最終更新日:2019年12月27日

国土地理院時報(2019,132集)要旨

小特集:平成30年7月豪雨への対応

Responses of GSI to The Heavy Rain Event of July 2018
企画部  防災推進室
【要 旨】
 国土地理院は,大規模自然災害の発生時において救命・救助活動及び復旧・復興に寄与するため,各府省庁,地方公共団体等の関係機関へ地理空間情報を提供している.平成30年7月豪雨においても,内閣官房をはじめとする関係行政機関へ地理空間情報を提供した.本稿では災害の概要と国土地理院の主な対応について報告する.
 
Responses of Geospatial Information Department to the Heavy Rain Event of July 2018
地理空間情報部  災害対策班
【要 旨】
 平成30年7月豪雨に関して地理空間情報部が行った,様々な地理空間情報の公開・提供による災害対応について報告する.
 
Aerial photography of the Heavy Rain Event of July 2018
基本図情報部  災害対策班
【要 旨】
 本稿では,平成30年7月豪雨による災害対応として,初動時の被害状況把握として有効な手段である測量用航空機による緊急撮影を始め,新たな試みとなる地方測量部と連携した撮影データの運搬・伝送,公開・提供情報作成の自動処理化など速報性と効率化を重視した取組について報告する.

Responses of Geographic Department to the Heavy Rain Event of July 2018
応用地理部  災害対策班
【要 旨】
 応用地理部は,災害対策班が中心となり,平成30年7月豪雨の発災直後から8月中旬までの間に,崩壊地等分布図作成等の対応及び政府調査団への職員派遣を行ったので報告する.
 
Provisional Inundation Depth Map in the Heavy Rain Event of July 2018
応用地理部  吉田一希
【要 旨】
 応用地理部は,平成30年7月豪雨で甚大な浸水被害が生じた岡山県倉敷市真備町と愛媛県大洲市について,SNS上に投稿された写真と航空レーザ測量による標高データを用いて,浸水範囲と浸水深を推定し浸水推定段彩図(速報版)を作成した.その後,国土地理院が撮影した空中写真と航空レーザ測量による標高データを用いて,浸水推定段彩図(空中写真判読版)を作成した.推定した浸水深の分布は,地形分類による土地の特性(土地条件)とよく調和した.
 
Responses of Regional Survey Department to the Heavy Rain Event of July 2018
中国地方測量部
四国地方測量部
【要 旨】
 中国地方・四国地方を中心に甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨では,国土地理院本院,国土地理院の各地方測量部が連携して災害対応を実施した.
 中国地方測量部及び四国地方測量部では,関係地方行政機関への地理空間情報を提供すると共に,職員を派遣するなどしてフォローアップを行った.これら両地方測量部の対応について報告する.
 



小特集:平成30年北海道胆振東部地震における対応

Responses of GSI to the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake
企画部  防災推進室
【要 旨】
 国土地理院は,大規模自然災害の発生時において救命・救助活動及び復旧・復興に寄与するため,各府省庁,地方公共団体等の関係機関へ地理空間情報を提供している.平成30年北海道胆振東部地震においても,内閣官房をはじめとする関係行政機関(以下「関係機関」という.)へ地理空間情報を提供した.
 本稿では災害の概要と国土地理院の主な対応について報告する.
 
InSAR-derived Coseismic Deformation and Following Restoration Survey of Control Points to the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake
測地部  本田昌樹・岩田昭雄・山下達也・林京之介・桑原將旗・酒井和紀・宗包浩志・住谷勝樹・堤隆司・加古考範・齋田宏明
地理地殻活動研究センター  矢来博司・小林知勝・森下遊
【要 旨】
 測地部は,平成30年北海道胆振東部地震に伴い,陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」の緊急観測のデータを用いてSAR干渉解析を行った.解析の結果,震央周辺の隆起及び隆起域の東側の東向きの地殻変動を明らかにした.
 また,この地震に伴う地殻変動により,震源域周辺の公共測量等の実施に影響が生じることが想定されたため,基本基準点の測量成果停止の検討及び水準点の復旧測量(再測量)を実施した.水準点の復旧測量は,震災復旧・復興事業に必要な正確な位置情報(高さ)を迅速に提供することを目的に,(一社)全国測量設計業協会連合会との災害協定に基づく緊急測量として実施した.緊急測量の結果に基づき,標高成果の改定が必要と判断した水準点126点と電子基準点6点の測量成果を改定した.
 
Responses of Geospatial Information Department to the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake
地理空間情報部  災害対策班
【要 旨】
 平成30年北海道胆振東部地震に関して地理空間情報部が行った,様々な地理空間情報の公開・提供による災害対応について報告する.
 
Aerial photography of the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake
基本図情報部  災害対策班
【要 旨】
 本稿では,災害初動時の被害状況把握として有効な手段である測量用航空機による緊急撮影を始め,同年8月に測量用航空機「くにかぜ3)」に設置した新たな撮影装置による試験撮影,地方測量部と連携した撮影データの運搬・伝送など速報性と効率化を重視した取組について報告する.

Responses of Geographic Department to the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake
応用地理部  災害対策班
【要 旨】
 応用地理部は,災害対策班が中心となり,平成30年北海道胆振東部地震の発生直後から,各種の地図作成を行ったので報告する.
 
Crustal Deformation of the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake observed by GEONET
測地観測センター  田村孝・川元智司・三浦優司・阿部聡・真野宏邦・横川薫・塩谷俊治・浅谷将士・黒石裕樹
【要 旨】
 平成30年(2018年)9月6日3時7分に,北海道胆振(いぶり)地方中東部の深さ約35kmを震源とするマグニチュード(M)6.7の地震「平成30年北海道胆振東部地震」が発生した.この地震に伴い,測地観測センターが維持管理するGNSS連続観測点の観測データから地殻変動が観測された.
 本稿では,平成30年北海道胆振東部地震に伴って観測された地殻変動とそれに対応して行った電子基準点の測量成果改定について報告する.
 
Fault model of the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake
地理地殻活動研究センター  小林知勝・矢来博司・山田晋也
【要 旨】
 平成30年北海道胆振東部地震では,国土地理院が運用するGEONETやだいち2号の干渉SARにより,地震に伴う地殻変動が捉えられた.これらの地殻変動に基づき,震源断層モデルの推定を行った.モデル計算の結果,断層面は震央付近より南に10kmほど延び,石狩低地東縁断層帯より東側に求められた.断層面はほぼ南北走向で傾斜角が74度であり,東に傾斜する断層面上での逆断層運動が推定された.すべり量は約1.3mであり,推定された地震規模はモーメントマグニチュードで約6.6であった.断層面の上端及び下端の深さはそれぞれ約16km,約31kmであり,日本の内陸地震の一般的な地震発生層より有意に深い位置で断層すべりが生じている.震源断層モデルは,地震調査委員会や地震予知連絡会に報告され,北海道胆振東部地震の地震活動の評価や検討に活用された.
 
Disaster Response Activities of the Hokkaido Regional Survey Department for the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake
北海道地方測量部
【要 旨】
 平成30年9月6日03時07分に発生した北海道胆振東部地震(マグニチュード6.7,最大震度7)に際して,北海道地方測量部では,地震発生後,速やかに非常体制を特定し,災害対応を開始した.地震発生当日から北海道庁へリエゾン(連絡要員)を派遣するとともに,北海道開発局や北海道庁等の関係機関からの要望に応える形で地図や空中写真の提供を行った.加えて,電子基準点の現地調査として,震央に近い電子基準点「厚真」「門別」の2点の傾斜測定を緊急に行った.
 本稿では,平成30年北海道胆振東部地震に関する北海道地方測量部の対応について報告する.
 
Utilization of geospatial information for disaster response activities provided by GSI in case of the Heavy Rain Event in July 2018 and the Hokkaido Eastern Iburi Earthquake in September 2018.
企画部  防災推進室
【要 旨】
 国土地理院は,災害時の救助・救命,応急復旧,復興等を支援するため,内閣官房,内閣府,国土交通省等の中央省庁及び地方公共団体等関係機関に空中写真等の地理空間情報を提供している.
 地理空間情報を提供した時期と方法,内容及び利活用の評価を得て,災害対応活動の改善につなげることを目的として「平成30年7月豪雨」及び「平成30年北海道胆振東部地震」の災害対応時に国土地理院から地理空間情報を提供した関係機関に対し事後調査を実施したので結果を報告する.
 



Updating of Mountain Trails on the “Digital Japan Basic Map” Using Big Data of Walking Paths
基本図情報部   中南清晃・大塚孝治・本田義和
【要 旨】
 国土地理院では,電子国土基本図の整備を行っているが,その一部として登山道情報を更新している.空中写真に写らないような登山道は現地調査を必要とするため,迅速に更新することが難しかった.他方,登山者の遭難の主因は道迷いであり,登山者の安全のために正確な登山道情報を提供することが求められている.
 国土地理院は登山道情報を迅速に修正するため,登山者によってスマートフォンなどで取得された移動経路情報が,ビッグデータとして蓄積されていることに着目した.2017年12月に登山コミュニティサイトを運営する民間企業2社と協力協定を締結し,2社から提供を受けた移動経路情報のビッグデータを活用して登山道情報の修正を開始した.2018年3月には,移動経路情報のビッグデータを活用して修正した登山道情報を地理院地図で公開した.その後,日本全国の主要な山域を中心に修正を行ってきたが,登山道と山小屋等の他の地物との位置関係など,移動経路情報だけでは判断が難しいことがわかり,公益社団法人日本山岳会からも情報提供を受けながら修正を進めている.
 引き続き移動経路情報のビッグデータを活用して正確な登山道情報を迅速に提供することで,登山者の安全と利便性向上に貢献していく.
 
Development of Automatic Data Generation Tool for Publishing Aerial Photos on GSI Maps in Disaster Response
基本図情報部   笹川啓
【要 旨】
 国土地理院では政府の災害対応の一環として,災害時に空中写真の撮影を行い,地理院地図から迅速に公開している.地理院地図で個々の空中写真を閲覧するために必要な上載せ情報の作成や,北を公開画像の上方向とする画像回転等について,従来は複数人が手動で同時作業を行っていたが,本ツールの開発により自動処理が可能となり,1名で全作業が行えるようになった.また,空中写真のみならず,一眼レフカメラによる斜め画像や,地方整備局で運用している災害対策用ヘリコプターの撮影動画をキャプチャーした画像も自動処理可能となった.
 本稿では,このツールの詳細について説明するとともに,自動化により従来実施していた手動作業がどの程度省力化されたのかを報告する.
 
A Trial of Concise and Systematic Comprehension of Spherical Trigonometry
測地観測センター 河瀬和重
【要 旨】
 球面三角法については,国土地理院においても地理院地図における面積計算や, 各種磁気図に採用されている斜軸投影法にその概念が用いられているが,現状入手できる資料の範囲内でその全貌を包括的に理解するのは容易ではない.本稿では,簡単な座標幾何学と,高等学校で履修する数学レベルの知識の範囲内で球面三角法の諸公式を導出し,その体系的な理解への道筋構築を試みる.

Publication of Volcanic Base Maps and Lake Charts by Inkjet Printing
応用地理部  根本正美・吉武勝宏・岡本勝浩
【要 旨】
 国土地理院では,火山基本図データ及び湖沼データをベースにしてインクジェット出力による火山基本図及び湖沼図の刊行を開始した.これにより利用者は,火山基本図データ及び湖沼データのダウンロード及び多色の紙地図の入手が可能となった.本稿では,この刊行を中心にデータのダウンロード提供なども交えて報告する.
 
Promotion of the United Nations Vector Tile Toolkit
企画部  藤村英範
【要 旨】
 国土地理院では,2010年代に本格的に実用化されたウェブ地図の新技術であるベクトルタイル技術を,様々な機関で活用できるようにオープンソース方式で広く共用していく施策を2014年から実施してきた.この施策の国連での活用可能性を認め,2017年に国連事務局フィールド支援局情報通信技術部(当時)は日本政府との覚書を締結し,上級地理空間専門官を国連地理空間情報課に受け入れた.国連ベクトルタイルツールキットは,公的機関をはじめとする地図提供組織が最新のウェブ地図技術を共用することで,多様な主体による多様な地図が取り残されることなくウェブに供給されるようにすることを目的として,この国連上級地理空間専門官が創設したプロジェクトである.
 ベクトル形式による地球規模の地理空間情報を80時間以内にベクトルタイルに変換できる性能を持つ国連ベクトルタイルツールキットの方法論を,国連事務局や,国土地理院をはじめとする世界の地理空間情報当局,さらにはその他の公的機関やあらゆる組織で活用できるようにし,そのことによって国連ベクトルタイルツールキットのプロジェクト自体を持続可能なものにしていくことがソフトウェア開発リソースの制約上必要となっている.そこで,国連ベクトルタイルツールキットのデモ及び技術移転を容易にするために,国連ベクトルタイルツールキットのソフトウェア及び題材となるデータをインターネット接続なしで活用できるように超小型PCを用いたパッケージングを行った.また,地球規模課題,特に国土地理院が関与する国連専門家委員会の議事における国連ベクトルタイルツールキットの意義を整理した.
 
Updating Digital Japan Basic Map of Minami-Torishima Island using Aerial Photographs taken by Fixed-wing UAV
基本図情報部  浅野剛・澤可那子・野口真弓・宮地邦英
【要 旨】
 平成30年度,国土地理院は固定翼UAVを用いて日本最東端の島である南鳥島の空中写真を撮影し,それを基に電子国土基本図の全面更新を行い,令和元年6月1日に地理院地図,2万5千分1地形図等を刊行した.南鳥島全体の更新は約40年ぶりとなる.
 今回の全面更新は,固定翼UAVによる空中写真を基に作成したオルソ画像,DSM及び同時期に実施した水準測量成果を用いて地物や等高線,海岸線を図化することにより行った.本稿では,これら作業の詳細について報告する.
 
The Experimental Release of "GSI Maps Vector"
地理空間情報部  渡辺亮佑・本嶋裕介・茂木宏仁・佐藤壮紀
【要 旨】
 国土地理院では,ウェブや携帯端末用のアプリケーション等での利用に適した地図データである「地理院タイル」を提供するとともに,その内容を閲覧できるウェブ地図「地理院地図」を公開している.しかし,これまでの地理院タイルは画像データが主であり,コンピュータで地図の内容(地物の種類や属性情報等)を読み取ったり地図のデザインを変更したりすることはできなかった.
 そこで,2014 年度から行っている「国土地理院ベクトルタイル提供実験」の一環として,2019 年 7 月29 日に,ベクトルタイルを用いて新たに自分で地図をデザインできるウェブ地図「地理院地図 Vector(仮称)」を試験的に公開した.
 ベクトルタイルは地図内容の機械判読が可能であり,属性値によって色や太さ等スタイルの変更が可能なことから,利用目的に応じて地図のデザインを変更することが可能になるなど,地理空間情報の活用の幅が広がることが期待される.地理院地図Vector(仮称)は,ファイルサイズが小さく,ウェブやスマホアプリでの利用により適したバイナリ形式のベクトルタイルを表示するサイトであり,「空中写真に地名等のみを重ねた地図」,「白地図」などを容易に作成することができることから,特に防災分野や教育分野での活用を想定している.
 また,地理院地図 Vector(仮称)の公開と同時に,サイトを構成するソースコードを技術者向けの SNSである「GitHub」に公開し,技術的に知見のある利用者から指摘や意見・要望等を頂いた.
 今後は,残存する課題の解決方法を検討し,2019年度中の全国のベクトルタイル提供に向けて,ベクトルタイルのデータ及びサイトの改良を行っていく予定である.
 
Report on the 1st United Nations Group of Experts on Geographical Names
基本図情報部  笹川啓・明野和彦・須賀正樹
【要 旨】
 2019年4月29日から5月3日において,ニューヨークの国連本部で第1回国連地名専門家グループ会合が開催された.本会合において,国土地理院からはベクトルタイルを用いたローマ字ウェブマップの取組について発表を行ったほか,2004年を最後に開催されていなかった日本が所属する東アジア部会会合に参加した.本稿では第1回国連地名専門家グループ会合,上記の発表並びに東アジア部会の会合の概要を報告する.
 

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