または位相属性を表現するために使われるオブジェクト
空間演算子(spatial operator)
その定義域集合や値域集合の中で最低限一つの空間パラメータをもつ演算子
幾何オブジェクト(geometric object)
幾何プリミティブ、幾何プリミティブの集合、または単一の実体として扱われる幾何複合体
幾何プリミティブ(geometric primitive)
単一の、連結で一様な幾何属性の要素を表現するオブジェクト
点(point)
位置を表現する、広がりをもたない0-次元幾何プリミティブ
曲線(curve)
境界をもつ、1-次元地理プリミティブで、直線からの連続的な像(image)
曲面(surface)
境界をもつ、連結な2-次元幾何プリミティブで、平面の領域の連続な像を表現する
立体(solid)
境界のある、連結な3-次元幾何プリミティブ。3次元ユークリッド空間の領域の連続な像を表現し、それゆえ、3つのパラメータをもつ直接位置の集合として局所的に、完全に実現できる。
位相オブジェクト(topological object)
位相プリミティブ、位相プリミティブの集まり、または一つの実体として扱われる位相複合体
位相プリミティブ(topological primitive)
位相複合体内の単一のアイテムを表現し、かつ、位相複合体の中の、他の要素との関係ももつオブジェクト
ノード
0-次元位相プリミティブ
エッジ(edge)
1-次元位相プリミティブ
フェイス(face)
2-次元位相プリミティブ
位相立体(topological solid)
3-次元の位相プリミティブ
グラフ(graph)
エッジによって結合された、ノードの集合。エッジで結合されないノードもありうる。

幾何属性パッケージ

 幾何属性パッケージは座標幾何属性のためにさまざまなクラスを含んでいる。大部分のクラスは、根底クラスであるGM_Objectを通じて、座標参照系への関連を継承する。この規格の中で定義されているインタフェースを通して見られる全ての直接位置は、利用している幾何オブジェクトの空間参照系の中になければいけない。幾何複合体、合成体または集約体のすべての要素は同じ座標参照系に関連しなければいけない。
 

位相属性パッケージ

 位相属性の最も生産的な使用法は、計算幾何学的な処理の高速化である。この使用法が成功するためには、地物インスタンスと幾何オブジェクトが、それらの間にある暗黙の幾何的関係と一致する、および導き出されるように、明確に関連付けすることである。その目的を達成するためには、幾何属性パッケージと並立した位相属性パッケージを定義する必要がある。
 

導出位相関係

 この規格では幾何オブジェクト間に、ブール演算子によって集合演算(包含、離接等)を適用することができる。またエーゲンホーファー演算、またはクレメンティーニ演算を適用し相互の空間関係を導出することができる。
 
 

附属書A 抽象試験群

 幾何プリミティブとその演算、位相プリミティブとその演算、幾何複合体とその演算、位相複合体とその演算などについて、抽象試験の仕様を定めている。
 

附属書B 応用スキーマのためのモジュール

 ISO19109−応用スキーマのための規則を使って構築される応用スキーマは、空間スキーマで規定されているパッケージ内のクラスおよびインタフェースのサブタイプを定義し、使用することができる。このメカニズムは、構造的な多相性を通じて、この規格内のパッケージから得られる、必要なインタフェースを供給するインスタンス化可能なクラスを定義する。このセクションでは、このメカニズムを用いて生成された幾何属性の骨格的な応用スキーマを紹介している。
 

空間スキーマ概念における幾何属性を使った例

 ここでは、2次元座標参照系における幾何オブジェクト、3次元座標参照系における幾何オブジェクトの実装例を紹介している。
 
 

[ もどる ]