測量に関するミニ知識
中部地方測量部
|
第15回 測量用航空機「くにかぜ」の変遷 -時代と共に進化する搭載機材- その3 過去2回にわたり連載してきた「くにかぜ」の変遷、最終回は現役活躍中の「くにかぜIII」についてご紹介します。
1.測量用航空機、「くにかぜIII」について 「くにかぜII」は、平成21年度末に更新時期を迎えていました。この頃、国土地理院では、航空機搭載型合成開口レーダー(航空機SAR)装置など、大型の観測機器の導入を進めていましたが、可載量の少ない「くにかぜII」では搭載が難しいことが問題となっていました。一方、民間業者では、航空機SAR観測に可載量の大きいセスナ機が使われていました。このような状況から、「くにかぜIII」では、機体を「くにかぜII」のビーチクラフト・キングエアからセスナ208B(写真1) に変えることになりました。また、それまで測量用航空機の運航を海上自衛隊に委託してきましたが、海上自衛隊ではセスナ機の運用は行っていないため、「くにかぜIII」の運航は民間委託という形になりました。
![]() 写真1:測量用航空機「くにかぜIII」 初代「くにかぜ」、「くにかぜII」と比べた「くにかぜIII」の主な諸元は表1のとおりです。「くにかぜIII」は「くにかぜII」に比べると、可載量が増えただけでなく、操縦士2名のほかに、デジタル航空カメラの搭載時に搭乗可能な乗員数が2名から5名になりました。これはそれだけ機体内部の容量に余裕があることを意味しており、例えば、「くにかぜII」では不可能だった航空機SARの搭載や、災害時の緊急撮影においても撮影士のほかに被災状況を把握するための要員を搭乗させるなど、災害時・平常時における目的に応じた運航・機材体制の充実を図りつつ、柔軟な対応が可能となりました。
2.「くにかぜIII」に搭載された主な測量用機材つぎに、「くにかぜIII」に搭載された主な測量用機材について、ご紹介します。表2に測量用航空カメラの変遷を示します。
2.1 UltraCamD(UCD)
国土地理院では、Vexcel社製のデジタル航空カメラUltraCamD(以下、「UCD」という。)を、平成19年に「くにかぜII」に搭載(写真2)して使用を開始しました。UCDは、写真測量用画像アプリケーション用に設計された大判デジタルカメラであり、主に次のような特徴があります。
![]() 写真2:「くにかぜIII」に搭載したUltraCamD(UCD) ![]() 写真3:UCDのレンズコーンに搭載されたCCDセンサー 2.2 UltraCamX(UCX)
UltraCamX(以下、「UCX」という。)はUCDの上位機種にあたるデジタル航空カメラ(写真4)で、国土地理院では平成23年に使用を開始しています。基本的な構造はUCDと同じですが、画素数や記録容量等が向上しています。 ![]() 写真4:「くにかぜIII」に搭載されたUCXのセンサーユニット 合成開口レーダー(SAR)は、航空機に搭載されたアンテナから電波を照射し、地表の物体等にぶつかって後方散乱された電波を受信することによって地表の状況を観測するセンサーです。SARで一般的に使用される電波(マイクロ波)は、雲や煙等を透過する性質を持っているため、雲や雨などの天候や火山の噴煙活動等の時でも観測を実施することが可能です。そのため、台風・豪雨時や火山噴火時において被災状況の早期把握が期待できます。 国土地理院では「くにかぜIII」の運用後、平成8年に整備した航空機SARの改修を実施し、航空機SAR装置(写真5)の小型化、レーダーを透過する電波透過素材を採用したレドームドアの作成を行いました。これによりデジタル航空カメラとの同時搭載、雨天時におけるSAR観測が可能となりました。 ![]() 写真5:「くにかぜIII」に搭載された航空機SAR装置(アンテナ部) 高精度の標高データを面的、かつ効率的に取得することを目的に、国土地理院では平成23年にLeica社製の航空レーザスキャナALS70-HA(写真6)を導入しました。主な諸元は表3のとおりです。
![]() 写真6:「くにかぜIII」に搭載されたALS70-HA(本体部) ※当コーナーでも航空レーザ測量の特集があります 第11回、第12回 3.災害時における「くにかぜIII」の対応 国土地理院は、防災・減災及び災害復旧等を目的に「災害対策基本法」に基づく「指定行政機関」(平成12年告示)として、 大規模な災害発生時には空中写真の緊急撮影を行っています。
現在国土地理院は、「くにかぜIII」を通年で機動性のある運航を可能とする体制を取っており、大規模災害発生時には、その状況に応じて空中写真の緊急撮影のほか、斜め写真撮影や航空機SAR等による観測を行い、災害情報等を関係機関へ迅速に提供しています(写真7~9)。 ![]() 写真7:「くにかぜIII」により緊急撮影した空中写真 (東日本大震災:陸前高田市) ![]() 写真8:「くにかぜIII」により緊急撮影した斜め写真 (平成26年8月豪雨:広島市安佐南区) ![]() 写真9:「くにかぜIII」による航空機SAR観測画像の一部 (平成26年9月の御嶽山噴火:岐阜県と長野県の境界周辺) ※国土地理院の災害対応についての詳細はこちら |