地理情報 − 参照モデル(要約)

ISO/CD 15046-1.2(1998年11月30日)


 参照モデルは、地理情報のための規格の作成・利用に適用される、全ての規格化要件及び全ての基本的原則を記述している。これらの要件と原則を記述することにより、地理情報が、既存・新規のデジタル情報技術やデジタル情報アプリケーションと統合されるような、規格化の未来像を提供している。ISO 15046-1地理情報−パート1:「参照モデル」は、この一連の規格の基本原則、及び地理情報のための全ての規格化要件を理解するために、ISO 15046に関連する、情報システム分析者、プログラム計画立案者、地理情報規格作成者、及びその他によって利用されることを意図している。
 

地理情報標準の全体構成と参照モデル

  ISO 19100シリーズは地理情報の標準化を行なうことにより異なるコンピュータ環境間の相互運用性を高めることを目的としています。参照モデルは、ISO 19100シリーズの全体的な枠組みを示すと共に、地理情報の標準化を実施するために利用する基本原理を提示するもので、それぞれの規格の位置付けは以下の通りです。(図1参照)

・枠組みと参照モデル(19101、19102、19103、19104、19105)

ISO19100シリーズの一般的な全体像
各規格に、共通に関係する規格
・地理情報サービス(19116、19117、19118、19119)
転送に用いるフォーマットの符号化を定義
地理情報の図表現の規則を定義
人工衛星測位等とのインターフェース
・データ管理(19110、19111、19112、19113、19114、19115)
データの品質、品質評価の方法の定義
カタログ、メタデータの記述法の定義
空間参照
・データモデルと演算子(19107、19108、19109)
幾何的な関係
空間オブジェクトのモデル化
空間的特徴の定義とそれらの相互関係の定義
時間の表現法の定義
・プロファイルと既存規格(19106、19120)
プロファイル化の方法


概念モデル

 概念モデルというのは、実世界を抽象化して記述したものであり、概念のモデル化は実世界の抽象的な記述を作る過程であると言えます。例えば、水路、湖、島のような地理地物は、モデル化される実世界の一部を構成します。そして、これらの地物の形状の記述に使用される、点、線、面のような図形の構成要素は、互いに関連しあった概念です。このような実世界の地物を図形の構成要素等を用いて抽象的に記述したものが、概念モデルです。この概念モデルを、伝えるためにはその内容を書き下ろし、記録する必要があります。そのような時に使用するのが概念スキーマ言語です。概念スキーマ言語は、一貫した意味を伝えるために、概念モデルの記述に使用される厳密な、言葉の定義と、文法的要素を提供します。概念スキーマ言語を使って記述された概念モデルは、概念スキーマと呼ばれることになります。概念スキーマ言語は、情報を記述するための統一的方法と形式を提供するので、人間と同じように、コンピュータも概念スキーマの内容を読み込んだり、更新することが可能です(図2参照)。よって、概念スキーマ作成のため概念スキーマ言語を使用することは、地理情報の標準化の基礎であると言えます。以上から、ISO 19100シリーズでの、概念のモデル化の目的は以下の二つです。
a)地理情報と地理情報サービスの厳密な定義を提供すること。
b)分散コンピュータ環境でソフトウェアシステムを相互運用するために、地理情報と地理情報サービスの定義を標準化すること。
概念スキーマ言語の詳細については、ISO 19103「概念スキーマ言語」で解説されます。
 

領域参照モデル

 領域参照モデルは、地理情報の体系とその内容の表現と記述のしかたを提供するものです。具体的に言えば、領域参照モデルは、ISO 19100シリーズが地理情報のどの範囲を標準化するのか、そしてその中の何を標準化するのかを明らかにします。この領域参照モデルは、情報と計算処理の二つの観点でモデル化を行ない、データモデルにおける地理情報の構造とその機能の定義、そして地理情報の管理を標準化するISO 19100シリーズの該当する規格間の関係を明らかにしています。

1 領域参照モデルの目的

 領域参照モデルは何をするものかということをまとめると以下のようになります。
a)ISO 19100シリーズにおいて取り扱われる地理情報の全体像を高いレベルで記述する。
b)コンピュータ処理用の地理情報の表現、構成、保管、交換、及び解析のためにISO 19100シリーズで使われる主な概念を明らかにする。
 ISO 19100シリーズのそれぞれの規格の中で、各々の主題要素が標準化されています。領域参照モデルは、それら主題要素についての一般的な見解を提供するものです。つまり、地理情報において、領域参照モデルは一般的な地物モデルであると言えます。
 また、領域参照モデルは、使用目的という視点から見ると以下のように言うことができます。
領域参照モデルは、
a)ISO 19100シリーズの標準化の範囲を高いレベルで記述するものである。
b)地理情報の領域の異なる範囲で、それぞれの主題要素を取り扱うISOの規格間の関係を表現するものである。
c)地理情報の領域の完全な表現を提供するもの。
 

2 領域参照モデルの全体像

 領域参照モデルの全体像は、図3のとおりで、この図の中の内容は、以下のとおりです。なお、図3はUMLを用いて表現されています。
− データセットは以下のことを含んでいます。
a) 地物属性、地物関係、及び地物機能を含んでいる地物(地物についての情報をコンピュータ処理するために数学的に定義したもの)。
b) 地物の空間的側面を記述する空間オブジェクト(空間オブジェクトが存在するかどうかは、その空間的側面の記述される地物に依る)。
c) 空間と時間の中の空間オブジェクトの位置の定義。計測単位は参照システムによって提供されるものを使っている。(位置が存在するかどうかは、位置が記述される空間オブジェクトの存在に依存している)。
d) 被覆。これは、定義された空間、或は地理的エリアにおいて、個々の位置に対する属性の値と結びつくようなデータ構造である。(被覆は、問題となっている領域を覆う地理的区画に、一つ以上の属性値を写像する。ラスターデータは被覆の一種である。)
− 応用スキーマは、データセットを構成する個々の要素の意味とそれら要素の空間構造の定義を提供します。また、応用スキーマは、データセット中で地理情報の完全な記述を提供するのに必要な、参照システムと空間オブジェクトタイプを特定します。応用スキーマの作成法は、ISO 19109によって標準化されています。
− メタデータデータセットは、地理データを評価したり、比較したり、あるいは注文したりするために、データ使用者によって利用されるもので、データセットの中の地理情報の管理、構成、及び内容を記述します。メタデータデータセットは、地理データセットのための応用スキーマを含むか、参照することがあり、また、応用スキーマの中で使われる概念の定義を含む地物カタログを含むか、参照することがあります。メタデータデータセットは、ISO 19115によって標準化されています。
− 地理情報サービスは、データセットの中の地理情報を処理するソフトウェアプログラムです。この地理情報サービスは、変換、及び改変のような操作や、検索操作を正しく実行するためにメタデータセットの中の情報を参照します。また、一般的にサービスというものは、分散データベース管理システムにデータセットを保管するような場合、ネットワーク環境の中のデータにアクセスをすることも行ないます。
− データセットにおいて、地物は、エリアについての情報を提供する被覆と結び付けられることがあります。
 ISO 19100シリーズは非地理的地物も取り扱うことが可能で、そのような地物は応用スキーマの中に含まれ、空間的特徴を持たない地物となります。


(この図は、最新のドラフトでは若干修正されている。最新ドラフトの翻訳は現在作業中。)
 

体系参照モデル

 コンピュータシステムによって地理情報を操作するためには、いろいろなサービスを利用します。体系参照モデルは、一般的なサービスのタイプを記述し、サービスとサービスの間で接点の役割をするサービスインターフェースを列挙し、その上、地理情報を標準化するためには、これらのサービスに何が必要なのかを決める方法を提供します。そして、サービスのインターフェースの標準化は、いろいろな環境での相互運用と地理情報の交換を可能にします。体系参照モデルは、(1)ISO/IEC TR 14252:1996に記述された、規格化要件決定のためのISOオープンシステム環境(OSE)のアプローチの概念、及び、(2)ISO/IEC 10746-1:1995に記述された、開放型分散処理(ODP)参照モデルの概念に基づき、主としてコンピュータ処理の観点に主眼を置いています。
 

1 体系参照モデルの目的

 体系参照モデルは、地理情報サービスの構造を定義すると共に、地理情報サービスを標準化するのに必要なことは何かを明らかにする方法を定義します。このモデルは、ISO 19100シリーズのそれぞれの規格で定義されるサービスのタイプについて説明し、他の情報技術サービスからこれら地理情報サービスを区別します。つまり、地理情報のどの側面が、地理情報サービスの操作をサポートするため標準化されることが必要であるか、ということを決定する方法を示すということです。
 体系参照モデルの基本は、ISO/IEC TR 14252:1996に記述された、ISOオープンシステム環境(OSE)参照モデルです。

2 体系参照モデルの概要

 分散コンピュータ環境における地理情報のためのオープンシステム環境参照モデルの特別なものを体系参照モデルと呼びます。図4はGISアプリケーションが利用する基本的なオープンシステム環境の概要を表現しています。この図では、ネットワークによって繋がっているコンピュータサイトに存在するアプリケーションシステムとサービスが示されています。サービスには、情報の操作、転送、管理、或は表示を提供するための機能があり、サービスインターフェースは、サービスを引き出す接点であり、そして、サービスとアプリケーション、外部記憶装置、通信ネットワーク、或は人間との間でデータが通る接点です。この図には以下の四つのインターフェースが示されています:
― API:サービスとアプリケーション間のインターフェース。
― CSI:ネットワークをまたいで通信するアプリケーションとサービスのインターフェース。
― HTI:人とコンピュータ間のインターフェース。GUI等を含む。
― ISI:データベースサービスのインターフェース。
 これらの情報技術サービスと地理情報のために拡張されたサービス(地理情報サービス)そして、地理情報サービスのインターフェースの標準化が、ISO 19100シリーズによって取り扱われ、詳細はISO 19119「サービス」で解説されます。
 

プロファイルと既存規格

1 プロファイル

 それぞれの基本規格において考えられる利用を想定した上で、その利用を満足するようにいろいろなオプションを用意することはその基本規格を広く利用させることに対しては有益であると言えます。しかし、実用的アプリケーションにおいては、様々な基本規格を結合させて利用するので、この場合、いろいろなオプションを用意することは、かえって基本規格を結合させて利用することを困難にします。このような場合に、プロファイルの考え方は、実際に基本規格の結合を作るためには非常に有効です。
 ある特定の役割を実現するために、基本規格の中で選び出された節、クラス、サブセット、オプション、及びパラメータを、その役割を満たすように設定したものの集まりがプロファイルです。このときの基本規格は一つとは限らず複数の基本規格から必要と思われるところが取り出されて利用されます。基本規格とは、ISO 19100シリーズの全ての規格、或は、プロファイルを作る構成要素の源として使われる他の全ての情報技術規格をさします。
 

2 既存規格

 現在広く利用されている、いくつかの既存の国際的な地理情報規格は、いわゆる既存規格として認識されることになります。これらの既存規格は、ISO 19100シリーズの規格において必要とされる性能と機能を特定し、基本規格が既存の規格と矛盾の無いことを保証するため、ISO 19100シリーズのプロジェクト毎に分析されることになります。将来は、各々の既存規格に対して責任のある団体と協力して、これらの規格が、ISO19100シリーズ基本規格の項目毎に再定義されることもあるでしょう。その再定義された既存規格は、ISO 19100シリーズ基本規格と調和を取った一つのプロファイルと位置付けられることになります。


 


[ もどる ]