測量に関するミニ知識
中部地方測量部
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第12回 航空レーザ測量について その2 前回の「航空レーザ測量について その1」では、航空レーザ測量の仕組みについて紹介しました。
航空レーザ測量ではオリジナルデータ、グラウンドデータ、メッシュデータ、オルソ画像等いろいろなデータが取得できます。 今回は、その中から、航空レーザ測量データの基本となる「オリジナルデータ、グラウンドデータ及びメッシュデータ」と、そのデータの提供方法や利用例についてお話ししたいと思います。 1.航空レーザ測量で取得できるデータ(1)オリジナルデータとグラウンドデータ・オリジナルデータ
前回もお話ししましたが、レーザパルスは、地盤の上ばかりでなく、建物や樹木の上などいろいろなところで反射して戻ってくるため、航空レーザ測量で計測したデータには、地盤の高さだけでなく建物や樹木の高さの情報も含まれています。
・グラウンドデータ
一般の地図のように地盤の高さを求めたい場合には、オリジナルデータから建物や樹木等の高さを取り除くことが必要です。この建物や樹木の高さを取り除く作業を「フィルタリング」といいます。
それでは、オリジナルデータとグラウンドデータによるモデルの違いを見ましょう。 図-3は、山地部(上段)と都市部(下段)にあるそれぞれ同じ場所について、オリジナルデータ(左)とグラウンドデータ(右)を使用して作成した「陰影段彩による鳥瞰図」です。
(2)メッシュデータ 次に、メッシュデータについて説明します。 ![]() 図-4 地上に届いたレーザの計測点(フットプリント) はじめに、このレーザ計測点を結んで三角形の網からなるTIN(Triiangulated Irregular Network:不規則三角形網)モデルをつくります。(図-5)
このTINモデルに、5m方眼のメッシュをかぶせ、5mメッシュの中心点の高さを、その点を含む三角形の頂点の高さから内挿補間して求めます(図-6)。
こうして求めたメッシュ中心点の標高値の精度は、そのメッシュ内にレーザの計測点がある場合と、無い場合で違ってきます。地上に届いた計測点がある場合は、精度(標準偏差)が0.3m以内、ない場合には2.0m以内となります。
レーザパルスの中には、水部であったり、表面の状況(黒色の物体や新しいアスファルト等)によっては、反射して戻ってこない場合(欠測)や、樹木や建物等で反射された計測点が「フィルタリング」により除去されてしまい、メッシュ内に地上のレーザ計測点が一つも残らないメッシュが出来ることがあります(図-8)。
ここまでDSMとDEM及びメッシュデータについて説明しましたが、最後に、これらのデータの提供方法や利用例についてお話しします。 2.国土地理院におけるデータ提供方法国土地理院では、航空レーザ測量データのうち、5mメッシュの標高データを一般に提供しています。 1.「数値地図5mメッシュ(標高)」 2.「基盤地図情報(数値標高モデル)」 5mメッシュは、これまでに提供していた地形図をもとに作成された50mメッシュ や250mメッシュに比べ、高分解能であり(図-9)、標高精度も格段に優れているため、洪水被害予測や津波シミュレーションなどのほか、都市景観シミュレーション等への利用が期待されています。
3.航空レーザ測量データの利用例・地理院地図及び地理院地図3D国土地理院ホームページで公開している地理院地図「色別標高図」や「地理院地図3D」では航空レーザ測量データが利用されています。 地理院地図「色別標高図」(図-10)
地理院地図3D(図-11) 「誰でも・簡単に・日本全国どこでも」地理院地図を3次元表示で見ることができます。地理院地図3Dでは空中写真のオルソ画像や地形図を標高データと組み合わせることにより三次元表示するので、地表の特徴をより立体的に視覚化することが出来ます。
・1:25,000 デジタル標高地形図 1:25,000デジタル標高地形図は「数値地図5mメッシュ(標高)」の標高データを用いて作成した陰影段彩図の上に2万5千分の1地形図を重ねた地図です。図-12は、その「名古屋」になります。
・火山基本図「箱根山」このサイトでは、各種ハザードマップと防災に役立つ道路冠水箇所などの情報を、一枚の地図上で重ねて表示することができます。その中の、「精密基盤標高地図を見る」では、5mメッシュの標高データを利用した、主要河川沿いのデジタル標高地形図を見ることが出来ます(図-15)。 ※ハザードマップポータルサイトでの「精密基盤標高地図」の公開は終了しました。
・積雪深・積雪量の計測 山岳地帯の積雪深や融雪水量等の分布については、これまで、現地での直接計測を面的に実行することが出来なかったため、正確な把握が出来ませんでしたが、第1回でお話した、航空レーザ測量のメリット(人が入っていけないところでも計測が可能・地表面の高さを面的に把握可能)を活かすことにより、面的な測定が可能となります。平成16年度に国土地理院で行った、積雪深の計測例を紹介します。
・三次元建物データの利用 基盤地図情報と航空レーザ測量データを組み合わせると、建物の高さを求めることが来ます。まず、DSMデータとDEMデータとで高さの差分を求めます。この差分は、建物、樹木、高架橋等の高さになります。これから、建物のみの高さを求めるため、基盤地図情報の建築物外周線ポリゴンを用いて、建物に該当する部分の差分を抽出します。こうして抽出した差分を建物外周線ポリゴンに付与することにより、建物の高さのデータを作成することが出来ます。
・航空レーザ測量データを利用した地形の把握航空レーザ測量データを使用すると、樹木等の影響により、空中写真ではこれまで見つけられなかった、詳細な地形の状況が把握できます。 三宅島の空中写真のオルソ画像と、航空レーザ測量データから作成した陰影図を比較してみましょう。図-19は、1983年噴火の際の火口列付近のオルソ画像と陰影図を並べたものです。空中写真の画像で植生に覆われているところでも、陰影図では、一つひとつの火口が小さなものも含めてくっきりと見える様子が分かります。
同様にして、三宅村営牧場付近を比較してみましょう。(図-20)
・地震発生時の倒壊建物等の検出 地震発生前後のDSMデータを比較し、建物倒壊による高さの変化を求めることで、倒壊家屋の特定作業が可能になります(図-21)。
これには、被災前と被災後のデータが必要となりますし、現状では、航空レーザ測量によるデータ取得及びその後のデータ解析の負荷が大きく、早くても数日以上の時間を要しています。今後、被災直後の素早いデータ計測、転送及び解析が実現すれば、将来的に地震発生時における倒壊建物等の迅速な検出にも役立ち、被災者救助に貢献するものと期待できます。
図-21 倒壊建物の特定 また、地すべり等の災害発生の場合に、その前後のデータを比較することにより、地すべりの発生地点とその量を計測することも可能です。 航空レーザ測量は、今回紹介した、河川の氾濫、高潮、津波等による浸水シミュレーション等の防災関連のみならず、景観評価や観光案内など新たな分野でも活用が期待されます。 |