国土地理院時報(2011,122集)要旨

Actions of GSI in Response to the Great East Japan Earthquake
 
企画部  仲井博之・永山 透・林 保・津久井 誠・瀬川秀樹・秋山一弥・松本 哲
 
【要 旨】
  国土地理院は,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)発生と同時に非常体制に入り,直ちに院長を本部長とする東北地方太平洋沖地震災害対策本部(以下,「本部」という.)を設置した.国土地理院本院(茨城県つくば市)や東北地方測量部(宮城県仙台市)では,この地震によって,庁舎の構造物には大きな被害は無かったものの,停電や通信障害が発生した.その様な状況下での初動対応,本部の運営と活動方針の決定,国土交通本省(以下,「本省」という.)を始めとする関係行政機関からの要請に応じた地理空間情報の提供,リエゾンや国土地理院緊急災害対策派遣隊(以下,「TEC-FORCE」という.)の派遣など国土地理院の人的・物的資源を集中的に投入するとともに,これまでに経験したことのない最大限の災害対策活動を実施した.本稿では,初動の活動を中心に上記の取り組みについて報告する.
 
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Responses of Tohoku Regional Survey Department of GSI to the Great East Japan Earthquake
 
東北地方測量部 嵯峨 諭
 
【要 旨】
  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)における地震発生直後の東北地方測量部(以下,「当部」という.)の状況や関係行政機関及び被災自治体への地理空間情報の提供,現地調査への対応,緊急災害現地対策本部への対応及び,平成23年度災害復旧に伴う補正予算で整備・提供した地理空間情報等についての取り組みを紹介する.
 
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Coseismic Deformation and Fault Model of the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake, Based on GEONET
 
地理地殻活動研究センター  水藤 尚・西村卓也・小沢慎三郎・小林知勝・飛田幹男・ 今給黎哲郎
測地観測センター  原 慎一郎・矢来博司・矢萩智裕・木村久夫・川元智司
 
【要 旨】
  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)の発生に伴ってGPS連続観測網(GEONET)によって北海道から九州北部に至る広範囲に渡って地殻変動が観測された.牡鹿半島に設置されている観測点で最大5mを超える水平変位を記録し,秋田県,岩手県,宮城県,山形県,新潟県,福島県,茨城県の7県で1mを超える水平変位が観測された.また,牡鹿半島では1mを超える沈降が観測され,岩手県から千葉県にかけての太平洋側の広い範囲に渡って10cm以上の沈降が観測された.これらの観測データを基に推定された震源断層モデルから今回の地震を引き起こした断層の主要なすべり域は岩手県沖から茨城県沖に至る南北に約400km,東西に幅約150kmと広範囲に及ぶことが分かった.また断層すべりは場所によっては20mを超え,算出されたモーメントマグニチュード(Mw)は9.0であった.
 
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Postseismic Deformation and Postseismic Slip Model Following the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake, Based on GEONET
 
地理地殻活動研究センター  水藤 尚・西村卓也・小沢慎三郎・飛田幹男
測地観測センター  原 慎一郎・矢来博司・矢萩智裕・木村久夫・川元智司
 
【要 旨】
  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)の発生直後からGPS連続観測網(GEONET)によって大規模な余効変動が観測されており,地震発生後から10月末までの約7.5カ月間で最大約79cmに達している.水平変動は地震時とほぼ同じ東方向に変動しているが,上下変動は地震時とは異なる分布を示している.地震時には太平洋側で大きく沈降したが,余効変動では岩手県沿岸の一部では地震時と同じく沈降が続いている一方,宮城県以南の太平洋沿岸では隆起が観測されており,10月末までの約7.5ヵ月間で最大約15cmに達している.これら地表での観測から地下での断層すべりを推定した結果,10月末までの約7.5カ月間で岩手県沖では最大約2.7m,銚子沖では最大約1.0mのすべりが推定された.これらの余効すべりにより解放されたモーメントはモーメントマグニチュード(Mw)8.55に相当する.1960年代にチリやアラスカで発生したM9クラスの超巨大地震の余効変動は現在でも観測されており,東北地方太平洋沖地震の余効変動も今後数十年に渡り継続すると考えられる.引き続き余効変動及び余効すべりのモニタリングを行っていくとともにより詳細な余効変動メカニズムの解析を行っていくことが重要である.
 
  本文[PDF:1,359KB]
 
Crustal deformation of the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake detected by InSAR
 
測地部  山中雅之・野口優子・鈴木 啓・宮原伐折羅・石原 操
地理地殻活動研究センター  小林知勝・飛田幹男
 
【要 旨】
  国土地理院は,地盤沈下・地すべりによる地盤変動や火山活動による地殻変動の監視を目的として,陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載されたLバンド合成開口レーダー(PALSAR)の観測データを用いてSAR干渉解析を定常的に実施している.また,地震など災害が発生した際には,災害に伴う地殻変動の把握等を目的とした緊急解析を随時実施している.
  2011年3月11日に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下、「東北地方太平洋沖地震」という.)に対応するために観測されたALOS/PALSARデータに関して緊急解析を行った結果,東北地方から関東地方全域における広い範囲で地殻変動を面的に捉えた.牡鹿半島では,SAR干渉解析による国内の地殻変動観測史上最大となる約4m(衛星視線方向)の変動量を検出した.また,本震後に内陸で生じた複数の誘発地震に関して震源域の面的な地殻変動を捉えた.
  SAR干渉解析により得られた地殻変動の情報は,詳細な変動範囲の把握や断層メカニズムの解明に大きく貢献している.
 
  本文[PDF:3,398KB]
 
Revision of the Results of Control Points after the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake
 
測地部  檜山洋平・山際敦史・川原敏雄・岩田昭雄・福﨑順洋・東海林靖・佐藤雄大・湯通堂 亨・
       佐々木利行・重松宏実・山尾裕美・犬飼孝明・大滝三夫・小門研亮・栗原 忍・木村勲・堤 隆司
測地観測センター  矢萩智裕・古屋有希子・影山勇雄・川元智司・山口和典・辻 宏道・松村正一
 
【要 旨】
  平成23年3月11日14時46分に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(M9.0,最大震度7)(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)に伴い,電子基準点の観測データにより,東北地方から関東甲信越地方にかけての広い範囲で顕著な地殻変動が観測された.この地域の基準点の位置は大きく変動し,公共測量等で利用できないことが想定されたため,国土地理院では,3月14 日に当該地域の電子基準点,三角点,水準点の基準点測量成果の公表を停止した.
  東北地方太平洋沖地震は津波による甚大な被害をもたらし,東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸において多くの人命が失われ,また多くの家屋・施設等が被災した.基本測量の基準点は,国や地方公共団体の実施する公共測量の基準として使用されており,各種公共事業等東日本大震災に伴う復旧・復興に不可欠なものである.国土地理院では,これらの基準点の改定成果公表に向けた復旧測量に取り組み,5月31日には電子基準点の測量成果を,10月31日には三角点,水準点等の測量成果を測地成果2011として,それぞれ公表した.
  本稿では,国土地理院が実施した東北地方太平洋沖地震に伴う基準点測量成果改定の概要について報告する.
 
  本文[PDF:4,470KB]
 
Responses of National Mapping Department of GSI to the Great East Japan Earthquake
 
基本図情報部  長谷川裕之・齋藤勘一・高橋広典・首藤隆夫・甲斐 納・廣田三成・柴原 充・
                      畠山裕司・根本正美・大野裕幸・石関隆幸
 
【要 旨】
  2011年3月11日14時46分に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波災害への対応として,測図部(同年4月1日「基本図情報部」に改組)では,翌12日より,青森県三沢市から福島県相馬市にかけての被災地約6,900km²の緊急撮影(カラーによる空中写真撮影)を順次実施し,空中写真画像をホームページで公開した.
  また,これらの空中写真画像を元に,地図と重なり合うよう正射変換した「正射画像データ(オルソ画像)」(以下,「正射画像」(ただし,災害時の緊急性を重視して簡易的な手法で作成した簡易オルソ画像)という.),さらにこの正射画像に地図の主な情報を重ねて表示した「正射写真地図(正射画像データ+地図情報)」(以下,「正射写真地図」という.)を順次作成,公開するとともに,津波等による被災が特に著しい地域について,被災前後の写真の比較資料等を作成し,災害対策,復興等に資する情報として迅速に関係機関等へ提供できるよう努めた.
  さらに,被災地における復旧・復興業務のため,各公共事業関係機関で共通して利用可能な空中写真情報及び災害復興計画基図を整備・提供した.
  本稿では,こうした取り組みについて報告する.
 
  本文[PDF:1,439KB]
 
Measure of the Geocartographic Department of GSI to the Great East Japan Earthquake
 
応用地理部  渡辺信之・中島秀敏・吉岡 貢・長谷川 学
 
【要 旨】
  3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では,青森県から千葉県の太平洋に面した沿岸域を中心に津波による多大な被害が発生し,また,地盤沈下などの大きな地殻変動も生じた.
  国土地理院は津波被害の状況把握のための浸水範囲概況図の作成をするとともに被災状況調査を行った.また,地盤沈下の著しい沿岸部や土砂災害のおそれが高まっている山間地を中心に被災後の地形を詳細に把握し,広域にわたる道路,港湾,都市の復興計画の基礎資料としていただくため,航空レーザ測量による精密標高データの整備を実施し,関係機関に提供を行った.
 
  本文[PDF:1,128KB]
 
Geographic Characteristics of Tsunami Flooded Area by the Great East Japan Earthquake
 
地理地殻活動研究センター  小荒井 衛・岡谷隆基・中埜貴元・神谷 泉
 
【要 旨】
  東日本大震災の津波浸水域について,海岸線から1km毎にバッファを発生させて,国土数値情報の100mメッシュ土地利用データ,土地条件図の地形分類情報,地震後の航空レーザ測量による詳細地形データ(DEM),空中写真判読による津波被害状況,MMS(Mobile Mapping System)で計測した津波浸水深等をGIS上でオーバレイ解析し,津波被害の状況と地形や土地利用との関連性を解析した.その結果,建物がほぼ流出するような壊滅的な被害域については,浸水深がおおよそ4m以上,かつ海岸線から約1kmの範囲に限定され,標高よりは浸水深や海岸線からの距離との関連性が高かった.一方,建物等の破壊が一部で認められ,周囲をがれきで覆われるような地域は,海岸線から2~3kmの範囲までで標高1m以下,また,浸水のみが認められる地域は,海岸線から4~5kmの範囲までで標高2m以下という結果で,概ね標高で決まっていた.ただし,海岸平野・三角州では高標高でも浸水したエリアがあり,地形分類の違いも影響している可能性がある.また,浸水域と非浸水域の境界部は,海岸線と平行方向に延びる水路や,田と住宅地の境界にあたる盛土の擁壁部など,人工構造物が影響していた.
 
  本文[PDF:5,216KB]
 
Emergency Repair and Restoration of Damaged GPS and Tide Stations after the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake
 
測地観測センター  大島健一・三浦優司・影山勇雄・古屋有希子・矢萩智裕・丸山一司
 
【要 旨】
  測地観測センターでは,電子基準点をはじめとしたGPS連続観測点,潮位観測施設(験潮場)を維持・管理し,国土の保全及び防災の役割を担う位置情報,地殻変動,潮位等の情報を提供している.
  2011年3月11日に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)は,地震の揺れだけではなく,地震に伴う津波によって北海道から関東沿岸部にかけて多大な被害をもたらした.測地観測センターが維持管理するGPS連続観測点と潮位観測施設においても,停電,通信回線の中断といった観測の障害が多数発生するとともに,施設が倒壊するなどの被害が発生した.本稿では,東北地方太平洋沖地震に伴って生じたGPS連続観測点及び験潮場の被災状況と復旧対応について報告する.
 
  本文[PDF:2,339KB]
 
Liquefaction Damage of the Great East Japan Earthquake and Utilization of Time Serial Geographic Information
 
地理地殻活動研究センター  小荒井 衛・中埜貴元・乙井康成
関東地方測量部  宇根 寛・川本利一
浦安市役所  醍醐恵二
 
【要 旨】
  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)によって,関東地方で広範囲にわたり液状化-流動化現象が発生し,構造物の傾斜や沈下,地表の段差や陥没,波状変形などの被害が生じた.特に,東京湾岸と利根川下流域で著しかった.筆者らは茨城県や千葉県の液状化現象が発生した場所で被災状況を把握し,土地の成り立ちが把握できる時系列地理空間情報を活用して,液状化被害の著しい地域の地形条件について整理した.主に活用した時系列地理情報等は,迅速測図,旧版地形図,過去の空中写真,土地条件図,治水地形分類図である.液状化を起こしやすい地形は旧河道や水部を埋め立てたような場所であり,土地の成り立ちを理解することがその土地の液状化に対する脆弱性を知るのに役立ち,それには旧版地形図や過去の空中写真などが有効であることを紹介する.また,東京湾岸で甚大な液状化被害が発生した浦安市について,液状化に伴う沈下量を面的に把握するために,簡易水準測量を実施して得られた相対的な沈下量を地震前後の航空レーザ測量結果の差分図と比較した結果も紹介する.
 
  本文[PDF:3,894KB]
 
Liquefaction Area Associated with the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake, Inferred from Interferometric SAR Coherence Change
 
地理地殻活動研究センター  小林知勝・飛田幹男・小荒井 衛・乙井康成・中埜貴元
 
【要 旨】
  SAR(Synthetic Aperture Radar.以下,「SAR」という.)干渉解析によって得られる地表の散乱状態の変化を利用して,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)に伴って発生した液状化の発生分布の把握を試みた.本稿では,地震発生前のデータペアによるコヒーレンス画像と地震発生前後のデータペアによるコヒーレンス画像との差画像を作成することで,コヒーレンス値の低下域と液状化域との比較を行った.利根川下流域では,潮来市日の出,香取市佐原,稲敷市西代でコヒーレンス値の低下が顕著に見られ,特に,潮来市日の出では住宅地における液状化発生域の分布とコヒーレンス値の低下域との間に,高い空間的相関があった.東京湾岸沿いでは,浦安市から習志野市にかけてコヒーレンス値が低下する領域が帯状に広がり,液状化発生域とその分布が概ね対応している.浦安市とその周辺では,現地調査で確認された液状化/非液状化範囲とコヒーレンス値変化の分布に空間的に良い相関が認められた.コヒーレンス値の変化(低下)を利用した液状化発生域の判読は,SAR干渉画像の非干渉域を指標とした判読と異なり,本来干渉性の悪い領域を判読の対象とすることなく解析できる利点を有する.SAR干渉解析の結果から液状化範囲を調査する際は,干渉画像よりもコヒーレンス画像の利用が好ましい.
 
  本文[PDF:4,378KB]
 
Situation of Landslide Surface Deformation of Hilly Area in Sendai City, Japan
 
地理空間情報部  佐藤 浩
地理地殻活動研究センター  中埜貴元
 
【要 旨】
  宮城県仙台市内の丘陵地を造成した住宅地では,平成23年(2011年)東北地方太平洋地震(M9.0;以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)により宅地盛土に変状が生じ,宅地や住家に被害を与えた.1978年宮城県沖地震でも被害が生じた緑ヶ丘地区(約1.2km²)の現地で,東北地方太平洋沖地震による地表の変状・非変状地点の分布を調査した.その結果,元の地形の地表面の傾斜角が32°までのクラスでは,盛土分布域の変状地点数(1ha当たり)は,比較的多いことが判った.また,他の研究で滑動的変動が生じたと判断されている代表的な8箇所の盛土を対象とし,既往の3つの内陸型地震を教師データに利用した統計的側部抵抗モデルで安全性評価指数を計算した.その結果,使用した変数では盛土の安全性をやや高く見積もっている可能性があるが,今後,海溝型地震に伴って盛土で滑動的変動が生じる可能性を判断できることが示唆された.ところで,電子基準点「仙台」の地殻変動による著しい変位は東向きを示したが,盛土変動域における変状地点の斜面方位については東向きの偏りは弱く,また,その1秒間隔の変位から計算した8方位ごとの加速度についても,変状地点の斜面方位の偏りと明瞭な関連を見出せなかった.むしろ,主尾根とその両翼からなる丘陵地の斜面の大局的な向きと関連することが強く示唆される.
 
  本文[PDF:2,565KB]
 
Responses of Geospatial Information Department of GSI to the Great East Japan Earthquake
 
地理空間情報部  大塚康弘・明野和彦・勝田啓介
 
【要 旨】
  地理空間情報部は,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下,「東北地方太平洋沖地震」という.)の被災地域における応急・救援活動,復旧・復興活動を支援するため,被災地域を中心に各種の地図を提供するとともに,電子国土Webシステムを活用した「被災地域の空中写真」,「被災地域の新旧写真比較」等インターネットによる情報提供を実施した.
  初動時では,災害対策本部や被災地域への災害対策用の地図として,国土地理院のホームページより20万分1地図・100万分1地図を電子データで迅速に提供を行った.また,広範囲の地理空間情報提供として,大判の地図を印刷できる電子国土Webシステムを構築した.
  本稿では,これらの取り組みについて概要を報告する.
 
  本文[PDF:2,569KB]